Fate/Hololive Crash   作:佐々木 澄快

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九話 市街地襲撃戦 収束 (1)

 青堂市 中央市街地 午前11時

 

 

 

「…………あ?」

 

 市街地のビル群の間を行き交う人々の喧騒にもまれ、神父の目が覚めた。

 

「何あの人、立ったまま寝てたしない?」

 

「あの格好、こんな道の真ん中でコスプレか?」

 

「やだ、女の子担いでるわよ。不審者かしらねぇ…」

 

 大衆がどよめく。

 

 気づけばそこは、砂漠などではなくなっていた。

 舞う砂塵も、照りつける熱波もなく、

 あるのは立ち並ぶビル群と、こちらを不審な目でうかがいながら行き交う人々だけだった。

 

「あのー、少しお時間いいですか?」

 

「………あァ?」

 

 ふと神父は後ろから肩を叩かれ振り向く。

 そこには中年の男警官が二人立っていた。

 

「身分証明の提示と職業を教えてもらえますか?

あと……その担いでる子との関係も教えてください」

 

「…………職質か」

 

 そこには前代未聞であろう、神父が職質される光景があった。

 それも当然といえば当然、神父とはいえど彼は上裸に革ジャン金髪と世紀末のゴロツキのような格好で、

 彼の担いでいる少女の格好は、はだけた赤い和服、頭には角を生やし、なにより背中に本物の刀を背負っている。

 

 常軌を逸している絵面だった。職質が霞むレベルで。

 怪しまれない方がおかしいのだ。

 

「……そうだなァ、とりあえずは────」

 

「はい、職業は?」

 

 メモ帳を取り出している警官を尻目に辺りを見渡し、逃げ場を探す。

 

(ここで長居すンのは流石にヤベェな…)

 

 なにしろ神父達は市街地(ここ)で起きた戦闘に直接関わっている。

 ここで怪しまれてしまえば面倒臭いことになるのは明白だろう。

 

「?────あれは……」

 

 ふと、とある路地が目に止まる。

 その路地は建物の間にひっそりと続いていて、身を隠すには最適な場所だった。

 だが、神父の目を引いた理由は他にある。

 

 白い狐の尾が、その路地裏に入り込んでいくの見たのだ。

 

「あのー、職業を聞いてるんですけど?」

 

 神父は再び警官の方を横目に見る。改めて見た警官二人はこめかみにシワを寄せ、その表情は疑念というより警戒の色を帯びていた。

 

「……悪いんですが、色々質問したいことがあるんで一度署まで来てくれます?」

 

 警官の手が神父の肩に伸びる。

 

「あ?(さわ)んなカス」

 

 が、神父はその警官の手を振り払った。

 

「え…ちょっと、抵抗するんですか?」

 

「なァ、ケイサツさん。

 俺はこんなナリだがよォ、実は神父やってんだわ」

 

「は?」

 

 突拍子もない事を言う神父に警察は気の抜けた声を返す。

 

「さっき俺に質問したろ?だから答えたンだ」

 

「……いや、いまさらですよ。

 それにその格好で神父は…ちょっと…」

 

「いや、よく見ろよ。」

 

 言って神父は首元にぶらさげた十字架のネックレスを二人の警官に見せつける。

 見るとネックレスにはいくつもの十字架がジャラジャラとぶら下がっていて、やはりチンピラのソレにしか見えない。

 

「いや、それつけてるから神父って訳じゃ……」

 

「────オイ、目ェカッ(ぴら)いてよく見ろ。」

 

「いや、だから……あれ?」

 

 警官は言いつつもなぜかネックレスから目が離せない。

 ユラユラと揺れるネックレスはやはりなんの変哲もないネックレスだ。特質するようなことはない筈なのに、なぜか気になって目が離せない。

 

「───なァ、言ったろ?

 俺はただの神父だ。怪しくもなんともねェただの一般人だ」

 

「あ、ああ、そう、ですね。確かに、全く怪しくない」

 

 警官二人が口を揃えて思ってもいないことも言う。

 段々とそれがもっともな事に思えてきて、思考を塗り替えられる様な感覚がなんとも気持ち悪い。

 

 けれど、そんな感覚は、もう忘れた。

 

「ああ、そうですね。すみません余計なお時間を取らせてしまって」

 

「いや、別にイイ。気にすンな。

 あと一応、催眠が解けた時の保険なンだが……」

 

「はい。なんですか?」

 

 

 

 

 

「お前ら、このあと死ねや」

 

「……わかりました。」

 

 警官二人はそう返すと、神父から遠く離れたビルの屋上へ向かった。

 

 

 

 ─────

 

 

 

 あやめを担いだ神父は警官と人混みをやり過ごし、狭い路地裏に入り込む。

 絵面は完全に人攫いであり、あまり穏やかなものはない。

 

(…あの狐野郎、こンなトコでなにしてやがんだ?)

 

 陰気な路地裏を進む。

 

 先程、ちらりと目にした路地裏に入り込む狐の尾。

 あれは紛れもなく、あの砂漠の世界を展開した白上フブキのものだった。

 

(…ヤツは…ヤツの宝具は危険すぎる。できれば今のうちに消しておきてェトコだが…)

 

 ────白上フブキの宝具。

 神父達が見たあの砂漠の世界。

 補足として、あれは固有結界ではない。固有結界は自身の心象世界をカタチにし、現実世界に侵食させることで成る魔術であり、これには対象の在り方を変えることなどできない。

 だが、白上フブキの展開したあの世界は神父のカタチを変えた。

 

(ドット絵なんぞにしやがって……

 どういう仕組みか知らねェが、あの宝具に呑まれたら狐野郎の思い通りに体を改造される。しかも遠隔から強制的にあの世界へ引きずり込むこともできちまうわけだ。

 その上………)

 

 神父の左耳。

 百鬼あやめを担いでいる側の耳が聞こえない。

 百鬼あやめを助けるために耳から左手を離したとき、あの爆音にやられたのだ。

 

(あの世界で受けた攻撃は現実に反映される……狐野郎がマジで俺らを殺る気だったら、俺らとっくに死んでたんじゃねェか?)

 

 非の打ち所がない無敵の宝具。

 展開されればまず勝ち目はないだろう。

 

 つまり、白上フブキを倒すには、

 

(今しかねェ。宝具を展開し、魔力を消耗している今だけだ)

 

 神父は路地を進む。

 全感覚を魔力で底上げし、数メートル先の気配を感知する。

 

「まだ居るな…そこに」

 

 標的の呼吸音、

 標的の衣擦れの音、

 神父の覚醒した聴覚は片耳だけでありながら敵の存在を明確に捉えていた。

 

固有時制御(Time alter)────」

 

 魔術刻印に魔力を流し、自らの得意とする固有時制御(魔術)を装填する。

 思い返せば彼の魔術“固有時制御”はこれで連続して使用することになる。

 つい数分前、神父は大空スバルから()がれるため、自らの身体の“時間”を八倍にもして()がれたのだ。

 その“時間”の修正力によって、今も体を蝕まれている。

 

「────っ」

 

 肺の奥から溶けた鉄がこみ上げる感覚。

 プチプチと音をたてて細胞が千切(ちぎ)れていく。

 "世界(時間)"が、神父の存在を潰しにかかる。

 

 ポタリと、気がつけば鼻から血を流していた。

 

 けれど神父は平然として。

 

 

「ハ────この程度、屁でもねェ───」

 

 その余裕は、

 彼が埋葬機関たる所以、その一端であった。

 

 捉えた気配は()()

 今回の聖杯戦争の例に習うのならば、この気配はサーヴァント二人とそのマスターのものだ。

 故に出し惜しみは許されず、求められる速さは神父の全力である八倍速。音速の勝負は一瞬で決着がつくだろう。

 

 ここでおかしいと、疑問に思う者もいるかもしれない。

 マスター単身でサーヴァント二体を相手にするなど、普通なら無謀でしかないのだ。

 だが、神父の実力はそれらと拮抗する。

 単純に、彼は"強い"のだ。

 

固有時制御(Time alter)────」

 

試練は耐えよ。

恥辱は絶えよ。

 

 埋葬機関とはそういうモノ。

 異端を力で制する代行者の中でさらにトップエリートの者七人が集う機関。

 聖堂教会の最高位異端審問機関であり、彼はそのNo.5。

 

「──────八重加速(Octa accel)

 

 彼の名を、衛宮(エミヤ)矩賢(ノリカタ)という。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 とある、町外れの廃工場。

 そこはかつてクローブンという魔術師が工房として使っていた場所だ。

 

「おかゆぅごめんねぇ~」

 

 訛のある声が響く。

 地面に座りこむ戌神ころね(バーサーカー)の声だ。

 そんな彼女を、彼女が“おかゆ”と呼ぶ黒い影が見下している。

 

『……貴様、どういうつもりだ?』

 

「わがんないよぅ~ 。

 わがんないことがわがんなくてぇ 、なぁんにもわがんないよぅ...ん?まてよ、わがんないことがわがんなくてわがんないなら、それはもうわがんないってことぉ?あれぇ?あれれぇぇ?」

 

『ふざけるな。貴様には心底呆れ果てたぞ。

 私はマスターを()()()()()と命じたというのに、その命令を無視してサーヴァントに攻撃し……挙げ句“あの宝具”に捕らえられるとは一体どういう了見だ?』

 

 バーサーカーのマスターたる影は辟易したような口調でバーサーカーを叱責する。

 バーサーカーに理性的な行動を求めるのもどうかと思うが、何しろ今回の失態は大きすぎたのだ。

 特になんの成果も得られなかった上に自らの手札である魔眼をさらけ出し、そのうえ白上フブキの宝具に捕らわれるという不都合な展開となってしまったのだ。

 どれもこれもバーサーカーの勝手な行動により、影の思惑とは大いに外れてしまったのだ。

 

 なにより影を苛立たせたのが、

 

『……今回で()()()()。こんなことを、二度も私に言わせるなど…ふざけるのも大概にしたらどうなのだ!?』

 

「ねぇごめんねぇ、怒らないでよおがゆぅ…」

 

 そう、これで二度目だったのだ。

 今回の襲撃戦の以前にもバーサーカーは二体の敵サーヴァントへ勝手に襲いかかったのだ。

 その襲った相手が猫又おかゆ本人と不知火フレアである。

 

『前の時もそうだ!私の知らぬ間に勝手に行動し、相手を瀕死まで追い込んでおきながら貴様は、あろうことか()()()()()()()()のこのこと帰ってきおって……!』

 

「でもぉ、だいじょぶだったじゃん?」

 

『どこが“大丈夫”なのだ!?今回の襲撃戦でしっかり対策されていたではないか!

 あの不知火フレアとかいうサーヴァントが魔眼殺しの眼鏡をかけていたのが見えなかったのか!?

 どれもこれも貴様が命令を無視したからだ!』

 

「だってだってぇ、なんか不味(まず)いんだって!おいしくないのは食べたくない!」

 

『ッ………不味い、だと?』

 

 影がその言葉にピクリと反応する。

 

『それは本当か?

 たしか、セイバーを庇った猫のサーヴァントを喰らった時も同じような事を言っていたな?』

 

「んぅ、あれめっっっちゃ食べるの嫌だった!だから、不味かったんだでな!」

 

『…………』

 

「食べるのイヤってことは、不味いってコトだよね!?つまり無理ってこと!マジ無理!」

 

『イヤ…か。その不味いモノは“(きら)い”なのか?』

 

「……嫌い?」

 

 今度は戌神ころねがビクリと、目を丸くして影を見る。

 

『ああそうだ。不味いモノは嫌いだろう?食べたくないのだろう?』

 

「嫌い、嫌い…?不味いものが、こぉねは、嫌いなの?」

 

 バーサーカーが何かに怯えるような表情で小さく震えるが、影は気にしない様子で言葉を続けた。

 

『ああ。

 そもそも貴様、言っていることがおかしいぞ?

 “食べたくない”という感情は“不味い”という感情の後に発生するものだ。

 貴様の言い方だと、まるで理由付けのために不味いと言っているようにしか聞こえないのだが?』

 

 バーサーカーはその狂気故に影の言うことなど殆ど理解できていない。クラス的に、コミュニケーションなどできる筈もない

 けれどバーサーカーは、その言葉に耳を塞いだ。

 

「違う、違う違う違うそうじゃない違う違う違う!

嫌いなんかじゃないこおねは不味いのがイヤ!

イヤだけど、嫌いじゃなかった。むしろ、ダメなの、食べちゃダメ!食べてしまったら、もう……!傷つけた...おかゆをこぉねは、食べようとして…!?

食べたらもう、もどれない

イヤ!イヤだイヤだイヤだ怖い怖い怖い…!!」

 

 

 

 狂気に堕ちるバーサーカーを尻目に、影がそのカタチを変える。

 影の姿は段々と輪郭を帯びて、

 

「たす…けて…たすけて……たすけて、おがゆ────」

 

『ああ、助けるとも。今一度、私にその身を委ねよ』

 

 影の姿は、猫耳の少女の姿に変貌した。

 

 猫耳の少女から伸びる影は戌神ころねを包み込み、影はより一層深い闇へ変貌する。

 それは、ころねの狂気すら闇に染めてしまうほどの深い闇だ。

 

「────おかゆ? 本当に、おかゆ……?」

 

『ああ。だから、安心して眠りにつくといい』

 

 どろりとした黒い液体が廃工場に満たされていく。

 その中を戌神ころねは安堵の表情を浮かべ、ゆっくりと沈んでいくだけ。

 ソコに救いなど、ない。

 

「……うん。おかゆがそばにいるなら、二人なら、なんにも怖くないよね……」

 

 ころねが闇に墜ち、辺りは静寂に包まれた。

 その中で実体の無い舌打ちだけが響く。

 

『チ、これも二度目────またしても汚染しきれていなかったか。

 聖杯の泥ですら染まらないとは恐れ入る。一体何がバーサーカーの精神をそこまで保たせるのだ?』

 

 悪態をつく影。

 影の苛立ちはバーサーカーが役目を果たさなかったことが原因というわけではなく、自分の手駒すら制御できていないという無力感が影を焦らせていた。

 

『二度も汚染しきれなかったとなれば、より汚染に時間をかけねばならん。しばらくバーサーカーは使えんか。

 幸い駒はまだある。元が理性を宿していた故にバーサーカーよりも扱い難いが、今のバーサーカーよりは使えるだろう』

 

 バーサーカーを飲み込んだ闇がグチャグチャとうねり、その奥底から一人の少女が仰向けに浮かぶ。

 明るい緑髪に蝶の髪留めをつけた、青いワンピースの少女だ。

 背が低く、子供にすら見える可愛らしい容姿。けれど彼女を子供などと侮ることはできない。

 

 気を許せば彼女の純愛は、何もかもを殺すだろう。

 

『起きろ魔術師(キャスター)。お前は、私を失望させるなよ?』

 

 キャスターと呼ばれた少女が目を覚ます。

 開かれた紅い瞳は闇の中でも鈍く輝き、その表情は恍惚としながら淡い吐息ついて。

 

「はい、ますたー♡」

 

 そう微笑んだ後、少女は幾千の蝶となりその場から消え去った。

 

 

『────これも、バーサーカーがしくじりさえしなければ、二体のキャスターを手中に収めることができたのだがな……』

 

 またしても辟易として悪態をつく影。

 だが、ここまで筋書きを狂わされておきながら影は平然としていた。

 焦りはあったが、それでも影の自信は揺らいでなどいなかった。

 

『まぁいい。要点は手中にあるキャスターが()()()()()()()であるということ。これが御し得ているのであれば、後はどうなろうと構わん』

 

 影はニタリと笑って、けれど真底退屈そうに。

 

『最後には結局、私が勝つのだからな』

 

 

 

 ─────

 

 

 

「─────テメェ……」

 

 動揺の声は、神父のものだった。

 

 たしか神父は狐の尾を追って路地裏に入り込み、今まさに銀色の尾を纏うサーヴァント、白上フブキを目の前にしていた。

 だが動揺のあまり、その殴りかかろうと放った拳は白上フブキの目の前で止まっている。

 

「一体これは、どういうコトだ?」

 

「…………」

 

 フブキからの返答はない。

 彼女の表情はどこか疲弊していて、

 けれどまっすぐに神父を見つめ、立ちはだかっていた。

 

 倒れたロボ子(サーヴァント)(うずくま)アマル(マスター)を、護るようにして。

 

「……おねがいです。今は、今だけは、引いてもらえませんか?」

 

 




あとがき


いちおう一言だけ。
団長のことは忘れてません。

続きを書いてほしいですか?

  • 書いてもろて
  • いや、まぁ、書いてもろて
  • 知らんがな
  • う〜ん
  • お前は敗北者じゃけぇ
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