そして今回、大分シャレにならんことになります…
カオスヘッダー・イブリースとの戦闘から数日が経過し、虹ヶ咲学園は二学期が始まっていた。
あれ以降、怪獣や宇宙人は現れていない。
しかし菜生は、虹ヶ咲学園の空手部の道場にいた。
「空手辞めて何年も経ってる菜生が、空手部主将のあたしに挑もうなんてな」
「いいじゃん美月ちゃん、本気でやろうよ」
「―負けても泣くなよ?」
インターハイが終わり、空手部は3年生が引退し美月が新しい主将となっていたが、菜生はその美月に勝負を挑んでいた。
「先輩、骨折治ったばかりなのに…」
「美月って前からあんなんなの、ケガの治りは早いし売られた勝負は全部受けちゃう」
ケガが治ったばかりで試合なんてと心配する声と、美月の性格にあきれる者もいた。だが全員菜生が勝負を挑んできたことに対して思っていることは同じだった。
「あの人、スクールアイドル同好会の人でしょ?」
「でも小学校のころ、主将のライバルだったって噂…」
「いつの話よ、いくらケガが治ってすぐだからって美月先輩が負けるなんてありえない!」
空手部の部員によっては、わざわざ部内最強の美月に挑むなんてなんて愚かなんだと思う者もいた。
そしてその直後、審判役の部員の「はじめ!!」の掛け声とともに二人の拳が交錯する。
「いてて…」
「センパイどうしたんですか?」
「いやぁ…ちょっと色々あってさ?」
衣替えもまだなので、半そでから腫れた腕に巻いた包帯を覗かせながら同好会に来た菜生をみてかすみが心配そうに声をかけてくる。
「もしかして…喧嘩ですか?ヤンキーですか!?」
「ち…違うから…大丈夫だから」
ヤンキーと喧嘩したと勘違いしたのか、はたまた菜生がヤンキーになったと勘違いしたのかまくしたてるように話しかけてくるかすみを何とかなだめる。
『強くなりたい』そう思って美月に挑んだ菜生だったが、結果は当然のように惨敗。普段コスモスと一体化して戦っている時と同じように身体が動くはずもなく、といったところだった。
その後の練習は、体操服の長袖のジャージを羽織ることで乗り切ったが、練習中かすみから心配する視線を感じて心苦しさも感じてしまうが菜生としては自分で望んで行ったことだった。
「なぁ、ちょっといい?」
放課後、美月に声をかけられた菜生は、屋上で二人で話していた。
「なんでいきなりあたしに、『空手で勝負しよう』なんて言ってきたんだ?」
「それは…その、力をつけたいと思ったから。今のわたしが張り合えるなんて思い上がりもいいとこだよね…ごめん」
フェンスに背中を預けて腕を組んでこちらを見る美月の表情は、夕日が逆行となって菜生からは見えなかった。美月が知りたかったのは、なんで小学校の時に空手を辞めた菜生が今いきなり自分に挑んできたかだった。
「そりゃそ~だ、インハイベスト8のあたしに菜生が勝てるわけない。でも、なんで力をつけたいんだ?」
「夏休みに、みんなが宇宙人に攫われて…わたしは何もできなかった。わたしが強かったら、皆を守れたかもしれな―」
「いい加減にしろよ!菜生が強かったら宇宙人から皆を守れる?バカも休み休み言え!!」
菜生の言葉を遮った美月の口から出た感情は、怒りだった。
「あたしたちはただの女子高生なんだよ?地球防衛軍でもなきゃ、ウルトラマンでもねぇ!菜生ひとりが強かったってどうしようもないんだよ!」
美月の言っていることは正しかった。仮に菜生が美月に今日勝っていたとしても、あの日菜生がコスモスの力無しにレイビーク星人を撃退し、皆を救うなんてことができるわけないのだから。
「歩夢が可哀そうだよ、最近菜生を心配して泣きそうになってるのよく見るよ」
「…美月ちゃん」
「力が強いってことが、『強さ』に直結はしないと思う。あたしだって…」
「ごめん…」
美月は続く言葉を言うことはなく、唇を噛んだ。
「まぁ、空手またやりたいなら歓迎するけど?菜生がしたいことは他にあるんでしょ?また明日な」
そう言って美月は階段へ続く扉を開けると、階段を下りて帰っていった。
(それでもわたしは、今は力が欲しい…!コスモスより強い敵だって現れた。わたしがもっと強かったら、コスモスの足を引っ張らないで済むんだ!!)
思い出すのは、先日のカオスヘッダー・イブリースとの闘い。
あの時も、コスモスと菜生の力だけでは絶対に勝てない戦いだった。それを自覚しているからこそ、菜生は力が欲しかった。
―わたしが弱いから、コスモスの足を引っ張ってるんじゃないか?
―わたしが強かったら、コスモスはもっと戦いで力を発揮できるんじゃないか?
そんな気持ちで一杯だった。
スクールアイドル同好会としての練習は日々続いているが、目標としていたライブがなくなり。何をしたらいいのか?それが見えなくなってしまっていた。
「わたしは…どうしたいんだろ…?」
「あれ?美月ちゃん?」
「歩夢じゃん、菜生なら屋上にいるよ」
菜生を探していた歩夢は、屋上に続く階段から降りてきた美月にそう告げられる。
「え?うっ…うん。ありがと…」
「じゃああたしゃ帰るから。菜生のことよろしくな~!」
そう言って歩夢の言葉を待つことなく美月は階段を駆け下りていった。
よろしくってどういうことだろう?と思いながら屋上へ出るための扉を開けると、菜生が手すりに腕を置いて夕日を眺めていた。
「菜生ちゃん?」
「ん?あぁ、歩夢…ごめん一緒に帰ろうって言ったのに探させちゃったね」
「美月ちゃんと大事なお話してたんでしょ?」
「まぁ…ね」
ちょっとはっきりしない答え方になってしまったが、歩夢は菜生の様子を見て気を使ってくれたのかそれ以上は聞いてこなかった。
「もう暗くなっちゃうし帰ろう?」
「…うん、帰ろ!!」
今日は幼馴染のこの優しさに甘えることにした。
家に帰りつくまで菜生は、これ以上心配させたくないという気持ちから自身の本心に蓋をした。
マンションに帰りつき、隣の部屋に住む歩夢と別れた後の事だった。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
「あれ?今夜はお休みなんだっけ?」
「最近忙しかったから、急遽休みにしてくれたのよ」
菜生は夏休みだったが、その間たくさんの出来事があった。そのせいでしのぶはずっと仕事に追われる生活をしていた。今日はその分で休みにしてもらえたらしい。
「ねぇ菜生」
「何?」
「学校はどう?成績とかそういうのは心配してないけれど、二年生でいきなり部活動を始めていきなり部長でしょ?どんな感じかなって」
「う~ん…やりがいは感じてるかな?ただ…」
「ただ?」
「ほら、最近の怪獣だとか宇宙人だとかでスクールアイドルフェスティバルが中止になっちゃったから…」
スクールアイドルをピンポイントで狙う事件まで起きてしまった以上、仕方のないこととは思っていてもそれでも納得しきれない気持ちを菜生は打ち明けた。
「せっかくみんなでいいステージにしよう。頑張ろう!って夏合宿もやったのになって」
「そう…」
それは市民を守る立場にいるしのぶにとっても、重く受け止めなければならないものだった。
「ごめんお母さん、お風呂入ってくるね」
気まずさを感じてしまった菜生は、そう言って脱衣所の方へと逃げるように移動するのだった。
(やっちゃった~…あんなこと言ったらそりゃ気まずい雰囲気になっちゃうよ、どうしよ久しぶりに家でお母さんといるのに…)
「わたしにもっと力があれば、全部解決できるのかな?」
菜生は湯船に使って一人そんなことを考えていた。
「了解!私もすぐ向かう!」
脱衣所で突然しのぶの声がした。と思ったらドアが開いてしのぶが顔を覗かせる。
「菜生、悪いけどお母さん今から出るから。ご飯はラップしてあるから早めに食べてね」
「怪獣?」
そう菜生に問われると、しのぶは本当のことを言うべきか少し悩むような表情を見せたがすぐに頷いた。
「エリガルが出たらしいの。ここからは遠く離れてるし無人の地域なんだけどね、警戒はしないとだから」
そう言って浴室のドアを閉めるとしのぶの足音が遠ざかっていった。
「エリガルって確か―」
しのぶが口にした怪獣の名前に、菜生は聞き覚えがあった。
―毒ガス怪獣エリガル
何年か前にSRCが捕獲を中断し、討伐した怪獣だ。
捕獲を中断した理由が、その名の通りエリガルが毒ガスを噴出する怪獣であるからだった。当初は捕獲し、人のいない地域まで輸送するつもりであったのだが、捕獲に手こずった結果町に近づいてしまい。エリガル自体は大人しい怪獣だ。しかし自己防衛のために毒ガスを放出する性質故に、人命を最優先として倒したのだ。
今回、そのエリガルの同種の出現が確認されたことで警戒態勢に入るためにしのぶは向かった。
翌朝になっても、しのぶは帰ってきていなかった。
朝食をとりながら付けたテレビのニュースでは、エリガルに関係するニュースは全くなかった。
まだ一般には公開されていない情報だったのだろう。
普段通り、菜生を呼びにきた歩夢と一緒に学校に登校しそれぞれのクラスに向かう。
そして放課後になればいつも通りに同好会の練習がある。
その日の菜生はそう思っていた。授業を受けている最中、菜生はエリガルの事は考えないようにしていた。
きっと無人の地域から離れない。こんな街中に現れるはずもない。菜生はそう思うことにして―
「菜生さん、今から部室?」
「やっほ~。璃奈ちゃんも今から?」
放課後となり、部室に向かおうとすると丁度璃奈と出会った。
璃奈とは学年が違うので、こうして廊下で出会うことは意外と少ない。
珍しく愛は一緒ではなかったので、二人で部室に向かうことにした。
「璃奈ちゃんってさ、ロボットとか興味ある?私の友達にいるんだよね、ロボット!」
「ロボットの友達…?」
最近話かけられることが多くて、自分からあまり話題を振らなくなっていた菜生がったが、璃奈も他のメンバーと比べるとどんどん積極的に話しかけてくるタイプではない。
何か興味を持ちそうな話題はないかなと思って出た言葉が『ロボットの友達』だった。クレバーゴンの事なのだが、今は訳があり菜生の家にはいない。
「凄いんだよ?飛べるしおしゃべりできるし」
「気になる。私もあってみたい」
「今度紹介するよ。絶対びっくりすると思うんだよね」
久しぶりにゴンにも会いたいな。なんて考えていると、突然の地響きで校舎が揺れる。
突然の地震に驚く声があちこちで上がり、生徒は菜生たちも含めて視界に移る範囲ではみんな屈んでいた。暫くして揺れが収まると、その直後に避難警報が鳴り響く。
「この警報ってまさか…」
校舎の窓から見えたのは、地中から大量の土砂やアスファルトをまき散らしながら飛び出した巨大な黒い姿。
二足歩行になったツチブタのような顔立ちで、両肩には筒状の器官がありそれは外敵から身を守るための毒ガスを噴出するためのもの。
「うそ…こんな…こんな街中で…なんで出てきちゃったの…」
「菜生さん…?」
菜生はその怪獣をみた瞬間青ざめた。
この怪獣を知っている。実際に目にするのは初めてだが、たとえどれだけ普段は大人しいとされていても絶対に街中に出てきてはいけない怪獣―
毒ガス怪獣エリガルは、東京に出現した―
次回「青と赤の狭間で」
2025/7/27追記:璃奈ちゃんと菜生、科は一緒でした。そこを編集しました