【急募】安価で怪人作るわwwww   作:胡椒こしょこしょ

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予兆

「これは....また?でもなんで....。」

 

目が覚めると見覚えのある場所。

周りは透き通るほど白く、地面からは泡が昇っている場所。

泡の一つ一つには自分の記憶が映像として映っていた。

 

これは柚月ちゃんの....。

一度受けたことがあるから分かる。

自分の心象世界。

だが、身に覚えがない。

自分は確かにベッドに入って明日に向けて睡眠を取ろうとしていたのだ。

戦闘すらしていないし、ましてや自宅なのだ。

なら、なんでここに....。

 

早紀が戸惑っていると、目の前の空間が揺らぐ。

そしてそれは人影の形を取る。

 

「あ、アンタ....あの時の.....。」

 

早紀は後ずさる。

彼女はその人物を知っている。

自分が魔法少女としての力を受け取った相手。

その人だと分かったのだ。

 

『和泉早紀...こういう形で会うのは初めてですね。』

 

声を聴いて確信する。

自分に力を与えた張本人であると。

 

「....せやな。それで、ウチに何の用や。」

 

早紀は身構える。

それもそのはず、現在の自分は柚月ちゃんに言った通り、魔法少女に自分の意思で敵対している。

言うなれば目の前の女性の勢力から外れているのだ。

 

すると、人影は微笑まし気に笑う。

 

『ふふっ...そう身構えなくても私はあなたを害しに来たんじゃありませんよ?』

 

「なら、なんのつもりで来たんや....。ウチはアンタの敵となった、自分の意思で!今更、考え直す余地もない!!ウチは居場所を見つけたんやから!!」

 

早紀は一歩踏み込んで人影に言い放つ。

すると彼女は慈母のような優しい声を出す。

 

『...えぇ、知っています。良かったですね、あなたの居場所が見つかって。それは嬉しく思います。....ただ、他の魔法少女を攻撃する可能性のある人物にその力を渡しておくわけにはいきません。』

 

力を渡しておくわけにはいかない。

その言葉を聞いて、彼女は身構える。

 

「それって....ウチからステッキを取り上げようってことか!!生憎ウチは上司がウチを改造してくれたおかげで体とほぼ一体化しとる。取り上げることなんて.....」

 

『ごめんなさい。その力を作ったのは一応私なの...。だから.....。』

 

その存在は手を翳す。

すると、一瞬胸に痛みが走った後、脱力して膝をついてしまう。

顔を上げるとそこには少しサイズの小さい自分のステッキ。

それが自分の胸から出てきて人影の手の中へと移動して行っていた。

 

「そんな....馬鹿な......。」

 

唖然とした様子で呟く早紀。

そんな彼女を他所に、人影は呟く。

 

『...力が少し弱い。分割してその一部を素材として彼女に投入したのかしら?考えてみればサンプルを取ろうとしても不思議じゃないわ。』

 

「か、返せ....それが、必要なんや、ウチには.......。」

 

何故か身体に力が入らず、手を伸ばす早紀。

しかし人影は用が済んだとばかりに薄くなっていく。

 

『本当にごめんなさい。...でも、必要な事だから。』

 

そう言って消えていく。

 

「待って!それは....それは必要、な.......ウチは、あの人の役に立つって...その為には......」

 

消えいく人影に追いすがる様に手を伸ばし続ける早紀。

もしステッキを取られたら、回復能力を失うのかもしれない。

そうすれば、私は....いつものようには戦えない。

戦力としての価値は著しく下がると自覚している。

それじゃ、彼の役には立てないのだ。

 

あの力を失うわけにはいかない。

しかし彼女の想いとは裏腹に意識は遠く、深淵へと沈んでいった。

 

 

「ハッ...はぁ....はぁ.....夢.....?」

 

目を覚ますとそこは見飽きた自分の部屋。

時間は既に朝。

ちゅんちゅんと小鳥の鳴く声が聞こえてくる。

今のはただの夢なのだろうか。

 

だとすれば悪い夢だ。

今まで振るってきていた魔法少女の力、それを没収されるのだから。

しかし、あの感覚は間違いなく自分の心象風景。

だとしても、なぜ人影があの能力を使えるのだろうか?

 

「...もしあれが本当なら、ウチの力は.......」

 

もしあの夢がただの夢ではないとしたら、能力がなくなっている可能性がある。

そうすれば今までの様な回復量に任せてごり押す戦法は取れない。

さっきの夢がただの夢か否かは、自分にとっては死活問題だった。

 

部屋を出ると、階段を下りて1階の台所に行く。

そして怪人態になる。

生える犬耳と尻尾。

露出度の高い服。

そして現れる淫紋。

怪人自体になることは出来ると分かる。

 

ステッキが取られているかどうか。

それは身体に同化していたから分からない。

しかし、判別する方法はある。

 

「....じ、自分で自傷して、再生すれば....でも.....。」

 

彼女は包丁を持つ。

しかし、戦闘とは違う。

日常でも用いる包丁。

それを使っての自傷。

息が荒くなる。

 

「....やらなければいけないことや。どうしても...アレは、ただの夢だとは...思えない。」

 

そう思って深く息を吸う。

そして、包丁を腕に差す。

襲ってくる痛み。

だがいつもの戦闘で味わうような身体が欠損する感覚とは違う。

大したことではない。

 

「ッ......。あっ、....つぅぅ.......。」

 

包丁を引き抜く。

刃傷が頸動脈近くに出来ている。

そこからは赤い血がドクドクと流れ出ていく。

 

いつもならすぐに治るはずの些末な傷。

しかし、それは治ることがない。

ただ血が流れ続けるだけである。

 

「嘘...やろ....じゃああれはやっぱり......」

 

思えば怪人態になったにも関わらず、武器が出てこない。

試しに魔力を運用しようとするも、使えなかった。

 

彼女は血の手当をして、2階へと上がる。

少しふらっとするが、問題はない。

そして自室に戻ると携帯を手に取る。

勿論、彼に電話する為だった。

 

だが、そこで思いとどまる。

もし、ここで電話して彼が戦力として使えないと私に見切りを付けたらどうしよう。

私には居場所は彼の隣だ。

それがなくなってしまえば....。

 

そう考えると、冷たい汗が背筋を這う。

少なくとも、ここで連絡を取らなければ関係性は変わりはしない。

....だけど。

 

「事前に言わなきゃ....、きっともっと困ることになる。」

 

もし彼が作戦を立てたりする立場になるかもしれない。

しかしその時に私の状態を知らなければ、また作戦が失敗する可能性が高くなってしまう。

彼の足を引っ張るような真似は....それだけは、避けないと。

 

そう思って早紀は彼に電話を掛ける。

そして耳に携帯を当てるのだった。

 

 

「それで、なんで状態を告げるだけじゃなくて俺呼んでんの?いや、来るけど....。」

 

早紀の家のリビング。

そこに彼は居た。

椅子に座って先に出されたコーヒーを飲んでいる。

 

「そ、その....話してたら、会いたくなっちゃって.....」

 

顔を伏せる早紀。

 

「そ、そうか....それで、魔法少女の力、奪われたんだったな。...まぁ傷が治っていない時点で事実だとは分かるが...。」

 

彼女の様子を見て、少し目を逸らす四季。

あの日から少し首輪付きとの距離感が少し分からなくなってしまった。

以前より距離感が近くなったのは確かだ。

でも、それでも彼女の反応や仕草で偶に気恥ずかしさのような物を感じることがある。

 

それを振り切るように彼女に尋ねる。

すると彼女はこちらに目を向ける。

 

「そ、そうや...い、今までのようには戦えん。で、でも!ちゃ、ちゃんと他の戦法見つけるから!な、なんなら戦闘が出来なくても他の事なら!う、ウチなんでもするから!だ、だから....う、ウチを見捨てないで?」

 

机の上に乗せていた四季の手を取る首輪付き。

それに少しドキリとするが、しかし彼は彼女の顔を再度見る。

不安と来るかもしれない申告に対する怯えが現れた顔。

それを見て、きちんと答えてやらなければいけないと分かる。

だからこそ、口を開いた。

 

「あのなぁ...見捨てないでとか言ってるが、正直現状俺たちの組織は活動出来ない訳だし、見捨てるもクソもなくないか?」

 

「そ、そうやけど....でも、万が一また新しい組織で指揮する立場にアンタがなったら.....」

 

不安げに続ける首輪付き。

それに対して四季も言葉を続けた。

 

「そもそも、確かにお前を戦場に出したりはしたが、基本的には書類の整理をしてもらってたし、実際それをしてもらってて助かったことの方が多い。...だから別に再生能力がなくなって今までのように戦えなくなっても見捨てることはしない。てか、そもそもどうしてもまた戦闘させたかったらもう一回改造すれば良いだけだしなぁ。」

 

「ほ、本当?」

 

四季の言葉を聞いて、握っていた手を強く握りしめる。

四季は頷いた。

すると、彼女は握った手を自分の顔に近づけた。

 

「よ、良かったぁ....う、ウチ、とても怖くて......安心したぁ.....」

 

(....コイツ、こんなにメンタルが弱かったか?)

 

あの時からそうだが、首輪付きも少し変わった。

なんというかメンタルが不安定になる時が不定期ではあるが、ある。

改造した時は、そんなことはなかった。

考えられるとしたら、それは関係性の変化。

 

「...安心したなら、良かった。なら俺もやることがあるから帰るぞ。」

 

そう言ってゆっくりと握られた手を解くと、席を立つ。

そして扉の方に向かおうとした背中を抱き締められる。

後ろを見ると、首輪付きが抱き着いていた。

 

「...あの、帰れないんだが。」

 

「...帰らんでええやん。まだ夕食まだなんやろ?それに帰るのにウチの家から結構歩くことになるわけやし、なんなら泊まっていったらええやん!うん、それが良いわ!」

 

帰ろうとする俺を止める首輪付き。

俺はあくまで冷静に彼女に語り掛ける。

 

「いや、やることがあるって言ったろ?」

 

「それ、なんなん?」

 

彼女は淡々とした声音で言う。

表情は四季の背中に顔を埋めているから見えない。

しかしその声音に若干冷や汗のような物を掻きながらも、答える。

 

「もらった組織の資料だ。せっかく貰ったから早く全部に目を通しておきたいんだ。」

 

半分嘘だ。

今見ているのは葛木にもらった古いパソコンに入っているデータ。

そこにある前の俺の情報と、なにかしらのデータ。

量が多い為、少しずつ見ているのだ。

それにしても葛木の奴、read meまで作って全ての書類に目を通すように言ってくるとか周到な男である。

ただ、それがいずれ絶対に役に立つと書いてある以上、読むしかあるまい。

奴は金の管理とかはだらしないが、仕事などの事務作業においては真面目で真摯な男だ。

 

すると彼女は顔を上げる。

少しハブてたような顔。

 

「...それと私、どっちが大事なん?」

 

「いやお前それ.....」

 

テレビなどでもよく聞く言葉だった。

よくカップルとか夫婦で女性の方が言っているような感じのアレ。

それをまさか自分が言われるなんて。

 

答えあぐねていると、彼女は苦笑した。

 

「...ごめん、冗談。...ただ、一緒に居て欲しいのは本当。」

 

そう言って彼女は抱く力を強くする。

そして上目遣いで俺の目を見つめた。

 

「ウチが言っていることは、アンタにとっては迷惑でしかない。それは分かっているんや。...ただ、それでも今日だけは一緒に居てくれへん?急ぎとかならええけど....。」

 

追いすがるかのような目。

少し苦手な目だった。

こんな目で見られたことなんかなかった。

...いや、これに似たような目を確かしていた奴が居た。

メスガキ、それも俺に太刀洗弘人を重ねて縋ろうとしていた彼女。

それに少し似ていたのだ。

 

そして俺は.....。

 

「分かった。...今日はお前の家に泊まる。どうせ書類も明日中にとか期日が決まっているわけじゃないんだ。」

 

そう言うと、彼女は嬉しそうに目を輝かせる。

 

「本当!?本当の本当やな!?」

 

「こんな所で今更嘘吐いたりしない。」

 

一度手を彼女が話すので、前を向くと今度は正面から抱き着く。

じゃれつくように顔を胸に埋めて擦り付ける。

そしてパッと俺から離れると俺の手を取って、家の中へと引き込んでいく。

 

「それなら今すぐご飯の用意をせんとな!アンタはテレビでも見ててゆっくりしといて!」

 

「いや、せっかく作ってもらうなら手伝うよ。」

 

流石にそれはどうかと思って手伝いを提案する

しかし彼女は笑顔で首を横に振る。

 

「ほらっ、仮にもお客さんなんやから。気とか遣われたら逆にやりづらいわぁ。だから気にせんで?ほらこっちこっち!」

 

「わ、わかった...はは...」

 

そう言ってリビングへとまた手を引かれていく。

繋がれた手。

それを見て、彼の口から笑いが出た。

それは自嘲であった。

代々御使いの家庭に生まれるも、適正に恵まれず勘当された青年。

太刀洗弘人。

しかしひたすら修練を積み、禁足地にまで足を向けて初めてそれと同質の力を手に入れた。

ただひたすら強さを求めた生粋の武人。

それが今の所葛木の書類から読み取った前の自分だ。

 

それが今やこんな風に年下の女の子の頼みを流されるまま聞いている。

前の俺が見たら軟弱者!とか言って拒否反応起こしそうだな。

そう漠然と思ったからこそ出た自嘲だった。

 

そうして俺は言われるがまま、食事の用意に張り切る彼女を尻目にテレビを点けたのだった。

...面白い番組もない。

そして後ろでは彼女がテキパキ動いている。

それなら手伝った方が幾分か居心地も良いだろう。

それに彼女は怪我している。

そうだ怪我をしているのだ。

それならば断わられても手伝いをする理由として言えるだろう。

そう思うと、俺は自身の居心地の為に手伝いを入ろうとソファから立ち上がったのだった。

 

 

 

 

「それで.....柚月は、私に何か言う事ない?こともあろうに誰にもなにも言わずに、一人で行っちゃうなんて....しかも連絡を姫啞にしか入れてなかったんでしょ。」

 

夕方。

学校に来ない姫啞ちゃんのことについて晶ちゃんの家で説明していると、晶ちゃんが何故か少し怒った様子で言ってくる。

言葉尻から、晶ちゃんに相談しなかったことについて彼女は怒っているのだと分かる。

 

「そ、その...他言したらどうなるか分からないし....それに、姫啞ちゃんにあの男の人と対峙した時には連絡入れろって....もしかしたら洗脳から助けられるかもしれないからって.....」

 

私が言うと、彼女は呆れたように少し溜息を吐く。

 

「前提として姫啞さんに他言しちゃってるし、それでリンカリオンは使えなくなって、結局元に戻そうとした男はすでに手遅れだったと?...本当、愛羽さんたちに言われてあの宝石みたいな奴を外に持ち歩いてて良かったわね。本当、話しを聞けば聞くほどアレが無かったら人質にされた家族を助けるどころか、あなた自身危なかったじゃない。今度から、ちゃんと私に言って!....本当、あの日居なくて心配したんだから...。」

 

最初怒った様子で私を叱っていた晶ちゃんだったが、途中から顔が曇りだし、最後らへんは少し手が震えていた。

どうやらよっぽど不安にさせてしまったらしい。

私は、彼女の震えを抑えるかのように抱き締める。

 

「ごめん....本当に、ごめんね。晶ちゃん。次はちゃんと相談する。相談するから。」

 

「...そう。なら、大丈夫。...大丈夫だから、少し...熱くなり過ぎたみたい。」

 

彼女は私から離れると照れ笑いを浮かべる。

だが、確かに彼女が言ったことは事実だ。

リンカリオンが使えなくなって、お父さんたちが植物型の何かに絡めとられていた。

それに姫啞ちゃんもあの男の人しか見えていないような様子。

あの時、愛羽さんと舞羽ちゃんが居なかったらお父さんたちは確実に死んでいた。

もしかして私も殺されていたかもしれない。

だからこそ、彼女の指摘は私の心に痛み入る。

 

「....でも、リンカリオンが使えなくなったってことは、今までみたいにもし洗脳された魔法少女が居ても私の時みたいに心を繋げることは出来なくなった....。もし、相手にこのことがバレたら、それこそ相手が魔法少女を本格的に洗脳しようと捕獲しにかかるかも.....」

 

彼女が懸念を口にする。

確かに、事実として秋田ちゃんのように魔法少女を敵対勢力側が利用する頻度がドンドン上がっている。

そう思うと、洗脳を解く可能性があるあの力が使えなくなったのは相当な痛手であった。

 

「それに人質を取る様にもなっている。自分だけじゃなくて、周りの人たちにも気を配らないと....」

 

「...そうだね。他の人たちにも注意を呼びかけないと。」

 

共に戦ってきた魔法少女の顔を思い浮かべる。

ケテルさんの家族構成は分からないが、琴乃さんには旦那さんやお子さんが居る様子だ。

姫啞ちゃんは....

 

姫啞のことを考えると、あの時の顔を思い出す。

求めていた人がもう戻らないことを受け入れられず、そして相手からの行動でその事実に目の当たりにして絶望に浸りながらも、相手を倒さんとしたあの気迫も。

そして、すぐにその場から逃げ出した時の顔だって.....

 

「...どうしたの?」

 

晶ちゃんが私の顔を覗き見るように窺う。

私は晶ちゃんの問いに答える。

 

「その....姫啞ちゃん大丈夫かなって......。別れ際凄い表情だったし、学校にもずっと来てないから.....。」

 

私が言うと、晶ちゃんが複雑な表情になる。

その顔には姫啞ちゃんに対する心配以外の感情も伺えたのだ。

 

「確かにそれは心配だけど.....でも、私達が今まで対峙してきた黒い魔法少女。それが彼女だと思うと素直に同情も出来ないわ。」

 

「晶ちゃん......そんな.....」

 

私が晶ちゃんを咎めるように見つめると、その視線から逃れるように目を逸らす。

 

「大切な人の為に戦う。それは私も同じだから分かる。でも、....たとえ今早紀さんが自分で望んでいると言っても彼女が彼らに捕まる切っ掛けは姫啞の妨害よ。それは紛れもない事実。彼女は私達に対して多少とはいえ損害を出した。...そのケジメは付けないと。」

 

「晶ちゃん.....。」

 

晶ちゃんの顔はまるで我がことのように苦し気だ。

それは一度敵になったことを今でも気負っている彼女だからこそ出来た表情だ。

ケジメをつける。

それは彼女自身が自分に課していることの一つだと、私は理解した。

 

「....だとしても、苦しんでいるなら私は助けたい。ケジメとかそういうのつけるとか以前に!友達だから!」

 

私が言うと、晶ちゃんは笑みを浮かべた。

その笑みはどこか優しい者だった。

 

「そ、そんなに変なこと言ったかな.....?」

 

「いや?....ただ、そんなあなただからこそ、私は助けられたんだなって。....柚月、私はあなたに従うよ。贖罪とかそんなの抜きにして、私がそうしたいから。」

 

「晶ちゃん......。」

 

 

見つめ合う二人の女性。

しかしそんな中、携帯が鳴動した。

晶は名残惜し気に携帯を見ると、血相を変える。

 

「柚月!...怪人が出た。」

 

それを聞いて柚月も血相を変えた。

 

「行かなきゃ!」

 

すると晶が鞄を持つ。

そして柚月は机の上に置いてある紫のステッキを手に取る。

 

「愛羽さん...舞羽さん....もう一度力、貸してください.....。」

 

そしてもう一つのステッキを見ると、躊躇いつつも手に取る。

今は何故か使えない私のステッキ、リンカリオン。

しかし共に戦ってきたからこそ、使えないからと捨て置く気にはなれなかった。

 

そうして二人は家を出て、夕刻の街を走る。

目指すはある記念公園。

目撃の投稿があったのだ。

記念公園といえば子供が居てもおかしくない。

 

怪人を野放しにしておくわけにはいかないのだ。

そして走ること数十分後。

現場に近づくにつれて何かの稼働音のような物が聞こえる。

それは日常で聞いた覚えがないにも関わらず、どこかで聞いたような音。

そして公園に近づくにつれて現場が光っているのが分かる。

 

前に戦ったカマキリ型の怪人やゴミの塊のような怪人たち。

それに対峙する白い魔法少女と灰色の髪色をした魔法少女。

白い魔法少女は柚月や晶も面識のある少女、ケテルだと分かる。

しかし気だるげな目つきと薄灰色に輝くショートボブ。

身に纏うは軍服の様なデザインの魔法少女服。

そして一際目を引くのは右手に携えているチェーンソーだ。

チェーンソーは刃を回転させながら唸り声のように駆動音を周囲に響かせる。

公園に向かう途中に聞いていたのはこの音だったのだろう。

 

「キシャァァァ!!!」

 

カマキリは鎌を振りかざす。

その少女は相手に攻撃されそうになっても顔色を微塵も変えることはない。

そして軽々とチェーンソーを振るってその攻撃を受け止める。

するとカマキリの腕の刃の部分をガリガリとチェーンソーが削っていく。

刃を引こうにもチェーンソーに巻き込まれて鎌を引き戻すことが出来ない。

 

しかし固定されたことを逆手にとってカマキリはもう片方の手を振り上げて、少女を切り裂かんとする。

 

「危ない!」

 

柚月がそう叫び、鞄の中のステッキを手に取ろうとする。

その瞬間、チェーンソーの稼働を止めて、地面を蹴る。

かなり大きいチェーンソーを持っていながらも軽い身のこなし。

そして振り上げた方の腕の付け根にチェーンソーを投げる。

 

カマキリは宙に舞っている彼女に狙いを定める。

迫る刃。

しかし、その瞬間彼女は手を伸ばす。

 

<sträng>

 

そう言うと伸ばした手に魔法陣が展開される。

そしてそこから紐状の魔力が現れる。

紐状の魔力はカマキリの首に絡むと、そのまま手繰り寄せるようにして腕を引く。

そうすることで、首方向へと勢いを付けて跳んでいく。

そして相手の攻撃の軌道が最初から知っていたかのように、魔力上の紐に引っ張られながらも器用に身体を動かして避ける。

 

カマキリの眼前に迫る少女。

それを両眼で見るカマキリ。

その直後、彼女は小さく呟いた。

 

「....起きて、ヴィートロメリア。」

 

<Börja>

 

その言葉に反応するようにチェーンソーの刃が再度動き出す。

重く轟くように辺りに稼働音を響かせる。

それはさながら、己の存在を世界に誇示するかの如く。

 

そして紐のような魔力をさらに力一杯引っ張ることでカマキリの顔面に素早く肉迫する。

そのままチェーンソーをカマキリの脳天に添えるように刀身を立てる。

回転を続け、頭から足元にかけて一気に引き裂いていく。

体液が周囲に飛び散り、チェーンソーや彼女自身も体液に塗れる。

 

「クルギュアァァァァァ!!!!」

 

脳天からチェーンソーにズタズタにされたことで悲痛な断末魔を上げるカマキリ。

切断面はチェーンソーによってズタズタになっており、断面からダクダクと体液が流れ出ている。

しかし自身もそれに塗れているにも関わらず、少女は能面のように表情一つ変えることなくカマキリにチェーンソーの刃を当て続ける。

 

「グッ....ギュッゥゥゥ.....」

 

一刀両断されるカマキリ。

呻き声のような物を上げたが最後、そのままぐしゃりと力なく膝を付いて残骸が地面に転がる。

そして少女は一言呟いた。

 

「....凄く、臭い。」

 

辺りの鼻を突くような体液の匂いに少し顔を顰めた。

その表情からはさっきまでの感情を伺わせない様とは違い、普通の少女らしい表情であった。

 

一方、ケテルは空中に浮かびながらも掌にゴルフボールくらいの白い魔力弾を5つ出す。

ケテルは怪人が飛ばしてくるヘドロなどを避けながらも、それを自分の前に放る。

そして彼女はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「汝は忌避すべし不浄、ならばっ、我が聖光で浄めてやろうぞ!!」

 

そう言って目の前の魔力弾をまるでクリケットでもやるかのごとくメイスで殴りつけた。

メイスで殴りつけられたことで高速で相手に向かって飛んでいく魔力弾。

それを地面を這うようにして避ける怪人。

しかし、身体の一部がその白い魔力弾に当たった瞬間、白い光と共に炸裂して当たった部分が霧散する。

 

「避けるか....しかし我が裁きの光からは逃れられぬ!」

 

相も変わらずどこか悦に浸ったかのように目元を抑えるように言うと、背後に巨大な魔法陣が展開される。

そしてその魔法陣に向かってメイスを放ると、甲高い衝突音。

魔方陣に罅が入ると、どんどんその罅が広がっていく。

そしてケテルは仁王立ちしたかと思えば、天を勝気な笑みを浮かべながら指した。

 

その瞬間、魔法陣が割れたかと思えば、破片が集まって数えきれない程の魔力弾となる。

一つ一つが十字架の形をした魔力弾。

それはゴミの塊のような見た目をした怪人目掛けて天から降りてくる。

 

怪人はにゅるにゅると地面を這うようにして魔力弾を避けるが、魔力弾はまるで地面を這う不定形の異形を取り囲むように移動し、そして逃げ場を失った怪人に殺到する。

瞬間、光の柱が天目掛けて昇って行った。

光の柱が夕刻から夜へと移り行き薄暗くなっていく公園を照らす。

その光の中で怪人は灼かれていく。

それを見つつ、彼女は目を閉じて不敵な笑みを浮かべつつ、腕で十字架を作る様なポーズを取りつつ、声高らかに叫んだ。

 

「《天蓋崩光ーノーティア・スタヴロスー》、悔い改めよっ!」

 

悦に浸っているケテル。

そんな彼女を不思議そうに見上げる軍服の少女。

柚月はそんな二人を見て、言葉を漏らす。

 

「凄い.....」

 

どちらも相手に反撃すら許さず一撃で葬った。

そして名前も知らない少女の回避とケテルの精密な魔力操作は自分では出来ないことだったからこそ、そのような言葉が口から漏れたのだった。

 

すると、ケテルが目を開けて柚月達を見る。

 

「ふふ、時を掴み損ねたか。我が雄姿、しかと目に焼き付けたかティファレト、ケセドよ....」

 

したり顔で言ってくるケテル。

そんな彼女に対して晶が声を掛ける。

 

「え、えぇ凄かった。.....それでそちらの人は見たことない顔だけど......」

 

晶は一度リンカリオンの使いすぎで倒れた柚月を運ぶ際に助けてくれたケテルの言葉に分からないなりにどことなく優しく受け答えしながら、軍服の少女に向き直る。

 

すると晶の問いを聞いてケテルが答える。

 

「なるほど、初めてだったか。彼女はコクマー。我に準ずる第二の使徒だ。」

 

「奥間信女。....よろしく。」

 

信女はケテルの言葉をスルーして握手するつもりで手を柚月に差し出す。

 

「あ、うん。私は愛川柚月。よろしくね!」

 

柚月は彼女の手を取ると、人好きのするような笑顔を見せて握手する。

そして次に信女は晶に手を差し出した。

 

「あなたも....よろしく。」

 

「え、ええ。私は九条晶、よろしく。」

 

晶も差し出された手を取って握手する。

戦闘中ほどではないが、目の前の少女は表情の変化に乏しく感情が窺いづらい。

しかし、少し嬉しそうに笑みを浮かべていることから、悪い子ではなさそうだと感じる。

 

そんな3人の様子を見て、ケテルは満足そうに頷く。

 

「うむ!睦ましき契りは良い兆候だな!やはりすぐ肌で感じられるほどの期間に大神が我ら使徒を集結させようと望むだけある!」

 

「大神が....私達を集結......?それはどういう.......」

 

ケテルの中二病テイストの言葉に戸惑いつつも、言葉を漏らすと信女はケテルの言葉に付け加えるように口を開いた。

 

「多分....私達にステッキを渡したあの人が、近々私達を集めようとしてるだけあるみたいなこと言いたいんだと思う。」

 

「えっ!?ケテルさんの言う事が分かるんですか!?」

 

柚月はケテルの言葉を通訳する信女に驚きの声を上げる。

すると何故かケテルは自分の事のように自慢げにする。

 

「驚嘆するか!刮目せよ、彼女は私の契約者なのだ。だから諸君らと違って私の真なる言葉、真言を捉えることが出来るのだ。」

 

するとそれに付け加えるように信女が言葉を口にする。

 

「彼女の言葉は、....中二病にしては底が浅い。」

 

「.....は?なっ、なんだとぅ!!!!」

 

信女のぼそりと呟いた言葉にさっきまでの誇らしげな姿はどこへやら、笑みを硬直させると膨れ面で信女に詰め寄る。

 

「我を底が浅いなどと.....我の真言を捉えられるからと言って傲慢ではないか!それに我は中二病や邪気眼などと片付けられるような低俗な物ではない!我こそは大神の第一の使徒、アリメントゥムであると.......」

 

「マリア、....お腹すいた。パフェ食べたい。」

 

「聞けェェ!!せめて聞けェェ!!!」

 

自分の言葉など聞かずに空腹を訴える信女に悲痛な声で話しを聞くように叫ぶケテル。

そんな二人を茫然と見る柚月と晶。

 

(ケテルさん.....本当はマリアって言うんだ。初めて知った......)

 

(どうやらマリアさんは信女さんに振り回されているようね。....もしかして傍から見たら私と柚月もあんな風に見えるのかな....?)

 

柚月は今まで教えてもらえなかったケテルの真の名前を信女の言葉から知り、晶はマイペースな信女とそれに困らされるマリアを見て、どこか自分たちを重ねて物思いに耽る。

 

その間に、マリアは諦めたように溜息を吐くと二人の方を見る。

 

「我は今から神々の休息所へと向かおうと思うのだが、汝らも我の後に続くか?」

 

「....最近、カフェのことを神々の休息所って呼び出した。」

 

信女さんの言葉で彼女たちがどこに向かおうとしているのか分かる。

マリアは再度彼女をジト目で見つめるが、その間に晶と柚月は考える。

 

(今日は.....予定もない。父には連絡を入れておこうかな。それに二人とも仲良くなっておくのも悪くないだろうし。)

 

(...力をくれた人。前に一度会って晶を助ける方法を教えてくれた女の人。あの人が私達を集める....一体何の為だろう?....思えば私は何もあの人の事を知らないな....。マリアさんは知っているんだろうか?)

 

「私はついて行けます。柚月は?」

 

「あ、う、うん!私も行く!」

 

それぞれが違う思惑を内に抱きつつも、二人は彼女らの申し出を了承するのだった。

 

 

 

 

 

昼間。

試験管や薬品などがダンボールに置かれており、扉には開発室の立て札が掛けてある。

薄暗く、人の気配もないような部屋の中で一人の金髪の男性、ボスが笑みを浮かべつつ立っている。

 

その視線の先にはぐちゃぐちゃに書かれた何かの紋様の上に鎮座している怪人製造機。

 

ボスは閉じている目を開くと、口を開いた。

 

「近々魔法少女を集める....か。そろそろセフィロトシステムを元に戻すつもりか?いや、でもそれならあんな風には弄らないか....。それなら私を潰しに来るのかな?まぁなんにせよ貴方らしいね、姉さん。自分の手駒に尖兵が混じっているとも思わない。その愚鈍さには脱帽するよ。」

 

歪んだ笑みを握りつぶすように手で口元を押さえる。

 

「すでに王手は打ったのだよ、私は。後は保険を貼るだけだ。」

 

そして傍らに放ってある中身のない愛羽の頬を撫でる。

その手つきはまるで慈しむかのようだった。

ボスは目を細める。

 

「君が双子で助かった。こうして邪魔があった時の為の保険を張れるんだからね。」

 

そう言うとまるで糸を切られたパペットのようにぐったりとしている愛羽をお姫様抱っこで持ち上げる。

そして機械の傍に置く。

 

ボスは愛羽を製造機の近くに置くと机に置いていた何本もの試験官を中に放る。

それらは<G-3>や<ミルクボーイ(ケフィア)>、<蟹うんこせ>など今まで開発室で作られ、保管されていた怪人の体組織などのサンプルを魔法陣の中に投げ込む。

割れる試験官、広がるホルマリンと散らばる肉片や毛などの体組織。

 

そして手を翳すと足元から手にかけて深淵を覗いているかのように得体の知れない闇が掌から魔法陣に向かって垂れていく。

すると魔法陣に沿って闇が広がっていき、紋様が怪しく黒光りする。

 

それを見てボスは口を開く。

 

「生命にあらず肉塊よ。我が意思の下で塵から姿を現せ。」

 

その言葉の直後に魔法陣に体組織などが吸い込まれて行き、紋様からブクブクとピンク色の肉腫が湧き出してくる。

そしてそれは製造機と愛羽に纏わりついて飲み込んでいく。

 

「汝に意思はいらず、要るのは子宮のみ。醜悪な孵化器と化し、異形を孕み、地へと産み落とせ。」

 

するとその言葉と共に、肉腫が完全に愛羽と機械を包み込み、巨大な蜘蛛のように無数の足が生えた形態を取る。

そして顔に当たる部分からは愛羽が裸の状態で埋め込まれたように上半身だけを出していた。

肉塊部分には目やヒレ、また蜘蛛の糸を出すところに当たる腹の先には、縦割れのように開かれた口があり、今まで作ってきた怪人の特徴が雑多に混ざっていると分かる。

 

それを見て満足げに笑みを浮かべると、顎に手を当てて考え込む。

 

「異形の母か.....名前はどうするか。...ティアマト?いや陳腐だな。異形の母から取るなんて安直だ。陳腐だし誰でも思いつきそうだからな。...ならば怪人を自動で作り、産み続けるのだから....孵化器、インキュベーター?...思いつかないし、それにしよう。やはり彼ほどの命名センスは、私にはないな。」

 

思い出したかのように笑うと、彼は目の前の異形のべっちょりとした体表を撫でると、その部屋を後にした。




様々な陣営が予兆を見せ、前に一度出てたマリアに拾われ、コクマーと呼ばれた少女を掘り下げる回です。

悪の組織の合成素材と化した橘姉妹BB
好き勝手使われてて可哀想

イッチが活動していないのに怪人が出ているのは、つまりそういうことです。
そして魔法少女陣営が動き出したのに呼応して、ボスは保険を貼ります。

活動報告に灰色魔法少女の設定を貼ります。
想定ではあと3話で最終回になるので最後まで付き合っていただけたら幸いです!
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