Reincarnation of Belphegor   作:みりえった

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このナンバリング、長くなる気がしてきましたね。
次話から結構動きます。


ベルフェゴールの救済③

 

 

「で、のこのこ帰ってきたと」

「その言い分はちょっと語弊がありますね」

 

 

 開口一番。開始早々、そんな嫌味をいただいた。

 予め連絡を貰っていたオープン形式のカフェテリアで、約2時間ぶりに再開した先輩は呆れたような苦笑いを表情に貼り付けていた。

 恐らくはあんなにも颯爽と出ていった後輩が移動距離含め、たった数時間というあまりに早い時間で帰ってきたからなのだろうが。

 そんな後輩……まあ自分だが。俺はじとりと送られてくる壱馬さんの視線から僅かに目を逸らしつつ、彼の対面に腰をかける。

 いやまあ確かにこの人の言ってることは間違ってはないけれど。

 しかし此方にも言い分はある。さすがに女子校の生徒と問題を起こす訳にもいかないだろう。あそこで無理に突っ張っていればここへ帰ってくることすら出来ないかもしれなかったのだから。

 

 

「まあでも手ぶらってわけでもないんですよ。行ってみてちょっと気になったこととかあったんで」

「ほんとか〜?」

 

 

 愛想笑いで、言い訳がましくそんなことを言うと彼の視線がさらに懐疑的なものに変わった。……おかしい。そんなに信用されてないのだろうか。

 確かに俺は先程、湊 友希那と名乗る生徒の妨害を受けてひまりから事の詳細を聞けずのこのこ帰ってきたわけだが。

 というかそもそも行く前に『この問題は無理ならやめていい』みたいなことを言ってなかったか? なのにどうしてここまで責められているのだろうか。少し納得はいかない。

 

 

「変だなってことはいくつか」

「変?」

「例の話、羽丘校内では有名らしいんですよ」

「……へぇ?」

「ね、おかしいですよね」

 

 

 しかし手ぶらではないというのは本当なので、不審に思った点をいくつか列挙する。

 

 

「教員らが知ってるかどうかは微妙ですけど……ただ少なくとも生徒たちの間でこの話がが知れ渡ってるんなら誰かしらが力添えしてても不思議じゃないと思うんですけどね」

「ああそれは確かに。もう羽丘とは関係ない智香が動こうとするまで事が解決してないなんて、さすがにおかしいな」

「考えられるとすれば今井リサって人が他人に頼れないほど人望がないとか」

「あいつ後輩だぞ。それはないんじゃないか?」

「ですね。だったら……」

 

 

 俺は着席時にサービスされた冷水を傾けながら、思考を進める。

 グラスの中で氷と氷をぶつけ、もう既に自分の中で帰結している結論を冷淡に口にした。

 

 

「シンプルに手に余してるだけですかね」

「まあな……」

 

 

 するとそれを聞いた壱馬さんも苦虫を噛み潰したように眉根を寄せた。

 

 

「女子校の生徒だからなぁ。タチの悪い男の対処がわからんのも、まあ無理はないかもな」

「あとは実はこの状況を内心で愉しんでるかもしれないですね」

「イヤイヤ言いながら本当は重い恋人の方がいいって奴もいるかもだが……それもちょっと苦しいだろ」

 

 

 冗談ですよ。自分の編み込まれた髪を弄りながらそう目で伝える。

 しかしそうか。手に余ってるか。やっぱりそういうことになるのだろうか。

 そう考えると筋の通った説明がつく。だいいち智香さんから手伝って欲しいとたのまれたのだから、そうでないとおかしいのだけど。

 

 今井リサは付き合った彼氏が粘着質で束縛激しい男だと知らなくて。そして周りに事の解決を相談しようとしたが、周りの生徒もお手上げだと。

 

 そして校内の生徒間で話がどんどん広がってついには智香さんまで……そして今に至ると言った流れだろうか。

 そう考えると筋は一応通る。

 

 

「……けど、やっぱりおかしくないですか?」

 

 

 通るが、しかし釈然としない点は少しある。

 

 

「いくら女子校の生徒でもこんな些細な問題をいつまでも燻らせますかね。出来ないという前提で話を進めてますが、その程度のことが出来ないとは思えません」

「まあ……」

「だいたい相手の男の歳は知りませんけど、学生カップルがすぐ別れるなんて普通にあるでしょう」

「いやだから束縛キツいってことじゃないのか? ストーカーとか」

「なら最悪警察に頼ればいいんじゃないですかね。隠密に」

「そうだな……」

 

 

 改めて言語化すると、あまりのことの単純さにお互い形容しがたい色を浮かべる。

 この問題、今見えてる点だけで考えると、当事者にとって何がそう困難なのか正直分からなかった。

 男女関係が拗れた際、そこに、第三者以上が絡んでくるのならばそこそこ面倒なことになるとは思う。

 しかし今回の場合はそういうことではなく、単純にふたりだけの問題ときた。それに片方が離縁を望んでいるのであれば尚更だ。

 

 

「なら、これは推測ですけど──」

 

 

 なのにそれでも解決していないとなると、それは何か別られない理由がある。

 

 

「……今井リサが男になにか弱みでも握られて脅されているか、ですかね」

「ありそうか?」

「分かりません。ただこう言ってはなんですがやっぱり智香さんの後輩ですからねぇ」

「否定しきれんな」

「正直色々ヤってそうです。……どうします? もし智香さんが似たようなことになったら」

「脅してる方の弱みを握り返して炙り殺す」

「でしょうね。壱馬さんならそうしますよね」

「あ? なんだよ」

「恐ろしいです」

「おまえはあんまり人のこと言えないと思うけどな」

 

 

 失礼ですね。そんな野蛮なことはしませんよ。極力は。

 

 

「それにしても、もしそうだとしたら面識のないおまえはもっと難しいだろ」

「ですね」

「今からでも智香に断っとくか? 本来何も関係ないわけだし」

「いえ、結構です」

「は?」

「1度言ったことを覆したくはないんですよね」

「……本気か?」

 

 

 断ると思ったのだろうか。壱馬さんは怪訝そうな顔で自分の言った言葉を確認してくる。

 俺はそれを二つ返事で首肯した。

 

 

「俺があのときやると言った時点で、後に来る結末なんてひとつしか存在しないんですよ」

 

 

 平然と言い放った。さらりと無感情に。まるで赤の他人の店員に商品を頼むかの如く。……そういえばここにきて何も注文してなかった気がする。俺は唖然としている壱馬さんをよそに来店30分ぶりにやっとメニュー表を手に取った。

 それほどまでに、この在り方は自分の中で自然な事実として確立していた。

 例え客観的に見て困難なことだろうが違法なことだろうが俺はやると言ったら必ずやる。訂正はしない。二言もない。YESと言ったのならば、依頼は必ず果たす。

 

 美竹の家に養子に来て、少しは自己の根源たる部分が変わったかと思ったら、全然そんなことは無かった。

 

 生まれた時から不変の、唯一無二かもしれないこの在り方。

 それはとても人間らしいものだとは思わなかった。

 

 

「できんのか?」

「現状の解決はします」

「…………」

「まあ過程と結果は任せてもらいますけどね。ようは解消させればいいんでしょう」

「……はんっ、何が壱馬さん恐ろしいだ」

 

 

 おまえの方がよっぽど怖ぇじゃねぇか、と対面の彼は可笑しそうに笑った。

 それを聞いてもう一度、グラスを傾ける。氷はすでに溶けて、もう音はしなかった。

 

 

「解消して……空っぽにして……その後に何が入ったとしても、もうそれは此方の知るところではないですよね?」

「そういうキチガイなところがタマんねぇよ明星」

 

 

 智香も大変なやつに頼んだもんだ。まさに、悪魔の契約だな……。

 壱馬さんのその言葉を受けて、僅かに口元の端が上がったの無意識に感じ取る。

 

 

 俺は飲み干した空のグラスを、静かにテーブルの上に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、“湊 友希那”だったか?」

「はい?」

「実はその名前、聞いた事があるんだよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

『……お久しぶりですね』

「ご無沙汰してます。練習試合ぶりですかね?」

『そうですね。どうですかあれから。弓の調子などは』

「絶好調です。これもあなたのおかげですね」

『ふふ、そうですか。そう言っていただけると私も指導したかいがありました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、今日は何の御用でしょうか?』

『実はお聞きしたいことがあるんですよ……紗夜さん(あなた)に』

 

 

 

 





不穏ですね。
読了感謝です。
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