0話 トキメキとの出会い
初めてウルトラマンコスモスと出会ってから、6年近い月日が流れた。
人類で初めてウルトラマンを見た少女、高田菜生は虹ヶ咲学園の二年生となっていた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いいのいいの、私も欲しいものあったし」
ある休日の昼下がり、隣を歩く幼馴染の上原歩夢にそう返事をする。秋葉原のUTX前を歩いていた2人は、一緒に出掛けていた帰りだった。
「おそろいのパスケースも買えたし、明日から使おうね」
「そうだね、かわいいのあってよかった~」
この6年で社会は大きな変化があった。呑龍は無事に元の公園へと戻されたが、この地球には怪獣という名で区分された巨大生物たちが多く生息していることが明らかになり。その生物たちが皆、人類に敵意を持っている訳ではない事も解り。
ただ人間の都合で駆除するのではなく、保護や共存といった道が模索されるようになっていった。
菜生自身も背はあまり伸びず、小学校の時は歩夢より少し高かった身長も逆転し。髪も伸ばしツインテールに纏めており、年相応にかわいらしい容姿へと成長を遂げていた。
『謎の巨大生物現る?新種の怪獣か?SRCが調査中』
などというニュースが、街角の巨大スクリーンに映し出されているのが見えた。SRCというのは、元々民間の怪獣や宇宙人の調査、研究及び救援や保護を目的とした組織だ。
だが6年前のバルタン星人の一件を経て、国連によって承認された国際的な組織の事を指している。もっぱら、怪獣の保護や捜索はSRCで行われているが防衛軍はそれが不可能と断定した場合、防衛軍によって攻撃・討伐されてしまう事も多かった。
そんなニュースを観て、菜生の表情から先程まで歩夢に向けていた笑みが消える。
「菜生ちゃん?」
そんな菜生の様子に気がついた歩夢が、菜生の顔を覗き込んで首を傾げると菜生はすぐに笑顔で取り繕おうとする。
「え?あぁ何でもない、何でも。それよりさ、この後どうする?」
「ちょっと疲れたから、ジュース買って休んでもいいかな?」
「わかった、何が良い?買ってくるよ」
そう言って菜生は近くのベンチに荷物を置くと歩夢に問いかける。
「うーん…」
そう言って歩夢が考えていると、少し離れた場所の大型モニターの近くに人だかりができているのに気がつく。
「どうしたんだろ?」
「行ってみる?」
そう言って2人は駆け出すと、人だかりの方へと向かって行く。そしてその中で、大型モニターに映し出されていたものを目の当たりにする。
それが高田菜生の、スクールアイドルとの出会いだった。
『μ's』と『Aqours』。それが、スクリーンに映し出された18人の少女たちの名前だった。
そしてその頃、宇宙の果てから地球へと脅威が迫ってきていることなど、この時の私は夢にも思っていなかったんだ。
その果てに待っていた沢山の出会いと別れ、それが私の運命を大きく変えてしまうだなんて。
「すごい…これがスクールアイドル…」
モニターに映し出されたμ'sとAqoursの合同ライブに、菜生は圧倒された。
元々、音楽が好きだったこともあり。小学校卒業時、とある理由で空手をやめてからピアノをやっていて、音楽ならどんな国や星の人とも解りあえると信じていた。
だがそんな菜生は今日、スクールアイドルを初めて観て感じたのだ。これだけ多くの人を歌と踊りで惹きつける事の出来るスクールアイドルの凄さを。そしてそれは同時に、彼女にスクールアイドルへの興味を抱かせたのだった。
「菜生ちゃん、すっかりスクールアイドルに夢中だね」
帰りの電車の中、ずっとスマホを眺めていた菜生に歩夢がそう声をかける。
「うん、だって凄かったんだもん。虹ヶ咲にもスクールアイドル部があったら、私絶対応援するんだけどなぁ」
「もしかしたらあるかもよ?ウチの学校、色んな部活があるし」
「そうだっけ?」
歩夢の言う通り、虹ヶ咲学園は都内でも有数の巨大な学校で生徒数もかなり多く、自由な校風もあってかかなりの数の部活動が存在するのだ。
「菜生ちゃん、あんまり部活とか興味なさそうだったもんね」
そう歩夢に指摘されて、菜生は苦笑いを浮かべる。
「そ、そうだったかも?」
「でも菜生ちゃん、ウルトラマンとの約束大事にしてたもんね。宇宙飛行士の夢、叶えるんだって」
「うん、『夢を失わない』。それが私とコスモスの約束だから」
そう言って菜生は歩夢に笑いかける。かつてウルトラマンコスモスと交わした約束、それが菜生の往く道を照らしてくれていた。
「でも、今はスクールアイドルをもっと近くで見てみたい、応援してみたいんだ」
そう言って菜生は胸元に拳を当てる。その中には、かつてウルトラマンコスモスから貰った輝石を紐でくくって作ったネックレスが上着で周囲からは見えないが存在していた。
「スクールアイドル部があるか、来週一緒に探しに行く?」
そう歩夢に問いかけられるが菜生は首を横に振る。
「いや、一人で行ってみるよ。あったら歩夢にも教えるね」
「うん、楽しみにしてる」
歩夢は普通科、菜生は情報処理学科なのでクラスが違うのだ。それもあって菜生は、翌週の放課後一人でスクールアイドル部が存在しないか部室棟に行ってみることにした。
一方時を同じくして。地球から遥か遠く離れた惑星で、一人の巨人が佇んでいた。
元々地球の様に緑豊かだったこの惑星にはその頃の面影は残っておらず、荒れ果てた大地には草一本生えていない。まさに死の惑星となっていた。
そしてこの星をこのような死の惑星へと変貌させた元凶となった存在は、その惑星を離れると別の惑星を求めて移動を開始した。
巨人はこの惑星を守れなかった悔しさから拳を握りしめると、元凶を追うべく飛び立つ。
銀色の身体に紫のラインの奔るその巨人は、果敢にもその元凶たる虹色の光へと肉迫するが、逆に反撃を受け弾き飛ばされてしまう。
宇宙を漂う小惑星にその身体を叩き付けられた巨人は、先の惑星での戦いでエネルギーを消耗していた事もあり失速。そのまま敵を取り逃がしてしまう。
『クッ…このままでは、地球が危ない』
巨人はその身体を輝かせると、光速を遥かに超えたスピードで地球を目指すのだった。
そしてその二つの光が、地球へと向かっていた。
その夜、人々は美しい不思議な光を見た。
虹色に輝く光の粒子の集合体は無数の円を夜空に描いていた。そしてその光から。未知のエネルギー反応が検出されていた。
だがその光を現地で直接見ている人々は、そんなことを知るはずもなくその光に見とれていた。だが未知のエネルギーを秘めた光は、その粒子一つ一つが生きており、驚異的な勢いで増幅したそのエネルギーによって―
出現した街を消し飛ばしてしまうのだった―
本格的に本編が始まるのは次回からとなります。
また次回、お会いしましょう。