~二○○○、執務室~
「……やるべきことって何だ」
さっきからその事ばかり考え続けている。俺の出世……というより普段ははっきりした愚痴と悪態しか見せない五十鈴が急にふわっとした質問をしたことが気がかりで仕方がない。
そしてそうこうしているうちに執務室の扉がノックと同時に勢いよく開かれる。
「遅いっぽい~!!!」
ノックをしたら飛び込んでもいいってものでもないからな?という俺の注意も聞かずに夕立はまた床に寝転がってゴロゴロ転がって抗議をしている。
「夕立待ちくたびれたっぽい~!!」
「うーむ……」
確かに夕立の言っている事はもっともである。遊ぶ約束をしたのはいいが遠征メンバーが一向に報告に来る気配がないので遊びに行けないまま結構な時間が経過した。
「すまんな、五十鈴たちが戻ってこなくて、それさえ終われば行こうと思っていたんだが」
俺がそう言うと夕立は「本当?」と若干の疑いの目を向けてくる。嘘じゃないぞ、執務の疲れは駆逐艦で癒すものだからな。え、違う?
「あぁ、本当だよ、現に今日の分の仕事はその遠征の分以外は終わらせた」
「うー……じゃあ五十鈴たちが戻ってくるまでここで遊べるっぽい?」
「おう、ただしあいつらが来たら悪いが中断するからな、で、何をして遊ぶんだ?」
「考えてなかったっぽい!」
「おい」
「秋雲を探していたら考える時間が足らなかったっぽい?」
お前さては最初に飛び込んできた時も何も考えていなかったな?
俺がそうツッコむと夕立は近くにあった椅子に座ってうんうんと唸りだす。
「何がいいかなぁ……楽しい事がいいっぽい……」
その姿をのんびり見ているとタイミング悪くドアがノックされる。
「提督?入るわよ」
「あぁ、どうぞ」
そう言うと入ってきたのは入渠上がりの五十鈴たちであった。
「あら、夕立とお話し中だったかしら」
「いや……まぁいいだろう、夕立もその話の内容を必死に考えているところだからな」
「はぁ?よく分からないんだけど……報告をしていいということでいいのかしら」
相変わらず冷たいやつである。演習や出撃の成績はいいし遠征でも駆逐艦からの評判は中々だがこういう所がどうしても受け入れづらいんだよな。
「……して、報告を頼む」
「はい、五十鈴旗艦、ハ号艦隊は……」
「……ということで遠征は成功といったところね、損害は軽微、獲得した資材は搬入を済ませておいたわ」
「それにしては報告が遅かったようだが……何かあったのか?」
「えぇ、ちょっとこっち側の事情でチェックすべきところがあったの、そこは謝るわ」
「なるほど、事情があったなら仕方ないんだ、他に報告することは?」
「私からはないわ、他の子は?」
「ないわ」「なのです」
「うむ、それならいいんだ、下がっていいぞ」
俺がそう言うと五十鈴は
「……わかったわ」といつも通り冷たい目を向けてから俺に背を向ける。
「……あぁ、あとそれとな、全員今日もお疲れ様な」
何となくそんな言葉が思い浮かんでつい口から出してしまった。
部屋を出ようとしていた遠征のやつらはその言葉が聞こえたようで、やや驚いた表情で
「司令官こそお疲れ様よ」「なのです」と返してくれた。
そして肝心の五十鈴はというと相変わらず不機嫌そうな顔で
「……正解よ」とだけ言って真っ先に部屋を出ていってしまった。
それに付いていくようにして「あっ、待って~」「なのです」と駆逐艦達も部屋を出ていった。
「……何だったんだ」
「提督さん五十鈴とあまり仲良くないっぽい?」
「何でだろうな……嫌われるようなことした覚えはないんだがな……」
そう言って頭を軽く掻いてから夕立の方を向き直る。
「さぁ、これで仕事は終わったから思う存分遊べるぞ、何をするか決めたか?」
「えっと……提督さん晩ごはんはまだっぽい?」
「ん?あぁ、夕食はまだだな」
「それだったら晩ごはんを提督さんと食べたいっぽい!」
「ん、それならもう丁度いい時間だし食堂に行くか」
「うー……どうせなら二人っきりで食べたいっぽい!」
「二人っきりか……それだと鳳翔さんの所か……?」
「そうしたいっぽい!」
~二一〇〇、夜食堂「鳳翔」~
「あらいらっしゃいませ、提督と……夕立ちゃん?」
「どうも、ちょっと懐かれたもので」
「来たっぽい!」
「あらあら、夕立ちゃんも提督もいつものでいいかしら?」
「お任せで」
「ぽい!」
「ん?夕立も結構来てるのか?」
「たまに来るっぽい!」
「おうおう、誰と来るんだ」
「うーん……時雨とよく来るっぽい!」
「時雨は姉妹艦だからな、姉妹仲が良さそうで俺は嬉しいぞ」
「色んな話が聞けて楽しいっぽい!」
そんな話をしていると鳳翔さんが飲み物を持ってくる。
「お待たせしました、提督はいつもの日本酒、夕立ちゃんはウォッカとトマトジュースで合ってたかしら」
「待ってましたっぽい!」
「ん、ありがとう、あと夕立はブラッディメアリーか、結構おしゃれなんだな」
「見た目も大好きっぽい!!」
「うふふ、あ、レモンも置いておきますからね、ごゆっくりどうぞ」
そう言って鳳翔さんはカウンターに戻っていく。
「とりあえず乾杯」
「かんぱーい!」
そこはぽいじゃないんだなと少し笑いながら手酌した日本酒に口をつける。
「ふぅ、今日も頑張った」
「美味しいっぽい!」
「そりゃよかった、散々待たせたお詫びも兼ねて好きにしてくれていいからな」
「好きなもの頼んでいいっぽい?」
「俺の財布が痛み過ぎない範囲でな」
「鳳翔さーん!黒枝豆とイカが食べたいっぽい!!」
「おっさんか」
「あらら、すぐに用意するわね、提督は何がいいですか?」
「ん、俺は肴はそのおすすめの魚料理っていうのを頼む」
「はい、かしこまりました、しばらく待ってくださいね」
「おう」
「ぽい!」
「……で、夕立は……最近どうなんだ」
話す事に困って漠然とした質問をしてしまう。
「ぽい?」
「あー……いや、他のやつらと上手くやれているかとか俺の指揮に不満がないかとかだよ」
「特にないっぽい!毎日楽しいっぽい!でも遠征はたまにさぼりたいっぽい」
「気持ちは分かるが……でもお前らには本当に感謝してるからな」
「……もう少し夕立たちも頑張るっぽい」
「悪いな……」
「……その代わりたまには遊んでほしいっぽい」
「おう、たまには暇な時間見つけて遊ぶよ」
「……信じとくっぽい」
「……まぁその時は遊ぶ内容を考えておいてくれよ」
「提督いじわるっぽい」
そう言ってパンチをぽこぽこと数発打たれた。痛くはなくてとにかく可愛い。
……
~二三○○~
「んー……提督さんちゃんと聞いてるっぽい?」
「ん、聞いてるよ、時雨が時々冷たいって話だろ……というかその話何回目だよ……酔ってるのか」
「酔って……ないっぽい」
「もうぐだぐだじゃねぇか……ほら、水飲んでクールダウンしな」
そう言って水を渡そうとするが隣に座っている夕立はそれを飲むことをせず俺の方に寄りかかってくる。
「ぽ~い……」
「おいおい……飲まないと色々大変だぞ……」
「大丈夫っぽい~」
「全く……鳳翔さん、これでお勘定ってことでお願いします」
「はい、夕立ちゃんの分のお会計も一緒に請求しておきますね、それと夕立ちゃんをちゃんと送り届けてあげてくださいね」
「よろしくお願いします……ほら、夕立、行くぞ」
夕立を立たせようとする。しかし夕立は体重を掛けて立とうとせず
黙ってこっちを見ながら両手を広げている。
「夕立」
「……」
「……歩きたくないと」
「……ぽい」
「……部屋までおぶるだけな」
「むー……それでもいい……っぽい」
やれやれと思いながら夕立の前にしゃがみ込む。肩越しによろよろと顔をほんのり赤色に染めた夕立が見える。
「……ぽい」
「よいしょっと……軽くて助かるぜ」
「夕立重くないっぽい」
「反応早いな、実は歩けたりしないよな」
「歩けないっぽい」
「まったく……」
……
~白露型の部屋~
コンコン
「夕立かい?」
「いや、俺だ、夕立の輸送任務だ」
ガチャ
「なるほど、また迷惑をかけたんだね」
「んー……まぁ遊ぶ約束してたしお互いさまってところだ、ほら夕立、降りてくれ」
「……嫌っぽい」
そう言って夕立は俺の肩に回していた手をより強める。ちょっと痛い。
「……夕立、提督に迷惑かけちゃダメだよ」
「……また遊んでくれるっぽい?」
「ん……さっき言っただろそれは」
「もう一度言ってほしいっぽい」
何か言いたがる時雨を目で制し、夕立の手を片手で包む。
「また遊ぼうな、今度はもっと時間作るからな」
俺がそう言うと夕立の手が解け、夕立は俺の背から降りる。
「約束っぽい」
「あぁ」
そう言って夕立は部屋に入っていく。
それを見て俺も帰ろうとすると
「提督」と時雨に呼び止められる。
「提督」
「……何だ」
「僕たちは提督にもっと構ってほしいんだよ、それを覚えておいてくれたら嬉しいなって」
「……善処するよ」
「そこで断言しないところが提督らしいなって」
「笑うんじゃねぇよ……でもまぁ、もう少しここのやつらと気兼ねなく話をするのも悪くないかもな」
「そうだよ、それじゃおやすみ」
「あぁ、おやすみ」
艦娘との距離感か……俺ももう少しあいつらの日常も見て仲良くすべきなのかもしれないな……五十鈴に怒られたのもその事だと思う。
「……あっ、提督」
「まだ何かあるのか」
「秋雲は執務室のロッカーの中に収納しておいたよ」
「報酬はマミヤ銀行に振り込ませてもらおう」
後日秋雲が罰の雑用でクタクタになった腹いせにさらにとんでもないことをしでかすのはまだ先の事である。
次話の予定は未定です