Fate/Hololive Crash   作:佐々木 澄快

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其は白き大地を駆ける狐、其は人の暖かみをもつからくり也て

2009

 

エジプトのとある広場にて

 

エミヤ

そう名乗った白髪のフードを深く被った男は当時5歳の少年を地獄から連れ出し、その場所に連れてきた。

 

『30分後に君の引き取り手がここに来る予定だ。

"アマル"という名前で話を通してあるから、君はこれからそう名乗るようにな』

 

貴方は、どこに行くのですか?

 

『私はまたあの場所に戻る。やることがあるんでな』

 

なにをするの?

 

『......君はもう私のことなど忘れた方がいい。

君はもう...自由の、身だ。私とは、関わらないほうがいいんだ』

 

いやだ、貴方の傍に置いて欲しい。貴方のような、ヒーローに.....

 

『.........私が守りたかったのは、君のような少年の筈だったのだがな』

 

?

 

『私は正義の味方だが、ヒーローではないということさ。

さぁ、もうお別れだ。私などとは、二度と会わないことを祈るよ』

 

そんなことをいって彼は俺から離れていった。

もちろん後を追いかけたが、すぐに彼は消えてしまった。

 

その後、少年はまもなく今の両親に引き取られ、自由を手に入れた。

 

筈だった。

 

その家はどうやら魔術師の家計で跡継ぎとなる子供を探していたらしい。

その後の少年の人生は、少年にとって苦痛の日々でしかなかった。

あの地獄よりも酷いとさえ思った。

自身の体を魔術に特化した体にするため、改造に改造を重ねられ、食べる物には毒を盛られ、

手足を拘束され、刃物で何度も何度も切りつけられることもあった。

 

少年はエミヤという男に、贄にされたのだ。

 

 

 

───────

 

 

 

2020

 

冬 日本 青堂市 青堂駅にて

 

「.......」

 

汚れ、ボロボロになったローブを羽織った1人の少年がこの駅に降りた。

11歳になった少年は聖杯を取得し、親の元へ持ち帰るため、この地に飛ばされた。

冬木市ではなかったのが気になるが、ここに聖杯があるのだからここでいい。聖杯を持ち帰りさえすればいいのだから。

余計な事は、考えなくていい。

 

「.......」

 

 

──────

 

 

その夜、

 

青堂市 中央公園

 

雪の降る夜ということもあって人影などなく、人払いの結界も張ってあるのでまず誰かに見られることはないだろう。少年はいそいそと

 

「魔術陣は.....確かこう....」

 

男は親に持たされたナニかを絞り、そこから滲み出た液体を使い、魔法陣を描いていく。

 

「......最強のサーヴァント、呼ばないと」

 

彼は、必ず聖杯を親に捧げないといけない。

そのためには、この戦争において最強のサーヴァントを呼び出すことが条件のうちの一つである。

 

「........よし、これで....───っ」

 

少年は魔法陣を描き終えると同時に、左胸あたりにやけどしたような痛みを感じた。

 

「これは.....もしかして.....」

 

ローブを脱ぎ捨て、

ボロいシャツの襟を破り、ソレを確認する。

 

「これは、令呪?......良かった」

 

左胸には紅い令呪らしき文字群が浮き出ていたのだ。

 

 

我は哀を欲する者也

命を賭して開孔せよ。

 

 

 

令呪は、日本語でそう表記されたものだった。

 

自身に令呪が発現したということは、聖杯戦争への参加資格を得られたということ。

聖杯戦争に参戦する為の最低条件をクリアしたのだ。

あとは、サーヴァントを召喚するだけ。

 

「よし────」

 

少年は魔法陣の前に立ち、左胸に手を当て目を瞑る。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

 

─────告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処ここに。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝、三大の言霊を纏う七天。

 

ヒーローは、

貴方は、有り得る存在であらんことを────」

 

少年の詠唱とともに、周囲のマナが魔法陣に収束する。

大量の魔力がどこからともなくやってくる。

見る者が見れば吐き気すら感じるようなその暴力的な魔力量を、その流れの中に見たものを、

綺麗だなと少年は子供ながらに思った。

 

綺麗だなと思いながら、その場に倒れ込んだ。

 

 

─────────

 

 

 

 

冷たい。

 

「この─、大丈──な?」

 

「ど──ろ。でも放っておけな──ね」

 

「──ですね。せめ─ここじゃ冷え───、屋根のあるとこに──。」

 

なんだろう、うるさいな。

 

「ボクが──ぶよ」

 

.......なにか、硬い物を背中に感じる。

直後に浮遊感、というか、何かに自分がかかえられているようだ。

 

「─の子、体にいっ─い怪我の跡──る。しかも、コレ、刃物か何かで────。これ、刺繍?」

 

「─かして、─の子って......」

 

そこからしばらくうるさい音は消え、無音。

 

「ここら辺に、交番とかって───あるん───ね?」

 

「わから──。ここ、初めて見る場所だ──....あ、

ここ、空き部屋あ──てさ。

あ、でもボク財布もってな──。」

 

「─っ、私持って─すよ!.....ちょ─ど1泊分─けあります!」

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

夢を見た。

 

楽しそうに、それはもう楽しそうに誰かと話す誰かと誰か。

あまりにもその姿が輝いていて、同時に憎いと思った。

僕は君らと違ってこんなにも傷ついているのに、君らは僕に振り向きもしない。

 

あの家のように、あの地獄のように、

 

エミヤのように。

 

 

 

 

───────

 

 

 

「......」

 

苦しい。暑いな。その上狭い。四方をなにか柔らかいもので囲まれている。

なんだろうここは。

 

「───んー.....狐じゃ.....い.....」

 

? 誰の声だろう。静かな女の人の声。

右? それもすぐ近く、耳元で聞こえる。

そして、生暖かい、ゆっくりとした風を感じる。

 

「────ボクは....こう、せい.....のー。」

 

次は左、これまた耳元で。右から聞こえた声とはまた違う、ゆったりとした声。女の人の声だった。

 

.............

これは、この目を閉じたまま、もう一度、眠るべきか。

目を開けて起きてしまったら、状況的に卒倒してしまいそうだった。

そうだ、眠ってしまえば、次起きたとき、

もしかしたらあの公園にいるかもしれない。

 

「─────────起きた〜?」

 

少年は驚いていて目を開いた。

目に入ったのは白く塗られた天井。

そして、少年はゆっくりと横に首を向ける。

声がした、左の方に───

 

「───ふふっ、驚いていてる、かわいいね」

 

そこに居たのは、黒い髪を首まで伸ばした女の人だった。前髪も片目を覆うほど長く、その隙間から覗くおっとりとした彼女の眼が(なま)めかしさを出している。

女の人が同じベットで、同じブランケットを羽織って、真横に横たわっている。

黒い迷彩柄の半袖ジャージ。そのジッパーは胸元まで下げられていて、その胸元には首から下げたドックタグが薄く光沢している。

(つや)っぽい印象で、少年にはいささか刺激が強かったが、

そんな感情は彼女の腕の冷たさによって、すぐに打ち消された。

ジャージの袖から伸びる彼女の腕は人のそれではない。黒い、鉄みたいな腕だった。

 

「.....ala(機械)?...lays ladayhim 'adhrae(腕が無いの)?.....」

 

「うーん、ボクの腕が無いというか〜ボクはそもそもロボットなんだよね〜」

 

ロボット?

この人は今、自分がロボットだと言ったか?

 

「あぁ、そうだ、ごめんね。癖で日本語喋っちゃった」

 

彼女は何故か謝罪した。僕なんかに。

 

「........僕、にほん語、喋る。」

 

少年の日本語は単語を繋げただけの流暢(りゅうちょう)とは言えない日本語だったが、ロボットの人はそれを聞いて少し驚いた。

 

「へぇ〜、凄いね〜。日本語〜覚えるの〜大変だった〜でしょ?」

 

ロボットの人はゆっくりと日本語を喋り始めた。

少年が聞き取りやすいようにゆっくりと喋ってくれているのだ。

 

失礼かもしれないけれど、

その話し方は、少し────

 

 

「────わぁ、君の笑顔、ボクすきだな〜」

 

 

急に、ロボットの人にそんなことを言われた。

笑顔?

 

少年は気になって自身の顔を手で触る。

 

あれ、本当だ。

確かに笑っている。

こんな顔をしたことが、少年にはあっただろうか。

少年は何故自分が笑ったのか理解できない様子だった。

 

ロボットの人は、そんな少年を見て少し悲しそうだった。

 

 

「....さて、ロボ子はもう起きるけど、君はまだ寝てていいよ?

チェックアウトまでまだ4時間くらいあるし.....」

 

そう言って、ロボットの人は上半身を起こして、ベットから降りた。

 

..........彼女の全身像が少年の目に映る。

 

 

.......その時、少年の意識は自ら停止した。

現実から目をそらすように、目を瞑る。

 

 

 

 

履いて、なかった─────────

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

「おーい、()()()ー、そろそろ起きたほうがいいよ〜チェックアウトまであと2時間だからね〜」

 

ロボットの人の声がして、体を反射的に起こす。

 

「お〜、いい寝起きだね〜。ここにいる狐さんとは違ってさ〜」

 

()()()を見ないように彼女の方をみる。

ロボットの人はメガネをかけて、ベットの右側、少年の右側、

ブランケットが丸まった物体の横に立っている。

ロボットなのに目が悪いんだろうか?

 

そして────

 

....うん、やはり下は履いていなそうだった。

へそ見えた。

 

「あの、なんで、下履いてな.....」

 

「ほら〜フブキちゃ〜ん!起きて〜!」

 

ロボットの人はそう言うと、ブランケットが丸まった物体をゆさゆさと揺らす。

 

.......というか、なんなのだろう。この丸まった物体は....

微妙に、モコモコと動いているような....

 

「.................うぅん、あーとーごーふーんー......」

 

物体の中から、少し声高な声が聞こえた。

その声には小動物のような愛くるしさを感じるところがあり、

少年も少し愛らしいと、子供ながらに思った。

 

「フブキちゃ〜ん、そんな寝起きのテンプレみたいなこと言ってないで〜、早く起きないとこの子に怒られちゃうよ〜?」

 

別に怒ったりはしないが、仮に怒ったとしてもこの物体に勝てる気はなぜかしなかった。

物体はロボットの人の声を聞いた後、何かを呟き始める。

 

「........この子?....この子.....この......子.........

....ショ、た(ボソッ.....」

 

  ?? 

今この物体はなんて言ったんだろう?

物体は立て続けに呟く。

 

「.....怒る....怒る......お、こる........

......ごほう、び(ボソッ.......」

 

  ???? 

その物体は、やはり意味のわからない事を呟いていた。

 

「.......ロボ子、先輩..........」

 

「どうだ〜?もう観念したか〜?」

 

 

「いや、その、あのあの、

二度寝を続ける許可を頂きたくて.....」

 

 

 

................

しばしの沈黙のち、ブランケットは更に固く丸まり、

 

「も〜お!駄目に決まってるでしょ〜!!

チェックアウトしなきゃなんだから〜!」

 

ロボットの人と丸いブランケットとの抗争が始まった。

 

ロボット人は更に激しく高速でブランケットを揺らし、ブランケットは破けそうな勢いだったが、対するブランケットも負けていない。

まるでそれは難攻不落の要塞のようで、たとえミサイルが飛んできたとしてもこのブランケットが爆ぜることはないとさえ思えた。

 

だが、先に反撃の余地を見せたのはブランケットの方だった。

 

「............やばっ!」

 

「─────あ、フブキちゃん、これ.......」

 

ボンッという擬音を放ってブランケットから出てきたソレは、

 

白と黒のつややかな毛並みの、

狐のしっぽのようなものだった。

 

そして、そのしっぽは、

ゆっくりとブランケット(要塞)の中へ......

 

「──────()った!」

 

「ひゃうぅんっっっっ!!!?」

 

戻れなかった。

戻る前に、ロボットの人に捕らえられてしまったのだ。

 

「ろ、ロボ子先輩、きゅ、休戦協定を、

......結びませんか?」

 

「んー?フブキちゃんは〜、

コレをどうして欲しいのかな〜?」

 

ロボットの人の指がそのしっぽを()う。

 

「にゃあぁぁあっっ!!!!!......そ、その、休戦を───」

 

ん? あれ、ブランケットの正体は猫なのだろうか。

ブランケットはビクビクと痙攣(けいれん)する。

 

「う〜ん、ここかな〜、ひょいっ」

 

ロボットの人の指が、しっぽの根元付近までせまる。

 

「──ろ、ロボ子せ、ん、ぱいぃっ!!?っそ、そこはぁ....だめ、で.....」

 

ブランケットはロボットの人の指が動く度に、激しく痙攣し、

脈動する。

 

「ふふっ、フブキちゃんは〜、しっぽの〜、

根本が弱かったり〜、するのかな〜??」

 

サワサワとしっぽの根本付近をロボットの人の指が這う。

だが決してその根本を触ることはなく、まるで焦らしているようだ。

 

「──わ、わわ、わかりました!起きます、

起きますから、そ、その、ひと思いにいぃいっっ!!!」

 

「なに〜?どうしてほしいの〜?」

 

ロボットの人は、とても意地悪な表情をしていて、

楽しそうだった。

ブランケットもまた、

.......ある意味、楽しそうだった。

 

「──く、くうぅぅっ.....てください......」

 

「ん〜?なんだって〜?」

 

最も根本に近い場所に、その指が這う。

 

「にゃぁぁぁっ、あぁぁっ!!........

.......と、とどめ....とどめを、さして.....」

 

「は〜い、よく言えましたね〜。

......それじゃあ、ご褒美ですよ〜」

 

そして────

ついに、その指が根本に届く───

 

 

 

「─────にゃあぁぁああっっっっ!!!!!!!!!」

 

 

 

その要塞はもはや陥落し、防御力はゼロと化す。

ロボットの人はそこで相手のブランケット(装甲)を剥ぐ。

 

そこには、猫、

ではなく、

恍惚とした表情の狐耳を生やした女の人が、しっぽを抱え込み、丸くなってビクビクしている。

白くて長いきれいな髪や、狐のように尖った獣耳、殆ど白で統一された服装、

そして、狐のような白と黒のしっぽ。

狐の人の顔は童顔で、ロボットの人とはまた違って、どこか子供っぽさのある優しそうな顔だ。

まさに、白い可憐なる狐といった印象だった。

 

少年と白狐の人の目が合う。

 

「あ、お、おはよう、ございます....

私は白上 フブキ、です....

......えへへ...よろしく.....ね?」

 

 

なんとも、格好つかない朝の挨拶だった。

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