残すところあと2話、菜生とレイの出会いから始まった物語
最後までお付き合いください。
レイの手を引いて走る菜生を、SRCの関係者は止めるために追いかける。
「なんで逃げないと行けないんだ?」
「話はあとで!」
急に自分を引っ張って走る菜生が、なぜこうも必死に逃げようとするのかレイにはわからなかった。だが菜生に、その説明をしているヒマは無かった。
「ほらこれ被って!」
駐車場に飛び出した菜生は、自分がバイクに乗るときに使っている黒のヘルメットを放って渡すと。自分は歩夢とタンデムするために買ったピンクのメットを被る。
「いたぞー!」
そうこうしていると、菜生達を探していた職員がこちらを指さして駆け寄ってきた。
「乗って!…はやくッ!」
そしてレイをタンデムシートに乗せると、菜生はスロットルを全開にして走り出す。
そしてそのまま、止めようと飛び出してきた職員たちを引き倒す勢いで突っ切るとそのまま施設外へと飛び出した。
「無茶するなぁ…」
「私はあなたに、このまま生きていて欲しいから…」
呆れたようにつぶやくレイに、菜生はそう小さく漏らす。
どこまで逃げればいいのか?そんなことは考えずに飛び出してしまった菜生だったが。ひとまず学校の研修室で匿えないかと考えた結果、虹ヶ咲学園を目指してバイクを走らせた。
だがそんな時、街に以前撃退した怪獣ガルバスが出現した。
ひとまず菜生は街外れにバイクを停めると、ヘルメットを脱いだ。
「ガルバスだ…様子がおかしい…」
「菜生ちゃん、どうした?」
「ここにいて、すぐ戻るから」
「あっ…おい!」
駆けだしていった菜生に、レイは手を伸ばしたがすぐにその手を下ろした。そして、菜生がバイクから降りた時に落とした写真に気が付きそれを手を取る。
「これ…」
それは先ほど教授からもらった、レイがジェルミナⅢの開発クルーになったときの写真だった。
「…そうか、俺はあの事故で……」
ジェルミナⅢ建設中の事故で宇宙空間に放り出されたレイは、そのまま命を落とした。そして、あの謎の宇宙生命体『ワロガ』によって埋め込まれたバイオチップによって、疑似的に生き返らされたうえでこの地球に戻されたのだ。
そしてレイが記憶を取り戻したころ、SRCもガルバスを保護すべく出動した。
だがしかし、レイに埋め込まれているバイオチップを解析した際。逆にコンピューターを汚染され、出撃した航空機はまともに飛行することすらままならなくなり、ガルバスの進行を止めることができずにいた。
「コスモース!」
だがそんな事態になっているとは知らないまま、菜生はコスモプラックを突き上げ光を解き放つ。
「ハアッ!」
「ギャオオオ!!」
コスモスはガルバスの前に立ちはだかると、これ以上は進ませないとばかりに腕を広げて進路を塞ごうとするも、ガルバスはお構いなく突っ込んできてしまい敢え無く戦闘へと突入した。
(大丈夫、この前だってできた。ガルバスの動きは分かる、いけるッ!)
コスモスの中で菜生はそう自分に言い聞かせて、一刻も早く事態を解決させてレイのところに戻らないとと焦っていた。
だが、ガルバスの動きを止めようとするも以前とは比較にならない力で振りほどかれ。腹部に頭突きを食らい態勢を崩されてしまう。
だがコスモスもすぐに態勢を立て直すと、ガルバスの腹部に鋭い掌底を突き出す。
そのガルバスの様子は、だれが見ても異常だった。本来大人しいはずのガルバスが自分から街に向かって進行していること。そして、異常なまでにコスモスに対して好戦的なこと。
「ぐぅ…」
ガムシャラに振るわれるガルバスの腕が当たるたびに、前回とは比較にならない衝撃がコスモスを襲った。だがそれでもコスモスは、制御を失った航空機が真っ逆さまに地面目掛けて墜落していくのが見えるとガルバスを突き飛ばし、墜落していく航空機をキャッチ。そのまま地上を滑らせるようにして、不時着させた。
だがそれに息をつく間もなく、ガルバスはコスモスめがけて火球を放った。
「イヤアアッ!?」
全開は一度も見なかった攻撃に、完全に反応が遅れたコスモスはこれを胸部にまともに食らい。その巨体は宙を舞った。
そのままコスモスは地に伏し、立ち上がることなくその体は背景に溶け込むようにして消えてしまう。そしてそれを上空から、例の宇宙生命体はただ眺めていた。
「…くぅっ……」
菜生は、胸部に痛みを感じて目が覚める。
「気が付いた?」
「お母さん…?ここは……」
「あなたはガルバスが出現した現場近くに倒れてたのよ。よかった、大丈夫そうで…」
目が覚めると、そこは見慣れない天井だったが。白衣を着た母の姿を見て、ここがSRCの医療施設であることを認識した。
「ごめんなさい…」
「まあいいわ。でも歩夢ちゃんにはちゃんと心配かけてごめんって謝っとくのよ?練習に来ないって私に連絡してきて、昨日からあなたに付きっきりだったんだから」
そこで菜生はようやく自分の右手が握られているのに気が付いた。視線をそちらへとむけると、歩夢が菜生の手を握ったまま眠ってしまっているのが視界に入った。
「ガルバスは?」
「防衛軍の攻撃を受けて、地底に逃げ込んだわ。でも変電所を破壊されたから、街の一部では電気が止まって復旧まで大騒動。SRCも出動停止…レイに仕込まれてたバイオチップで施設もダウン。状況はかなり悪いわ…」
そうため息交じりに告げる母の顔は、明らかに疲れ果てていた。
「ガルバスは防衛軍が討伐することになった…」
「そんな…!このくらいで保護をあきらめるなんて…」
「こんなこと?ライフラインが止まれば、それだけで命に係わる人が出てくる。例えば重症患者とかね。怪獣の保護っていうのは、そんなリスクを背負って行われているの。菜生も覚えておきなさい」
ガルバスの排除に否定的な菜生だったが、母にそう諭されると口を噤んだ。
「それにレイの行方も判らなくなったけど、捜索は行われているわ…一応それは教えておくけど、あなたは絶対安静。私がいいというまでこの施設からは出ないように」
「わかりました……」
「よろしい。じゃあ、お母さんは仕事に戻るから。また何かあったら呼びなさい?」
そう言って母が出ていくと、思わずため息が出た。
そして空いた手で隣の机の上に置かれていたスマホを手に取ると、昨日のガルバスとの戦闘についての記事を見ていた。
―わざわざ街に被害を出してまで、怪獣と共存することに何のメリットがあるのか理解できない
―地球は人間が暮らすためにある
―昨日のように広範囲の停電のような被害が出る前に、怪獣を殲滅するべき
「勝手なことばっかり…同じ地球に生まれた命を大事にして、何が悪いの…?」
そんな書き込みばかりで、菜生は一層表情を曇らせた。この書き込みのように、怪獣との共存は無理なのかと。
「ごめんね…心配させちゃったよね……」
寝ている歩夢に、菜生はスマホを膝の上に置いてから左手を伸ばしてそう呟く。
「ごめん…私、もうちょっと無茶するね」
それでも菜生は、一度レイを連れ出したことへの責任。そして、このままレイを放ってはおけないそんな気持ちばかり強くなっていた。
一方、防衛軍に追われる身となったレイは自身の母校である大学の敷地内を訪れていた。
当時の恩師である教授が、今の学生と歩いているのを見てやはり自分は記憶にある通り。既に死んでしばらく経っている事を実感させられる。
そう思いに耽り立ち尽くしていると、足元に丸まった新聞が転がってきた。レイはそれを手に取って広げると、その記事に目を通す。
「そっか…ジェルミナⅢ、完成したんだ……」
その見出しには『ジェルミナⅢ遂に完成!!』と大きく書かれていた。
そして思い出すのは、自分がジェルミナⅢから外に放り出された後の記憶。あの宇宙生命体によって無理やり生き返させられ、あの夜菜生の前に現れることになった自分。
それが偶然ではなく、仕組まれたものだった事も―
「全部思い出したのに、なんで俺を生かしておく…?まだ、俺にさせたいことでもあるのか?」
そう恐らく自分の行動を監視しているであろう、あの宇宙生命体に問いかけても答えは返ってくるはずもなく。もう一方の追跡者を撒くために、首にかけられたドッグタグを引きちぎる。
「ターゲット発見」
不意にそんな声が聞こえ、周囲を見渡すと。スーツにサングラスといったいかにもこの場に似つかわしくない人間がこちらに向かってくるのが見えた。
やはりドッグタグに発信機の役割を果たすものが仕込まれていたのだろう。
周囲の学生を押しのけて近寄ってくる諜報員に対して、レイは背を向けて走り出す。
一方そのころ、昨日練習にこなかった菜生が入院していると聞いて同好会の他のメンバーもお見舞いに施設を訪れていた。
「おはよう歩夢~…ってあれ?なっちは?」
一番最初に病室に入った愛が、ドアの開いた音で目が覚めた歩夢にそう声をかける。
「このベッドで寝てるはず…あれ?いない…」
菜生が寝ていたはずのベッドは、空で布団の上には畳まれた患者着があるのみだった。
「菜生ちゃんまさか抜け出して…」
「まってください、先輩怪我してるんですよね?どうしてそんな…」
そうこうしていると、看護師が検査のために入って来たのだが菜生がいないのに気が付くと顔を青ざめさせて病室を飛び出すと、しのぶを連れて戻ってきた。
「歩夢ちゃん、菜生は?」
「おばさんごめんなさい…起きたらもう菜生ちゃんいなくって……」
「まずいわね…今のあの子は何をしでかすかわからないわ」
歩夢がそう申し訳ないとしのぶに告げると、しのぶは困った表情でそう呟いた。
「どうしてせんぱいはそこまで…」
「そうね、これだけ心配かけちゃってるし。みんなには教えないわけにはいかないわね」
そうかすみに問われたしのぶは、そう前置きをしたうえで事の顛末を話はじめた。
「菜生がこの前助けた青年、レイを何としても助けようとしてるの。あの子…そういう無謀なところばっかり死んだお父さんにそっくりだから……」
「私たちも探しに行きましょう!」
「ダメよ!」
事情を知って、せつ菜は探しに行こうと提案するが。それはしのぶによって却下された。
「どうしてですか?菜生ちゃんを探すなら、人手が多い方が絶対……」
「危険すぎる。それに防衛軍が動いてる、娘を心配してくれるのはうれしいけど。あなた達は民間人、危険に晒すわけにはいかないの。あの子は必ず私が連れ戻すから、安心して待ってて?」
「菜生ちゃんを、お願いします…!」
そう言って、菜生やレイのいそうな場所へのヒントも出さずに。しのぶは病室を後にしようとすると、その背に歩夢はそう告げるのだった。
「そんなことになってたなんてね~…」
「菜生ちゃん、そのレイさんって人が気になって仕方がない様子だったしね」
「恋は盲目…なんて言うしね。何事もなければいいんだけれど…」
9人残された病室で、三年生が3人がそんな風に言葉を交わす。最長学年として、あまりみんなが取り乱さないようにとは思いつつも心配せずにはいられない。
「やっぱり探しに行こうよ、じっと待ってるなんて性に合わないし」
「ですね、やはり行くべきです」
そう提案する愛とせつ菜に、歩夢は「ううん」と首を横に振った。
「私は信じてる。菜生ちゃんは大丈夫だよ、きっといつもみたいに笑って帰ってくるから」
そう静かに告げる歩夢だったがm後ろに隠した手は震えていた。
(菜生ちゃん…私待ってるから……)
一番付き合いが長い私が信じて待っていないと。そう自分に言い聞かせて、飛び出したい気持ちを歩夢は抑え込んでいた。
きっと自分が信じていないと、ここにいる他の8人に不安を余計煽ることになるであろうから。
一方で菜生は、バイクに置き去りにしていたカバンの中にあったはずのレイの写真がなくなっていることから。もしかしたら写真の場所である大学へと向かったのではと予想していた。
「おねがい…ここにいて……」
母が着替えとして用意してくれていた私服に身を包んだ菜生の姿は、幸いなことに大学の敷地内でも目立つことはなかった。
そして菜生は、レイが付けていたドッグタグを拾ったことで。ここにレイがいると確信した。
しばらく敷地内を彷徨っていると、噴水の向こうにレイらしき人物が見えた。その人物は、スーツにサングラスといったいかにもな風貌の男数名に追われていて菜生は確信に至った。
すると、レイも菜生に気が付いたのかお互い立ち止まって視線を交わす。
レイがその時何かを言っていたようだったが、距離の離れていた菜生には聞こえない。二人はすぐに走り出すと合流し、共に大学の敷地外を目指して走った。
「ウルトラマンコスモス…」
「何か言った?」
「いや、何でもない。走るよ!」
レイがもう一度小声で何かを呟いたが、菜生には聞き取ることができず。聞き返すもそうごまかされてしまった。
だが、そんな二人を遮るように前の道路にセダン車が急停止し。中から後ろから迫ってきている男性と同じ格好の男性が降りてこちらへ駆け寄ってくる。
「止まれ!」
「邪魔しなないでッ!!」
菜生は逆にその男性に突っ込んでいくと、腕を掴んでそのまま投げ飛ばした。相手は、完全に虚を突かれた形になりそのままアスファルトに叩きつけられて呻いていた。
「ごめんなさい」
「菜生ちゃん乗って!」
投げ飛ばした男性に一言謝ってから走り出した菜生に、レイは前の車の運転席に乗り込みながら声をかける。
すると助手席に菜生が乗ったのを確認するや否やアクセルを踏み込み、車を走らせてその場から逃げるのであった。
「まったく無茶をする…」
「菜生ちゃんがそれ言っちゃう?あれ防衛軍の特務機関、そんな人を投げるなんて無茶苦茶だよ」
「こういう女の子は嫌い?」
「嫌いなら一緒に逃げたりしないさ」
「ありがと」
投げ飛ばした相手への罪悪感をごまかそうと、そう告げた菜生にレイは視線は前を向いたまま返事をした。
そしてそれと時を同じくして、宇宙生命体はガルバスを再び暴れさせようとしていた。
というわけで本来の予定より一話伸びまして、次回時の娘編完結予定です。
菜生の出した答えとは?
乞うご期待