Reincarnation of Belphegor   作:みりえった

7 / 9

割と最低ですよこいつ。
今回の文章はあまり納得がいってません。




10月28日、1部文章を改稿しました。



ベルフェゴールの救済④

 

 

 自分が他人の言うことを黙って聞くようになったのは、果たしていつの頃からだっただろうか。

 朧気には確か幼少期のころからだったようも思える。その頃からもう、自分の意思というものは薄弱となっていた。

 その当時は前の父親に散々『おまえは無価値な人間』だと怒鳴り散らされていた。

 

 ずっとずっと……ずっと。

 気が遠くなるくらいに、ずっと。

 

 酷い親だった。過去も、今でもそう思う。

 彼は自分の存在を認めなかった。罵詈雑言の嵐をぶつけてきた。

 非道なことの、手伝いもさせてきた。今では違法なことだと理解出来るけど、当時は何をさせられているか分からず、彼の言うがままに事を遂行した。

 

 成功したときには、褒めてくれた。よくやったと言ってくれた。

 失敗したときには、また怒鳴られた。この無能がと罵られた。

 

 だけど、そのときは嬉しくて。小さい子供だった俺は嬉しくて。あんな人間でも、父親だから嬉しくて。

 

 だから、やった。

 

 やったやった。

 

 やったやったやった。

 

 やったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやった。

 

 やった。ヤった。殺った。

 

 目的意識を失い、流れるままに事をこなした。

 これが生き甲斐だと。底辺の承認欲求だと分かっていた。

 だけど、止められなかった。生まれた時から死んでいた自分の行動原理など、この程度で良かったのだ。それは彼が死んだ後でも変わらなかった。

 NOは極力するな。失敗絶対にするな。バレたら、失敗したら……負けたら死ぬ。そう思えと。

 

 これが自分の存在価値だと。在り方だと。

 

 故に我が道の果てに敗北はなく、許される結末はいつも、ただひとつだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自己の勝利、そのただひとつ、だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

「紗夜……あなた……」

「大丈夫です。悪い子じゃありませんよ」

 

 

 目の前で長髪のふたりの女子が話をしている。

 それぞれ違う制服に身を纏い、それぞれ違う髪色で、それぞれ表情を表に貼り付けていた。

 セーラー服を来ている浅葱色の髪の女子。氷川紗夜。自分もよく知る彼女は凛とした声でもうひとりの女子を窘めている。

 窘めてられている……ブレザーを着ている方は、昨日も見た見事な銀髪揺らし、怒気を含んだ表情で紗夜さんに抗議している。

 しばらくその様子を静観していると、銀髪の方が折れたのか、ため息をついてギロリと睨んできた。

 紗夜さんはそれを確認すると彼女も此方に目を向けてくる。

 

 

「昨日はどうも。湊 友希那さん」

「あなた、何がしたいの?」

 

 

 やっと話が出来る状態になった。しかしやはりというか、相手の機嫌は良くない。

 

 ガールズバンドチーム Roselia。

 

 そのチームのリーダーの湊友希那。彼女は今にも食ってかかって来そうな程に剣呑な殺気を振りまいている。

 今井リサが蘭と同じバンド活動をしているのは知っていたが、昨日ひまりと自分の間に割って入ってきたこの人と同じチームだとは。意外だった。

 そしてさらに紗夜さんまでも所属していたとは。その偶然に、少しばかり驚いた。

 

 

「何がしたいと言われると、昨日もやってた通りですね」

「……リサのプライバシーを嗅ぎ回って何がおもしろいの?」

「おもしろいなんて思ってるわけないでしょう。正直な話こんな面倒なことはしたくないんですよね」

「だったら……!」

「嗅ぎ回る……美竹くん?」

「本気にしないでください」

「……美竹?」

 

 

 その意外な偶然のおかげでこうして今の場を設けていただいているのだから、それには感謝しなければならない。

 しかしそれでも話し合いがスムーズ行われるかと言えばそれは別のようで。

 売り言葉に買い言葉……という訳でもないけれど、此方は別に喧嘩をしたい訳じゃないのに湊友希那はどんどんとヒートアップしていく。これではまともに話が出来ない。

 それに先程まで悪い子じゃないよと言ってくれていた紗夜さんがものすごい目でこちらを見ている。いや、誤解なので。やめて欲しい。

 

 

「あなた美竹さんの兄妹なの?」

「一応弟ですよ。姉のこともご存知なのですね」

「え、ええ」

「以前から思ってましたけど……こう言うとなんですがあまりそうは見えませんね」

「血が繋がってないですからね」

「そ、それはどういう?」

「まあ俺のことはいいじゃないですか。今は今井さんの話をしましょう」

 

 

 話が脱線しそうな気配を感じた。

 ひとつ咳払いをして、話題を元のレールに戻す。

 

 

「だからまずどうしてあなたがリサの話をするのよ。リサに聞いたら、あなたなんて知らないって言ってたわよ」

「そりゃそうでしょうね。俺も昨日まで今井さんの顔すら知りませんでしたから」

「は?」

 

 

 どういうこと? そう言いたげにふたりの顔に疑問の色が浮かぶ。

 まあ当然といえば当然かもしれないが、しかしこのままだと本当に話が進まない。さすがに少しイラついてきた。

 仕方が無いのでスマホを取り出し、昨日智香さんからいただいたプリクラを見せる。

 

 

「この右の人。この人が1年前羽丘に在住していまして。湊さんは知りませんか?」

「……知ってるわ。元生徒会の副会長だったもの」

「は? 智香さんが副会長?」

 

 

 マジなのか。めちゃくちゃ意外だが。

 

 

「……まあそれはいいとして。昨日この人に今井さんの現状を聞きまして」

「!」

「今井さんの現状……?」

「それで自分の後輩の今井さんを助けて欲しいんだそうで。そういえばどうして湊さんは、この件を紗夜さんに話してないんです?」

「っ、あなた……!」

「どういうことですか湊さん」

 

 

 紗夜さんが詰問する。それを受けた湊さんは歯噛みして痛烈に表情を歪めた。

 やっぱり、そうだったのか。昨日紗夜さんに電話したとき、明らかにその素振りを見せないとは思っていたけれど、この人は本当にしらなかったのか。

 羽丘OBの智香さんが知っていたというのに、同じバンドメンバーの紗夜さんは初耳らしい。おかしな話だ。

 

 

「……不用意に話す必要もないと思ったのよ」

「湊さん。わかりますが、同じRoseliaの私にも黙っていることないでしょう」

「……ごめんなさい」

 

 

 チームメイトの危機を黙っていた湊さんに、紗夜さんは怒るわけでもなく、やんわりと叱る。ちょっと意外だった。この人、弓道でも結構厳しかったのに。

 Roseliaを調べた時にもプロ顔負けの演奏力が魅力だと書いていたので実はもっとぴりぴりしているのかと思ってたけど……そういう訳でもないらしい。

 

 

「何が、あったんですか?」

「…………」

「湊さん」

「……俺から説明しましょうか?」

「余計なお世話よ。……私がするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしてそんな大事なことをもっと早く言ってくれなかったんですか!」

 

 

 湊さんが大方の説明を終えると、堪らず紗夜さんが一喝した。

 聞きなれない彼女の咆哮が防音設備の森閑とした部屋に木霊する。その声には、激しい怒りが顕著に表れていた。

 わなわなと、唇と握る拳が震えている。そこには湊さんのこれ以上広めたくなかった考えも分からなくもなかったのか、言い表せない行きどころのない感情を必死に抑えているようだった。

 

 

「…………」

 

 

 湊さんは俯いて、ただただそれを甘んじて受けている。

 

 

「はあ……湊さんがどうしてこんなに美竹くんに当たりが強いのか分かった気がします」

「積極的に広めるようなことでないとは言えちょっとやりすぎですね。もうある程度漏れているんだし、少なくとも状況だけは言うべきでした」

「でも美竹くんも美竹くんです。関係の無い第三者のあなたが介しては警戒もされるでしょう」

「まあ、それはそうですね」

 

 

 割と冷静に正論をぶつけられた。少し驚いた。しかし理性的に話してくれるのはありがたい。

 紗夜さんは瞑目して1度深呼吸をした。頭を冷やしているのだろうか。

 

 

「……どうして今井さんはその男と別れないんですか?」

「それは……」

 

 

 そしていきなり核心から切り出した。

 話を聞いて、彼女もまず1番にそこが気になったのだろう。たった一撃で終わる一手を打たない理由を。

 

 

「いいかげん話してくれないと事態が一向に改善に向かいませんよ」

 

 

 こちらとしてもいい加減に痺れを切らしてきた。埒が明かない。理由が分からない以上少しでも時間を無駄にはしたくない。

 あまりやりたくはないけれど、これも仕方ない。

 

 

「…………」

 

 

 少し乱暴な方法になるが、畳み掛けてみるか。

 

 

「紗夜はともかくあなたに話す必要はないわ。出ていってちょうだい」

「何でもそこまで渋るか分かりませんね。……やっぱり弱みでも握られてるんでしょうか」

「……? 弱み?」

 

 

 違うのか。じゃあなんなんだ。

 

 

「申し訳ないですけど、そろそろ現実見た方がいいんじゃないですかね」

「だから、関係のないあなたには──」

「いやあのさぁ……そんなこと言い続けてるから羽丘連中とあんたらお友達は手を拱き続けてるんだろうがよ」

「!」

「その分じゃ大方教師にも頼ってないんじゃないですか? だから無関係の智香さんに漏れるまで未だ何も出来てないなんてことになるんですよ」

「なんですって……!」

 

 

 かあっと湊さんの白い肌が赤くなった。急速に体温が上っていっているのがわかる。

 それを確認しても、俺は構わず捲し立てる。

 

 

「今井さんの状況が漏れたんなら諸々全て話すべきです。それをまあ中途半端なとこだけ隠して」

「それは……」

「だいいちこれ以上情報を規制してどうなるんです? 隠し続けることが友達想いの美徳な行動だと思ってんのなら、それは大間違いですよ」

「美竹くん、そんな言い方は──」

「何がダメなんです? だいたいチームメイトにすら情報を出さないようだから状況がこんなにも膠着してるんでしょうが」

「…………」

「何も出来ないくせに、何か出来る筈だと探し続けて。その結果事態が拘泥して。そんなもの助かるものも助かりませんよ」

「…………」

「お友達が助からないのは、あなたのせいです」

「……っ!」

「美竹くんっ!」

 

 

 最後の言葉に、湊さんの身体がぐらりと揺れた。

 さすがに見かねたのか紗夜さんの強い語調の叱責が飛んでくる。その双眸は明らかに俺を敵視しているものだった。

 確かに、少し言いすぎたかもしれない。

 彼女は静かに俯き、震えている。顔は見えないけれど、歯を食いしばり、戦慄いている様子が瞭然と見て取れた。

 彼女も既に理解しきっているであろうことを。目を背けているであろうことを、真正面からぶちまけた。

 もしかすると彼女にとって、1番嫌なことをしてしまったかもしれない。泣かせてしまったかもしれない。

 

 

「……わかってるわよ」

 

 

 だけど。

 

 それでも俺は、こうするしか無かった。

 

 

「わかってる? なにがですか?」

「私には男性経験どころか、普通の人間関係すら荷が重いもの。……理解してるわよ」

「…………」

 

 

絞り出されたような、か細い声。

俺はそんな彼女のセリフを耳にして、目を瞑る。

やっとだ。長かった。これで吐きたくもない暴言を吐いた甲斐があったというものだ。

 

 

「うるさいのよ、あなた。わかってるわよ、そんなこと……っ!」

 

 

 これで、ようやく──。

 

 

「私には、絶対無理だって……!」

 

 

 ……ようやく、事態が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどね」

 

 

 ことの真相を湊さんは喋り始めた。

 全身が震えている。立っていられなくなったのか、ぺたりと床に座り、嗚咽混じりに顔を覆いながらゆっくりゆっくりと話し始めた。

 紗夜さんは湊さんの背中をさすっている。時折此方に視線を戻すが、あまり良い印象のものでは無いように思える。

 嫌われたかな。ちょっとショックかもしれない。この人とはなるべく良い関係でいたかったから。

 

 

「さてと。どうしたもんかなぁ」

 

 

 まあ過ぎてしまったものは仕方ない。今はどうやって今井リサの男の事を解決するかだ。

 

 

「この歳になって、男子に泣かされたのなんて初めてだわ」

「悪かったって」

「……美竹くん、本当に悪いと思える人間は、最初からこんなことしてないと思いますよ?」

「間違いないですね。けど湊さんは言葉で殴らないと口を割らないと思ったので」

「……最低よ。あなた」

 

 

 しかもいつの間にか敬語が抜けてるし、歳下のクセに……湊さんはそういいながら立ち上がり、目元を赤く晴らしたまま此方に近づいてきた。

 

 

「あなたみたいな男がいるから、リサは不幸な目に会うんだわ」

「それはさすがに一緒にしないで欲しいわ」

 

 

 そして力いっぱい。俺の胸ぐらを掴んで叩いた。

 鈍い音がして、一瞬呼吸が苦しくなる。

 

 

「……ここまで話したのよ。何とか出来るんでしょうね」

「それは勿論。けどまあやり方は此方で任せてもらうけどね」

 

 

 上目遣いなど、そんなちゃちなものでは断じてなく。下からもの凄い角度で睨まれながら言葉を投げられる。

 流石は本格派ガールズバンドのリーダー様と言ったところだろうか。かなりの圧力だ。

 俺はそれに即答した。二つ返事で、首肯した。

 にしても、本当に弱みを握られているわけじゃなかったのか。

 その代わりと言ってはなんだが、今回は少し特殊かもしれない。

 

 

「……DVか。またある意味面倒なのが来たな」

 

 

 彼氏彼女ではよくある話だ。こうなってくると男の方も今井リサの方もどんな性格かわかってくる。

 けどまぁ、湊さんの話を聞く限り、()()()()()()なのだ。

 

 

 これならば、何も難しいことは無い。

 

 

 俺はいつも通りにやるだけだ。

 

 

 





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