街中、昼時にも関わらず人の気配はない。
それもそのはず。
「せぇんぱぁ...ぼぉしゅ......」
「どうしたん!?針に気ぃ取られてウチに意識割けませんってか!?」
「くっ....!」
「晶ちゃん!きゃっ!!?....かはっ!?」
虚ろな目で意味をなさない言葉を呟きながら針を飛ばす魚類。
そしてその針を刀や籠手で防ぐ柚月と晶。
そんな彼女達を攻撃する首輪付き。
周囲の道路には毒針が背中に刺さっており、昏睡している人々。
針を防ぎ、避けることに必死になるあまり、彼女たちは首輪付きの三節棍での打撃を食らってしまう。
その攻撃は何故か晶に対して重点的に行われていた。
「っ!早紀さん!やめてください!」
「やめて欲しいんやったらさっさとおっ死んだらええんよ!」
そう言って三節棍を振るい続ける。
確かに素早さで言えば晶の方が上だ。
事実、相手の攻撃の隙間を縫うように晶の斬撃は早紀を捉えている。
しかしそれよりも早いスピードで自己再生しているのだ。
自分達も恩恵を得ていた治癒魔法。
いくら傷つこうとも彼女が直してくれる為、その魔法はとても頼もしかった。
それが今、早紀が敵になったことで自分たちを苦しめている。
「くっ、退いて!!」
柚月は早紀の洗脳を解くために近づこうとするも、魚類が通せんぼして邪魔をする。
「お~がんばりぃな。ウチの上司がアンタとは戦うなっちゅうんや。やけんウチはアンタとは戦わへん。精々ソイツの毒でも捌いとき。」
確かに相手の方が一枚上手だ。
現状、斬撃を与えるだけの晶では、魔力の続く限り再生できる早紀の相手は荷が重い。
この場で一番有効打を与えられるのはやはり晶の洗脳解除などが出来る柚月に他ならないだろう。
それを敵側が事前に察していたのだった。
そして柚月も近接攻撃をする以上、遺体イタイの毒針に触れてしまう。
それは避けたかった。
現状は明らかに柚月達側が不利だった。
「正気に戻って!あなたもあの人に操られている!!」
「ウチはいつだって正気や!失礼なこと抜かすな魔法少女!!」
そう言うと三節棍の先っぽが切り離されて、晶の顎目掛けて飛んでくる。
「ッ!?」
咄嗟の反応速度で避ける。
(もし改造されてなかったら.....。)
もし改造で素早くなっていなければ顎を打ち砕かれていたかもしれない。
頬に感じる風を感じて確信する。
(形勢はウチらの有利....このまま磨り潰してやる。)
心中で笑みを浮かべた
男は彼女に対して陽動を行うように言った。
だが、今の現状を見れば勝てそうなのだ。
ならば黄色の首を持ち帰ればどうなるか。
喜ぶだろう。
それに、主を煩わせている原因が目の前にいるのであれば、それを打ち払うのも私の役目ではないか。
より一層強く三節棍を握りしめる、
取り敢えず目の前の青い魔法少女は終わりにする。
握りしめると、三節棍が薙刀に姿を変えた。
「せんぱぁぁぁ....!!!」
「こっちに来る!!」
一方柚月は毒針を周囲に放つ敵に対して近づくことが出来ないでいた。
この相手に白い力を使えば毒針を受けてしまうし、魔力を消費してしまい早紀に使えなくなってしまう。
そう思っていた矢先に敵は全身の針を逆立させてこちらに突進してくる。
それはさながらラグビー選手のように。
「柚月!!」
相手の性質を知っている以上、柚月にとって距離を詰められることが望ましくないことは分かる。
早紀さんに捕まらなければ、自分があの魚人の相手をしていたほどだ。
だからこそ、意識を向けてつい手を翳す。
<code KamRam.....>
翳した手の位置を支点に魔法陣が現れる。
魔方陣から刀剣の類が顔を出し、切っ先を魚類に向ける。
そしてそれはそのまま放たれると魚類の背中に突き刺さった。
「が”っ”っ”!?」
その瞬間だけ、魚類はさっきまでの間延びした声ではなく、張り詰めた男性の声のような物を発する。
しかし、その瞬間....。
「よそ見なんて結構余裕あんな、アンタ。はよ動けるからってちょっとウチの事舐めすぎやないか?」
「なっ....!?うぐっ!!」
至近距離で声がして振り返ると首を掴まれる。
そして薙刀を短く持つとそのままその切っ先を晶の腹に向けた。
柚月に意識を割いて、自分が疎かになってしまった。
「土手っ腹に穴空けたるから、死んだ爺ちゃんとかに対しての挨拶でも考えとけやぁ!!!」
そしてそのままそれを突き出そうとする。
が、晶の目には自分の後方から無風であるにも関わらず、白い霞が流れてくるのが見える。
そして....
「な、なに!?なんやこれ!!?」
薙刀の切っ先が腹に届くギリギリで白い霞に包まれて止まる。
まずいと思い後方に跳ぼうとすると、背後に何かが当たる。
振り返るとそれは宙に浮かぶかぼちゃだ。
かぼちゃは急に眩く光る。
「...送り迎えで渋滞してて、遅れてしまったわ。ごめんなさいねぇ。」
光りは晶の視界をも奪う。
が、遠くから聞こえる声でこれをやった人が誰か分かった。
琴乃さんだ。
そして目の前から聞こえる声で相手の様子が分かる。
自分と同じく視界を奪われて隙を晒しているだろう。
だからこそ、叫んだ。
今ならば、柚月の一撃が入る。
一撃入れば、きっと彼女も正気に戻るはずだ。
「柚月!!今!!!!」
光りをもろに見てしまい、視界が真っ白になる。
そんな状態に歯噛みする首輪付き。
視界が回復して、目に入るのは後退している晶、オレンジの魔法少女?と戦っている魚人。
黄色魔法少女が居ない。
しかし、次の瞬間が肌がひりつくほどの魔力を感じて、上空を見る。
彼女の目には,....。
「お願い!リンカリオォォォン!!!!」
<魔力出力量 極限 Propulseur commencer>
背中の装甲から白い魔力の粒子を噴き出させて、足に白い光を纏わせてこちらに蹴りを放たんとする柚月の姿が映っていた....。
◇
戦闘後の街。
人の気配もなく、ただボロボロになった怪人一体、取り残されたように横たわっている。
しかし、ボロボロな身体を引き摺って地面を這ってはいる。
すると、そんな怪人に近づく集団。
それは以前から怪人の遺骸を回収する回収班の制服を着ていた。
しかし一つ違うこととすれば、顔にフルフェイスのマスクを被っているという事だろう。
それは怪人に歩み寄ると目の前で足を止める。
それに気づくと遺体イタイは目の前の男の足を掴み、顔を上げる。
「たの...せんぱぃに....ぼしゅが...き、けんだ...と......」
その目は生気を取り戻していた。
死の間際だからこそ、自我を取り戻したのか。
それともそう見えるだけか。
男はそれを黙って見下ろすと懐から銃を取り出して、足を掴む男に向ける。
そして引き金を引いた。
渇いた音が数発響く。
「....回収、清掃作業に入れ。」
そう告げると、二人の作業員がそのまま遺骸をドラム缶に詰めようとし、一人が血などで汚れた道路に薬剤を掛け始める。
◇
情報・器材管理課倉庫。
そこは慌ただしくPCなどの機材を運んでいた。
「葛木!そこの運んどいて。」
「わかりました!おいしょっと。」
パーツなどが詰まっているダンボールを持ち上げて運ぶ。
そしてダンボールが積み重なっている一角に運ぶ。
葛木は汗を拭うと、振り返って室内を一望する。
そして上司に振り返って話しかける。
「随分と片付きましたね。」
上司も汗を拭って笑って答える。
「あぁ。古い物も全部一緒くたになっていて整理が出来ていなかったからな。」
「....まぁそれは課長が整理を受け持っていたからなんですけどね。」
「う....だからこうしてお礼を言ってるじゃないか!本当に、君が居てくれて助かったよ。ありがとう。」
彼女はそう言った後に、頬を染めてお礼を言う。
「あぁ、別にいいっすよ。あっ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、これって貰っても良いですかね?」
彼はそんな彼に笑って答えると、一つのPCを指さす。
「それか?....そんなもの持って行ってどうなるんだ?かなり古いし、使えないと思うんだが.....」
彼女は不思議そうな顔をする。
葛木は照れくさそうに頭を掻く。
「いや、実は俺、昔のPC好きでコレクションしてるんすよ。だから家に持って帰りたいな~って。駄目すかね?」
すると彼女は暫く考え込むと頷く。
「...まぁどうせ今から廃棄するし、構わないよ。それにしても変わってるな君は。私にはその気持ちが分からないよ。」
そういう彼女に対して男は答える。
「まぁ課長はそういうのなさそうっすもんね。あっ、そうだ!車両に詰め込んだらお疲れ様会しませんか?こんなにすっきりした気分で飲む酒は上手いですよ~!」
そう言うと彼女はジト目で葛木を見つめる。
「...どうせまたソーシャルゲームで課金したせいで金がないから奢ってもらおうとしてるんだろ。分かってるんだぞ。」
「うっ.....!」
思惑がバレて息を詰まらせる葛木。
そんな彼の様子を見て、彼女は溜息を吐いた。
「はぁ...今日は付き合わせてしまったからな。良いだろう。でも、私より高い物頼んだり飲んだりするなよ!なんかイラっとするから!」
「あ、ありがとうございます!こ、今週ピンチだったんで.....」
頭を下げると、課長はなおもジト目で見つめる。
「そもそもそうやって廃課金するのをやめたら良いだろ。」
そんな言葉にヘラヘラと笑い返す葛木。
「いや、あれは俺の義務みたいな物なんで。やめたら俺じゃなくなってしまいますよ。」
「なんだその嫌なアイデンティティは.....。」
そうやって無駄口を叩きながらも二人は積み込む用意をする。
それと並行して男はPCを自分のリュックに詰め込んだ。
車に詰め込むと、収集車の運転士は一礼してそのまま車を発進させる。
そして葛木と課長はそのまま部屋に戻ると着替えて、外へと出る。
外は冷え込んでいて、冷たい風が吹く。
そんな中、課長は独り言ちる。
「...戦闘部門は凍結、財務部門は縮小。そして懲罰部門は人事を入れ替えてるという。私たちの組織は、今どうなっているんだろうな。」
「....何かしら動きがあるのは確かじゃないですか?俺達にはよく分からないですけど。」
葛木の言葉を聞くと課長は自虐的に笑う。
「...私たちのような窓際部署ではな。それこそ次は私達の部署がなくなってしまうかもしれないな。」
情報・器材管理とはいえ最近はシステムの構築は外注が多くなってきてたし、渡される予算も年々減っている。
器材を管理するなら原則AIでもいけるのだ。
組織内での必要性は低下している。
渇いた笑みを浮かべているが、その実自分の腕を強く握りしめている。
「...不安なんすか?」
そう問うと、課長は答える。
「...あぁ。自分の生活の基盤が揺らぐのは怖いよ。悪の組織とはいえウチの組織は表の顔も一応ある。...でもそれでこの時代にすぐ再就職できるか分からない、私には伝手もコネもないからね。そして今のような賃金は望めるとは思えない。それに、一からの立場でやるのもね。....葛木はもしこの部署がなくなったら宛てはあるのか?」
課長が聞くと葛木が答える。
「まぁ親戚の会社がありますし、言えば入れてくれるそうで....」
「...そうか。良かった。」
彼女は嬉しそうに笑う。
それを見て葛木は口を開いた。
「...それならもしそうなったら紹介、しましょうか?少なくともブラックな所はありませんよ。」
「い、いや....でも悪いし......」
課長は目を逸らす。
すると葛木は課長の手を取る。
課長は葛木の顔を見る。
「なっ!?」
「俺は、会社に入った当時から課長によくしてもらってます。そのくらいの恩返しさせてください。」
そう言うと彼女は顔を逸らした。
「...そ、その、なら...お世話になる...やもしれん。その時は、頼んだ。」
顔を伏せながらもそう答える彼女。
どことなく葛木と距離が近かった。
「ハイ!...それに課長のおかげで目的は達成したしな。」
「?...何か言ったか?」
「いや、なんでも。あそことかいいっすね!行きましょうよ!」
首を傾げる彼女の言葉を笑って否定して、店を指さす。
「....まったく、君は子供か。分かったよ。」
そんな様子で彼等は夜の街へと消えていく。
『もし、この組織に裏があるなら...それを、先輩に教えて欲しいんです。』
『...へぇ、良いけど。ガチャ600連分くらいの金出してくれるなら受けてやるよ。』
(本来は死人の言う事なんか聞いてやる義理もないんだが、...まぁガチャ代払ってもらったしなぁ。)
長くなりそうだったので切ったところを投稿しました。