COSMOS The Rainbow   作:カズオ

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一か月ぶりですね、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
僕は忙しさとやる気のなさでダウンしております。


27話 利用される苦悩

突如しずくに迫った謎の声、その言葉が頭から離れず。しずくは部屋から出られなくなってしまっていた。

 

『君の願いを叶えてあげる。邪魔なものは全部壊しちゃえ』

 

その言葉が耳から離れない。

 

「そんなの、望んでない…」

 

その今にも消えてしまいそうな声を聴いてくれる人はどこにもいなかった。

 

しずくの家の近くの上空に現れたクジラは、何をするわけでもなく。ただ上空を漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でSRCは、その空を泳ぐクジラの対応に追われていた。もちろん、菜生の母も例外ではなく。

 

「コスモス、あのクジラって本当にただの幻なのかな…?」

 

ベランダから夜空を眺めながら、手に持ったコスモプラックにそう語り掛ける。

 

(今の時点では、そうとしか判断できない。ただ―)

 

「ただ…?」

 

(あのクジラが現れる前、一瞬だがカオスヘッダーの気配を感じた)

 

「カオスヘッダー…」

 

怪獣を凶暴化させる光のウイルス。まだその目的はわかっていないが、地球に来る前に他の星の生態系を破壊している。そんな相手が今回も関わっている可能性がある。そう考えると、簡単には偶然だと思うことはできなかった。

 

「菜生ちゃん、いる?」

 

「…いっいるよ~」

 

隣の部屋から聞き親しんだ幼馴染の声が聞こえてきて、菜生はなんとか勘付かれる前にコスモプラックをしまう。

 

「ごめん電話してた?」

 

「あぁいや……独り言だけど?どしたのこんな時間に?」

 

「おばさんいないんでしょ?ご飯食べたかなって」

 

純粋に、しのぶが不在だから。菜生は夕食をとったのかという心配によるものだったらしい。

 

「作り置きしててくれたからそれ食べたよ。だから今日はもう大丈夫、ありがとね?」

 

「でもなんで急にいかなくちゃいけなかったんだろうね?クジラは何にも悪いことしてないんでしょ?」

 

「そうなんだけどね…でも何かあってからじゃ遅いからってことなのかも」

 

歩夢は少し前までの菜生と同じで、SRCの医療センターで働いていることは知っているが。科学特捜チームのメンバーでもあることは知らないのだ。

 

「そうなんだ。でもそういわれると心配かも…しずくちゃんの家の近くなんだよね。あのクジラが出たの」

 

「そうだった…!遠いなって思ってたけど、しずくちゃんあっちの方に住んでるんだった」

 

しずくは県外の実家から朝早くから家を出て通学していると聞いた気がする。その瞬間、菜生は嫌なものが背筋を伝うのを感じた。

 

「きっと大丈夫だよ。それに、もしクジラが悪い怪獣だったら。防衛軍もSRCもいるし、今はコスモスも来てくれてるから」

 

「そう…そうだよね!今日まだシャワーも浴びてないし。私そろそろ戻るね?」

 

「うん、おやすみなさい」

 

「おやすみ、歩夢」

 

そう言って菜生は自室に戻ると窓の鍵をかけると息を吐く。

 

「そうだよね…私が不安になっちゃだめだ。何かあったら、私がみんなを守るんだ…!」

 

拳を握りしめてそう呟くと、両頬をパンパンと叩いてナイーブになっていた気持ちを振り払った。

 

「私、ウルトラマンだもんね」

 

今はコスモスと一体化しているのだから、コスモスの力を借りればきっと対抗できる。本当はコスモスが居ることを最初からあてにするのは気が引けるが、そうなった場合みんなの安全を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、しずくが来ることはなかった。

 

ニュースを見る限り、街で怪獣が暴れたなどの話は出ていない。しのぶに聞ければ一番なのかもしれないがあいにく連絡が付かない。

 

「心配だよね、しずくちゃんからの返事もこないし…」

 

「しず子…」

 

演劇部でのこともおおむね察しがついているかすみは、特に深刻そうな表情で下を向いていた。

 

菜生は、そんなかすみの様子に真っ先に気が付くと。かすみにそっと耳打ちする。

 

「しずくちゃんのとこ行く?」

 

「え?」

 

急な提案に、かすみは目を丸くするが。菜生はそんな彼女の様子に気づいたうえで話をつづけた。

 

「この状況で練習したって集中できないでしょ?ならさ、行こうよ」

 

そうかすみに提案するが、内心では菜生も心配で仕方がないのだ。カオスヘッダーが関わっている可能性が少なからずある以上、やはり現地に向かいたいという気持ちが強いのだ。

 

「このままでも練習には集中できないだろうし、今日はお休みにしよう。いろいろμ'sの皆さんから学んだこともあるけど、それは全員そろってから取り入れていこう」

 

そう全員の前で告げると、誰も反対意見を述べることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん歩夢ちょっと私やりたいことあるから先帰ってて?」

 

「う、うん。菜生ちゃん晩御飯私の家で食べる?もしそれでもいいならお母さんにお願いしとくけど」

 

「いや、気にしなくていいよ?多分今日はお母さん帰ってくるよ。そんな気がする」

 

きっと今日でケリが付く。いや、ケリをつけるという覚悟でこれから出向くのだという気持ちをもってそう菜生は告げるのだった。

 

また歩夢に本当のことを教えない自分に嫌気がさすが、それでも歩夢を巻き込みたくない。

 

その一心で今までごまかし続けてきたのだ。もう菜生は恐らく自分から本当のことを伝えることはできないんだろうなと思い始めていた。

 

「わかった。また何かあったら連絡してね」

 

「おっけ。いつもありがと、じゃあまた明日」

 

みんなで行ってもかえってしずくは責任を感じてしまうかもしれない。だからこそ、あえてかすみと二人で行くことを選んだ。

 

それに二人なら、クジラの周辺まで交通機関が使えないとなった場合に最悪バイクが使える。

 

結局、現状危険性を認められていないこともあり、普通に電車で向かうことができた。

 

 

 

 

 

「本当にクジラが空を泳いでる…」

 

「俄かには信じがたい光景だよね、やっぱし…」

 

空を漂うクジラの姿を見て、かすみも菜生も同じ感想を抱いた。

 

「とりあずしずくちゃんの家に行こうか?今日の用事はクジラじゃないし」

 

「ですね、行きましょう!」

 

嫌でも目に入るクジラを気にしても仕方がない。そう言って意識から一度クジラを外すが、かすみも菜生も完全に意識の中からそれを消すことは不可能だった。

 

あらかじめ教えてもらっていた住所を頼りに、なれない街並みを歩く二人だったが。すんなりと目的地にたどり着くことができた。

 

なぜなら―

 

 

 

 

「…でっか……」

 

理由は簡単、しずくの家が豪邸だったからだ。

 

東京暮らしで、基本的に友達の家もマンションであることがほとんどな菜生にとっては一軒家というだけですでに目新しいのだが。さらにそれが、一般的な一軒家のイメージと比較して遥に広大な敷地の家となれば驚くのも無理はない。

 

暫く呆然と家の前に突っ立っていた二人だったが、意を決してインターホンを押す。

 

『はーい』

 

「こんにちは、私たちしずくちゃんと同じ学校のスクールアイドル同好会のものなんですが…」

 

インターホンから聞こえていた女性の声に、菜生がそう告げると『少し待ってくださいね』という声が聞こえしばらくすると女性が玄関から現れる。

 

「わざわざ遠いところまでありがとうございます。でもごめんなさい、しずくは今誰にも会いたくないって…」

 

「そんな…」

 

「やっぱりしずくちゃん、どこか悪いんですか?」

 

そう問いかけるが、しずくの母親は首を横に振る。

 

「それが…体調が悪いってわけじゃなさそうなんだけれど、昨日の夜からずっと部屋から出てこないのよね…今までこういうことなかったから。余程何かあったんじゃないかしら…」

 

そう告げるしずくの母親の表情は、大変悲しげだった。

 

(…演劇にライブ。やっぱり両方ってなると大変だろうし、私が無理させちゃったから…)

 

やはり二足の草鞋を履き続けることは容易ではない。それに加え、今回はライブと並行して演劇の練習もせねばならない。無理やりにでも片方に絞ってもらうべきだったのかもしてないと、菜生は自分を責めた。

 

「折角何時間もかけてきてくれたし、上がって頂戴。声だけでも、しずくに聞かせてあげて?」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

部長である自分がと、菜生は母親と話していると。そう提案をしてくれたので、断る理由などあるはずもなく。かすみに微笑みかけると、ふたりで桜坂家の中にお邪魔させてもらうのだった。

 

まるで校内を歩いているのかと錯覚するような自分たちの家ではありえない長さの廊下を歩いて、3人はしずくの部屋の前にたどり着く。

 

「しずく、スクールアイドル同好会のお友達が来てくれたわよ」

 

「こんにちはしずくちゃん、ごめんね急に押しかけて」

 

「しず子大丈夫?」

 

扉越しに、しずくへの気持ちをそれぞれ口にする。だがなかなか扉の向こうからしずくの声は聞こえてこない。

 

「しずくちゃん?」

 

「ごめんなさい。今日は帰ってください」

 

「なんで!?菜生センパイもかすみんもしず子のこと心配で来たのに!」

 

そう告げるしずくに、思わずかすみは声を荒げるが。菜生は手を伸ばしてそれを制する。

 

「かすみちゃん、今日は帰ろっか?今はそっとしておいてあげた方がいいと思うんだ」

 

「センパイ…」

 

「じゃあまた明日、来れたら来てね?無理しなくていいから、いつまでもみんな待ってる」

 

あくまでしずくに罪悪感を抱かせないように、プレッシャーにならないように言葉を選んだのだがしずくがどう受け取ったかは分からない。

 

「しず子、私たちにできることがあったらいつで頼ってね?」

 

かすみもそう告げるが、もうドアの向こうから声が返ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

母親にも「本当にごめんなさい」と謝罪を受けた二人は、そのまましずくの家から離れていた。

 

「しず子、本当にどうしちゃったんだろう…」

 

「スランプ…とかかな?演劇とライブ。両方の準備を同時進行っていうのがかなり負担だったのかも。実は昨日の夜演劇部の部長さんに聞いたんだ。主役を他の子に変えようと思ってるって」

 

「そんな…」

 

「どういう人選だったのか。何を基準で演者を決めてるのかわからないけど、やっぱり無理させちゃってたんだなって思ったんだ。私もあんまりスクールアイドルの事まだわかってなくて、どういうのがやりたいかとか任せっきりだったし」

 

「センパイは部長として、かすみんたちの為に頑張ってるんです!だから、そんなこと言わないでください…」

 

「ありがと。でもさ、やっぱりまだまだ未熟だなって思うことはあるんだよね。それに、もう時間もないし…」

 

そう、初めてのライブまでもう時間は残り少ない。それでも残された期間で菜生は、みんなに何ができるか?それを知りたくてμ'sに会いに行ったというのに。その結果かえって周りに気を配れていなかったことになってしまったのだから。

 

「ま、ここで悩んだって仕方ないし。ご飯食べて帰んない?」

 

「そうですね、せっかくだから学校の近くにないお店行きましょうよ!」

 

暗くなった雰囲気を緩和しようと話を逸らした菜生だったが、察してくれたのかかすみも話に乗ってくれた。

 

『邪魔をしないでよ』

 

「かすみちゃん、何か言った?」

 

「いや、何も言ってないですけど…」

 

不意に聞こえた無邪気な声。だが周囲には菜生の他には隣を歩くかすみしかいない。

 

『しずくちゃんは今、苦しんでるんだ。キミたちの思いやりのつもりの行動が、信頼が彼女を苦しめてる』

 

「なに言って…」

 

『だから僕が壊してあげるんだ。代わりにね』

 

なぜ菜生にしか聞こえないのかはわからない。声の正体がそうしたのか、はたまたコスモスと一体化していることで常人に聞こえないものまで聞こえているのか。

 

だがそんなことはどうでもいい。しずくに危険が近づいていることだけは理解できたから。

 

視線を不意に空のクジラに向ける。クジラの身体から、カオスヘッダーに似た虹色の光の粒子が見えた気がした。

 

「かすみちゃん…」

 

「どうしましたセンパイ?」

 

「ごめん先に帰ってて!」

 

「センパイ!?」

 

そう言い残すと、かすみを置き去りにして菜生は今来た道を引き返して走る。手遅れにならないうちにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってしずくの家の前では、菜生が息を切らしながら出てきた母親に短く挨拶をすると今度はしずくの部屋の中に駆け込んだ。

 

道中で、彼女の家の犬だろうか。しずくの部屋の方を向いて何かを威嚇するように唸っているのが視界に写映った。

 

「しずくちゃん!」

 

「…せんぱい?」

 

しずくの部屋の中には異様な空気が漂っていた。まるで、これから邪悪な存在がこの場に顕現しようとしているかのような、そんな気配が。

 

 

「外に出よう?みんな心配してる。やっぱりこんな風に一人で抱え込んだっていい答えなんて―」

 

「邪魔しないでください」

 

「え?―」

 

「ジラークだけが私の味方なんです。あの子は言ってくれました。むりに誰かの理想を演じなくていいって、それが私を苦しめるなら壊してくれるって」

 

何かに憑かれたように、ちゃんと焦点のあっていない目でそう語る。

 

「ジラーク?それがあのクジラの名前?でもね、空飛ぶクジラは幻なんだ」

 

「解ってます…でも、もうあの子は降りてきます。壊す為に―」

 

カオスヘッダーと思われる光が彼女の身体を覆っていく。

 

「ダメだ!その光について行ったら戻れなくなる!!しずくちゃんッ!!」

 

菜生は咄嗟に手を伸ばすが、その手は届くことなく。しずくの体は光に包まれてその場から消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「菜生センパイったらいきなり走り出して~…おいて帰れるわけないじゃないですか」

 

かすみは菜生を追いかけようと走ったが、元の体力の違いもあって菜生を見失ってしまう。

 

頼れる先輩ではあるものの、時々何かを急に思い出したかのようにどこかへと飛び出してしまうのだけは何とかしてほしい。そう思わざるを得ないが追い付かなければ文句も言えない。

 

たまには何か言い返してもいいだろう。そんなことを考えていると、しずくの家の会った方から光が飛び出していくのが見えた。「もしかして…」とその光の後を追って駆け出した。嫌な感覚が背筋を伝うのを感じたのだ。

 

その光はすぐ近くに降り立つと中からしずくが現れた。

 

「しず子…?」

 

恐る恐る声をかけるが、その声が聞こえていないのかしずくは何も反応を示さず。ただ真上に漂うクジラを見つめる。そしてクジラはカオスヘッダーの光の粒子の集合体へと変貌すると、しずくの元へと急降下しそのまま彼女を取り込んで実態を得た。

 

「そんな…」

 

憤怒の表情をした女性のような顔つきのクジラの化け物―そう表現するしかないかのような巨大な異形、カオスジラークとして顕現したそれは口から破壊光弾を放ちかすみを攻撃した。

 

「キャアッ!?」

 

思わず屈みこみ顔を逸らすかすみ。だがいつになってもその光弾がかすみの身体を焼き尽くすことはなかった。

 

恐る恐る顔を上げると、かすみを覆いかぶさるようにして光弾を受け切ったのだ。そしてその光は次第に巨人の姿へと変わり、その全身を青く色付かせていく。

 

「ウルトラマンコスモス…」




次回『Touch The Fire』
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