リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

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ZZ、ここにあり

 貰って行く。誰もが予想しなかったその一言に、場は更に騒然となった。しかし、ホンダはざわめきを気にもせず、まるで当たり前のように、荷物持ちの取り巻きからプラスチックのボックスを受け取り、その中へとアリサのジム・カスタムを仕舞いこんだ。

 

「ま、待ちなさいよ! 何やってんのアンタ!」

「そうですよ! それはアリサちゃんのガンプラです!」

 

 当然、アリさもすずかもいきり立って反駁したのだが。ホンダは育ちの良さそうな顔に似つかわしくない邪な瞳をぎらつかせて二人を睨み、そしてこうのたまった。

 

「何を言ってるんだい。僕が勝ったんだから、このガンプラは僕のものだ。そのために、態々傷つけずに敗北させたというのに」

「だぁから! それがおかしいって言ってんのよ! 大体、そんな約束事なんてしてないじゃないの!」

 

 アリサが年上の男に怯まずタンカを切ると、周りの観客も、そうだそうだと野次を飛ばす。実際、いくらガンプラバトルに勝ったからと言って、相手の機体を奪っていいというルールはない。

 しかし、周りの批難などどこ吹く風で、ホンダは畳み掛けるような口を叩いた。

 

「確かに、僕は君のガンプラを貰うとは言っていなかった。すまなかったね。最初の内はいちいち約束していたんだが、その内当たり前になっていたから、ついうっかりしてしまった。ごめんなさい」

「んなっ……! 馬鹿にすんじゃ無いわよっ! だったらとっとと私のガンプラ寄越しなさい!」

「それは無理な相談だね」

 

 こいつは、喧嘩でも売っているのだろうか。ああ言えばこう言う、暖簾に腕押し。

 空回りする怒りの余り、アリサはめまいの様な感覚を覚えた。

 

 

「大体、そんなにおかしなことでもないと思うけどね。むしろ、ガンプラの事を思えば、僕が貰っていった方がいいんじゃないかな」

「なっ……」

「だって、そうだろう? これほど出来のいいガンプラだ。塗装もきちっとしているし、プロポーションも弄くられていて、良く纏まっている。僕はこいつに惚れ込んだんだよ。君みたいなのが持って戦わせて傷つけるよりも、その高い価値を金に替える方がよっぽどいい」

 

 アリサも、すずかも、そしてギャラリーも。ホンダの言い草に、皆揃って絶句していた。人が丹精込めて製作したガンプラを、何の罪悪感も無しに奪い、誰とも知らぬ人物に売るというのだ。これほど傲慢で邪悪な行為は、滅多にないことだった。

 しかも被害を受けているのは、気丈ながらもまだ10歳にも満たない女の子だ。ホンダに向けて浴びせかけられる野次は、段々と激しくなり、やがて罵声へ変わって行く。

 

「お前それでもファイターか!」

「恥を知れ!」

「ここから出て行け!」

 

 沸騰寸前のように湧き上がる観衆。中にはホンダへ掴みかからんとする者もいた。

 しかし、ホンダが一回指をならすと、その取り巻きが指の関節を鳴らし、バトルシステムの四隅を占拠し、邪魔者には容赦しない、という目で睨みつけた。ガンプラバトルには自信のある者も、生身での喧嘩は専門外である。しかも、相手は頭の足りない代わりに、筋肉と暴力に満ち満ちているという風貌だ。雰囲気は途端に萎えてしまい、後には恐怖による静寂が残った。

 

「あ、あいつ、まさか……“あの”ホンダか!」

「知ってんのか!?」

 

 観客の内、メガネを掛けたいかにも物知りそうな小男が叫ぶと、周りが一斉に驚き問い詰める。

「裏じゃ有名なファイターだよ……負けた人間のガンプラを奪って売り捌く『ガンプラ狩り』の元締めさ」

「『ガンプラ狩り』!? 噂で聞いたことはあるけどよ……そんなの、国際ガンプラ審査員が許さないんじゃ」

「それが、ホンダってのはちょっとした名家で、プラモ屋とかゲーセンとも繋がりがあるみたいなんだ。だから、警察も迂闊には手を出せない。おまけに、バトルの実力も高いから、負かして鼻っ面を折るのも難しいのさ」

「なんだよそれ……そんな奴が海鳴に来たってのかよ!」

「恐らく、地元を牛耳るだけじゃ満足できなくて、ここも支配下に入れようと……!」

 

 戦々恐々とする周りに、ホンダは満足気な目を向ける。

 奪った出来のいいガンプラを闇ルートで売り、その利潤を元に腕利きのならず者ファイターを集め、狩りの規模を拡大する。この繰り返しで、ホンダは一つの町のガンプラバトルを牛耳る程の権力を手にした。

 そして、更にこの闇市場の規模を拡大するため、県内でも比較的ガンプラバトルが盛んな海鳴市を標的に定めたのだ。

 ホンダの品評は正しく、この街のそこらじゅうで戦っているガンプラの質は、どれも上等な物だった。この様子なら、もしこの街を支配出来れば、素晴らしい市場が生まれるだろう。

 そう考えたホンダは、自ら最大級のバトルスペースに乗り込み、腕利きのファイターに勝ってその機体を略奪する事で威厳を示そうとしたのだ。

 

「とにかく、これはもう僕のものだ」

「……そんな乱暴な理屈……通るわけないじゃないっ!」

 

 アリサは進み出て、ホンダの魔の手からガンプラを取り返そうと必死に近づくものの。おそらくはホンダが金で雇った取り巻きの一人に、乱暴な手つきで抱え上げられてしまった。

 完全に自由を奪われながらも、めげずに喚きながら手足を動かすが、女子小学生の体力では敵うはずもない。

 

「今まではそうだった。でもこれからは違う。海鳴のガンプラ全ては僕らのものだ。そして、君たちのガンプラは全て僕らが与えよう。どうしてもというなら、奪われたのを払い戻す事も出来る。無論、それなりの金さえ払えばの話だがね」

「冗談よしなさいよっ! 私のガンプラはね、アンタなんかに好き勝手にされるために作ったんじゃないわ! 私が作って、私と一緒に戦って、傷ついたら私が直す! ガンプラと私は一心同体なのよ!」

「それは只のセンチメンタル、感傷だね。けれど……」

 

 面罵し続けられて、ホンダは初めてアリサの声に反応し、抱えられた彼女の元へと近づいた。

 怒り顔の目の前で、まるで感情というものが感じられない、能面の様な笑顔を浮かべられると、流石のアリサもその不気味さに思わず息を呑んだ。

 そして、ホンダは怯えながら怒る少女を暫く見つめ――いかにも小金持ちが持っているような、革の財布を取り出してこう言った。

 

「よろしい、そこまで強情なら、お金くらいは払ってあげようじゃないか。手持ちで足りればいいんだけど」

 

 人を馬鹿にするにも程がある。一旦静まった怒りが、その反動で更に大きく膨れ上がり、そしてアリサは激発した。

 

「ばっかじゃないの! 例えいくら出されても、アンタみたいな下衆な男に渡すガンプラは無いわ! さっさと私のガンプラ返して、 尻尾まくってここから出て行きなさい!」

 

 と、一気にまくし立てると同時に、目の前の酷薄な顔に向かってつばを吐いた。

 これには、強者としての余裕を丸出しにしていたホンダも、心穏やかではいられない。笑顔を引き攣らせて、唇の端をひくひくと震わせる。

 

「ふ、ふふ……馬鹿なのは君の方だと思うけどね」

 

 紳士的な口調だが、こみ上げてくる怒りは隠しきれない。今まで、自らの強さと恐怖とで、ガンプラバトルを支配してきたホンダ。それが、只の女、それもか弱い子供に反抗されたのだ。しかも、衆人環視の中で。

 肥大したプライドを傷つけられ、怒り心頭のホンダは肩をわなわなと震わせ、拳を硬く握った。

 

「……よろしい、躾をしてあげようじゃないか」

 

 そして、アリサを抑えている取り巻きに、その身体を更に押さえつけるよう命令した。痛みすら伴う締め付けに、呻き声を出すアリサ。

そして、その無防備な腹部に向かって一撃を叩き込もうと、容赦なく拳が振りかぶられた。

 

「アリサちゃん!」

 

 すずかが駆け寄って助けようとするが、取り巻きのもう一人に押さえ込まれる。小学生としてはかなりの運動神経と体力を誇るすずかも、遥かに年上の男性には敵わない。同じように観客たちも、何も出来ずに抑えられているだけだった。

 

 もうダメだ、と思い、アリサが覚悟して歯を食いしばったその時。

 

 

「待てーい!」

 

 

 突然、レヴィが飛び、声を張り上げて叫びながら、飛び蹴りを放ってアリサを抑える大男を横から蹴飛ばす、と言うより吹き飛ばした。

 もんどり打って転がり、悲鳴を上げる男。キックの衝撃で束縛から逃れ、そのまま倒れたアリサには、すぐさますずかが駆け寄る。

 

「大丈夫、アリサちゃん!? 怪我はない?」

「え、ええ、何とか……」

 

 一方ホンダは、水色の髪の乱入者に驚きつつも、粗暴になっていた精神を落ち着かせて冷静に状況を把握しようとした。

 不意な方向からの打撃とはいえ、逞しい肉体を持つ青年男性を、小学生くらいの女の子が倒せるものだろうか。否、まず不可能である。

 しかも、あの少女の運動能力。ジャンプするスピードも蹴る時の勢いも、常人離れしている。

 何より、目の前で感じたキックの風圧と、ホンダを睨む瞳の尋常では無い殺気が、彼に冷や汗を流させていた。

 

「おまえ……アリサに……なんてことするんだ!」

 

 激怒しながらゆっくりと歩いて行く少女を、どうしたら排除できるか。手持ちの護衛全員を差し向ければどうにかなりそうだ、とホンダは考えた。最も、魔法を使えるレヴィにとって、これは全くの誤りであるが。

 しかし、もしここでこの女の子一人を押さえ込めても。周りの観客が今度こそ押し寄せ、袋叩きにされてしまう。となれば――この手を使えばいい。

 

「聞き分けのない子どもたちだ。じゃあ、仕方がない。ガンプラバトルで決着を付けよう」

「っ……」

 

 その言葉に、レヴィは一歩後ずさった。

 思った通りだ、とホンダは心の中でほくそ笑む。以前の会話を聞いて、この少女がガンプラバトル未体験者であることは承知していた。ならば、バトルに持ち込みさえすればこちらのものである。

 

「待ってください! レヴィちゃんはガンプラバトルなんて初めてで……!」

「それがどうかしたのかい? ガンプラに関する諍いだ。ガンプラバトルで勝敗をつけるしか無いじゃないか」

 

 すずかが抗議したが、有無を言わさず言い返し、反論を押しつぶしてしまう。その後、顔を俯かせ、何やら葛藤しているレヴィに向かって、更に問い詰めていく。

 

「さぁ、どうするんだい? 君が自分のガンプラを賭ける、というなら、僕だって相手するのもやぶさかではないんだ。早く返答してくれ」

「決まってる……! ガンプラを悪いことに使う奴なんて……僕が、ボコボコにしてやるぞ!」

 

 かかった。ホンダはニヤけ笑いを止められなかった。これで、また一つ新しいガンプラが手に入る。どれだけのものかは知らないが、この街のビルダーの水準は高い。未完成のガンプラであろうと、そこそこに手が入っているのだろうと考えた。

 

――しかし、ホンダの皮算用は直ぐに覆されることになる。

 

 

「レヴィちゃん!? でも、レヴィちゃんのガンプラは、まだ未完成って……」

「止めないですずか。あいつは、あいつは許せないんだ……人のガンプラを、大切にしてた物を奪うなんて」

 

 対するレヴィは、完全に頭に血が登って、冷静な思考が出来なくなっていた。

 目の前に悪いやつがいる。友達を傷つけたそいつを、許さない。だから、バトルをして倒してやる。それだけが頭の中にあった。

 

――自らのガンプラが、周りに見せられないレベルの作品であるということは、完全に忘れてしまっていた。

 

「おまえは僕がこらしめてやる! この、ZZガンダム・バルフィニカスでッ!」

 

 レヴィが堂々とバッグから取り出し、手に持ったそれが衆目に晒された途端、アリサも、すずかも、ギャラリーも揃って静まり返った。

 水色を基調に塗装された、ZZガンダム。しかし、その塗装はところどころ汚く滲み、変色し。遠目から見ても、とても出来のいいガンプラとは思えないし、そもそもまともに組み上げられているかどうかも怪しく見えた。

 それをまじまじと見つめたホンダは、一瞬、自分の目を疑い、そして次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。

 

「く、くく、あはははは……! それがガンプラかい!? それが!?」

 

 悪い冗談だ、と言わんばかりに哄笑するホンダ。それにつられて、取り巻きもそれぞれに笑い出してしまう。

 レヴィはようやく、封印するはずのガンプラを表に出してしまったことに気づいて、赤面しながらわがままに言い放った。

 

「な、なんだよっ! 笑うなよぉ! こいつは強いんだぞ、凄いんだぞ! ビームがバーって出て、ガーってなってて、必殺剣もあって……とにかく、おまえなんか、おまえなんか、イチコロなんだからなっ!!」

 

 今更、恥ずかしいから元に戻すなんてことは出来ない。だから、レヴィは何もかも吹っ切って、ZZと自分を信じることにした。他人がどう見ようかなんて関係なく、自分の努力と、懸命さを信じることにした。

 それは、羞恥心を膨らませ、友人のピンチを見逃して、公開しながら部屋に閉じこもり一人きりで幻想に耽るよりも、よっぽどレヴィらしい行いだった。

 しかし、その決意だけで、ガンプラの出来栄えが変わるわけではない。ホンダはわざとらしく、苦しそうに腹を抑えながら、元々薄っぺらく残酷な笑いを更に歪ませながら嘲笑した。

 

「まぁ、僕としてはこっちのほうがかえって良かったかもしれないなぁ……なにせ、これで遠慮無く、君のその出来損ないのガンプラを破壊することが出来るんだから!」

「うるさいうるさい! 負けるのはそっちだ! 僕は勝つ!」

「やってみればいいよ。出来るものならね!」

 

 

 

 

 

『Pleese set your GP base』

 

 結局、バトルシステムは起動され、レヴィとホンダは向い合って雌雄を決しあうことになった。

 レヴィの無謀な挑戦を、アリサもすずかも、そして心配になったギャラリーたちも必死で止めようとしたのだが。

 

「無茶よレヴィ! 私も勝てなかったのに、あんたのガンプラじゃあいつには」

「僕はそれでも行くよ。もし不安なら、僕がやられてる間に店の人とけーさつを呼んだらいい」

「そういう問題じゃないわっ! あんな奴に……!」

 

 あんな奴に、初めてのガンプラを破壊されたらどうするの。

 そう言おうとしたアリサだが、皆まで言うな、と言う風に、手で差し止められた。

 

「レヴィちゃん、どうか考え直して。貴方が戦わなくても……」

「じゃあ、誰が戦うの、アリサ? あんな奴に好き勝手にされてて、嫌だと思わないの!?」

「レヴィちゃん……」

「僕は許せないよ。あんな奴……だから、あいつをガンプラバトルで倒して……もう二度としませんって、アリサに謝らせてやるんだ!」

 

 このように、レヴィは全く聞く耳持たず。何の躊躇いも無しにガンプラとGPベースを持ち、バトルシステムへとセットした。

 対するホンダも、予備のパーツで左腕を付け替え、ウイングを修理したカラミティをセットし、読み込ませる。

 

『Beginning plavsky particle dispersal』

 

 プラフスキー粒子の光が対戦する両者を包みこみ、モビルスーツのコックピットを模した操作用コンソールが顕現する。

 レヴィはその機器を見渡して、シュテルに教わったものと同じであることを確認した。これならいける。シュテルが自らの戦闘経験を活かしてすぐに適応したように、レヴィもまた、戦場で自在にガンプラを動かせるはずだった。

 ――肝心のガンプラの完成度が、極端に低いもので無い限りは。

 

『Field 5, city』

 

 対戦地はビルが並び立つ市街地。障害物が多く、高低差も大きい。また、空は雷雨になっていて、視界も制限されるテクニカルなステージだ。

 しかし、そのテクニカルさを活かす程のバトルは出来ないだろう、とホンダは思った。なにせ、相手はずぶの素人で、機体はクズ以下の出来損ないなのだから。

 

『Battle Start』

 

 その言葉と同時に、ホンダのカラミティと、レヴィのZZのツインアイが光り、操作可能になった。

 

「ホンダ・ヒサヒデ。カラミティ・ラーズグリーズ。出る」

「レヴィ・ザ・スラッシャー! ZZガンダム・バルフィニカス! いっけぇ!」

 

 カタパルトから飛び出していく二つの機体。どちらも遠距離砲撃型の重MSであったが。

 カラミティは、カタパルトから飛び出す勢いを殺さぬまま飛び続け。ZZは、失速して地面の道路に着地――するはずが、バランスを崩して転倒した。

 

「レヴィちゃん!?」

「言わんこっちゃない!」

 

 ギャラリーのため息に似た歓声と同時に、すずかは悲鳴をあげ、アリサは悪態をつく。

 レヴィのZZは、股関節を折った時の修理の影響で、右足と左足の長さが若干異なってしまっている。

 そんな状態のガンプラをまともに着地させるのは、まさしく至難の業だ。

 

「あんなガンプラで戦うなんて! やっぱり無茶だったのよ!」

 

 その思いは、アリサだけでなく、この場にいる全員が共有する思いだった。ただし、戦っているレヴィ本人を除いて。

 

「負けるもんか……っ!」

 

 コンソールを握る手が汗ばむのも気にせず、レヴィは必死にZZを立て直し、やっとの思いで直立させることに成功した。

 しかし、その時にはもう既に、相手の機体がミドルレンジまで迫ってきていた。

 反射的にコンソールをひねって、武器を選択。手持ちのダブルビームライフルを構え、撃つ事ができたのは、レヴィの瞬発的な反射速度が常識離れしたものであるからだ。

 二門の砲塔からピンク色のビームが走る。通常のビームライフルを、あえて二つに分けて放つ。それだけ出力が段違いで、威力も高いということである。

 そのビームは、接近するカラミティをまっすぐ捉えていた。しかし、カラミティの右腕に備え付けてあったシールドによって防がれ、そのままあらぬ方向へと弾道を曲げられてしまった。

 

「そんな! あれはフォビドゥンの!」

「ゲシュマイディッヒ・パンツァーだなんて!」

 

 エネルギー偏向装甲、その名もゲシュマイディッヒ・パンツァー。ドイツ語で「柔軟な装甲」と言う意味のこの防御システムは、ビームの粒子を歪曲させ、命中を避ける事が出来る。

 本来ならカラミティガンダムの僚機である、フォビドゥンガンダムに搭載されているシステムだ。それを装備しているということは、やはり今までホンダが奪ってきたガンプラに搭載されていたものだろう。

 レヴィは、改めて目の前のガンプラを操る男の卑怯さと下劣さに歯噛みし、即座に背部ミサイルポッドを選択。

 あのシールドがある以上、正面から迫ってくる機体にビームは効かないも同然である。そして、相手の隙を狙って側面や背面に回り込めるほど、レヴィのZZは機敏ではなかった。だから、この判断は正しかったのだが。

 

「なぁんだ、君、TP装甲も知らないのかい?」

 

 雨あられのごとく迫ってくるミサイルを前にして、ホンダは全く動じる事無く、ケタケタ笑いながら機体を静止させる。

 当然、ミサイルはカラミティに直撃し、プラフスキー粒子で構築された爆発が機体前面を包む。

 レヴィはやった、とガッツポーズを取るのだが、それ以外の全員が、悲観的な視線でバトルを見つめていた。

 濃い爆煙が発生し、それが吹き込む風によって雲散霧消していく。そこに現れたのは、爆発に傷ついたカラミティの姿ではなく。全くの無傷で、変わらず空中に浮遊している姿だった。

 トランスフェイズ装甲。通常装甲の内側に存在し、実弾を無効化する装甲が、ミサイルを全て受け止めたのである。

 

「そんな……」

 

 カラミティは、雷鳴を背に、その威容を変わらず留めている。

 手持ちの武装、その殆どが無効化される。燃え盛っていたレヴィの闘志を叩くのに、十分すぎる程の衝撃だった。

 一方、この展開の全てを予め予想していて余裕綽々のホンダは、サディスティックな表情を浮かべながらコンソールを動かす。

 

「満足したかい? じゃ、こっちの番だ」

 

 カラミティの左腕に装備されている、ダブルガトリングガン――これもまた、別のMSであるサーペントの装備だ――が唸りを上げて、ZZの立つ地面に砲弾をぶち撒けた。

 レヴィは慌てて回避しようと、機体を横にステップさせる。だが、右足がある部分で引っかかって動かず、再び派手に転倒した。処理していないゲート跡が、機体の動作に鑑賞したのである。

 

「ほらほら、這いつくばってでも逃げたらどうだい」

 

 カラミティの背中に増設された飛行ユニットから、今度は3連装のミサイルが左右2セットずつ、合計12発が発射された。その全てが直撃コースであり、もし食らってしまえば、大きなバックパックに誘爆してしまい、一巻の終わりだ。

 レヴィは必死で両手に握る黄色い球体を前に押し、大推力を誇るバーニアを始動させた。コンクリートをガリガリと擦り、あるいは削りながら、ZZが倒れたまま真っ直ぐ右へと移動していく。

 まともな体勢でないにしろ、ZZはとにかくバーニアの推力だよりで、ミサイルの誘導を無理矢理回避していく。虚しく外れたミサイルは地面に辺り、コンクリートの破片が飛び散った。

 

「へぇ、やるじゃないか……ふふっ」

 

 ひとまず全てを回避し終えたZZだが、しかし、その進む先を見て、ホンダはニヤリと嘲笑った。

 彼の思った通り、ZZはそのまま直進し続け。

 進行方向先にあるビルの根本に、頭から突っ込んでしまった。

 

「あ、はははは! 見ろ! 最高の機体に、最高のパイロットじゃないか! なぁ!」

 

 その間抜けな光景がツボに入ったのか、ホンダは戦いの途中だというのにコンソールから手を離し、苦しさを感じるくらいに笑った。

 取り巻きも余りの光景に失笑したり、中にはホンダに合わせて皮肉を言って盛り上がる者もいるくらいだ。

 

「レヴィ……」

「レヴィちゃん……!」

 

 アリサもすずかも、その侮辱的な物言いに苛立ち、わざと手加減して、遊ぶように追い詰めるバトルスタイルにも怒っていた。

 特に、愛機が無事なすずかなどは、そのまま駆け寄って対戦に割り込んでやるという程の勢いだ。

 しかし、もし割り込めたとしても、レヴィの方でその援護を断ってしまうだろう。何故なら、この戦いはレヴィ自身の、自分との戦いであるからだ。

 人の一生懸命作ったガンプラを奪ったり、出来損ないと馬鹿にする。そういうやつを目の前にして、負けるならまだしも、逃げたりするような卑怯者にはなりたくないのだ。

 

 そして、レヴィの頭の中にはまだ、勝利への道筋が残されているのだから。

 

 その無様さを笑われながらも、ZZは必死でビルの残骸を退けて、起き上がろうとする。隙だらけの状態であるに関わらず、カラミティは一切攻撃を与えなかった。無論、起き上がった瞬間に消し飛ばしてやろうと、左腕のガトリングと右腕に携行しているバズーカ、トーデスブロックの狙いを定めているのだが。

 ZZがゆっくりと起き上がり、カラミティの方へ向きを替える。手ぐすねを引くように待ち望んだその瞬間、ホンダがトリガーを引こうとすると。

 

「いっけぇ、マキシマムレベル、シュート!」

 

 ZZの頭部が光輝き、極大のメガ粒子砲が発射された。これこそ正に必殺武器、コロニーレーザーの約20%の威力を持つというハイ・メガ・キャノンだ。

 そう、ビルに頭から突っ込んだのは、レヴィの操作ミスではなく、作戦の内だった――と、言うわけではなかったけれど。

 それでもとっさに、相手が笑って明らかに油断していると判断し、気付かれないように頭部へのエネルギーチャージを始めていたのだ。

 そして、普段の戦闘でも見せる神速の反応速度で、抜き打ちに成功したのである。

 灰色の空を、ピンクの蛍光色が切り裂くように突き進む。

 これに慌てたのはホンダの方だった。何しろ、無抵抗だと思っていた相手が、突如一撃必殺の攻撃を繰り出してきたのだ。急いで機体を右へと動かすが、それでも一瞬だけ、反応が遅れてしまった。

 その一瞬こそ、ガンプラバトルの命取りである。幸い、直撃こそ喰らわなかったが、右肩の装甲と、飛行ユニットの右翼が溶け落ちてしまった。片翼を失ったカラミティは、たちまち浮力を失って、バランスを崩しながらもどうにか地面へと着地し、膝をついた。

 

「へへーん、どうだ、思い知ったか!」

 

 周囲からわぁっ、と歓声が上がる。先程まで全く勝ち目がない、と思ってさえいたガンプラが、見事相手の隙を突いて、強烈な一撃を叩き込んだのだ。この光景に胸がすく想いを抱かない観客はいなかった。

 アリサとすずかも、思わず手を叩いて喜ぶ。偶然かもしれないが、とにかく、残酷な対戦相手に一矢を報いたのだ。レヴィの腕のガンプラの実力から見れば、大健闘と言ってもいい結果だ。

 

「……くそぉっ……」

 

 対して、ホンダには明らかに余裕が無くなっていた。

 まだ小さな女にこけにされ、まんまと出し抜かれた苛立ちもあるが。それ以上に、ガンプラバトルにおいて、ホンダは強者であらねばならなかった。

 『ガンプラ狩り』というビジネスは、狩る者が狩られる者より強い、というのが絶対条件である。特に、その頂点に立つホンダは、狩られる者に対しても、また、同じ狩る者である部下たちに対しても強くなければならない。そうでなければ、狩られた者にやり返されるか、利益を狙っている部下に下克上されるだけだ。

 その点で見ると、こうして初心者にいいようにされている現状は不味い。今は従順な取り巻き達も、金や力で従えているのだから、万一ホンダが負ければ、裏切って逃げることさえあり得るだろう。

 

「……何だ、これは! よくも……よくも俺のカラミティを!」

 

 だが、そんなのは、些細な事だ。『ガンプラ狩り』が駄目になるかならないかなんて、後のことだ。このバトルには関係ない。

 このカラミティは、ホンダが奪った中でも最もクオリティの高いガンプラだ。それに、今まで奪ったガンプラの中から選りすぐりのパーツを取り付けた、攻防無敵の、最強のガンプラだ。

 それを、あんな。まともじゃない、失敗作の、屑のような価値しか無いガンプラで、墜落させられた。

 それは、名誉や威信よりも、自らのプライドの問題だった。

 

「よくもあんな、出来損ないのガンプラで撃ちやがって! 許さん、許さんぞ……! てめぇなんか、嬲り殺しにしてやる!」

 

 ビルダーとしての腕が無く、対戦しても負け続けで燻っていた、一野良ファイターだった時の乱暴な口調を蘇らせて。

 先ほどのバズーカ、ガトリングガンに加え、両足のミサイルポッド、腰のビームガンまで展開し、狙いも付けずZZのいる方向へと乱れ打った。

 それは、只攻撃しているだけという有り様で、その範囲こそ広いものの、完全に避けきれるはずの攻撃だ。

 しかし、レヴィは、それを回避できなかった。ZZの反応が鈍いのと、ハイメガキャノンの反動で、更に動きが制限されていたからである。

 

 ミサイルが、ビームが、砲弾が。次々とレヴィのZZを傷つけ、小規模な爆発が連鎖して起こる。 ガンプラバトルでは、完成度の低いガンプラは、耐久値も低くなってしまう。原作で圧倒的力量差があるはずのガンプラ同士でも、その性能ではなく、完成度で優劣が決まるというシステムの影響である。

 だから、直撃弾こそ少なかったものの、それだけでZZは瀕死寸前の状態に追い込まれてしまった。

 

「ふ、はは、無様だなぁ! えぇ! ボロボロになりやがって!」

「まだ、だぁ!」

 

 損傷に悲鳴を上げながらも、ZZはレヴィの気迫に応えて再び立ち上がり、一歩ずつカラミティに迫っていく。その右手には、近接兵装のハイパービームサーベルがセットされていた。

 対するカラミティは、兵装を一気に開放したせいで、リロードに時間がかかり、全くの無防備である。しかし、カラミティは逃げずに眼前で立ちはだかり、手持ちの最後の武装を、ZZに向けて発射した。

 

「あれは!」

 

 アリサが、苦々しげな目で発射された物体を睨む。これこそ、アリサの機体を雁字搦めにして奪い取った、電磁ネットワイヤーだった。

 奪わずに破壊すると宣言したのだから、当然使われないと思っていたのに。なりふり構う余裕が無くなっているのだろう。全くの躊躇なしに発射され、ZZは捕らえられてしまった。

 

「痺れろぉ!」

 

 本体につながっているケーブルから電流が流され、レヴィのZZを襲う。コンソールのあちこちが赤くなり、機体の状況がますます危機に追いやられている事を知らせた。

 ZZは今度こそ操作不能になり、地面にがくり、と座り込んでしまった。その無防備な所を狙うために、カラミティの腹部にある大出力ビーム砲、スキュラと、背中の連装ビーム砲シュラークが、それぞれ狙いを定めて、チャージを始めた。

 

「レヴィ! 逃げて!」

「レヴィちゃん!」

 

 バックの二人は必死に声援を送るも、ZZが動く気配はなく。操縦しているレヴィもまた、顔を俯かせて、これ以上の抵抗を諦めているように見えた。

 

「ははは! これで終わりだ。安心しろ、ゴミを処分する手間がかからないようにしてやるよ!」

 

 ホンダの宣言通り、三門のビーム砲はそれぞれ目いっぱいになるまでチャージを続けており。この全てが当たれば、ZZは文字通りチリひとつ残さず消滅してしまう。

 観衆はもうだめだ、と首を振り、繰り広げられるだろう残酷な光景から、目をそらす者もいた。

 もはや、起死回生の妙手も、逆転への秘策も見当たらない。あるのは機能停止した機体と、目の前で蓄積されている破滅へのカウントダウンのみ。

 

 

 しかし、それでも。アリサとすずかが絶望に目を閉じていても、、レヴィだけは信じていた。

 こんな奴に、自分が、ZZが、負けるはずは無いということを。

 自分のガンプラこそが、世界で一番、強くて凄くて、かっこいいガンプラであることを。

 

 

 

 

 

――そして、奇跡は起こった。

 

 

 

 

 

 ZZを包み込むビームの奔流。緑が二本で、赤が一本。全部合わせて全身にくまなく照射されていた。

 10秒間に渡る照射の後、限界以上に酷使されたビームの砲口にプラズマの火花が走り、使用不能になってしまった。が、構わない。何しろ相手は、溶けて、蒸発してしまっているのだから。

 そう、白煙があたりを包み込む。アレは、プラスチックの溶ける煙だ。そのはずだ。ホンダは勝利を確信し、抑えきれない愉悦を笑いにして解き放った。

 

「あはははははは! 終わった! 所詮は屑だったんだ! 俺のカラミティに、敵うはずがないんだ! あはははははは!」

 

 が、その時である。煙が晴れた。 それと同時に、雨が止み、曇り空が切れ、一筋の太陽光が走り。

 ゆっくりと立ち上がる、トリコロールカラーのマッシブな機体を照らした。

 

「なっ……ば、馬鹿な!」

 

 ZZガンダム。

 動けない所をビームに狙われて、溶け落ちてしまったはずが、どうしてか、ボロボロになりながらもまだ存在し、そして、機能停止からも復帰して、大地に立っていた。

 

「嘘っ!」

「どうして……!?」

 

 脇から見ていたアリサもすずかも、驚愕の表情で立ち尽くす。

 先程までどよめいていた観客は、余りに常識からかけ離れている光景に、さっと血が引くような静寂を作り出していた。

 

「どうしてだよっ! どうしてっ、どうして!!」

 

 

「重ね塗りだ」

 

 

 突然、自分の真横から発せられた渋い声色の断定口調。聞き覚えのあるその声に、驚きながらアリサが振り向くと。

 

「恐らく、一回塗って、その色に満足出来なかったんだろう。何度も何度も、様々な色を試し、塗料が乾き切らないで混ざるのも気にせずに塗ってしまった。だから、塗料が何十層に連なるビームコーティングとなった……それが功を奏し、ビームに耐え切れたんだ」

 

 アリサの白色とは違う、褐色の肌。金髪は艶を失っていて、顔にはシワも重ねられているが、その目はいまだ若さと活力を失っていない。

 0083年仕様の、地球連邦軍の軍服を着こなし、腕を組んでバトルに見入っているその姿は。

 

「サウスおじさま!」

「大尉と呼べ、大尉と。俺はまだ、おじさまと呼ばれるつもりはない!」

 

 『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場する、ベテランパイロットであるサウス・バニング大尉のそっくりさん。

 周りからは『バニングさん』と敬意を込めて呼ばれる彼は、アリサの親類で、彼女のガンプラバトル教官でもあった。

 

「どうして、こんな所に!?」

「お前がここの事を執事の鮫島に連絡しただろう。それで、近くに俺が居たのを知ってた鮫島が気を利かせたんだ」

 

 アリサは、レヴィが戦って時間を稼いでいる隙に、店員と警察だけでなく、自分の執事である鮫島へも連絡を取っていたのだ。

 そして、たまたま海鳴のバニングス家に寄っていた、バニングさんをここまで呼び出したのだ。

「そんなことはどうでもいい。それより、アリサもすずかも見ろ。戦いが決まる瞬間だ」

 

 そう言われて、二人は慌ててバトルシステムへと目線を戻した。

 バニングの言う通り、ZZの全身から、レヴィのトレードカラーである水色が消えていた。その代わりに、元のカラーリングである白・赤・黄のトリコロールが姿を表していた。

 しかし、塗装がビームの全てを相殺したわけではない。変形時の飛行翼兼シールドは完全に溶け落ちており、全身に焼きただれたような跡が付いていた。

 

「ごめんね……痛かったよね、ZZ……僕が馬鹿で、作るのが下手だったばっかりに……でも、もう少し、あと少しだけ、頑張って」

 

 レヴィは、その痛々しい姿をモニタで確認し、涙を流しながらもきっ、と前を見つめる。

 その視線に写るのは、憎きカラミティ。そして、ガンプラを弄び、多くの人を悲しませた悪党が一人。

 

「く、くぅ……だが、そのザマで碌な武装がある訳が……何ぃ!?」

 

 ホンダの言う通り、限界以上に傷ついたZZに、もはや稼働する武器は存在しなかった。ただし、予め本体に付属していたものに限るが。

 ZZの腰に括りつけてあった、一本の棒。それが手に取られると、棒の後ろ半分が持ち手として両手で握られ、前半分が二つに割り開いた。

 そして、その断面から、ビームの刃が太く、平らに展開される。それは、正に大剣。立ちはだかる巨悪、その全てを断ち切る水色の刃。

 これこそ、レヴィ・ザ・スラッシャーの、そしてZZガンダム・バルフィニカスの真なる必殺武器。

 彼女の精一杯の努力が、唯一生み出せたオリジナリティ。

 その名は。

 

 

「スプライトザンバー! 最大出力!」

 

 

 レヴィの叫びに合わせ、雷鳴が轟き、雲の隙間から刺す光と同時にZZを照らした。

 

 そのまま大きく足を広げ、半身で右足を前に出し、剣先を敵に向けて構える。

 

 その姿、正に勇者。

 

 

 レヴィ・ザ・スラッシャー、そして、ZZガンダム、ここにあり。

 

 

 

「雷刃! 滅殺! 極光、斬ッ!!」

 

 

 

 残ったエネルギーを最後の力と振り絞り、大剣を振りかぶり、スラスターを全開にして、カラミティへと迫る。

 

「くっ、に、逃げ……何ぃ!?」

 

 ホンダは、慌ててコンソールをガチャガチャと動かすも、カラミティは動かない。

 

「う、動けカラミティ、何故動かん!」

 

 別に、レヴィがNTである訳でも、死んでいった人たちの力が超常現象となって、カラミティを金縛りにしたわけでもない。

 

「馬鹿め、自分が優位だと信じ、調子に乗っていたからだ!」

 

 バニングさんが指摘したように、武器と、TP装甲、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの使いすぎによる、只のパワー切れだった。

 

 

「スラァァァァァァッシュ!!」

 

 

 気迫の雄叫びと共に、大上段から一閃。

 今まで、沢山のガンプラから沢山の想いを奪い取っていたカラミティは、そして、ホンダ・ヒサヒデの傲慢は、真っ二つになって爆散した。

 

『Battle Ended』

 

 システムがバトルの終了を告げ、プラフスキー粒子が消える。その瞬間、歓喜と感動に満ち溢れた叫びと、万雷の拍手がゲームセンター中に響いた。

 見れば、他のコーナーで遊んでいた観客も総立ちになってバトルを見守り、そして心を震わせていた。それだけ、ZZとレヴィの奮闘は、人の心に残るものだったのである。

 

「やった……! 勝った、勝ったのねレヴィ!」

「うん、勝ったよ、アリサ!」

「レヴィ……私、こんな、こんなバトル初めて……私、一生忘れない!」

 

 アリサは思わずレヴィへ駆け寄り、感極まってその身体に抱きつく。すずかは涙ぐみながら、二人の仲睦まじい光景を見守っていた。

 

「いいものだな、すずか。ガンプラバトルは」

「ええ、とても……」

 

 すずかは、バニングさんとも既に顔見知りである。互いに、ガンプラに関わるもの同士、二人静かにこの感動を味わっていた。

 

 

「認められるかっ!」

 

 

 素っ頓狂な大声が、試合終了後の感動的なムードを打ち壊した。声の主は勿論、敗者のホンダである。髪を乱し、ストレスをかき消そうとするように頭を掻きながら、血走った目で叫び続けた。

 

「相手は初心者だ! それに、あのガンプラは屑以下のクソカスなのに……どうして、どうして俺が負けるんだよっ!」

「これだけやられておいて、まだ言うか!」

 

 狂気に満ちた叫びは、バニングさんの一喝によってかき消された。

 

「確かにあのZZは、お世辞にもよく出来ているとは言い難い……だが、とてつもなく、手間と、時間と、そして愛が詰まっている。重ね塗りも、妥協しない心と! 手間を厭わない精神こそが成し遂げたことだ!」

「それがなんなんだよ……出来が悪いのに変わりはないじゃないか……」

「まだ分からないのか! 貴様の、他人から奪っただけのガンプラと! この娘の愛に満ち溢れたガンプラ! どちらが強いかは明白だ!」

 

「黙れぇ!」

 

 追い詰められたホンダが、ついに暴発した。操縦スペースから飛び出し、バトルシステムの上部に手を伸ばして。

 戦い終わり立ち尽くしていたレヴィのZZを、手で払い落とした。

 

「ああっ!」

「ZZ!」

 

 今まで蓄積していたダメージに加え、床に落ちた衝撃で、ZZの四肢はバラバラに弾け飛んでしまった。

 レヴィとアリサが駆け寄って保護しようとするが、既にホンダの足が、ZZの胴体の真上で上げられている。

 

「こいつが、この出来損ないがっ……」

「いい加減にしろッ!」

 

 踏み下ろし、プラスチックが粉々に砕け散らんとした直前、バニングさんの鉄拳が間に合い、ホンダをふっ飛ばした。

 頭から崩れ落ちたホンダは、どうして、どうしてとうわ言を呟いていたが、直ぐに意識を無くしてしまっていた。

 

「ったく……ガンプラなんぞで悪人になるな、馬鹿野郎が」

 

 捨て台詞を発したバニングだが、既に騒ぎを聞きつけた警察が、ホンダと取り巻きを抑えこんでいる。

 そちらはプロに任せて、バニングさんはひとまずレヴィとアリサの元へ行くことにした。

 レヴィが胴体を持ち、アリサが飛び散った、と言うより砕け散ったパーツを集めて、テーブルで一纏めにする。アリサだけでなく、周りの観客も自然と手伝い、壊れたガンプラを中心に一つの輪が出来ていた。

 

「だ、ZZ……」

「なんてひどい……」

「多分、もう限界だったの。戦って、それだけで精一杯だったのに、あんな事をされたら」

 

 そうですよね、と同意を求めるすずかの瞳に、バニングも無言で首を縦に振る。

 

「どうにかならないの……おじさまっ!」

「大尉と……いや、これは、どうにもならんな……胴体はまだ良いが、腕や足が破片のように、バラバラになってしまっている」

「そんな……」

 

 レヴィは濁ったような空虚な瞳で、ばらばらになったZZを見つめている。

 しかし、その声は死んではいない。そう思えたので、バニングはあえて、厳しい現実を問いかけることにした。

 

「レヴィといったな、お前は」

「うん……」

「お前には二つの道がある。一つは、修復不能になったこのガンプラを捨てて、新しいガンプラでバトルを続けるか」

「おじさま! なんてことを」

「黙ってろ。俺とレヴィとの話だ」

 

 余りに残酷な言い方に、アリサが反駁するも、それを無視してバニングは続ける。

 

「もう一つ、こいつ以外の機体を持ちたくない時は、これを機にガンプラバトルを止めろ。例え修復できても、観賞用にしかならん」

「……」

 

 沈黙が辺りを包む。どちらにしても、前者はZZを、後者はガンプラバトルを、レヴィは捨てなければならないのだ。

 

「……僕は、ZZを捨てるのは嫌だ。こいつは、僕が作って、僕が操縦して、僕の相棒で……僕の、僕の全部だ」

 

 初めて作ったガンプラ、初めてバトルしたガンプラ。例えバラバラに成っても、捨てる事はできない。

 

「じゃあ、ガンプラバトルを止めるか」

「……それも嫌だ。だって、凄く楽しかったんだもん。また、戦いたいんだもん」

「なら、どうするんだ?」

 

 バニングさんが問いかける。

 痛々しい沈黙と、緊張の中、レヴィは決断した。

 

「僕は……自分の相棒の落とし前くらい、自分でつけるっ!」

 

 そう言った途端、レヴィはZZを大事に抱えて、脱兎のごとくバトルスペースを飛び出した。

 当然、アリサとすずかはそれを追おうとするが。バニングはそっと手を出して、それを押し止めた。

 

「おじさま、どうして!」

「あれでいい、あれでいいんだ」

「どういうことなんですか?」

「戦いが終わって、どういう結果だったにしろ、戦士は崩れ落ちた。ガンプラファイターにとって、自分のガンプラを失う事こそが、最も悲しいことだ、そうだろう?」

「そうですけど……」

「これほどガンプラへの思いが強かったら、替えのガンプラなんて考えられず、かと言って直して新しく戦える事もなく、そのまま腐ってしまうと考えてな……だが、冷や水だったか」

 

 本当は、答えが分からなくなったレヴィに、バニングが考えた『第三の道』を教えてやろうと思っていたのだが。

 その必要は無かったようだ。レヴィは自らその道を考えだし、だからこそ家路を急いでいる。

 

 ZZを捨てること無く、ガンプラバトルを続ける。その道とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴市の一角にある、紫天一家の家。

 少女四人が暮らすのにピッタリの家屋、その二階にある各々の部屋の内の一つ、レヴィの部屋。

 かっこいいロボットやなりきり用のおもちゃ、そして、最近揃い始めた工具に混ざって、そのケースは存在する。

 その中には、膝を折り曲げて擱座した、ZZがいた。

 もう戦うことが出来ない戦士は、こうしてガラスケースの中に佇み、永久の休息に安らいでいるのだ。

 

 しかし、その腰に勝利をもたらした、あの大剣はくっついていない。

 

 それは。ZZと、レヴィの魂の剣は。

 今、机に座ったレヴィに開封されて、組み立てられるガンプラのものになるのだった。

 

 

 

 

 

プラスチックの腕は萎え、プラスチックの脚は力を失い。

埋もれた砲は二度と火を噴く事はない。

模型戦士は死んだのだ。

狼も死んだ、勇者も死んだ。

 

だがガラスケースの中で、デスクの蛍光灯ににさらされながら戦士は確信していた。

少女は今日も戦い 少女は今日も走っていると。

 

「アリサ! すずか! やろうよ、ガンプラバトル!」

「ええ、やりましょ!」

「では、2on2ということで、私も」

「シュテルちゃんも? 久しぶりに、面白くなりそう!」

 

戦士は少女の声を聞いた。

吹きわたる海鳴の風の中に、確かに聞いた。




以上です。
色々頑張りました。満足していただけるか分かりませんが、やることやって凄くすっきりしてます。
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