Reincarnation of Belphegor   作:みりえった

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地の文が多めなのと内容が内容なのでかなり読む人を選ぶかもしれませんね。


姉と弟のスキンシップ

 

 

 あたしが美竹 明星という男を語るにおいて、最初に話題にすることと言えばまずはその容姿だろう。

 

 文武共に有名な都内の名門校、繚桜(りょうおう)学園に通う彼はその秀逸な生徒達の中でも異質の存在であった。

 身長はあまり高くない華奢な容貌で、保健室の常連。深い中の友人は作らず飄々とした態度は輪を重んじるスポーツ推薦組の連中からは避けられていた。

 その独特な雰囲気や学費免除の特待生で入学したこともさることながら、あるひとつの身体的特徴故に、校内ではそれなりに名前が知れ渡っていた。

 

 左側頭部を編み込んでいる男としては少し長めの暗い茶髪。そして目鼻整った端正な顔立ちに、透き通るような繊細な肌。

 明星本人は決して喋るタイプでも表情豊かなタイプでもないが、そのどこか柔らかな印象と女性的な顔立ちは紅顔の美少年という言葉が相応しい。

 しかしここまで述べた特徴ならば学年に何人かいるような程度である。それだけなら特段話題として上げることはない。本題は、ここからだ。

 

 彼の容姿で1番に目を引く特徴は、なんと言ってもその瞳だった。

 

 金色の眼。人工物のようなそれは見たもの全ての記憶に残るだろう。

 明けの明星のように輝く綺麗な瞳。まるで宝石だった。

 美しく妖艶で、そして怪しい。

 それは古い時代においてその希少価値故にあらゆる者を狂気に陥れた、そんな概念的な意味合いをも含む“宝石”のようで……。

 

 数年前にうちに引き取られ、彼を初めて見た時はその作り物ような非現実的さに恐怖した。

 人のものではないと思った。けれど、だからこそ惹かれたのかもしれない。

 気づけばあたしは彼のことを気にかけていた。

 家族だからじゃない。明星と近くで接するうちに、彼個人に情欲的な特別な感情を抱いていった。

 それは時が経つにつれて次第に膨れ上がり、とうとう一線を越えてしまうほどだった。血の繋がってない養子だからといっても、明らかに異常だった。

 

 だけど、そうなってしまって生み出された結果は、あたしが悪いんじゃない。

 

 全部、明星が悪いんだ。そう胸の中でずっと言い訳をして、今も彼と身体を重ねている。

 胸中にある真っ赤な愛しさとドス黒い独占欲。

 割合は……そう、真っ黒の中の一部にそっと赤が入ってるって感じ。そう考えると少し可笑しい。奇しくもあたしを象徴する要素と似てるかも。

 

 古い時代に富を欲した人間のように。“現代の宝石“として、彼を独占したいと感じている。

 

 義理の姉弟でそんなこと絶対普通じゃないけれど。でもそれは希少価値があるからなどという理由では決してない。

 あたしが彼を求めるのには少なからずの愛欲がある。

 

 

 

 

 あたしはそれに、違和感なんて覚えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーた勉強してるんだ」

「またってほど勉強はしてないけどね。息抜きだよ息抜き」

 

 

 そう言いながら明星は筆記用具を手に取ると、鼻歌を歌いながらノートを開いた。絶対嘘だ。

 あたしはそんな明星に呆れため息を漏らす。勉強熱心なのは褒められたことであるが、しかし姉とのコミュニケーションの息抜きに勉強とはどういうことなのか。少々複雑な気分である。

 明星は美竹家(うち)に入ってから、いの一番に勉学に性を出すようになった。第一印象とは違うそのイメージに、あたしは目を丸くした。

 とても同じ歳だとは思えなかった。当時からあたしじゃ理解出来ない数式や科学理論を次々にノートへ書き写していたのを覚えている。

 

 彼に何故かと聞くと、将来父さんと母さんに恩返しがしたいからだと言う。

 

 両親が聞くと気にしないでいいと言いそうだけれど、本人はやはり意識せざるを得ないのだろうか。それは明星だけにしか分からない心理なのかもしれない。

 

 

「……別に成績は問題ないんでしょ?」

「むしろ教師から嫌味言われるくらいには絶好調」

「じゃあいいじゃん。今しなくても」

「油断大敵って言葉があるだろう?」

「わざわざあたしが来てるのに勉強する事ないでしょってことを言ってんの」

 

 

 折角遠くから足を運んだのに。これでは骨折り損だ。

 確かに明星は念願叶って特待生を勝ち取り、学費免除の権利を手に入れた。しかしその際にある問題がひとつ浮上した。

 

 学校が──家から遠すぎた。勿論電車等を利用すれば行けなくはないが、しかしとても登校に費やすような距離と労力ではない。

 

 そこで仕方なく家族がとった策は下宿先をとる事だった。自然な結論だった。

 元々明星の学費として取っていた費用があり、それに比べれば下宿先の家賃など安いもの。それに明星が努力をして勝ち取った特待生の権利を尊重したいと、父さんも強く勧めた。

 

 

「そんなこと言うけどね、蘭はかなり頻繁に来てるじゃない。だから休日に勉強しようとするとバッティングするってだけでしょ」

「でもさぁ……」

「良ければ教えてあげるけど?」

「て、テストのときに……お願い」

 

 

 痛いところを突かれて思わず目を逸らしてしまう。正直あたしの成績はかなりまずいので、強くは言い返せない。

 明星はそんなあたしに、やれやれと呆れたように莞爾と笑い、その後、何かを思い出したように口を開いた。

 

 

「そういえばあの子たちはどうなんだ」

「あの子たち?」

「ほら、モカやつぐみたち。一緒にバンドやってるんだろう。どうなんだい?」

「……なんでそんなこと聞くの?」

「いやぁ最近会ってないから気になって。息災ならいいんだけどね──って、いてて」

 

 

 何か上機嫌に話す彼の首すじに、かぷりと噛み付いた。肩を押さえて、後ろから。抱きつくように拘束する。

 仲のいい幼なじみとはいえ、明星の口からその名前が出てくるのはモヤモヤする。だいたい誰だろうが一緒に寝た翌日に平気でほかの女の名前を出すとは、明星はデリカシーがない。おしおきだ。

 

 

「いたい、いたいって。なんで? ちょっと聞いただけじゃない?」

「なんかムカつく」

「そんな理由なの? いたた……」

「……反省した?」

「……夏場はやめてよね。夏服着れなくなる」

「分かってる。見えないとこね」

「そうじゃなくて……」

「明星が悪いことしなきゃいいんだよ」

 

 

 悪いことってなに……? と明星は納得のいかないような顔だったけど、気にしない。

 

 

「だめ。今日は勉強むり」

「あれ、やめちゃうの?」

「やっぱ気分じゃないかも」

「へぇ……優等生も気分で勉強するんだ」

「そんなもんだよ。……あと、別に優等生ってわけでもないしね」

 

 

 明星はぽつりと呟き、首を抑えて骨を鳴らす。

 

 

「それに背中が筋肉痛でつらいし」

「筋肉痛? あたしが上だったのに?」

「そうじゃなくて。部活でね」

「部活……ああ、弓道だっけ?」

 

 

 そういえばそうだったか。明星は意外にも、弓道部所属なのだ。

 部活動にも力を入れている繚桜学園の中で、希少な初心者の多い部活動……それが弓道だった。

 スポーツ未経験の明星にはそれは都合がよく、入学後間もなく弓道部に入部した。

 華道の家の子供が弓道をする。その事実に母さんは可笑しそうに笑っていたが、父さんは少し苦笑いを浮かべていた。

 好きなことをやらせてみたいという気持ちが強いのだとは思う。しかし大方あたしと共に家業を継いで欲しいという考えもあり、ジレンマに苛まれているのもまあ事実なのだろう。実際に実家に帰ってきた時には長い時間華道の心得を仕込んでいる。

 

 

「そ。1週間前に他校と練習試合というか、合同練習があってさ」

「へぇ。どこ?」

「花咲川。あそこそこそこ強いらしいから」

「……花咲川?」

「知ってる子もいるんじゃない?」

「まあ、何人かはいるね……」

 

 

 あたしも明星が弓を射ることは、なんら不満も反対もない。

 ただ今しがたさらりと聞こえてきた単語を聞き流すことは出来ないが。

 

 

「そこで向こうの副部長と一緒に練習したんだけどさ、その人が教えてくれた練習法を最近試してるわけ」

「ふーん」

「そしたら安定するようにはなったんだけど、まだ慣れてないから筋肉痛がしてて」

「へー」

「けどまあその人のおかげで当たるようになってきたんだけどね」

「…………」

「だから最近は部長からも褒められて……いたいいたい」

 

 

 再び背後から、今度は脚も胴体に巻き付けてさらに密着して拘束する。ショートパンツなのでやりやすいことこの上ない。

 さすがにこの体勢だと後から噛むのは厳しいので、抱きつきながら頬をつねる攻撃を繰り出す。

 

 

「ちょっと、なんれれすか。こんかいはなにもおちろはないれしょーらぁ」

 

 

 頬を抓られて引っ張れている当人は、濁点が発音出来ない状態で不満げに文句を垂れる。確かに落ち度はないかもしれないが、同時に甲斐性もないのでおしおきは続行だ。

 まったくこの弟は……本当に学習しない。頭はいいくせに、なにも分かってない。

 

 

「……花咲川の弓道部の副部長ってさ、淡い緑色の長い髪の人だったりしないよね?」

「よくしってますね」

「…………」

「いたたたたたたたた」

 

 

 ほーら悪い予想が当たった。そんなことだろうと思ってた。あたしの感は当たって欲しくない時だけ当たるんだ。

 紗夜さん……確かに明星が好みそうなタイプの人である。それに合同練習って、これからもあるのだろうか……。

 

 

「ほんっと……明星は怒られないとわかんないわけ……?」

「らからおこられるようないわれはないとおもうんらけろ」

「……いいよ分かった。いじめてあげるから」

「いやしぇったいなにもわかってないれしょ」

 

 

 やばい。ぐにぐにしてると楽しくなってきた。ふつふつと嗜虐心も湧いてきて、もうどうにかなってしまうかもしれない。

 そっと顔を覗くと彼の半眼に歪めた可愛らしい表情が目に入る。

 ああ、やばい。ほんとにやばい……。

 あたしの行動で明星を困らせているのだと分かると、ぞくぞくと身体中を電流のようなものが流れるのを感じる。体温が高くなっていく。

 身体が、いやらしく濡れていく。

 

 でも──それでも、これも悪いのは明星なのだ……。

 

 あたしが言っても聞かない、こいつがいけないのだ。放っておくとまた絶対よくないことを起こす。

 

 

「あたし脚には自信あるから」

「ふぇぇ……」

 

 

 だから、あたしがなんとかしないといけないんだ。

 腕にぎゅっと力を入れて、回していた脚を器用に使い、扇情的に明星を責める。痺れるような倒錯した思惑と歪な独占欲があたしの内側でどろどろ渦巻き、思考を麻痺させる。

 

 あたし以外に捕まらないように。

 あたし以外じゃイけないように。

 

 多少強引な手を使っても離さない。

 だって明星はあたしの弟なのだから。

 面倒みれるのは、あたしだけだから。

 

 

「明星……」

 

 

 凄惨な過去を持つこいつを分かって上げられるのは、あたしだけだから。

 

 

 

 

 こいつにはあたし以外、いらないの。

 

 

 

 

 





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