War of Gastrea/Black Out   作:ワンちゃん二世

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オグデン防衛戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからざっと3週間。

 

 俺はユタ州オグデンにあるヒル空軍基地に到着後、そのままウルフパック隊に5番機として基地に配属された。

 

 ウルフパック隊は主にF-16Cを運用している部隊で、三匹の狼が月をバックに遠吠えするエンブレムが垂直尾翼に描かれている。

 

 ヒル空軍基地周辺には現在、大規模な難民キャンプが形成されており、各地から逃れてきた民間人で溢れ返っている。

 

 俺が以前いたジョーンズ基地周辺は既に怪物共に占領されており、その怪物共の進行速度から予想するとジョーンズ基地があったアイダホ州のほとんどがもう怪物の占領下にあるだろう。

 

 つまり、怪物共は今俺達がいるユタ州のすぐ横まで迫って来ている。しかし基地の周りに大規模なキャンプが生成されている以上、今までのようにすぐに撤退という訳にはいかない。

 

 

 

 ここで軍が選択した手段は単純だが無謀だと言えるものだった。

 

 

 

 

「ブリーフィングを始める」

 

 会議室に響いた基地司令の声にハッと我に返る。最近どうもボーッとしてることが多く、新しい隊のメンバーからも心配の声(からかい半分)があがっていた。俺もこのままではいけないと思っていたのだがまたやってしまっていたようだ。

 

「現在、アイダホ州方面から怪物共がこの基地に向けて進行中との情報を得た」

 

「その情報は確かですか?衛星が死んでいるのにどうやってその情報を得たのです?」

 

 ウルフパック隊2番機のハリーが記者のようにすかさず質問する。

 

「……偵察部隊の決死の偵察の賜物だ。残念ながら、つい先ほど通信が途絶。彼らが再び我が基地の滑走路に着陸することは叶いそうにないようだ」

 

 室内を暗い湿った空気が包み込む。それがただ気候のせいなのか俺達の心がそう感じさせたのかは分からない。基地司令はそんな空気はお構い無しに続ける。

 

「怪物共が迫って来ているからと言って今の基地の現状を見るとそう簡単に撤退も出来ないだろう。そこで我々は防衛戦を行うことを決定した」

 

 ざわめきが室内の湿った雰囲気を中和した。中和したといっても諦めが不安に変化しただけだが。

 

「防衛戦?」

 

「そうだ。実際はほぼ撤退戦みたいなものだが。諸君らには難民の避難が完了するまでの間、怪物共の進行を抑えてもらいたい。基地には幸い古い巡航ミサイルが残ったままなはずであるからそれを使えば諸君らも生き残れる。さらに首都から新兵器も輸送途中とのことだ。到着次第それも使用する。この戦いは先程までの敗走劇をまた演じるものではない。我々がこの戦いより戦争の潮目を変えるのだ」

 

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 ユタ州とアイダホ州の州境付近。

 

 緑の混じった荒野の上空をウルフパック隊の5機のF-16Cとオウル隊の4機のF-15C、そしてディーラー隊の4機のF-35AがそれぞれV字編隊で飛行していた。

 

《こちら管制室、コールサイン"バックラー"。全機、状況を報告せよ》

 

 

《こちらウルフパック1、ウルフパック隊準備完了(スタンバイ)

 

《こちらオウル1、準備完了(スタンバイ)

 

《オウル2からオウル4、準備完了(スタンバイ)

 

《こちらディーラー1、ディーラー隊準備完了(スタンバイ)

 

《こちらバックラー、準備完了確認。指示を待て》

 

《こちらウルフパック1、了解。ウルフパック1から各機、聞こえるか?新入りの言った戦法でやってみるぞ》

 

了解(コピー)、ウルフパックリーダー》

 

了解(ラジャー)、ウルフパック1》

 

《了解した》

 

了解(ウィルコ)、キャプテン」

 

 新入り──つまり俺の提案した戦法とはこうである。

 

 まず、フレアや機銃で怪物を牽制し、注意を引き付けわざと後ろにつかせる。それを数回繰り返し数匹集まったところを別の機がミサイルでまとめて撃墜する。

 

 単純だと言う声も上がった。だが、相手は所詮動物であり、機動力では戦闘機は怪物に劣るが戦闘機のジェットエンジンには怪物も勝てないので割りと有効なのではと俺は考えた。基地の考えていた作戦も同じようなもので、戦闘機で怪物共をなるべく一ヶ所に誘導し、ある程度集まったところに巡航ミサイルを撃ち込むという方法を提示した。

 

 この戦法には高い技量が求められる。しかし、話を聞いていた者のなかで文句を言う者は誰一人としていなかった。それどころか皆、獰猛な目をギラつかせ口角を上げている始末。ここの基地には戦士が多いようだった。

 

 

 

 

《こちらバックラー、レーダーに感あり。ヤツらだ。距離およそ13マイル》

 

 

 

 ついに怪物共が現れたようだ。

 

 俺にとってこの戦いは様々な意味を持つ。2回目、守る戦い、そして仇討ち。ヤツらはアイダホ州方面からやって来た。すなわち俺がかつて一時的に所属していたスチーム隊を殺した集団と同じだ。決して楽に殺してやるものか。

 

《距離およそ10マイル。全機、目視出来次第交戦を許可する。各隊リーダー機に続け》

 

《こちらウルフパック1。全機、なるべくツーマンセルで動け。ウルフパック3は俺と組め。ウルフパック2と4と5でエレメントを組み迎撃しろ》

 

《こちらウルフパック4了解。エディ、ハリー、よろしく頼む》

 

 こちらの機体のレーダーにもまばらに点が映り始める。その数、50以上。とんでもない数だ。

 

「了解。ウルフパック4の後ろに付きます」

 

《こちらも了解。同じくウルフパック4の後ろに付く》

 

 指示に合わせて編隊を変える。ウルフパック4を先頭に後ろに2が付きその隣に俺が並ぶ。ディーラー隊とオウル隊も同じく編隊を変え、それぞれ二つずつのグループに分かれた。

 

《距離8マイル。諸君、この基地を頼んだぞ》

 

 敵を目視で視認。遠くの青い空に無数の黒い点が見え始める。

 

 

 ──見ておけよ怪物共。人類はまだまだ終わっちゃいない。

 

 

 前方を飛ぶ隊長のF-16が加速し主翼の端から雲を引きながら突っ込んでいく。俺も他の隊もそれに続いて加速する。

 

 

 

《ウルフパック1、交戦(エンゲージ)!》

 

 

 それが開戦の合図だった。

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 

 状況は正しく乱戦だった。

 

 怪物の進行自体は何とか押し止めることに成功しているものの、こちらが不利な状況には変わりなかった。

 

 前方を飛行する機体の後ろに何匹もの羽虫型の怪物がへばり付いており、それをミサイルでロックオンしようにも自身も怪物に追われている始末なのでそれも簡単には出来ない。よく周りを見渡してみると、飛行している戦闘機の殆どに怪物共が群がっている状態だった。

 

 空を戦闘機が四方八方に飛び交う姿はまるで流星群のようだ。

 

 

《ウルフパック2!後ろに……5体!5体くっついてます!》

 

《了解!エディ、頼めるか?》

 

《了解》

 

 前を飛行するウルフパック2のF-16の真後ろに蜂を想起させる怪物が金魚の糞のように追随している。彼が急旋回や急上昇を試みるも昆虫由来の機動力で難なく追跡を続ける。だが、速度は戦闘機が圧倒的に速いので追いつくことはない。

 

《ウルフパック5、FOX2》

 

 エディは群がる怪物共をロックオンし、そのまま操縦桿のボタンを押す。翼の端に備え付けられたサイドワインダーミサイルが白い煙を吐きながら蜂型の怪物の群れへ突っ込み、爆散する。怪物共は炎に包まれながら地上に落下していった。

 

《ナイスショット!やるなぁエディ!》

 

 ウルフパック2は背中が軽くなったのか一度横回転した。

 

 先程からこの作業の繰り返しだった。これでサイドワインダーは使いきり、残りはアムラームが片側3発ずつ。数は墜としているはずだが、まるで減っている気がしない。

 

 突如、アラームがコックピット内に響き渡った。

 

 これはミサイル接近中のアラート。

 

《巡航ミサイル接近!全機、当該空域から離れろっ!》

  

 キャプテンの張り裂けんばかりの無線が聞こえてくる。

 

 レーダーに赤い円状の枠が表示された。この枠内が危険空域だ。逆に言えばここに怪物を誘導出来れば一網打尽に出来る。

 

 エディは操縦桿を傾けた。

 

《おいウルフパック5、なにやってる!そっちはミサイルの弾着空域だ!巻き込まれるぞ!》

 

 誰かの無線が聞こえてくるがそんなことは今は無視。

 

 エディはすれ違う怪物の殆どに機銃を撃ち込み何とか数匹注意を自分に向かせる。すると、いつの間にかエディの背後には7体ほどの蟲の怪物が連なっており、エディは怪物共を引き連れたままレーダーの赤枠のど真ん中へ突っ込んでいく。

 

 キャノピー越しに基地の方面からトマホークが迫ってきてるのを確認。このスピード、このタイミングならイケる。

 

「ついてこい、畜生共め!」

 

 スロットルを全開にし、急加速。コックピットの背もたれに身体が押さえつけられる。

 

 アラームがいっそう激しさを増し、別のサイレンまでなり始める。うるさい。黙ってろ。

 

 機体が赤枠の中心を通過。一気に離脱に掛かる。そして赤い枠から機体がもう少しで出るという瞬間、背後で轟音が鳴り響いた。

 

「くっ…!」

 

 機体が爆風で小刻みに揺れる。エディは操縦桿を強く握りしめた。警告を告げるアラートがひっきりなしに鳴っている。

 

 やがて揺れは収まり、アラートが消えた。後ろをみると爆発で出来た煙の塊から炎で包まれた怪物だったものが落ちていくのが見える。どうやら成功らしい。

 

《ウルフパック5、エディ無事かっ!》

 

 ウルフパック2、ハリーの声だ。彼はエディがウルフパック隊に配属されてから何かと面倒を見てくれる先輩で、歳もそこまで離れてなかった。なので隊のなかで一番最初に親しくなった。

 

「こちらウルフパック5。機体や計器類に異常無し。無事です」

 

《全くお前は無茶しやがって。だがお前のお陰でヤツらの数を減らせる方法が確定したな》

 

《そうだな。新入りと同じことをやれば間違いなく数が減る。ただ少々難しそうだがな。だが手段を選んでる暇はこちらには無い。こちらウルフパック1、全機に告ぐ。出来る者は新入りと同じことをやってみろ。危険は伴うが相応の効果も期待できるぞ》

 

了解(ウィルコ)

 

《了解した》

 

 隊長の無線に皆、了解の無線を飛ばす。

 

 エディは周りの怪物を引き付けるために横回転しながらフレアを撒く。機体後部から小型花火のような物が複数射出された。怪物共はその光に釣られてエディの後を追う。他の戦闘機も同様に次々とフレアを撒き始めた。

 

《オウル3!後ろに4体へばり付いてるぞ!》

 

《分かってる!ってそっちも5体に追われてるじゃねぇかオウル2!》

 

《こちらディーラー2!後ろに6体!これ以上は手に負えない!》

 

《無理するなよ!限界だったらへばり付いてるヤツを撃墜してもらえ!》

 

《了解!──うわっ!前からも来t───────》

 

 

 

《ディーラー2、応答しろ!ディーラー2!くそっ!こちらバックラー。ディーラー2撃墜(ロスト)!》

 

《くそっ!》

 

「ちぃっ……」

 

 思わず顔が歪む。殆ど自分の考案した作戦で死んだようなものだ。

 

 更に2回、爆裂音が聞こえてくる。その直後、管制室から悲鳴にも似た無線が響いた。

 

《更に2機撃墜(ロスト)!オウル4と……これはウルフパック3か!》

 

「そんな…くそっ!キャプテン、そちらの状況は?!」

 

《今巨大昆虫の大群に追われてる!》

 

 大体11時の方向、動きが秀でているF-16の後ろにハエに似た虫が大群を作りF-16を追い回しているのが見える。

 

《エディ!隊長を助けるぞ!俺に続け!》

 

「了解!ウルフパック2!」

 

 ウルフパック2がキャプテンの元へと突っ込んでいく。それに続く形でエディも猛スピードで突っ込んでいった。更にその後ろにウルフパック4も続いた。

 

《大丈夫だ!このままミサイルが来るまで引き付けてやるさ!》

 

《こちらバックラー、トマホーク発射確認。全機、備えろ!》

 

《言ったそばからいいねぇ!──っ!おいっ!お前ら前から来るぞ!回避(ブレイク)しろ!》

 

 前をみると、真っ黒な外殻を持ったカブトムシのようなものが高速で迫ってきていた。あれに体当たりされたら機体が粉砕するだろう。

 

 エディは反射的に敵ミサイルを回避するときのようにフレアを撒きながら機体をひねって回避。他2人もどうにか回避したのを確認。しかし、フレアを撒いたのが原因か、カブトムシ達はエディのみにターゲットを絞ったようで、ターンしてこちらへ戻って来る。

 

 スロットルを全開、アフターバーナーも点火する。同時にレーダーに赤い枠が写し出される。

 

 そっちがその気ならこっちも徹底的にやってやる。

 

「隊長、付いてきて!枠の中心へ!」

 

《よぅしわかった!》

 

 右旋回し、レーダーに示された赤枠の地点へ全速力で突入する。その後ろに隊長のF-16が続き、更に後ろに羽虫や蜂などの虫型の怪物が列を成して続いた。

 

 ミサイル接近のアラームが鳴り始める。だが、スピードは緩めない。隊長も付いてきている。ここでヒヨったら全てが終わる。

 

 機体は既に赤枠に入った。危険空域の警告アラームも鳴り始める。ミサイルアラートも激しさを増す。

 

 

「《イッケぇぇぇぇぇぇぇ!!!》」

 

 

 自身の叫びと隊長の雄叫びが奇しくも重なった。

 

 機体はそのまま追い風に押されるように危険空域外を目指す。そしてレーダー上の赤枠から離脱できた瞬間、背後で巡航ミサイルが炸裂。先程から後ろに連なっていた怪物共を巻き込み特大の爆炎の花を咲かせた。

 

 少し遅れて爆風がエディの機体を襲う。ガタガタとコックピットが音を立て、異常を知らせるアラートが鳴り響く。

 

 だがそれも一瞬で収まった。後方をみれば今までへばり付くように追ってきていたカブトムシ達はいなくなっていた。ミサイルが生成した爆煙の中から隊長のF-16が飛び出してくる。同じく後方に怪物の影は見えない。今度も上手くいったようだ。

 

《ヒャッホウ!成功だ!ヤツらもあらかた落とせたんじゃないか?》

 

 周りを見渡すと、確かに最初と比べて圧倒的に少なくなっている。他の機が上手く墜としてくれていたようだ。

 

 このまま順調にいけば、ひょっとしたら戦争が始まって以来の善戦になるかもしれない。

 

 

 

 だが、そう上手くはいかないのが世の常である。

 

《警告!ボギー10出現(インバウンド)!速いぞ!それに高い!高度約8000mから降下してくる!気を付けろ!》

 

 管制室の絶叫が鼓膜の奥を震わす。

 

 上を見ると、太陽の中から複数の平たい影が浮き出てきているのが見えた。その影達はどんどん大きくなり、明確な形となり始める。

 

 それは鳥だった。大きさはおそらくF-16よりも一回り大きい。

 

 猛禽類特有の曲がった嘴。鋭い爪。そして何より目につくのは、その二対ある大きな翼だった。

 

 容姿といい、大きさといい、インディアンに古くから伝わるサンダーバードを思わせる。どうみてもこの上ない脅威である。

 

《全機、回避(ブレイク)回避(ブレイク)!》

 

 隊長の無線を合図にエディは操縦桿を右に傾ける。機体も右に傾き、その瞬間サンダーバードがすぐ真横を通り抜けた。

 

 斜め前でオウル隊のF-15がサンダーバードの体当たりをもろに喰らい、翼で縦に真っ二つに切り裂かれた。

 

《ぐわぁ!!!────》

 

 接触時間はほんの一瞬であったのに、硬い鋼鉄の機体をいとも簡単に真っ二つ。

 

 まるで昔テレビで見たニッポンのサムライのような一刀両断。そんなの聞いてない。ふざけないで欲しい。

 

《くそっ!オウル2の撃墜(ロスト)を確認!》

 

《今の見たか?!翼が4つあった!》

 

《分かってる!コイツらは今までのとは違う!各機警戒しろ!》

 

 巨鳥達はそのままターンし、上昇していく。ヤツらは一撃離脱戦法を得意としているようだ。

 

 巨鳥が身を翻し再度降下してくる。徐々にスピードを上げ翼から白い線を引き始める。

 

 狙いは5の数字が描かれたF-16。すなわちエディの機体。

 

 巨鳥は真っ直ぐ突っ込んでいき、そのまま鉄のボディを硬化した翼で切り裂く────はずだった。

 

 エディは衝突の瞬間、バレルロールを実行。機体を捻り間一髪巨鳥の突撃を避ける。そしてそのまま通り抜けた巨鳥を追い降下を開始。巨鳥もそれに気づき身を捻る。そして両者はそのまま下降しながらローリングシザースの機動に移行する。

 

 螺旋を描きながら下降をしていく両者。しかし、地面が近づき巨鳥が地面スレスレで身体を振り上げ何とか衝突を回避。まだ若干高度に余裕のあったエディはそのまま機体を上げ追跡続行。この時、エディの身体に地上の4倍ほどのGがかかり、コックピットに身体が沈みこみ視界が真っ暗になりかけるがエディは一切うめき声も出さずに状態を維持。

 

 空の王者と科学の結晶の対決。どちらが勝利してもおかしくはない。

 

 巨鳥は身を横回転させたり急旋回を試みるが、後ろにいる空飛ぶ鉄の塊は難なく付いてくる。

 

 一方エディは巨鳥のロックオンを完了していた。ピピピ……と、もはや聞きなれた音が鳴り、そのまま操縦桿のボタンを押す。

 

「ウルフパック5、FOX3!」

 

 翼の下に吊り下げられていた2発のアムラームミサイルが翼から切り離され、そのまま後部のロケットを噴射。そして前方の巨鳥目掛けて突っ込んでいく。

 

 巨鳥は咄嗟に左に回避行動をとるがもう間に合わない。ミサイルは巨鳥の胴体に直撃。ド派手な音を響かせて爆散した。巨鳥は赤い地煙と肉片を撒き散らしながら落下していく。

 

 自然対科学の対決はこの瞬間は科学の勝利に終わった。

 

《こちらバックラー、ウルフパック5が1体撃墜!》

 

《ナイス!》

 

《よくやったウルフパック5!》

 

《だが他は少々状況がよろしくないな。そんな諸君らにここで朗報だ!新兵器が基地に到着し今発射の準備を進めている!出来次第発射するからそれまで持ちこたえてくれ!》

 

 発射、というくらいなのだからおそらくミサイルだろう。これは期待ができそうだ。

 

「ウルフパック5了解。これより援護に入ります」

 

《エディ、すまんがこっちに来てくれ!ウルフパック4が鳥野郎2匹に追われてる!》

 

 ハリーの無線だ。声の焦り具合から相当深刻な状況と予想出来る。

 

了解(ウィルコ)

 

 エディは機体を傾け、右旋回。ウルフパック4のもとへと急ぐ。

 

 10時の方角にウルフパック4を確認。巨鳥2匹にしつこく追い回されている。後ろのウルフパック2が援護しようてしているようだが、彼らの多彩な機動に付いていくのに必死で援護が出来ていない様子。

 

 エディはウルフパック4の進行方向に先回りする。そして真っ正面の位置につき、そのまま加速。

 

「ウルフパック4、合図で右に回避を」

 

《はぁ?なに言って──── なるほど。分かった、合図で回避する。ハリーも備えとけ。来るぞ!》

 

 エディはアフターバーナーを点火。全速力でウルフパック4に突っ込んでいく。

 

 

「合図、3── 2── 1─── 今ッ!!」

 

《フンッ!!!》

 

 正面のウルフパック4のF-16が右に急旋回。すると、その後ろで彼を追い回していた巨鳥達の姿がエディのHUD越しに現れる。エディは臆せずそのままヘッドオン。

 

 赤目の巨鳥は突然現れたエディに驚き、翼を目一杯広げて急ブレーキ。だがそれは悪手。ただ的が大きくなるだけ。HUDのレティクルが絞られ2匹ともロックオン完了。貰った。

 

「ウルフパック5、FOX3!」

 

 翼の下に懸架してある残り4発のアムラームミサイルのうち、2発を発射。それぞれ巨鳥のもとへと白い線を描きながら飛んでいき容赦なく突き刺さる。同時に爆発した。

 

《ウルフパック5が2体撃墜!よくやった!!》

 

《WHOOOOO!!グットキル、エディ!!》

 

《ナイスだエディ!》

 

 エディは近くにヤツらがいないことを確認し、ふぅ、と息を吐く。だが、それ以上の安息を許して貰えなかった。

 

《こちらバックラー、敵の第二波と思われる反応を感知!多いぞ。全機今すぐ退却だ!民間人の避難もたった今完了した。および新兵器の発射も確認。繰り返す!新兵器発射!危険空域から離脱せよ!先程よりも大きいぞ!》

 

 レーダー上に赤い枠が出現。その大きさは戦闘空域のおよそ半分ほどを覆うほど。ほとんどの機が赤枠の内側だ。トマホークとは比べ物にならない。

 

《こりゃ期待できそうな新兵器だ。こちらウルフパック1、全機、潮時だ。編隊を組め。撤退するぞ》

 

了解(ラジャー)

 

《了解です》

 

《こちらディーラー1了解》

 

了解(ウィルコ)、キャプテン」

 

 指示に従いキャプテンの斜め後ろに位置つく。続いて隣にウルフパック2、更に後ろにウルフパック4が並ぶ。他の隊も同じようにV字編隊を組んでいく。

 

 全機、アフターバーナーを点火。マッハ2の速さで空域を離脱していく。その速さに怪物共も付いていけていない。

 

 エディはレーダー上の赤い枠の外に出るのを今か今かと待っていた。ずっとレーダーを気にしていたからこそ気づけた。

 

 レーダー上に点が一つ、我々と同じ地点に出現する。エディは周りを見渡すがレーダーに映るようなものは無い。疑問に思いながらもエディは今度は真上の煙がかった空を見上げる。

 

 そして目を見開いた。

 

 先程俺達を直上から襲った巨鳥が1匹急降下してきていた。

 

 新手?群れからはぐれていたのか?そんなことはどうでもいい。問題は誰を狙っているのかと、自分以外誰も気づいていない点だ。

 

 嘴の角度から予想すると────標的は自分じゃない。そのとなり。ウルフパック2、ハリーだ。

 

 エディは声を張り上げた。

 

「ハリー!!上から来るぞ!回避!!」

 

《ああ?上?───うぉ!マジか!》

 

 ウルフパック2のコックピット内でハリーが同じく首を上に向けるのが見える。しかし、そんな動作をしている余裕はない。巨鳥はスピードを上げてハリー目掛けて突っ込んでいく。

 

《くそっ!間に合わな──》

 

 

 

 

 

 エディの手は脳の命令を無視して勝手に動いた。それは咄嗟の行動であり、ほぼ無意識だった。

 

 エディはそのまま操縦桿を倒し、ハリーの機体の上に覆い被さるように機体を移動させる。

 

《────っ!エディ!!よせっ!!!》

 

 

 

 

 

 その瞬間、エディの機体に赤目の巨鳥が無慈悲に突き刺さった。

 

 機体は翼を脱落させ煙を吐きながら回転し急降下する。巨鳥も頭から突っ込んだからか、血のようなものを吐きながら落ちていく。

 

 刹那、機体のキャノピーが弾け飛び、コックピットから勢い良く何かが飛び出す。

 

 エディだ。彼は機体と共に落ちるのではなく脱出を選んだらしい。

 

 白いパラシュートが開く。ひとまず彼は生きているようだ。

 

 だが、それで終わらなかった。

 

 

 

 

 ハリー達の上空を背後の危険空域に向かって何か高速の細長い飛翔体が通りすぎる。

 

 管制室が言っていた新兵器とはあれのことだろう。これで怪物共に大打撃を与えられるはずだ。

 

 だがエディは───?

 

 エディはその空域にパラシュートで浮かんだままだ。

 

「そんな……よせ──」

 

 ハリーの口からか細い声が漏れる。

 

 ミサイルは勢いを緩めることなく爆発地点に到達。そして───

 

「よせぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 空域全体を轟音と共に真っ黒の爆風と爆煙で台風のように覆い尽くした。

 

 彼の白いパラシュートも巻き込みながら。

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

────────────────

 

 新兵器の実証実験は成功。

 

 基地に迫っていた怪物の第二波は、巡航ミサイルに搭載された粉末バラニウムの煙に妨げられアイダホ州方面へ撤退した。

 

────────────────

 

 

 この戦闘で4人死亡、1人が行方不明となった。

 

 しかし、この犠牲は戦争が始まって以来最低の数字であった。

 

 この戦闘で考案された戦法は"オグデン戦法"と名付けられ、世界各地に広まっていった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎は延珠と一緒に勾田大学病院の地下室に来ていた。

 

 先日行われた東京元首の聖天子と大阪元首の斉武宗玄の非公式会談の帰り途中に聖天子様が狙撃された件について、勾田高校で生徒会長で司馬重工の令嬢である司馬未織に話を聞いていた。そしてその帰りに勾田大学病院の地下室の女王である室戸菫に延珠共々呼び出されたのだ。

 

 そこで聞かされた話は蓮太郎の予想を越えていた。

 

 室戸菫が四賢人と呼ばれる天才の1人だったこと。四賢人のメンバーのこと。そして四賢人がそれぞれ作った機械化兵士のこと。

 

 蓮太郎自身も彼女の施術により誕生した機械化兵士だが、彼女がどんな存在なのかは結局曖昧なままであった。それを今回明確に教えられた訳である。

 

 

 

「……つか先生、アンタそんな凄ぇ奴だったのかよ」

 

「なに、大したことないさ。君や延珠ちゃんが一冊の本を読むように、私は一つの図書館を読んでいく。違いはそれだけさ。簡単だろ?君は私のことを検死官くらいにしか思っていないかもしれないが、本来私に専門分野というものは存在しない。全てが私の専門分野だ。──あぁ、そうだ」

 

 菫は何かを思い出したかのように机の上を漁り始めた。積み上げられた書類を掻き分け、ようやく取り出したのはテレビのリモコンだった。

 

「もう一つ、機械化兵士に関して面白い話をしてやろう。君はテレビを見るか?」

 

「まぁ、たまに」

 

「では彼を知っているかもしれないね」

 

 そう言って菫は部屋のすみにあった黴びたテレビを点けた。そしてリモコンを操作し何かの番組の録画を再生する。

 

 その番組は、蓮太郎達が事務所でたまたま見たドキュメンタリー番組だった。画面の左上には前と同じように『A.G.A.Fの若き隊長、エディ・ピアース』と書かれている。

 

 延珠が黄色い声を上げた。

 

「あ!この男なら事務所のテレビで見たぞ。確か……アイサフ?ってところの隊長さんじゃなかったか?」

 

「延珠ちゃん、少し惜しい。彼はA.G.A.F(エイガフ)の隊長さんだ」

 

「おぉ、エイガフか」

 

「先生。この隊長がどうかしたのか?」

 

「機械化兵士というのはさっきも言った通り大抵が秘匿されていて大戦のあとは民警などの戦闘職に就いた者が多い。口外はしないで欲しいが──実は彼もその一人なんだ」

 

「なッ──!」

 

「ほぉー」

 

 蓮太郎は目を見開いた。

 

「だ、誰が作ったんだ?」

 

「それについてだが、もちろん私ではない。エインでもないしアーサー・ザナックでもない。かといってグリューネワルト翁が施術したわけでもない。聞いて驚け。彼を施術したのはアメリカ中の名も無き医師達さ」

 

「名も無き医師……?」

 

「そうだ。彼は大戦初期にガストレアとの戦闘で瀕死の重症を負い結果的に両足を失った。彼は若いが並外れた腕を持つパイロットだったから軍も彼を死なせたくなかったのだろう。軍はアメリカ中の医師を集めてどうにか彼を蘇生したんだ。バラニウムの義足もつけてな」

 

 蓮太郎はヒドい話だと思った。菫の話だと彼は瀕死のところを軍の都合で無理やり生かされたようなものではないか。

 

「彼の義足のスペックを見たことがあるが、殆ど義足としての役割しか果たしてなかった。まぁ、アメリカ中の医師を集めても我々には敵わなかったということかな。しかしな、戦闘機のパイロットにとって足を義足にするというのは非常に大きな意味を持つんだ」

 

「大きな意味ってなんなのだ?」

 

「君たちは"ブラックアウト"って知ってるか?」

 

 蓮太郎は首を横に振った。

 

「いや……」

 

「じゃあそこから説明していこうか。ブラックアウトというのは言葉の通り飛行中にパイロットの視界が真っ暗になることだ。」

 

 菫は傍らにおいてあったホワイトボードを引き寄せて、なにか人体の図のようなものを描いていく。

 

「主な原因は戦闘機が旋回する時などにかかるGだ。身体に地上の何倍ものGがかかれば当然それは身体の内部にも影響がある。そしてそれは血液も例外じゃない」

 

 ホワイトボードに描かれた人体図を囲うように赤いペンで線を描く。

 

「身体にGがかかることで血液もGの影響で下に下に押されていってしまう。すると脳に送られる血液量が減り、同時に送られる酸素の量も減る。そして結果的にブラックアウトだ。ひどいときは失神もしてしまう。そこで現代のパイロット達はそれを防ぐために対Gスーツを着ているんだ」

 

 菫は人体図の脚部を赤いペンで塗りつぶした。

 

「対Gスーツは下半身を締め上げることで下半身に血液が集まることを軽減するものだが、今はどうでもいい。さて、そのパイロットを悩ませるブラックアウト。実は対Gスーツを使わずにそれを極力防げる方法があるんだ。蓮太郎君、もうわかるだろう?」

 

「……まさか」

 

「そういうことだ。血液が集まる足を無くしてしまえば、多大な重力が襲ってもブラックアウトせずに耐えられるという理論だ。まあこれでは逆のレッドアウトは防げないがな。つまるところ、彼はエースパイロットを約束された男なのさ」

 

 人体図の足をクリーナーできれいさっぱり消してしまった。

 

「蓮太郎君。これがガストレア大戦だ。どの国もガストレアを倒すためならなんだってやってきた。もちろん日本も。機械化兵士計画もその端くれに過ぎない」

 

 確かに蛭子影胤事件の時に千寿夏世も言っていた。大戦で『奪われた世代』の世道人心は乱れ、ただ殺戮能力に特化した兵器が大量に開発されたと。天の梯子もその一角に過ぎないと。最も、それに関しては目の前のマッドサイエンティストに聞いたほうが早そうだが。

 

「ちなみに各国の機械化兵士計画は彼の施術を契機に発足したと言っても過言ではない。言うなれば彼は人類最初の機械化兵士さ。そして、君の大先輩だ」

 

 蓮太郎は力が抜けたようにスツールにへたりこんだ。

 

 今日はものすごい話を聞いてしまった。自分がいかに大海を知らないのかということを目の当たりにされた。

 

 機械化兵士は自分や影胤しかいないと思っていたわけではないが、まさかテレビの向こう側のあの人までそうだと思わなかった。もしかしたら木更さんも実は機械化兵士かもしれない。

 

 だが、木更さんが所属を名乗るのを想像してそのシュールさに思わず口角があがってしまう。気が抜けて油断してしまっていた。

 

 

 

「蓮太郎君、君は何をニヤニヤしてるんだ?」

 

「へ?いやっ、これは…」

 

「まさか、人が話している時に話も聞かず、またエッチなことでも考えてたのか? ホントに変態だな君は」

 

「そうなのか、蓮太郎!」

 

 延珠は目を輝かせながらこちらを見つめてくる。

 

「ちょ!違ぇよ!先生延珠もいるのに変なこと言うな!」

 

「じゃあなぜニヤついていたか言ってみろ」

 

「いや……それは……」

 

 まさか木更さんのことでニヤニヤしていたとは言えない。

 

「ほらな? やっぱりエッチなことだ」

 

 そこでなにかに気づいたのか、菫がニタァっと笑った。

 

「なあ前から思ってたんだが、君は昼間は学校、放課後は木更と事務所、家では延珠ちゃんと一緒だよな?健康なオスとして溜まったものをいつ処理しているんだ?聞かせてくれ」

 

 

 

 この後、蓮太郎は菫に延珠の目の前で散々弄られた。

 

 

 

 

 

 

 




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