後半はPとかストレイの2人を文化祭に誘うみたいな話にするつもりです。
あさひの思いつきで突然ストレイLIVEやってもいいかなとか思ってる。
1.
懐かしい香りがする。
事務所へと続く歩道を一人歩く。この道も、もうどれだけ歩いただろうか。歩道に沿って咲く、キンモクセイの香りが今までの記憶を思い起こさせる。
「なにを感傷的になってるんだか」
思わず立ち止まり苦笑する。これもぜんぶ季節のせいにしておこう。
突然、後ろから自転車のベルが鳴る。
とっさに脇によけるが、その自転車が追い抜いていくことはなく、代わりに背後から髪をくしゃくしゃにされた。
「おつかれっす、プロデューサーさん! ってうわっ、なにニヤニヤしてんすか。通報されるっすよ?」
「おぉ、あさひか。まったく、あさひの挨拶のバリエーションの多さにはいつもながら敬服するよ」
「ええー? そうっすかね? それほどでもないっすよ~」
あさひは自転車を降りながらそう呟く。
「褒めてはいないんだがな」
あさひは自転車を押しながら、にこっと笑って見せた。
「ちょうど今、学校からの帰りか?」
「そっす! 今日はちょっと遅くなっちゃったからそのまま事務所向かおうと思って。あ、そうだ! プロデューサーさんに見てほしいものがあるんす! 。ちょっと待つっすよ……」
そう言うとあさひは、片手でスクールバッグの中を探しはじめた。
「ん? なんだかすごい荷物の量だな。いつもそんなに持って行ってるのか?」
あさひは背中に背負っているスクールバッグとは別に、自転車のカゴにぱんぱんに膨れ上がったトートバッグを入れ、後ろにもビニール袋がくくり付けられていた。
「あぁ、こっちは文化祭で使うやつっす。うちの学校、泊りでの作業は認めてくれなくて。だから、持って帰ってやるつもりなんす~」
文化祭……。もうそんな時期か。高3であるあさひにとって、今回が最後の文化祭だ。それだけ気合が入っているんだろう。
「それに、今年は生徒会としての模擬店も出すことになったんす! 会長としても、頑張るっすよ!」
「そうか、生徒会長……か」
2.
4年前、G.R.A.Dに出場したあさひには小さな変化が起きた。それはとても小さな一歩だったが、時間が経つにつれてそれは、あさひにとってとても大きな、大切な一歩になっていた。
できないことがあること。効率的でないことも時には必要なこと。
『心』とは、『アイドル』とは何なのか。
彼女は少しずつ、でも確実にそれらをつかんでいった。もっとも、彼女自身にはその自覚はないのだろうが。
それでも彼女は、彼女の周りは、少しづつ変化していった。
中学を卒業し、高校に入学したあさひは、その明るさと才能、そしてその心で、たちまち学校の人気者になっていた。一年生の時の体力測定では、上級生を差し置いて校内一番の成績を収め、各方面の部活から引っ張りだこになっていた。しかし彼女は特定の部活に入ることはせず、あくまでお手伝い要因として活躍した。彼女曰く『だって、どれかに入っちゃったら他のをお手伝いするときに、申し訳なくなっちゃうじゃないっすか』らしい。
また、その裏でひそかに《芹沢あさひファンクラブ》なる団体が発足していたことも、彼女は知る由もない。
高校三年生になったあさひは、そんな団体の後押しがあってか無くてか、学校の生徒会長に推薦され、学校の生徒をまとめる立場に立っていた。もともとあさひは生徒会長になってみたかったらしく、当初はとても喜んでいた。が、5月の体育祭が終わってからというもの、あまりそれらしい活動は無かったらしく、つまらなそうにしていた。そんなときにやってきた文化祭の大仕事。彼女はここ数日、いつも以上に目を輝かせていた。
3.
「あったあった! 見てほしいっす、これ!」
あさひの声で回顧シーンが飛び去り、はっとする。あさひの右手には一枚のB5用紙があった。
「これは……? 全国統一模試……? えっ! 数学・理科1位!? ……ははっ。流石だな、あさひ」
「そうでしょ! ふふ、プロデューサーさんをびっくりさせようと思って頑張ったんす~。あ、でもこれ、100点取った人はみんな1位になるんすよ。なんか悔しくないっすか?」
「いやいや、そんなことはない。十分すごいぞあさひは」
「うーん、そんなもんなんすかね。まあでも目的は達成できたし、結果オーライっす! プロデューサーさんのびっくりした顔が見たくて頑張ったんすから!」
あさひはご満悦といった顔をして、紙をバッグに片づける。
「……ほんとにとんでもないな、あさひは」
彼女は何でもできてしまう。いや、何でもできるようになってしまう。元から何でもできるわけではなく、溢れ出る好奇心と努力によって、今の彼女が形作られている。成し遂げるための努力を、努力と思わない。そんな彼女のことを、前に冬優子はこう言っていた。
「“バケモノ”……か」
「え? なにかいったっすか?」
「いや、何も。……さあ、早いとこ事務所に帰ろう。暗くなる前にな」
「おっ! 前みたいに事務所まで競争っすか? 負けた方は、ジュースおごりっすからね!!」
そういい終わる前に、あさひはもう自転車で走り出していた。
「あんまり急ぐとあぶないぞー!」
小さくなる彼女の背中に叫ぶ。
すると彼女はこぐのをやめ、こちらを振り返る。
「プロデューサーさん!」
笑顔の彼女に、西日がさす。
「なんか……。懐かしいっすね! こういう感じ!!」
そう叫ぶ彼女の頭には、キンモクセイの花が一輪、咲いていた。
4.
「もう、遅いっすよプロデューサーさん! 後でちゃんとアイス、買ってもらうんすからね!」
「さっきはジュースって言ってたろ」
「今は自転車こいで、アイス食べたい気持ちなんすもん! わたし、ポピコのいちご味がいいっす!」
「わかったわかった。待たせてすまなかったな」
あさひが勢いよく事務所の扉を開ける。
「ただいまっす~!」
「ただいまもどりました~」
事務所に帰ると、ちょうど冬優子と愛依が雑談をしていた。
「お! おっかえり~あさひちゃん! プロデューサー!」
「あら、帰ってきたのねあさひ。……ってあんた、なに頭につけてんのよ」
「ん? あ、なんすかこれ。花……? はっ! ふゆちゃん、もしかして乗っけたっすか?! いつの間に!? やっぱり忍者だったんすね?」
「……はぁ。だからあんたね、そのふゆちゃん呼びはやめなさいって言ってるでしょ? 最初のころはしょ──ーがなく冬優子ちゃん呼びを許してあげてたのに……」
「えー、だってふゆちゃんのほうもかわいいっす~。……あ! そうだ! さっきの、2人にも見せてあげるっす!」
冬優子の言葉を遮り、あさひは先ほどの紙を2人にも見せた。
「えぇっ! 一位って、あさひちゃん、ちょーやばくね!? 運動もできて勉強もできるなんてさいきょーじゃん!」
「……やっぱりあんたはバケモノね」
「ふっふっふ。褒めてくれるなら二人とも、アイスを買ってくれてもいいんすよ?」
「ふゆは褒めてないわよ!」
そんな三人のやり取りをみて、俺は思わず微笑む。
ストレイライトも結成して4年目。これまで数々の壁が立ちはだかり、何度も三人で乗り越えてきた。三人とも一癖も二癖もあるのに、よくまとまって、ここまでやってきてくれたなと感慨深い気持ちになる。
「プロデューサーさん? なに最終回みたいな顔してぼーっとしてるんすか。ほら、プロデューサーさんも一緒にやるっすよ?」
「──えっ?」
見ると机の上にはたくさん色の花紙がばらまかれていた。あの袋の中身はこれだったのか。
「明日までにこれで花を作ってから、持って行かなきゃなんすよ。一人で家で作っても面白くないし、みんなとやりたいっす!」
「……うーん、そうだな。手伝いたいのはやまやまなんだが、俺も仕事が……」
「……プロデューサーさん……。ダメ……っすか?」
いつどこで、こんな卑怯な技を覚えてきたのだろうか。
「……キリがいいところまでだからな。さっさと終わらせるぞ。……ところでこれ、作るのはいいが、明日学校へ持っていけるのか?」
「そこなんすよ。明日だけ原付で登校していいか、先生にお願いしたんすけど、許可が出なかったんす」
「なら明日の朝は俺が車で学校まで連れて行こうか?」
「えっ! あ、いやでも。そりゃうれしいっすけど、……恥ずかしいし、遠慮しとくっす……」
「そ、そうか……。じゃあくれぐれも気を付けていくんだぞ?」
「あらぁ、あさひちゃん? それならふゆが連れて行ってあげようかしら?」
「えっ! いいんすか!? ふゆちゃんの車、乗ってみたかったんす~!」
「ちょっと! ふゆにも少しくらい遠慮しなさいよ!」
「ふゆちゃんとドライブ、楽しみっす~!」
作りかけの紙花が、秋の夕日に照らされて、黄金色に煌めいていた。
彼女の未来を、照らすように。