今回歩夢メインの回…ではないんですけどね……
それでは第十六話です。
歩夢を救う為、コスモスの力で歩夢の夢の中へと向かった菜生。そこで彼女は、幼き日の自分と出会った。
「歩夢は今、私達が幼稚園くらいの頃の夢を見てるのかな?」
恐らくこれは夏祭りに一緒に行った時の記憶なのだろう。なら確か自分達が当時いった場所に行けばいい。そう思って行動を開始する。
「きっとこの先にいるはずなんだけど…」
そう呟きながら周囲を見渡すが、お祭り会場のはずなのに人っ子一人いない。恐らく、夢の中だから道行く人を全員再現されている訳でもないのだ。
歩夢を見つけることが解決の糸口になるわけではないと、頭ではわかっていてもやはり幼馴染の身の安全を真っ先に確保しておきたい。そんな思いで菜生は歩夢を探して彷徨った。
だが、菜生が歩夢を見つけるより早くまるでページが捲られるかの如く。唐突に周りの風景が切り替わる。
「今度は小学校…?」
もう最後に入って5年は経過している校内の景色にどこか懐かしさすら感じる。そして自分の立っている廊下の先では、自分のよく知る。現在の姿の歩夢が立ち尽くしていた。
「おーい!」
歩夢に駆け寄って、声をかけるが歩夢は反応を示さない。
「歩夢?ねえ歩夢ってば…」
視線の前で手を振っても反応を示さない彼女の肩を掴もうとする、しかしその手はすり抜けてしまう。
「夢の中だから、夢の中だから干渉できないんだよね…?」
そうでなければ悲しすぎる。こんなに近くにいるのに、心配していたのに―触れることも言葉を交わす事も出来ないなんて。
だがそんな感傷に浸る時間すら、現実は与えてくれなかった。
『やめなよ!』
そんな大声が聞こえて振り返ると、小さい時の自分が同じく当時の姿の歩夢に庇うようにして立っているのが見えた。
『うるせえな、お前には関係ないだろ!』
『菜生ちゃんもういいから…』
『よくない!だからって女の子の髪をあんな力いっぱい引っ張るなんて最低だよ!』
「これ…あの時だ……」
忘れたくてもきっと一生忘れられない出来事、今まであまり思い出さないようにしていたもの。それが今、菜生の目の前で再現されようとしていたのだ。
あれは小学六年の時だ。歩夢とクラスの男子がもめているのを見て、菜生が止めに入った時に起きた出来事だった。
『引っ込んでろよ高田には関係ねぇよ!』
『だからって暴力で解決なんてダメだよ』
そう言い返されても菜生は譲らなかった。強めに肩を突き飛ばされても、暴力で解決することを拒む菜生に男子もだんだん菜生に対しても苛立ち始めていた。
『お前いっつもつっかかってきやがって、調子乗ってんなよ』
『ちょっと力が強いからって威張ってるのはそっちじゃん』
相手の男子はクラスでも体格のいい方だった。だがそんな相手にも菜生は全く臆することなく食って掛かった。
―菜生。強くあるということは、決して喧嘩が強いとかそういうことじゃないんだよ
それを見ていた菜生は、ふと空手を始めた頃の父の言葉を思い出した。だが、あの時の菜生はそれを解っていたはずだったのに―
『いちいちうぜえなこのッ!!』
『…!?』
『菜生ちゃん!』
唐突に菜生目掛けて振りかぶられた拳。それは菜生の顔を捉えていた、その勢いのまま菜生は後ろに倒れ込む。
『お前ッ!!』
だが菜生は赤く腫れあがった頬が何でもないかのように相手を睨みつけると立ち上がり、そのまま自分を心配して駆け寄る歩夢には目もくれず思いっきり殴り返したのだった。
こちらも完全に相手の不意を突いた結果だったが、相手の顔面に突き刺すような勢いで撃ち込まれた拳に相手は前歯を折り鼻血も出るわで辺りは騒然となった。
『はぁ…はぁ……』
菜生は目の前で今さっき自分が殴り飛ばした相手を心配して、人だかりができるのをただ肩で息をしながら見下ろしていた。
彼に殴られた瞬間、菜生の中に産まれたドス黒い感情はそうしているうちにどんどん熱を失っていく。すると今になって段々殴られた頬に痛みを感じ始めるのと同時に、菜生は相手から向けられる視線が怒りから怯えに変わっているのに気づいた。
いや、彼だけでは無かった。今この場にいる全員が、菜生に対して怯えに近い感情を覚えているのを感じた。
『菜生ちゃん大丈夫…?』
『違う…そうじゃないの…私は…こんなの…』
望んでいなかった。でも殴られた時、考えるより先に体が動いたのも事実だ。自分を心配してくれている歩夢の言葉もこの時は頭に入ってこなかった。
―大切な人を守る為に、父のような強い人になりたい
―本当に勇気のある人間になるというコスモスとの約束
そんななりたい自分に対して、今の自分は真反対にいるのではないか?そんな自己嫌悪に陥った菜生はそのまま教室を飛び出していった。今となっては、あの後自分が何をしていたかはあまり覚えていない。それにこれは歩夢の夢の中、ここでその先の自分が映る事は無いだろう。
「菜生ちゃんは、何も悪くないのに……」
そんな歩夢の声が聞こえたが、菜生にとって善悪はどうでもよかった。しかも殴った相手も悪かったのだ、親が教育委員会の人間だった結果、菜生は激しく糾弾された。
母は『菜生は絶対意味もなく人を殴ったりしない』と反論してくれたが、菜生にとってはそれすら何とも感じていなかった。
ただただ、相手を殴った事によって周囲を怯えさせたことの後味の悪さだけが残り、菜生は空手を辞めてしまう。
全国大会を目指して競い合っていた遠山美月をはじめとした仲間にも、気にすることは無いと慰められたがやめるという意志は揺らぐことなかった。
それ以降菜生は、特に人に対して拳を握る事を怖がるようになった。
ずっと思い出さないようにしていた記憶を、目の前で再現させられたことで、思わず下唇を血が出そうになるほど噛みしめる菜生だったが、ここに来る前にモニターで見た羊が自分の背後にいるのにすぐ気づけなかった。
「メェ~」
「…こいつが犯人なわけだよね?」
向こうの目的は解らないが、やはり菜生の存在は目障りなのだろう。かわいらしい顔が一転して、肉食獣を思わせる険しい顔に豹変すると「ガルルル…」と唸り声をあげ菜生へと突っ込んで来る。
「…ッ!?」
思わず顔を覆うが、何も起きなかった。恐る恐る目を開けると、周囲の景色は外へと変わっていた。
「ここは…?」
まるでおとぎ話の森の中だ。周囲を見渡すと、これまたお姫様でも住んでいそうなお城が目に入る。だが、その城の塔の一番高い場所にあるのはお姫様の部屋なんてメルヘンなものでは無かった。
コスモスの力を借りて、離れた場所にあるそこを見るとそこは檻になっていた。
「あれは…」
その檻の中にいたのは、歩夢をはじめとした老若男女様々な人。恐らく、歩夢同様に眠らされている人々だろう。恐らく、ここはもう歩夢の夢の世界ではなくこの事態を作り出した羊たちの世界なのだろう。
どういう原理で何の目的かは解らないが、人々を眠らせて夢の世界と自分達の世界を繋いで人々を捕らえるつもりだったのだろう。
だが気がつけば、菜生の周囲には先程の羊が群れになって集まってきていた。身構える菜生の前で、目の前の羊たちは密集していくと菜生を排除するための姿へと変わる。
かわいらしいピンク色は白に変わり。7つの真っ黒な眼、人型に近いシルエット、背中の黒い翼。まさしく夢魔といった姿へと変貌した。
―夢幻魔獣インキュラス
それがこの事態を引き起こした羊の正体だったのだ。
そして菜生も相対すべく、コスモプラックを掲げその身をウルトラマンコスモスへと変える。
「シェア!」
「ォォオオ――」
不気味な声を上げ、腕を降ろしたままのインキュラスに対しコスモスは構えを取る。
人を眠らせて自分の世界に引き込むような相手で、ここは相手の土俵だ。何が起きてもおかしくはない、まずは相手の出方を伺う。そう思った時だった―
インキュラスが一瞬のうちに姿を消した。思わずこれには動揺するコスモスだったが、すぐに周囲に意識を戻しどこから攻撃が来るのか警戒する。
「ウワァッ!?」
だが次の瞬間目の前に現れた相手の掌底に突き上げられコスモスの身体は宙に舞う。すぐさま立ち上がろうとするコスモスだったが、インキュラスはすぐさまコスモスにとびかかった。
体勢を立て直す暇もなく蹴り上げられてしまうが、なんとか次の攻撃を防ぎ立ち上がると今度は逆に相手の腕を振り払い、無防備な腹部に両腕で勢いよく掌底を撃ち込むとバックステップで距離をとる。
そんな光景を、他にも見ている者たちがいた。
「菜生先輩どこに行っちゃったんでしょう…」
「今はそっとしてあげよう?なっちも多分、気持ちの整理がつかないんだよ…」
そう、ドリームシアター越しに歩夢の夢の中を見ようとしていた同好会の面々だ。羊が見えなくなったと思えば、いきなり悪魔のような姿の怪獣とウルトラマンが戦っている光景に切り替わるのだから彼女らも混乱していた。
「まさか、コスモスが…?」
そうボソっとせつ菜は呟いたが、その声に反応したものは居なかった。
「ウオォッ!セヤッ!」
相手の腕を弾き掌による鋭い突きを見舞う。相手が蹴りを放てば両腕で防ぎそのまますれ違いざまに手刀を叩き込む。
だがそこで、コスモスのカラータイマーが音をたてて赤く明滅を始める。この空間に来るのに消費したエネルギーが回復しきる前の変身だったため、いつもより早くタイムリミットが迫っていることを知らせていた。
だがそれでも、相手が高速移動を使わなければ、ルナモードのままでも優勢のまま戦闘を進めていくコスモスだったが、インキュラスもただ負けてくれるバズもなく。瞬間移動を使われたことで、駆け寄って行って放ったコスモスの手刀は空を切る。
再び相手を見失ったコスモスを今度は背後から蹴り飛ばすと、インキュラスは背後からオーロラのようなものを放ち、それを筒状に展開することでコスモスを閉じ込める。
力技で脱出を図るコスモスだったが、触れれば電撃が走りダメージを受けてしまう。
「コスモスが……」
囚われた檻の中で、コスモスが窮地に陥っているのを見て歩夢はそう呟く事しかできなかった。周りにいる人たちも、コスモスが圧倒的に不利な状況になっているのを不安そうに見つめている。
気付けば檻に閉じ込められていた事も気になるが、このままコスモスが敗北すればここにいる全員どうなるか解らない。そう思うと、不安に駆られるがそれでもコスモスの勝利を信じるほかなかった。
「お願いコスモス、頑張って!ここにいる他の人たちを助けてっ!」
気付けばそう歩夢は叫んでいた。そしてコスモスはその声に気がつき一度振り返るとゆっくりと頷いた。
自分達をでは無く、周りの人間の心配をするところが彼女らしいなと思う反面。絶対に負けられないという闘志により強く火が灯った。
「ウワァァアアアッ!!」
コスモスは右腕を突き上げ、赤き太陽の如き光を放出し無理やりオーロラを打ち破る。
「ハアアァァァ………」
そしてその光を身に纏う事で、戦闘モードであるコロナモードへとその姿を変える。
「ウオォッ!」
力強く構えを取るコスモスに対してインキュラスが先に駆け出すと、コスモスはインキュラスにとびかかっていく。
「ダアアッ!!」
赤い光を身に纏いインキュラスの目の前で空中に静止したコスモスは、両脚を使った蹴りの連打を見舞うと最後に相手を蹴り飛ばしてから静かに着地する。
無理なモードチェンジをしたこともあってもうエネルギーにあまり余裕のないコスモスは、短期決戦を狙ってコロナサスペンドキックを使用。この連続蹴りをまともにうけたインキュラスは、先のルナモードの時にスタミナを消耗させられていたのもあってグロッキー状態になっていた。
「ハァァアアアア……」
両腕を一度腹の前に添えてから気を集め、腕を大きく上へ回して全面に巨大な高熱のエネルギーボールを創り上げる。
「ハアアッ!!」
そしてそれを勢いよく押し出す事で、必殺の超破壊弾をインキュラスにぶつけるのだった。
その一撃―プロミネンスボールーは、インキュラスの身体を呑み込むとそのまま相手を焼き尽くしインキュラスを消し飛ばしてしまった。
そしてインキュラスという主を失ったこの空間は、光に包まれて消えていくのだった。
こっそり病室に戻った菜生だったが、「どこに行ってたんですか?」とかすみにやはり色々聞かれてしまう。
「レム睡眠が終了した!」
だがその近くで、歩夢の状態を見ていた医師がそう告げたのをみて歩夢へと菜生は近寄っていく。
「歩夢?…歩夢!」
「うぅ…菜生ちゃん……?」
声をかけながら肩を揺さぶると、歩夢はまだ寝ぼけ気味にそう答えるも周囲を見渡してすぐにパニックになる。
「え?ここどこ…?もしかして寝起きドッキリ!?」
そんなことを口走る歩夢を見て周囲に笑みが戻る。
「本当に良かった…」
「菜生ちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
不意にそう歩夢に告げられて菜生は正体がばれてしまったのかと背筋に冷たいものが走った。
「えっと…どしたの?急に」
「ううん…ただ、小さい時から菜生ちゃんには支えてもらってたなって」
「何それ?歩夢だって、私を支えてくれてたじゃん」
「そうだっけ?」
小さい時の記憶を夢に見たからなんだと気づくと、菜生もそう軽口を叩く余裕が戻ってきた。
「かすみんだって、先輩を支えてあげれるんですからね?」
「はいはい、ありがと」
「む~っ…」
こうして、街の人々が突然眠ったまま目を覚まさなくなるという事態は収束した。だがしかし、一体何のためにそのようなことをあの羊はしたのか?その答えはでないままだった。
今回登場した怪獣は『夢幻魔獣インキュラス』です。コスモス本編に登場している怪獣なのですが、知らない人は調べない方がこの先のネタバレにならなくていいかもしれません。
それではまた次回お会いしましょう。