COSMOS The Rainbow   作:カズオ

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おまたせしました。時の娘編第二話です。
気づけばここで活動を始めて一年が経過しました。
こらも気ままにやっていこうと思います。一年間ありがとうございます!


20話 初恋

菜生がスクールアイドルとしてステージに立つことに興味を持った時、みんな驚きこそすれど。それを否定する意見を述べる人は居なかった。

 

「これはライバル出現ですね!」

 

「かすみんの方がかわいいんですからね!」

 

「はいはい、まだ本当にやるって決めたわけじゃないし…」

 

菜生が本当にステージに立つのならライバル出現だと張り切るせつ菜とかすみに菜生はそう苦笑いを浮かべる。

 

だがそんな菜生たちの気持ちと裏腹に、水面下で恐ろしい計画は着実に進められていた。

 

―そしてそれは同時に、菜生から新しい夢を確実に奪ってしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ菜生ちゃん」

 

「何ですか?」

 

その次の日、再びお見舞いにと施設を訪れた菜生に看護師が駆け寄ってきた。

 

「彼にね、昨日見た夢の絵を描いてもらったんだけど…菜生ちゃんこれわかる?」

 

そう言って看護師が、見せてきた絵は巻貝か何かを横から見たような。それでいて機械のような無機質さを感じさせる絵だった。

 

「…いや、ちょっと私にもわからないですね……ちょっとこの絵写メってもいいですか?友達にも聞いてみます」

 

「えぇ、もちろん構わないわ。何かわかったら教えてね」

 

「それはもちろん!」

 

そう菜生が答えると、看護師は「お願いね」と言ってその場を去る。

 

「これって…?」

 

この絵に、菜生はなぜかどこかで見たことがある気がしてならなかった。

 

「こんにちわ~」

 

「こんにちわ。今日も来てくれたんだ、ありがと」

 

「いえ、ここって殺風景ですから。退屈かなって」

 

そう言ってはにかみながら入ってきた菜生を、彼は笑って迎え入れる。

 

「いつもありがとうね、実際検査とか以外でここの人とも話すことないから実際ヒマしてんだよね。だからこうして来てくれるの、本当にうれしいよ」

 

「ならよかったです。もし迷惑ならもうやめておこうかなって考えてたので…」

 

「迷惑なわけないよ。実際こうして話してる方が気がまぎれるし、俺の過去のこととかちゃんと思い出して菜生ちゃんに教えてあげないとって思えるから」

 

彼がそう呟きながら、思い出せることを書くようにと手渡されたメモ帳を手でなぞる。そのページの上にはやはり『時の娘』という言葉があった。

 

「俺がだれで、何してたか。ちゃんと思い出さないとってさ」

 

「無理に思い出せなくてもいいんじゃない?」

 

「え?」

 

不意に菜生がそうぽつりとつぶやくと、彼は菜生の方を見るべく視線を上げる。

 

「思い出そうって悩んで思い詰めても、きっとよくないと思う。そうだ!けがが治ったらうちにきませんか?記憶が戻ったら、本来の日常に戻れば…」

 

咄嗟にそう口に出したが、半分は嘘だなと菜生は自分で内心苦笑した。

 

彼が全てを思い出せば、もう菜生は彼と話す機会はなくなる。それが嫌だったのだ。

 

「それも悪くないかもね」

 

だがそんな菜生の気持ちを知ってか知らずか、彼はそう短く答えた。

 

「なんかさ、菜生ちゃんは初めて会った気がしないんだよね。だから、こうして話したりしてたら自然と思い出すかなって」

 

「私も、あなたとどこかで会ったことがある気がする」

 

「じゃあそうなのかもね」

 

そう言って笑うと、菜生も自然と釣られて笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と出会ったあの日以来、2日が経過したがあの宇宙生命体も怪獣も現れない平和な日常を過ごしていた。

 

そして菜生は、無意識のうちにあの青年に恋い焦がれるようになっていった。

 

その証拠に、菜生は髪形を変え。彼に提案されると今までが嘘のように、自分もスクールアイドルとしてステージに立ってみようかなどと考えるようになった。

 

「お~やっぱ一緒に練習やってただけあってうまいうまい」

 

「菜生ちゃんもともと身体能力高そうだし、本当に強力なライバル登場だね~」

 

「へへっそうかな…?」

 

ダンスの練習そのものは、菜生は見学といろいろ調べて得た知識を元にアドバイスをするだけだったのだが。今日初めて練習そのものを実施してみて、愛と彼方はそう感嘆の声を漏らす。

 

「でも、どうして急にステージにたってみようと思ったの?」

 

「みんなを見てて、私もやっぱり立ってみたいのかなって思ったんです。きっとそれで見えてくるものもあるし」

 

果林にそう問われた菜生は、そう答えた。それも本心ではあるのだろう。立ってみなければ、そこからの景色などわかるわけもない。それを理解することで、菜生はよりみんなへの理解を深めたい。

 

みんなには、そう伝えた。

 

 

 

 

 

 

「菜生ちゃんはさ」

 

「ん~」

 

「やっぱりあの人のことが好きなの?」

 

「へっ?なっななななななんてこと聞くのさ!?」

 

練習帰りに、唐突に歩夢に指摘された菜生は顔を真っ赤に染めて動揺する。

 

「ステージに立ってみたいていったのも、あの人に言われたからじゃない?」

 

「…無いって言ったら、嘘になっちゃうかな……」

 

歩夢にそう言われ、菜生は観念したように答える。

 

「でもわかんない。『好き』って感情が…だから、私は彼に恋してるのか自分でもわかんない。でも、私がステージに立ってるところを見て、彼が頑張ろうって思ってくれるならそれでもいいのかなって」

 

「菜生ちゃんらしいね。誰かのためにって思うところが」

 

「そうかな?結局それって、そうなってほしいっていう私の為なんだよ」

 

そう微笑む歩夢に、菜生はそう告げる。

 

「だからさ、歩夢にお願いがあるんだ…」

 

「お願い?」

 

「これからはさ、ライバルとして一緒に頑張ってくれない?」

 

「もちろんだよ!私も、菜生ちゃんと一緒にスクールアイドルができてうれしいよ」

 

「ありがとっ!」

 

歩夢も、菜生がスクールアイドルをやることに対してそう嬉しそうに反応してくれたことが菜生にとってはとてもうれしかった。

 

 

 

 

だがそんな幸せな時間は、長くは続かなかった。

 

「これって…」

 

帰り着いた菜生は、今日医療施設で看護師に聞かれた。青年が描いた夢の絵を思い出していた。そして、その絵に対して感じた既視感の正体に気が付いたのだ。

 

その夜、母は仕事の関係で帰ってこないので今日も歩夢の家で夕食を一緒に食べて部屋に戻るとパソコンであることを調べていた。

 

そして、菜生は衝撃の事実にたどり着くのだった。

 

「やっぱりこの絵って…」

 

菜生はパソコンの画面に映っている画像と、絵を見比べると確信した。

 

彼が夢で見た物体の正体、それは―ジェルミナⅢだと―

 

「じゃあ彼はまさか……」

 

そう思い、ジェルミナⅢの開発メンバーについて調べてみたが彼に似た容姿のクルーの姿を見つけることはできなかった。

 

ならどうして彼は、記憶を失っているのに夢にジェルミナⅢの姿が出てきたのか。頭を悩ませているとスマホが着信音を奏でた。こんな時間に誰だろう?そう思いながら手に取ると、母の名前が画面に映っていた。

 

「もしもしお母さん?」

 

『菜生、あなたにどうしても伝えておかないことがあるの』

 

そう告げる母の声は、いつになく真剣なものだった。

 

本来、SRCとは関係のない菜生にこのことを教えるのはと母も悩んだそうなのだが、あの青年を最初に見つけて頻繁に会って会話をしていた菜生には知る権利があるとして母はとても言いにくそうに言葉を紡ぎ始めた。

 

『彼の名前は〈黒崎レイ〉三年前まで、ジェルミナⅢの建設クルーだったの……」

 

「前『まで』…?」

 

彼の名前を聞いて、菜生は背中に冷たいものが走るのを感じたがそのまま続きを母に尋ねた。

 

『3年前、建設中の事故で死亡者が出たのは覚えてるわね?』

 

「うん…あの事故のニュースはとってもショックだったから…」

 

そこまで聞いて、菜生の心はそれ以上聞くなと警鐘を鳴らしていた。だがそれでも菜生には、その続きの言葉を聞くのを拒むことができなかった。

 

『結論から言わせてもらうわ。レイはもう、生きてはいないの…』

 

「え……」

 

『彼は、あの時現れた宇宙生命体によって前頭葉にバイオチップを埋め込まれて疑似的に生命活動を再開した。操り人形なのよ』

 

その事実は、菜生にとってはとても耐えられたものではなかった。

 

「嘘だよ…お母さん、私怒るよ…?私が毎日会いに行ってたのがそんなにいけないことだったの?」

 

『残念だけど本当よ…レイの処置はコールドスリープ。このまま彼を放っておけば、ベースに何が仕掛けられるか判らない。理解して、菜生?』

 

「わかんない!わかるわけないよッ!!このまま永久にレイを眠らせるつもりなの!?そんなこと…そうだ、そのチップを外せば―」

 

『チップを外すのは、かなり難しいわ。それに、うまく外したとしても彼はもともとの人間としての正しい状態に戻るだけ』

 

菜生の言いかけた言葉を、しのぶは遮った。そして、人間としての本来の姿というものが。死人に戻るということも菜生にはすぐ理解できた。

 

『彼には、明日の正午記憶回復の処置を行うと伝えてあるわ。あなたの気持ちはわかる。だからこそ、最後にもう一度彼に会ってあげて…』

 

そう言って電話が切れた。いや、菜生はどうしたらいいかわからず切ってしまったのだ。だが母もそんな菜生の心情を理解してか、もう一度電話をかけてくることはなかった。

 

「どうすればいいの…?」

 

仮に明日会ったとして、菜生は何ができるだろうか?治療頑張ってねと言って笑って送り出すことがきっと正解なんだと思う。でも、そんなことができるほど彼女の心は強くなかった。

 

窓を開けて夜空を見上げても、答えなんて教えてくれなかった。

 

「菜生ちゃん…?何があったの?」

 

「あっごめん…こんな時間に大声出して迷惑だったよね…」

 

隣の部屋の窓が開いて、歩夢が心配そうに顔をのぞかせると。菜生はそうバツが悪そうに笑みを浮かべた。

 

「ううん、そんなことないよ?それに、菜生ちゃんのことが心配なの…菜生ちゃん、泣いてるから…」

 

「あ…」

 

歩夢にそう言われて、頬に手を添えると流れている涙の雫が指先に触れた。そこで初めて、菜生は自分が涙を流していることに気が付いた。

 

そしてそれを自覚すると、余計に涙が止まらなくなってしまった。

 

「もしよかったら教えて?今からそっちに行ってもいい?」

 

一人でいたら、辛い現実に圧し潰されてしまいそうだった菜生はこくこくと無言で頷いたのだった。

 

 

 

 

 

「そっか…そんなことが……」

 

「ねえ歩夢、私どうしたらいいの…?」

 

部屋に歩夢を招き入れて、ベッドに二人並んで座ったまま事情を知って表情を曇らせる歩夢に菜生はそう震える声で問いかける。

 

「私は…明日会いに行った方がいいと思う」

 

「なんで…?会っても苦しいだけだよ…」

 

「でも、明日会わないと菜生ちゃんはもう二度とレイさんに会えないかもしれないんだよ?そうなったら絶対菜生ちゃん後悔する。その方がもっと…辛いんじゃないかな?」

 

そう告げる歩夢の心の中には、かつて父を喪った時の菜生が今の菜生に被って見えていた。

 

もう会えなくなるとわかっているなら、絶対に会った方がいい。もうあんな風に悲しむ菜生を見たくない、悲しんでほしくない。純粋に幼馴染として、歩夢は菜生のことを想っていた。

 

「うん…わかった。私、明日行ってくるね…?」

 

「うん、頑張ってね。そして午後一緒に練習行こ?」

 

「わかった。ありがとう、歩夢」

 

「ううん、いつも菜生ちゃんには支えてもらってきたから。これくらいのことしかしてあげられないけど…」

 

「そんなことない。本当にありがとう」

 

ただ菜生にとって、歩夢という幼馴染の存在がこの時はいつも以上に心強かった。

 

 

 

 

 

翌日、菜生はレイが生前通っていた大学を訪れていた。

 

「君ですか、ジェルミナⅢの事故の話が聞きたいというのは」

 

そう言って、菜生を出迎えてくれたのは中年の男性教授だった。急であったのにも関わらず、菜生の願いを聞いてくれたこの男性は当時レイに教鞭をとっていたのだという。

 

「宇宙での死は一瞬にして訪れます。ぐずぐずしない、あっという間です」

 

そう切り出してから、教授はレイの死因について話してくれた。

 

点検中だった機密バルブの圧力に不具合が発生し、ちょうどレイが作業をしていたブロックが崩壊。宇宙空間での装備をしていなかったレイは生身で宇宙空間に放り出されそのまま行方不明になったという。

 

そして、人間が生身で宇宙空間で生命活動を行うのは不可能。レイはそのまま地球に帰ることなく死亡してしまったのだ。

 

「宇宙空間での作業は死と隣り合わせの危険なものです。それでもレイは、宇宙に時の娘を造りたいと言って建設クルーに志願したんです」

 

「時の娘…?」

 

「当時の建設クルーは、ジェルミナⅢのことを時の娘と呼んでいたんです。人類が地球に生まれて、長い長い時を経て初めて宇宙に生み出したもの。建設クルーには、自分たちが造り出そうとしているものにそう言った誇りや愛情があったんです」

 

レイが唯一覚えていた言葉は、命を懸けて宇宙に造り出そうとしていたステーションの名前だったのだ。

 

「レイが建設クルーになったときに撮った写真です。もしよかったら持って行ってください。私は、一人でも多くの人に、宇宙に時の娘を造り上げようと命を懸けた彼のことを覚えていてもらいたい」

 

そう言って教授が差し出した写真には、仲間たちと笑いあうレイの姿が写っていた。

 

「私、絶対忘れません。宇宙への夢を、繋いでいくのはきっと私たちだから…」

 

そう返す菜生に、教授は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「もしそのために、このキャンパスを訪れる日が来ればその時は歓迎します」

 

「今日は、本当にありがとうございました!」

 

そう言って菜生は一礼すると、大学を後にした。どうしても最後に会う前に、彼のことをちゃんと知っておきたかった。そして菜生は、それを知ったうえで自分がどうすべきかを考えていた。

 

 

 

 

 

 

菜生は、事実を知ったうえでも。レイが医療施設の奥にあるコールドスリープ処置を行う部屋へ行く前になんとしても会おうとバイクで施設へと急いだ。

 

施設へ駆け込むと、そこにはスタッフに囲まれて歩くレイの姿があった。

 

菜生が駆け寄ってきたのに気がついた彼は、肩で息をする菜生に笑いかける。

 

「まるで菜生ちゃんが今から治療受けるみたいじゃん。大丈夫だって、心配しなくても全部思い出すよ。そしたら『時の娘』の意味、真っ先に菜生ちゃんに教えるから」

 

そう告げるレイの首には『REI KUROSAKI』と記されたドッグタグがかけられていた。きっと認識票か何かだと思っているのだろう。深刻そうな表情の菜生とは対照的に、なんとも思っていないであろう彼は菜生に対して笑っていた。

 

「…うん」

 

「じゃあ後でね」

 

そう言ってレイは踵を返すと、スタッフと共に施設の奥へと進んでいく。エスカレーターに乗って登っていくレイの背がどんどん遠くなっていくのを見てどうしてもある感情が抑えられなくなっていった。

 

「レイ!」

 

気が付けば菜生は駆けだして、本来立ち入り禁止の標識も無視してレイへとまっすぐ走っていく。

 

「私ときて!」

 

そう言って菜生は、レイの手を引くと今度はエスカレーターを逆走して駆け下りると。一目散に施設の外を目指して突っ走った。




元々三話構成にする予定でしたが、あと二話ほどやるかもしれません。
また書きあがり次第更新していきますので、また次回お会いしましょう。
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