Reincarnation of Belphegor 作:みりえった
代理かつ跡継ぎみたいなもんです。上手くできるかは分かりません。続くかどうかも反応次第です。
※一部修正しました。
すぐに肉体関係に走ってしまうのは、一概にそうした方が恐ろしく楽だからだろう。
1番好きな食べ物は何かと聞かれると分からないけれど、1番慣れている味は何かと聞かれればそれは間違いなく血液だと答えられる。
別に他人のものを啜ったからだとか自傷癖からなる倒錯行為だとか、そういったものでは断じてなく、それは単に頻繁に起こる口内出血の結果として口腔内を満たす独特の風味が強く味覚細胞と脳ににこびりついていただけだと思う。
幼少期、父親は何かとすぐに自分のことを殴ってきた。
そして、母親はそんな自分のことを助けてはくれなかった。
何が原因で何が引き金となったのかは分からない。けれど当時、所謂児童虐待というものを小さく脆弱な身で受けた自分は後に、通常の人の子と異なる成長を遂げたとしても何ら不思議はなかったのだろうと、今になって思う。
つまり先のように、聞く人が聞けば憤慨するような思考に至ったのには何か特別な理由がある訳では無い。単純に、育った環境が悪いのだ。
面倒臭い会話や付き合い、コミュニュケーションが嫌いだった。
友人はいても親友と呼べる人間はおらず、学校や職場でも他人とは上っ面だけの薄くて細い付き合いをずっと続けていた。
そんな零細な人間関係を保つのは至極簡単だったけれど、やはりと言うか、その絶対数はなかなか増えなかったし、また歳を重ねるにつれ徐々に減っていった。
ただ親から貰った遺伝子が優秀だったのか、基本黙っていただけの性格にも関わらず異性に告白されることは少なくなかった。
初めては小学校高学年の頃だった。相手は高校生くらいの女子生徒だっただろうか。
今になっては朧気な記憶の断片に過ぎない、曖昧な欠片。もう殆ど具体的なことは忘れてしまった。
告白をされた後、自分が何と答えたのかは覚えていない。覚えているのはその後彼女の家の彼女の部屋に連れられたことくらいなもので。
高学年である故にもう既に学校などで知らない人間には着いていくな云々などは言われていたけれど、当時から既に放任されていたことを半ば感じ取っていた自分としては、それでどうなろうと他人に特に迷惑も掛けることにはならないであろうと思っていた。
例えそこで服を剥がされて、覆いかぶされて、淫らな行為に及ぶことになってしまったとしても──だ。
ろくな知識もなかった当時は彼女が少し怖かったというくらいなものだった。未知の恐怖だった。その頃はまだそんな人間らしい思考も出来ていたのだと感心する。
ただしかし、いつも家庭内で受ける暴力行為と比べ遥かに痛みも嫌悪感もなかったので、分からない行為をされるがままに受け入れた。
……ん? ……ああ、そうかなるほど。
ここまで懐旧も懐古もノスタルジアもない独りよがりな回想を展開していたが、ここでひとつ、非常に今更な結論へと至った。
元々この語りは何だっだろうか。確か客観的に見て本来異常として取られる思想になってしまったことに対しての、経緯の説明の様なモノだった気がしないでもない。
客観視して決して普通ではない幼少期。そして自身の容貌──。
であるならば、そうだ。自分の今の現状も、全てここが起点となって始まったのかもしれない。……いや、もしかすると、生まれたときから既に“性質”が顕現していた可能性もないとは言いきれない。
16年前にこの世に産まれ落ちて……その時点で自分の才能とも呼べるそれは既に胎動を始めていたのだろうか。
それが普通ではない環境を温床とし、淡々と育ってきてしまって今へと至る。
少なくとも確実に言えるのは、初めて行った彼女との行為の時は既に、
目を覚ますと、そこには知らない天井が広がっていた。
……というような、そんなある種SFじみたな書き出しで物語を始めることが出来れば、自分の気分ももう少しマシなものになっていたのかもしれない。
怠さ極まりない微睡みから抜けた先にあった光景は、見慣れた自室の灰色の天井だった。
最寄り駅から徒歩10分の、築3年家賃7万のアパートマンション。
間違いなく自分が借家として利用している施設だった。なんの面白みもない。あるのは濃い疲労感だけだ。
比較的新しいそのアパートはどの部屋の壁紙と天井も白い筈で、しかし薄暗い視界の中では家具やインテリア含め、どれも境界線があるだけのただ1色で染め上げられていた。
段々と覚醒してくる意識の中で凝り固まっている首を動かすと、カーテンの隙間から僅かに光が差していているのが見える。淡く弱い、白い光だった。それらを加味するに今はどうやら早朝の時刻らしい。
「……うん……」
寝惚け眼を擦ろうとすると、不意に上擦った高い声が聞こえてきた。
それは自分の視界のすぐ下……横になっている体勢なので、正確には胸や足の方になるが。
柔らかな重みが倦怠感の酷い身体にのしかかっている。
他にもべったりと湿り気のあるシーツと身体、枕元に転がる開封済みの小さく薄い正方形のプラスチックの梱包、そして乱雑に投げ捨てられた衣服の類……。
「…………」
それが視界に入ると、思わずため息が漏れてしまう。少し面倒なことになったかもしれない。
正直これだけで何があったのかは一目瞭然ではあるが、問題はそこでは無い。
いったい誰と寝たんだけっか……。
アルコール飲料を摂取出来る年齢にはまだなっていない筈ではあるのだけど。しかし昨夜のことに至っては何も思い出すことが出来ない。
些細なことに拘泥するのはしょうもないことであるし、こういう経験も初めてではないけれど……それにしても一切の記憶が無いのはやはり問題ではないだろうか。
「……おはよ」
「んー……、んぁ?」
身体を重ねている声の主を探るべく布団を捲り、軽く声をかける。するとその“少女”は自分よりもさらに寝ぼけたような声を返してきた。
少女をよく観察すると肩口で切りそろえられた艶のある黒髪に、左前髪付近が紅く染められている。身体は程よく括れていて、女子特有の身体付きが重力に従って否応なく此方に押し付けられている。
「なんだ、キミか」
「……なんだって何? 誰と勘違いしてたわけ?」
ここまで来ればこの少女が誰なのか分かる。相変わらずどうしているのかは分からないが。
「いやそうじゃなくて、またか思ってね」
「なに、不満なの?」
「こんなに泊まっていると“父さん”に怒られるんじゃないの」
「“弟”の面倒をみるのも役目でしょ」
「口実じゃない? もうそんな歳じゃないんだから」
彼女は自分の上で下着姿の身体をゆっくりと起こしながらその紅い瞳で此方を見下ろす。
相変わらず棘のあるぶっきらぼうな口調とやや素直ではない物言いはあの時からなにひとつ変わってはいない。
「だいたい昨日の今日で『なんだ、キミか』ってセリフが出るのはおかしいでしょ」
「あいにく昨夜のことはよく覚えてなくてね。その上やることやって同衾してるもんだから、びっくりもするもんだ」
「覚えてないって……やっぱおかしいでしょ」
「別に今に始まったことではないじゃない?」
「……ま、確かにね」
それは
“美竹蘭”は呆れたように言うと『あんたってほんとに変だよね』と続けてごちり、身体を再び重ね出す。
2度寝をする気はなかったんだけど……。
蘭が来ているということは今日は休日の筈ではある。けれども徒に時間を消費することは正直避けたい。
「けど、それはそれでムカつく」
しかし単純にそういう訳にもいかなくて。
シャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、蕩けるような柔らかな感触が身体を包む。彼女は首すじに顔を埋め、すぐ後に痺れるような鈍い痛みが走る。
蘭の甘く囁かではあるが、しかし確固たる抵抗に、自分の押し返して起き上がろうとする気力を削いでくる。
再びため息が漏れた。これではどちらが下姉弟なのか分からない。
身体や知識、そして欲求不満の解消の仕方、それらが歳をとるにつれて相応のものに変化しようとも、それを行う心理状態は変わらない。
そのひとつひとつの行動の根源にこびりつくガキみたいなところはいつまで経っても変わりはしないのだ。
「あんたみたいなサイテー男相手にすんの、あたし以外にいんの?」
「……そうだね。確かに、そうだったね」
しかしそれを目的とさせてしまっているのは自分という人間のせいでもあると、半ば自覚はしているので。
それに幼少期の環境が環境で常人の感性を持ち合わせているとは到底言えないけれど、此方としても悦楽と快楽を否定する程人間をやめてはいない。
まあ、此方の意見を顧みないのは若干どうかと思うけれど……。
しかしこれも自業自得なのだと、運が悪かったのだと、そうあらため納得する事にする。
自身の才能ともいえる悪魔性と、荒んだ育成環境が結びついてしまった運の悪さを、今更ながらに深く呪った。
読了感謝です。