これから少しずつ、前作のペースに戻していきたいですね。
初ライブをもう三日後に控えた日の事だった。
東京では謎の電波障害により大混乱となっていた。
その結果、普段チャットアプリで済ませられるはずの連絡すらも部室で直接会って済ませる必要があった。
「じゃあまた明日ね~」
そう言って解散した後の事だった。
「怪獣だよ、怪獣がいるんだ!」
愛は街のど真ん中でそう訴え続ける少年を見かけた。流石に冗談にしては笑えないと思い、その少年の方へと歩み寄る。
「こーら!ダメだぞそんなウソ言っちゃ」
「アンタ…俺が見えるのか?」
愛に気が付いた少年は、愛の方へ振り向くとそう問いかける。
「見えるって…やめてよそんな―」
「愛さん、どうしたの?」
そうしていると、天王寺璃奈に背後から声を掛けられ一度少年から視線を外す。
「聞いてよりなりーこの子ったら…あれ?」
「誰もいなかったと思うけど…」
少年の方を指差したつもりだったが、そこに人の姿は無く。まるで最初から誰もいなかったかのようだった。
「そんな…」
あの少年は璃奈のほうを見ている間にどこかへ行ってしまったのか?だが璃奈の様子を見ると璃奈にはあの少年は見えていなかったようだ。
果たして気のせいだったのだろうかと、愛は首を傾げることしかできなかった。
一方で誰も気が付いていないが、黒い悪魔のような姿をした異形がこの街一帯の電磁波を吸収。それによって街全体に電波障害が発生してしまっていたのだ。
「愛ちゃんの様子がおかしい?」
「うん、昨日から。まるでみんなと違うものが見えてるみたいな…」
翌日、練習中もどこか上の空だった愛の様子が気になった菜生だったが。それを聞く前に璃奈からそう伝えられた。
「まさか…幽霊?」
「なっ…ゆゆゆ幽霊!?」
菜生の言葉に取り乱したのは、以外にも美月だった。腕のケガで空手の練習にも参加できないからと、作曲の協力者である彼女も練習に参加してくれていたのだ。
「あれ?美月ちゃんこういうのダメだったっけ?」
「こ、怖くなんてねーよ。そもそもこれだけ科学の進んだ時代に住んでてなんでそんなオカルトなんて信じてないし」
明らかに無理をして強がる美月に「ごめんごめん」と謝りってから本題に戻る。
「じゃあ愛ちゃんが話してた相手、璃奈ちゃんは見えなかったんだ?」
「うん。あの時愛さんが話しかけてた方向、誰もいないように見えた」
「やめろよそんな怖いこと言うの!!」
璃奈が昨日の様子をそう表現すると、美月が思わず大声を出す。
「美月さん、やっぱり怖いんだ…」
「ふ~ん…美月ちゃん。相変わらずそういうとこは乙女なんだから」
「うっさいバカ菜生!」
呆れたように呟く璃奈のとなりで、相変わらずニヤニヤしている菜生に美月はそう嚙みついた。
「じょ…冗談だって~……」
「でもさ、璃奈ちゃんの勘違いの線もあるんでしょ?ゆ、幽霊じゃないならあたしも力になれるかも」
菜生を一度睨んでから、璃奈にそう語る美月に「でも、それでもやっぱり不自然」と返す璃奈を見て美月の顔色はやはり優れない。
「でもそれが原因なら、なんとか解決したげないと…本当かどうかも含めて、私がそれとなく探ってみようか」
そう言って菜生は、練習終了後に愛に「ちょっと寄り道して帰ろうよ」と声をかけたのだった。
「珍しいね、なっちから誘ってくれるの」
「そうだっけ?まぁ私はさ、あんまり愛ちゃんとこういう風にして遊んだことないなって思っただけ」
そう言って菜生は笑うと「どこ行く?」という会話になり、二人は街の中を歩くのだった。
「そうだ、この前で来たクレープのお店行こうよ!私大好きでさぁ」
「いいねぇ!あれ……」
そう菜生が提案したところで、愛も笑顔で応じてくれるがその表情はすぐに消え失せ。ある一点をみつめて立ち止まった。
「ん?どうしたの愛ちゃん?」
「あの子…」
そういって菜生の背後にあった建物の方へと駆け寄っていく。菜生もそのあとを追って振り返ると、そこは写真館だった。
「あのすいません。あの入り口の写真の子…」
「あぁ、高杉純君だよ。知り合いかい?」
写真館の店主は、愛が指差した店前に飾られていた写真に写っている中学生くらいの少年をそう呼んだ。
「高杉…純くん……」
「高杉さん家なら、そこの公園の向かいだよ」
「ありがとうございます!」
礼を言ってお辞儀をした愛は、そのまま老人が指差した方へと走っていった。
「なになに?どうしたのさ、愛ちゃ…あぁもう!」
店の外で愛が見ていた幼い男の子が写っていた写真を見ていた菜生が、店から出てきた愛を呼び止めようとするも無視して走り去る彼女に動揺するが、ひとまず写真館の店主に一礼してから「ちょっと待ってよ~!」と走り出した。
そして愛に追い付いたのは、『高杉』と記された表札のかかった一軒家だった。そして、もうその時にはインターホンを押しており、家の中から先ほどの写真の少年の母親と思わしき人物が顔をのぞかせた。
「どちら様ですか?」
「アタシ、純くんの知り合いなんですけど…今家にいますか?」
本当のことをいきなり話すのは憚れたのか、そう要件を伝えた愛に対して。母親は申し訳なさそうに首を横に振る。
「ごめんなさい、純は今―」
「うそ…」
母親から告げられた言葉に、愛と菜生は言葉を失った。
だがこうやって今の状況に慣れつつある人々だが、電波障害によって携帯電話等の機器が使用できない生活にもだ。だが、陰ではこの状況を解決すべく活動しているものもいる。
そしてこの電波障害の原因は、謎の電磁波の渦が上空に発生しているということが判明していた。事態の解決までは近い―のかもしれない。
もう日が沈みかけている中、公園のベンチに愛と菜生は座り込んでいた。
「まぁ…元気出してよ。きっと元気になるよ」
「そう…だといいよね…」
話によれば、純は件の電波障害が発生した日に信号機が消えてしまったことによって車と事故にあってしまい、現在病院で意識が戻らず眠ったままなのだという。
「あの子…もう出てこないのかな…?」
「え…?」
そう呟く愛の真意がわからず、菜生はただそう聞き返すだけだったが。愛はそれどころではなかったらしく、ひどく落ち込んでいるようだった。
「そ、そういえば純君だっけ?あの子とはどんな関係なの?」
「昨日さ、街中で言ってたんだ『怪獣がいる』って」
「昨日?でも…」
昨日この少年が街にいるはずがない。その時は、既に病院で寝たままになっているはずなのだから。
「うん…でも、確かに言葉を交わしたんだよ。だから、アタシは…」
恐らく、愛が会ったという少年が先の純なる少年ならやはり生霊のようなものなのだろう。この状況でその事実を疑うことなど菜生にできるはずもなかった。
「あ…」
ある一点をみた愛が突然立ち上がって走りだす。菜生は今日何度目かのそれを呼び留めようとしたが、愛が立ち上がった拍子に彼女のカバンが落下したのに気が付いてそれを拾い上げる。
「今までどこに行ってたの!?」
「うん、ちょっと散歩してた」
愛が見つけたのは純だった。愛に自分の姿が見えるのか?と言ったまま姿の見えなくなっていた少年。彼は本当に高杉純という人間なのか?疑問は尽きない。
「どうしてアタシにしか純君が見えないの?前に、会ったことあったりする?」
その言葉に、少年は愛の顔をまじまじと見た後すぐに顔を逸らしてしまった。
「そうだ。怪獣がいるって言ってたよね?それホントなの?」
一瞬気まずい空気が流れた後、愛ははっと思い出したかのようにそう目の前の少年に問いかけた。
「いつ天国にいけるんだろうって思ってた。でも、空にあんなヤツがいたなんて…」
「そんなこと言ったらダメだよ!お母さんも、早く元気になって欲しいって」
その言葉を聞いて、少年は逡巡した後。
「明日、アンタに渡したいものがあるんだ」
「…どこに行けばいい?」
「病室」
そう言って、少年はまたすぐに姿を消してしまった。
その日の夜の事だった。
「もうお母さん、携帯使えないんだからちゃんと朝言ってくれればいいのに…」
まだメールが使えると思っていた歩夢の母は、買い物を頼むのを忘れていた。そしてその買い物を、夜帰ってきてから食事の準備をしている間に買ってきてほしいと頼まれたのだ。
「あれは…菜生ちゃん?」
もう少しでマンションに帰り着くというところで、マンションの中に入っていく菜生を遠目に見つける。
最近は別々に帰ることも多く、遅くまで帰ってこないことも多々あると聞いている彼女が何をやっているのかはわからない。
それに加えて、怪獣や宇宙人が現れるとよく危険を顧みず行動するようにもなり、何かと危なっかしい。そんな菜生の本心がわからなかった。
『久しぶりだね、歩夢』
「あ、あなたは…」
そんな時、不意に背後から声を掛けられ歩夢は振り向く。そこにいたのは、かつて出会ったことのある懐かしい顔だった。
怪獣や宇宙人、そしてカオスヘッダー―
様々な陰謀が絡み合うこの地球で、次なる脅威が蠢いていた。
今回はここまでです。
愛にしか見えない少年、そして電波障害を引き起こしている犯人。そして歩夢に近づいた人物の正体とは―?
それではまた次回