War of Gastrea/Black Out 作:ワンちゃん二世
初投稿です。
サンフランシスコ海戦
酸素マスクのせいでくぐもった自分の荒い息使いが鮮明に聞こえる。
《こちらドラグーン2!そこらじゅう蟲だらけだ!》
《ドラグーン3、FOX2!》
《フェンリル3、後ろだ! 後ろに2体!》
《くそっ、振り切れ……あ゛あぁ!!─────》
《ここが正念場だ! お前ら、人類の意地を見せろッ!》
キャノピー越しに見える遠くの空は、陸地の炎が反射して赤とオレンジが混ざった地獄のような色をしている。
《援軍はまだか! 防衛ラインを突破される! もう持ちこたえられないぞ!》
《なんて数だ……冗談じゃない!!》
《メーデー、メーデー! こちらフェンリル5! 制御不─────》
《こちらフェアリー2! 三体に囲まれている! 援護頼む!》
頭上を何機もの戦闘機が轟音を響かせながら通りすぎていく。
《───ィ ──ディ ──エディ! おいルーキー! お前はフェアリー2の援護につけ。聞こえたか?!》
野太い無線の声にはっと我に返る。ここはどこだ。もちろん戦場だ。誰と戦っている。わけのわからない生物共だ。なぜ戦闘機に乗っている。それが俺の役目だからだ。未知の怪物共を一匹残らず掃討するのが俺の役目だ。
今、アメリカは、いや世界は未知の生物と戦争をしている。自分は今まで戦場に行くことはなかったが、今回ようやくそのお役が回ってきたようだ。
今朝、
──未知の生物ってなんだ。SF映画か何かか?
「こ……こちらスカル4了解。フェアリー2の援護につきます」
《よし、それでいい。こちらスカル1。フェアリー隊、俺達が援軍だ。お前らは退避しろ。オーケー、さっきも言ったがスカル2は俺に続け。3はフェアリー4の援護だ。行くぞ!》
《了解》
《
先輩二人の無線を合図にスカル4ことエディ・ピアースは愛機、F/A-18E艦上戦闘機の機首を傾けた。すぐ脇を残りのスカル隊の戦闘機が抜けていった。
《ああ! 助かった。恩に着るぞスカル隊!》
安堵の声がコックピットに響いた。フェアリー隊のリーダーの無線だ。エディはそのまま右旋回し、フェアリー2のもとへと急ぐ。下に広がる大海原を覗いてみると戦闘機だったであろう鉄くずや謎の肉塊が所々浮かんでいた。
エディは言わば天才の部類に入る人種だった。パイロットになるためのアカデミーも主席で卒業し、ドッグファイトの訓練でもルーキーながら先輩を差し置いて好成績を修めていた。その才能は軍の上層部も目を見張るものであったという。足りないものは経験だけであった。
そんな彼はしばらくして空母打撃群所属のエリート部隊、スカル隊に配属された。隊のキャプテンは人情にあふれ、他の隊員も彼を特別視はするが、ないがしろにはせず安定したパイロットライフを送ることができていた。だが。
──彼の初陣が、まさかこんな化け物を相手にすることになるなんて、隊員もキャプテンも彼自身も誰も想像していなかっただろう。
「どこだフェアリー2……どこだ……」
キャノピーの端から端まで頭を動かして援護を要請した機体を探す。すると……いた。 北北西の方角、一機のF-35Cが三匹の羽虫のような化け物に集られていた。
「こちらスカル4。フェアリー2、貴機を目視で視認。援護につきます!」
《ダメだ! もう
「え?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「
《ああ、そうだ。この機体はもうもたない。翼とエンジンに酸みたいなものを吐かれたようで出力が上がらない。近くにいるとお前も爆発の巻き添えを喰らうぞ!》
確かにフェアリー2のエンジン部分と翼から黒い煙が出ている。それに心なしか高度も徐々に下がっているようだ。
《だから俺よりも他のやつを────おい後ろ!なんだあれ、冗談だろ!!》
声につられて後ろを見る。するとそこには戦闘機より一回り大きな鷲のような怪物が迫ってきていた。その圧倒的なスケールにエディは呆然としてしまった。鷲の怪物はそのままフェアリー2の左右両方の翼を巨大な足で掴む。鉤爪で翼が黒煙を吐きながら潰された。
《おい……まさか、やめ……グゥ!!!──────》
そして間髪入れずにキャノピーをクチバシで破壊し、パイロットを丸飲みした。口に入りきらなかった腕が血飛沫と共に後方へ飛んでいく。まさに一瞬の出来事だった。
にわかには信じれなかった。目の前で先ほどまで会話していた存在が、ものの数秒で命を刈り取られてしまった。エディの口や膝が脳の命令を無視して震えだした。
化け物は
考えるよりも先に手が動いたのは幸運だった。エディはとっさにアフターバーナーを点火。同時に右旋回してひとまず怪物との距離を取った。だが、それもその場しのぎにしかならず、怪物は完全にエディをターゲットとしたようでがっちり後ろについてくる。
《スカル4! エディ! どこにいる! 生きてたら状況を報告しろ!》
キャプテンから無線が入る。向こうでも何かあったようだ。
「こちらスカル4! キャプテン、フェアリー2は撃墜されました。現在、鷲の怪物と交戦中! がっちり後ろにつかれています。でも振り切ってみせます!」
《オーケールーキー、その意気だ。こっちはスカル2と3が堕ちた。一瞬だったぜ……。フェアリー隊とドラグーン隊も全滅だ。》
「そんな……ローズ先輩とシンフィールド先輩が……。」
《ああ……。スカル隊はもう俺とお前だけだ。ルーキー、あと少しだけ持ちこたえてくれ。今すぐ援護に入る。生きて帰るぞ、エディ! 俺達はまだ負けたわけじゃねぇ!!》
「了解、キャプテン!」
どうやらキャプテンが来てくれるようだ。仲間の死を悲しんでいる暇はない。それまでこいつの相手をしなければ。
「よし…… 絶対俺から目を離すなよ、化け物め」
自分に気合いを入れる。ここが俺の正念場だ。エディは操縦桿を一層強く握った。
スロットルを前開しまずは右に急旋回。同時にフレアを射出。これで化け物はこちらしか狙わなくなるはずだ。
ピィィィィィァァァァァアアアアアッ!!!
化け物の甲高い金切り声がキャノピー越しに聞こえてくる。どうやらこちらに釘付けにすることに成功したようだ。流れるように次は上昇しハイ・ヨー・ヨーの機動を取る。怪物は難なく追随してくる。さらに左へ急旋回。激しい機動ばかりしていると飛行機とは速度が落ちるもので、それは今回も例外ではなく徐々に速度が落ちてきていた。それを感じ取ったのか鷲の怪物は足の指を広げ翼を掴み取る姿勢になる。
──まずい、いけるか?いや、やるしかない。
「ぃ……っけぇぇぇぇ!!」
左右のストレーキ上にあるエアブレーキを目一杯展開し、機首を上へ跳ね上げる。機首が真上を向くことで機体全体が空気を受け止めるエアブレーキの効果を発揮、機体に急激なブレーキがかかる。いわゆるコブラ機動をする。怪物もこれには対応できず、エディの脇を通り抜けて前方へ出てしまう。エディは即座に機体を水平に戻し怪物をHUDで捉えた。
上手くいった。攻守交代だ。
「人類の技術をナメるなよ化け物め!」
そのまま迷わず機銃の引き金を引いた。機首に装備されている20mmバルカン砲が、鈍い音をたてて火を吹いた。銃口から放たれた銃弾は、回避機動を取ろうとした怪物の翼端を掠める形で命中した。少量の血飛沫が舞う。しかし、怪物は怯むことなく飛行を続けている。怪物は追撃を躱そうと右へ左へフラフラと揺れるような機動しているが、そんな狭い範囲で回避行動をとっても戦闘機の射程距離からは逃れられない。ピピピピ……とアラームがなる。ロックオン完了だ。
「スカル4、FOX3!」
翼の下に懸架されている
「よし、やった! ヒャッホウゥ!」
思わずガッツポーズをした。下を覗き込んで戦果を確認。鷲の怪物だった肉の塊が赤い液体を海に滲ませながら浮いていた。
《よくやったなエディ! 俺の心配も杞憂だったな》
「キャプテンがきてくれるっていう安心感があったからできたんですよ」
《嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。よし、これからはツーマンセルで動くぞ。エディ、俺の後ろにつけ》
「了解、キャプテン。エレメントを組みます」
二機のF/A-18Eが鳥の親子のように合流、新たな戦火へ突っ込んでいった。
◇ ◇ ◇
どれくらい経っただろうか。もうかれこれ2時間以上は飛んでいるんじゃないか?もうミサイルもAAMが1発、それしか残っていない。機銃の弾数も半分をきった。キャプテンも無線の声からして疲れが見え始めているようだ。自身の機体も血に塗れてきている。これまで自分は蜂型の怪物を4体、羽虫型を3体、鳥型を2体撃墜した。キャプテンは「いちいち戦果は数えてられねぇ」と倒した数には無頓着な感じであったが。
これまで闘ってきてわかったことが、ヤツら、機銃が効きにくいのだ。頭部に何発か当たればまだマシなのだが、胴体では数発当てただけでは怯みもしない。それどころか羽虫型に至っては機銃をぶっ放しているところに自ら突っ込んで来る始末だ。レーダーでロックオンできることだけが幸いだ。ヤツらの耐久力はほとんどの生物を凌駕していると言っていいだろう。それに、ヤツらはその耐久力を自覚しているようだ。それにそれをもとに行動する脳ミソまで備えてやがる。これが俺達を苦しめた。
今、俺とキャプテンは空母の防衛の最中にいる。陸地に近い空母打撃群のいる地点まで前線が押されてしまったのだ。最初こそツーマンセルで動いていたが味方が墜とされる度にその空いた穴を埋めなくてはならなくなり、現在キャプテンとは離れてしまっている。
《エディ!そっちに羽虫が2体行ったぞ!
「了解、回避します!」
イージス艦の間をジグザグに飛行し羽虫型を振り切ろうとするが、ヤツらはしつこく粘着してくる。
一旦空母から距離をとり、障害物のない沿岸へ出る。戦闘機の加速をもってヤツらを引き離す算段だ。
「くそっ、なかなか鬱陶しいッ!」
バックミラーを覗き、ヤツら位置を確認。そしてほぼ同時にフレアを射出。これで少しでも撹乱できればいいが。しかし、理想通りにはいかず羽虫達はバラまかれるフレアに一切感心を持たずにこちらを真っ直ぐ睨みつけながら迫ってくる。
休む暇もなく前方から甲虫型が一体ミサイルの如く突っ込んでくる。スピード的に体当たりをする気だろう。
「次から次へと!!」
咄嗟にバレルロールで躱す。後ろへ抜ける際風圧でキャノピーが小刻みに揺れる。そのまま後ろにへばり付いている羽虫に当たれば願ったり叶ったりだがそう都合良くはいかず羽虫共も易々と回避する。
「あぁ、くそ!くそ!」
思わず品性の欠片もない悪態が漏れる。普段からは想像できないほど焦っていることが自分でも感じられる。このままの調子では戦闘隊の全滅も目前だ。空母打撃群も壊滅するだろう。その事に薄々気がつき始めた。俺達がここでいくら戦っても敗北は避けられそうにない。さらに相手は人間ではなく知性が感じられない化け物共だ。ヤツらに敗北することすなわち死である。つまり、死への明確なカウントダウンが見えているのも同然なのだ。それに加え、正体不明の別物の焦りもあった。何か、遠くから誰かに監視されているような……。
状況は好転せず、仲間は次々撃墜され、護衛艦は一隻撃沈された。俺も羽虫2匹に追われているままだ。
だが、変化は突然訪れた。
《なんだ? ヤツらの様子が変だ》
隊長の困惑したような無線が聞こえた。続けざまに別の無線も聞こえてくる。
《化け物達が空母から離れていく……》
《どういうことだ?》
《怪物共が退いていくぞ。何が起こった?》
いつの間にか俺の背後にへばりついていた羽虫型の怪物も消えていた。空母に目を向けると怪物の群れが空母から離れ明後日の方向に飛んでいくのが見えた。
今まで怪物側が優勢だった。こちらの全滅も目の前だった。なのに何故今のタイミングで退くのか?やはり動物は動物でしかないのか?ただの気まぐれか?
《助かったのか……?》
《あぁ、よかった……神様、感謝します》
《油断するなよお前ら。よし、エディ。今のうちに空母に帰っちまおう。上からの退却命令も出た。今すぐ戻ってこい。どうせ燃料ももう無ぇだろ?》
「了解、スカル4、帰投します」
どうやら化け物共は退却したようだ。とりあえずは助かったらしい。だが、俺のなかに渦巻く不安は残ったままだ。どこかで聞いた、「安心したときが一番危ない」という言葉が脳裏を掠める。
──まさかね。
もしこの退却がこれから止めを指すための第2波の準備だったら? そんなネガティブな憶測が湧き出てくるが無理やり押さえ込む。そしてとりあえず空母へ向かおうと操縦桿を傾けた。
その時だった。
バリバリバリバリッ!!
空気の避ける音が響き、辺りが眩い青白い光で満たされた。何事かと俺は音のしたほうへ首を向けた。すると、そこには信じられない光景があった。
まるで大樹のようなとてつもなく太い光の槍が空母のど真ん中を貫いていた。レーザーだ。それも規格外に大きな。光の槍は水平線の彼方から放たれていた。水平線の彼方にはいつの間に現れたのか、巨大な黒い影があった。
青白いレーザーはしばらく空母を貫き続けたあと、そのまま横へ駆逐艦を巻き込みながら凪払われた。
ドォォォォォォォォォン!!
空母が爆音と水柱と共に大爆発を起こし、衝撃で中心から真っ二つに割れた。駆逐艦も立て続けに爆発した。船の側面には横一線にレーザーの高温で融解した跡が残っていた。上半分をレーザーにまるごと切断された艦もある。まさに一瞬の出来事だった。
《後方より浸水!もうこの船はだめです!》
《だめですって言われたってどこに逃げる?! どうせ怪物共も戻ってくるぞ!》
《空母、壊滅! いや、撃沈を確認!》
《そんなッ死にたくな────》
先ほどまで安堵の声があがっていた無線も阿鼻叫喚しか聞こえなくなった。
そういえばキャプテンは──?
「スカル1!聞こえますか?」
《─────────》
『キャプテン!無事ですか?!応答してください!』
《──────》
いっこうに返事が帰って来ない。ノイズが聞こえるだけだ。まさか、キャプテンも爆発に巻き込まれてしまったのか。
「くそ! こちらスカル4! 誰か、誰か応答をッ!」
無線を飛ばすが誰からも応答がもう来ない。無線から聞こえるのは静寂のみ。それが表す答えは一つ。
──全滅? この短時間で?
いずれは全滅していたであろう状況であったが、それでもあと1・2時間は持ちこたえれる余裕はあったはずだ。
それを一瞬で粉砕した。あのレーザーは。
それに目前の怪物達の行動も理解できた。ヤツらはこのレーザーの存在を認知しており、攻撃に巻き込まれたくないから退避したのだ。もしくはそう命令を受けたか。
そもそもレーザーだなんて馬鹿げてる。人類にだってまだ開発できていない代物だ。それをあろうことか化け物が使用してくるとは。
あれがあるのなら、最初から俺達に勝ち目なんてなかったのだ。何が「助かった」だ。全く逆じゃないか。
ああ、水平線に黒い点がいくつも見える。あれが恐らく第2波だろう。ハゲ鷹のようにお零れを漁りにきたのかもしれないが。今度こそ終わりだ。燃料もほとんど残っていない。俺ももうすぐ死んでいった戦友のもとへ行くことになるのだ。
突然、低い轟音が耳に入った。それは化け物が出す鳴き声とも違った。レーザーを放った巨大な影が発しているのかと思った。しかし違うようだ。むしろそれはエディには聞きなれた音だった。音は近づいてくるように大きくなる。そして音の正体がエディの真横を猛スピードで通過し遠くの怪物共に突っ込んでいった。
ミサイルだ。それもAAM。しかし、もう味方はいないはず。一体何処から。
さらに響く無数の轟音がその答えだった。灰色の機体、ステルス性向上の為に斜めに付けられている尾翼、そして鉛筆のように尖った期首と切り裂くような翼。
《こちら
なんと早期警戒管制機までいるようだ。
「こちら……空母トマス・ジェファーソン所属スカル隊4番機、エディ・ピアースです」
《噂の新人か。よく生き残った!他に生存者は?》
「無線で呼び掛けましたが全て応答無し。全滅したものと思われます。生き残りは自分だけです」
《そうか…… とりあえずお前はこの空域から離脱しろ。こちらの基地までうちの機が誘導する。空中給油機も後方に待機させてある。燃料の心配はしなくていいぞ。まずは無事に帰還することだけ考えろ》
「了解しました。スカル4、
エディの両サイドに2機のF-16がつく。あとは彼らについていき基地に着陸するだけだ。
キャプテンや同じ隊の先輩、そして他の隊も余すこと無く優秀な人たちだった。どんな敵にも臆すること無く立ち向かう鋼の精神を誰もが持っていた。それなのに、隊に入ってすぐの未熟な新参者だけが一人生き残った。理不尽だ。死ぬのなら自分だった。彼らではなかった。何故自分だけ生きているのか。
この戦いはエディの精神に深い深い傷を残した。
後にこの太平洋沿岸の戦いは「サンフランシスコ海戦」と呼ばれることとなった。
水平線の彼方に居たあの影は戦いの後、空へ向けてレーザーを発射。各国の人工衛星を破壊し、文字通り人類から空を奪った。
怪物との戦闘は世界中あらゆるところで行われていた。その規模の大きさはまさしく世界大戦だった。
◇ ◇ ◇
この戦いの1年後、人類は怪物に敗北した。
怪物はガストレアと名付けられた。そしてこの怪物との世界規模の戦闘を『ガストレア大戦』と名付けた。
ガストレアは地球上の生物にガストレアウイルスが感染することで誕生する。感染した生物は巨大化や皮膚の硬化や凶暴化、驚異的な再生能力を宿し人間を襲い始めた。
ガストレアはステージⅠからステージⅣに分けられることとなった。ステージⅠは感染したもとの生物の原型を留めているがステージが上がっていくにつれ様々な生物のDNAを取り込むのでもともとの生物の原型を残さなくなる。そのため、完成形のステージⅣは幾つもの生物が融合した異形の姿となる。サンフランシスコ海戦のガストレアはもとの生物の判別が可能なものが多かったことから襲ってきたのは主にステージⅠ~Ⅱのガストレアだという研究結果が海戦の生存者の証言から得られた。
サンフランシスコで空母打撃群を壊滅させたガストレアはステージⅠ~Ⅳのどれにも属さないステージⅤに分類、十二星座の一つ、
戦時中、人類はとある金属を新たに大量に発掘した。バラニウムである。バラニウムはガストレアの驚異的な再生能力を阻害する性質を持つ唯一の物質で、ガストレアに対する矛や盾に加工され重宝された。しかしこのバラニウムをもってしてもゾディアック達には敵わなかった。ゾディアックはバラニウムの持つ再生能力を阻害する性質の影響を受けなかったのだ。
国連は大戦を生き残った優秀なパイロットを国籍を問わずかき集め、国連主導の対ガストレア航空部隊、「
そうして結成されたA.G.A.Fは順当に各地で戦果を上げ、ガストレア掃討の象徴として同じくガストレアを掃討する各国の軍隊や民間警備会社と共に讃えられた。
◆ ◆ ◆ ◆
ティナ・スプラウトはニューヨークにて小道を歩いていた。次の日本での任務のために彼女は日用品などの小物をニューヨークに買いにきたのだ。もう紙袋をいくつか手にぶら下げている。
幾つもの雑貨店や日用品店を巡りさあ帰ろうかと思ったとき、それは聞こえてきた。
『我々人類はまだ負けていません』
貫禄のある、しかし、まだ若さの残る声だった。声の発生源に思わず目を向ける。それは家電量販店のテレビから発せられていた。男性ジャーナリストがとある男に取材に行った際の映像のようだった。題材の男は見た感じ、20代後半から30代前半といったところか。画面の端にある文字には『A.G.A.Fの若き隊長、エディ・ピアース』と書かれている。
A.G.A.F。聞いたことがある。マスターが皮肉混じりに言っていた。今の時代、彼らほどガストレア殲滅に躍起になっている集団は無い、と。
『負けていない……というと? 今、人類は大戦の結果、バラニウム製のモノリスの中に閉じこもるに至っていますが、それでもまだ敗北ではないと言うのですか?』
『ええ、その通りです。俺は真の敗北は完全な絶滅だと考えています』
『絶滅……ですか?』
『はい。誰一人死んでしまう完全な種の絶滅です。ガストレアは所詮生物です。ガストレアは大戦の時になにか降伏条件とか提示してきましたか? 人間のように。していないでしょう? 勝ち負けをすぐ決めてしまうのは人間の悪い癖です。降伏とかが無いのなら我々がいくら負けていないと主張しようが、それは自由なのです。"
彼は訴えるように続ける。
『誰もそれを言わなくなったとき、もしくは言えなくなった時が真の敗北だと思っています。人類が皆殺され、自分一人になったとしても"負けていない"ということは言えます。その時点ではまだ負けていないのです。このカメラの向こうの人達に言います。"負けていない"これを言い続けてください。頑固な子供のように。言い続けている間は少なくとも敗北ではありません。一人一人がこれを忘れない限り敗北は無いのです。
何度でも言います。我々はまだ負けていません。
俺達A.G.A.Fは、この言葉を胸に必ずガストレアから人類の空を取り戻します』
これを最後にテレビのチャンネルが切り替わった。
ティナはしばらく動けなかった。まさか、人類が大戦に敗北していないと考えている人が未だに存在するなんて信じられなかった。ティナは遠くにそびえ立つモノリスを見る。大戦の結果、バラニウム製のモノリスの結界に閉じこもるに至った人類をまだ負けていないと言うのか、彼は。
──まあ、でも。
もはや人間とは呼べない私達には関係の無い話。
そう自分に言い聞かせ彼女はカフェイン錠剤を口に放り込んだ。
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