【急募】安価で怪人作るわwwww   作:胡椒こしょこしょ

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始まり

初めてケテルさんがマリアさんだったと分かったあの日から数日。

それからも怪人が出てきて、戦ったりといつも通りの日常を送っていた。

しかし今日にいたってはベッドに入って眠りに就くと、前に見たような心象世界で目を覚ました。

 

周囲は透き通る程に白く、地面からは泡が天空に向かって昇っている。

ただ自分が今まで入ってきた心象世界と違って、泡の一つ一つに心象世界の主の記憶が写っていない。

普通の心象世界とは少し違うのかもしれない。

 

周りを見回すと晶ちゃんを始めとした魔法少女の皆がなぜか変身した状態で居る。

魔法少女になっていないのは私だけ。

リンカリオンが答えてくれなくなった私だけだった。

それは、今まで学校にも来ずに会う事が出来なかった姫啞ちゃんも居た。

ただ、彼女は目に濃い隈が出来ており、みんなとは少し離れたところに居た。

 

「....ねぇ、これって柚月ちゃん...ではないよね?」

 

隣にはステッキの石にサルベージに入っているはずの愛羽さんと舞羽さんも居る。

舞羽ちゃんはそう私に聞いてくる。

 

「う、うん....。私じゃないよ。というより正直、みんなが居ることも驚いているし....。」

 

「魔法少女が全員集合してる....いや、全員じゃねぇなぁ。緑の敵になった奴はいねぇ。」

 

愛羽さんは周りを見回して、そう呟く。

それを聞くと、隣の晶ちゃんが口を開いた。

 

「これってもしかしてこの前マリアさんが言っていた....」

 

「マリアではない!それは世を忍ぶ仮の名前....我の真名はケテル!大神に選ばれし第一の使徒であるぞ!!...ふふっ、我の言葉を頭に刻んでいたか。だが、まだその時ではない。降臨の瞬間を刮目せよ!!」

 

晶ちゃんがそう言うと、マリアさんはすかさず訂正する。

するとそれに捕捉するように信女さんが口を挟んだ。

 

「今のは...私達にステッキを渡した人はまだ来ないから、それまで待とうって...言ってる。それと....マリアはマリア。ケテルじゃない。」

 

マリアさんの中二病語を翻訳する信女さん。

するとマリアさんは信女さんに噛み付く。

 

「違う!我はケテル!何度も言わせるんじゃないコクマーよ!!」

 

「私はコクマーじゃない。....もしかして、マリアは人の名前だけじゃなくて自分の名前も、分からない?」

 

「ううぅぅぅ!!そんな目で見るなァ!!」

 

首を傾げながらも哀れみの目線を向ける信女さん。

そんな彼女に歯軋りしながらも飛び掛かるマリアさん。

一瞬どうなるのかヒヤッとしたが、飛び掛かった後、わちゃわちゃとしている様子を見ているとじゃれているだけだと分かった。

 

そんな様子を見て、琴乃さんが頬に手を当てる。

 

「仲が良くて微笑ましいわね....私も、久しぶりに今度昔の友達に会ってみようかしら。」

 

過去を懐かしむように遠い目をする琴乃さん。

その時、急に私達の目の前で光が差し込む。

皆はそれを見ると、光の中に女性的なシルエットが微かに見えた。

 

それを見ると、マリアさんが腕を広げてポーズを取り、声を高らかに張り上げた。

 

「時は来た....我らが主、大神の降臨だ!!」

 

すると光が収まっていき、一人の女性の姿が見えてくる。

それは白いドレスを身に纏った金髪の女性。

神秘的なオーラを身に纏っており、整った顔は儚げな印象を周りに与えていた。

 

私達にステッキを与え、そしてリンカリオンが進化した時は心象世界ではあるものの顔を合わせたことがある人。

彼女は私達を見回すと、笑顔を浮かべる。

 

「....どうやら、全員揃ったようですね。遅くなってしまい、申し訳ありません....。」

 

そう言って頭を下げる。

それを見て、マリアは笑顔で返答する。

 

「構いません、大神よ。我らは貴方様の使徒....汝の赴くがままに。」

 

「...えーと、どういう意味なのでしょうか?」

 

その人はどこか戸惑った様子で聞き返す。

え?もしかしてマリアさんの言っている事分からないの...?

マリアさんを見ると、どことなく気まずそうにしていた。

そんな彼女を見て、大神と呼ばれたその人は申し訳なさげに頭を下げる。

 

「ごめんなさい。いつも啓示で動いてもらっていたから、言葉だと意思が伝わりづらいものですね....。」

 

「いえ、その...うん。我は所詮、使徒。我の思い上がりであったか...フッ。」

 

「...マリアはいつも大神の啓示を受けて動いていたから...実は、対面したのはここが初めて。」

 

呆れた顔をしながらも、こちらにコソコソと教えてくれる。

なんかずっと大神が云々言っていたから頻繁に会ったことがあるのかと思っていた...。

それは隣の晶ちゃんも同じだったらしい。

 

「御託は良いけど、そもそも....私達アンタの名前知らないんですよね。人が寝てる間に呼び出したんだからそれくらいは教えてもらってもよくない?」

 

「お、お姉ちゃん!態度が悪いよ!!」

 

舞羽ちゃんが愛羽さんに注意をする。

でも確かに彼女の言う通りだ。

私達はあの人が私達に力を与えた人だと言うことは知っていても、名前や目的も何も知らないのだ。

すると、その人は舞羽ちゃんに笑顔を向ける。

 

「良いのです。最もなことですから。....私の名前はアイリス。以後、お見知りおきを。」

 

アイリスさんはそう言うと、上品な仕草で頭を下げた。

それにしても愛羽さんや舞羽さん、杖の中で寝てるんだ....。

そりゃ人間だもん。

当たり前だよね....。

 

「それで....なんで私達はここに集められたんですか?アイリスさん。」

 

私がそう聞くと、アイリスさんは私に笑顔を見せる。

わぁ....凄い綺麗な人だなぁと真正面から見ると再度思わされる。

 

「今日貴方方を集めたのは他でもない。来たるべき時が来たからに他なりません。」

 

「来たるべき....時....?」

 

アイリスさんは頷く。

すると、さっきまで口を開かなかった姫啞ちゃんが口を開いた。

 

「...前置きが長いんですよ。つまり、自分から出てこれるほど動けるようになった今、敵の大元を叩きに行く。そう言う話でしょう?」

 

「...私達と一度敵対したのだから、態度くらいは殊勝にしたらどうなの?」

 

晶ちゃんは厳しい目つきで姫啞ちゃんを見るが、彼女はどこ吹く風。

晶ちゃんの顔を見ると、目が合う。

 

「...そうね、分かってる。今は....良いわ。」

 

この前に話した言葉。

苦しんでいるなら、ケジメとか抜きに助けたい。

そう思って、一歩踏み出した時に彼女はこちらに目を向ける。

 

「何を思っているのか知らないけど、私は....助けなんか求めていない。」

 

「あなたねぇ!!」

 

「晶ちゃんっ!!!」

 

晶ちゃんは姫啞ちゃんを咎めるように声を上げる。

そんな晶ちゃんを止める。

それでもなお姫啞ちゃんを睨みつける晶ちゃん。

そんな中、アイリスさんが口を開く。

 

「....ごめんなさい。この人数をこの空間に招くのは初めてなの。いつまで維持できるか分からないから、話を優先させてもらえますか?」

 

「....わかりました。」

 

「....私は元々そのつもりなんですけどねぇ。」

 

渋々頷く晶ちゃんと活力の無い様子で同意する姫啞ちゃん。

あの姫啞ちゃんがあそこまで....あの時の出来事は、姫啞ちゃんにとってはとてつもないショックだったのだろう。

そんな二人の返事を聞いて、彼女は話始める。

 

「私自身も、貴方方の戦いと時間の経過のお陰である程度活動できるほどに自己復元が出来ました。だからこそ、調査を行っていたのですが....最近は怪人からも濃密なあの男の力を濃密に感じ出したのです。そして....急に奴の気配も増してきた。もしや奴も、私と同じく自己の復元に成功していたと考えられます。」

 

彼女が泡に手を差し出すと、怪人がなにやらサーモグラフィーのように真ん中が赤くなっている映像が泡の表面に写る。

そして再度此方へ向き直った。

 

「だからこそ、奴が完全に復元する前に大元を叩きます。これは久遠寺姫啞の言った通りですね。」

 

「...それで、奴とかあの男と呼ばれているのは誰のことなのでしょう?前に戦った刀を使った黒い鎧武者のことなのかしら....?」

 

琴乃さんが聞くと、アイリスさんが首を振る。

 

「いいえ。違うわ。彼は私の言うあの男に人生を狂わせられた被害者に過ぎない。....私たちの真の敵、セフィロトの中でも虚無に位置する男、......。」

 

『アレクサンドル....私の弟、ですよね?姉上。』

 

「えっ......。」

 

不意に晶ちゃんが口を開いたかと思えば、男の声。

そして伸ばした手から更に黒い触手のような物が出てきて、アイリスさんの胸を貫いた。

突然の出来事に呆気にとられるアイリスさん。

 

そんな中、晶ちゃんの杖が光っていた。

 

<Gladiorus start-up Update base...GlagiorusXX...XX...X..X....double...cro..ss....>

 

まるで壊れたラジオのように途切れ途切れになる機械音声。

すると晶ちゃんの身体から黒い液体のような物が抜けていくと、それはアイリスさんの身体に纏わりつき、人の形を取った。

それはアイリスさんの生き写しのような金髪の男。

彼は背後から再度腕をアイリスさんの身体に突っ込んだ。

 

「....な、ど、どうやって.....」

 

アイリスさんが驚いた表情を浮かべている。

それを見て、せせら笑うアレクサンドル。

 

「知らなかったかい姉さん?ダブルクロスというのは....裏切りを意味するのだよ。彼女に私の血液を混ぜたおかげで、貴方の世界にも干渉出来た。つくづく私は有能な部下を持ったと思うよ。貴方とは違ってね。」

 

「アイリスさん!!...これは......!?」

 

胸をぐりぐりと抉られているアイリスさんを助ける為に一歩踏み出す。

...が、足元でドロドロと赤黒い物が広がっているのを見て足を止める。

周りを見れば、地面には赤い線と黒い汚泥が溢れ始め、空間自体が変質し始める。

これは...あの男の人の心象世界でも見た.....黒い何か。

てことはあの人が....

 

「ッ!!!」

 

すると姫啞ちゃんがその男の人を見て、息を詰まらせる。

その目は怨敵を見るかのような鋭さを持っている。

彼女が踏み出した瞬間、アレクサンドルの足元から鎖が出てきて彼を縛る。

 

「おや...君は。久しい顔だな...君の大好きなお兄さんを私の物にした時以来かな?」

 

姫啞ちゃんを見て笑みを浮かべるアレクサンドル。

その言葉を聞いて、歯噛みすると叫びを上げる。

 

「お前がァァァァァァ!!!!!」

 

掲げたピンクと黒の宝玉が入り混じったステッキ。

そこから巨大な魔法陣が展開される。

だが、その瞬間アレクサンドルを縛る鎖は液状に溶けてしまう。

そして空いている方の腕を彼女に翳した。

 

「ごぼっ...やめっ....」

 

「無駄だよ。」

 

血を吐きながらも制止しようとするアイリスさん。

それを無視すると、アレクサンドルはそう言って手を握りしめる。

瞬間、姫啞ちゃんの近くの空気が火を噴いた。

咄嗟に杖で受けるも、衝撃を殺しきれずに地面へと堕ちていく姫啞ちゃん。

彼女の魔法少女装束が黒と赤の入り混じった物からピンク一色になる。

見れば、黒い宝玉のような物が彼女の周りで飛び散る。

ステッキの宝玉を砕かれたのだ。

 

「君のことは....もう知っている。」

 

「チッ!」

 

「お姉ちゃん!!!」

 

それを見て、愛羽さんが一歩踏み出した瞬間。

まるで縫い付けられたかのように身体が動かなくなる。

 

「か、身体が......」

 

周りを見れば、他の子たちも同じようで顔にはなんとか身体を動かそうとする苦悶の表情を浮かべていた。

あの人は....なにを...したの?

 

「悪いが、この空間は半ば私の支配圏になろうとしている。君達の動きを制限するのは造作もない。それにしても.....」

 

アレクサンドルは周りを見回す。

そして笑みを浮かべた。

 

「それにしても...随分なことをしたものだね、貴方は。私たちの父の<セフィロト・システム>をバラシてこんな女共に配るだなんて.....父が見たらなんて思うか....嘆かわしい。」

 

「貴方は.....」

 

「まぁ。動けないんだ。何も考えずに楽にしていてくれたまえ。万が一もある。君達には....救われる権利を、与えない。可哀想に....君達はただ、私たちの尻拭いをしていただけだと言うのに。」

 

「それってどういう.....」

 

私が言葉を口にするも、それに彼は答えない。

彼はただ手を更にこちらに翳すと不意に足元が膨張する。

それを見て、アイリスさんが歯噛みしながらもなんとか手を挙げる。

口が動いた。

 

『に』『げ』『て』

 

そう言った瞬間彼女の手から光と共に暴風の如き風が吹く。

その風は動けない私達を吹き飛ばす。

そして目の前が白くなっていき、胸を抉られているアイリスさんがどんどん遠くなっていく。

 

アイリスさん!!

手を伸ばした瞬間、何か風で飛ばされたのか硬い物を掴んだ。

その感触を感じた瞬間に、意識が白く、ホワイトアウトしていった。

 

「アイリスさんっ!!!!」

 

そう言って起き上がる。

周りを見ると、自分の部屋。

外では小鳥がちゅんちゅんと朝の訪れを告げていた。

今のは....夢?

そう思いつつも、起き上がろうとした時。

手に、何かを握りしめている事に気づく。

なに....?

 

手を開いてみると、そこには絶えず眩い光を放つ宝玉と割れた黒い宝玉、そして赤い宝玉の小さな欠片が手の中にあった。

アイリスさんがどうなったのか。

そこも気になるが、やはり気になるのはあのアレクサンドルなる男が言っていた言葉。

『可哀想に....君達はただ、私たちの尻拭いをしていただけだと言うのに』という言葉。

それはつまり....私達はただみんなを怪人から守るために戦っていたってわけじゃない?

あの男はアイリスさんを姉と言っていた。

 

「一体、何が起きて.....」

 

そう呟いた瞬間、手元の宝玉が光る。

 

「えっ、えっえっ!?な、なに!!?」

 

突然光り出す宝玉に戸惑っていると、不意に声が耳元に響いた。

 

『そのことについて....私が説明します。もしかすれば事態を急を要するかもしれない。目を閉じなさい....。』

 

その声はアイリスさん....にしては少し幼く聞こえた。

目を閉じろと言われても.....

見ると、今日は休日だ。

学校はない。

...なら、二度寝しても許されるかな?

 

そう思っておずおずとベッドに再度横になる。

すると手の中の宝玉から温かみを感じて、すぐに意識が眠りへと堕ちていった。

ぽわぽわと何かに包まれていく感覚を感じる.....。

 

 

 

 

「...へぇ、確かにまだここはあなたの世界だ。なら、彼らを追い出すことも可能...か。まぁ、私からしてもどちらでも良いのだけれどね。姉上?」

 

ぐりぐりと胸元を抉りながらもにこやかに姉に声を掛けるアレクサンドル。

そんな彼に視線を向けるアイリス。

 

「あな...たは......」

 

そう言葉を漏らす彼女を見て、鼻で笑うアレクサンドル。

 

「貴方とは違って、私は自分の力をバラバラに散らされた。集めるのは骨が折れたよ。...それでもこうやって貴方の裏を掻けたのであればその苦労も無駄ではなかったけどね。」

 

「何を...する....つもり......」

 

そう聞く姉に対して言葉を続ける。

 

「別に、父の遺志を無視した貴方の代わりに、私が父のやろうとしていたことをやろうというだけだよ。父に託された<セフィロト・システム>を封印しようとした貴方とは違ってね。」

 

「あの...システムは.....失敗だった....そんなことしたところで、御父様と同じ間違いを......」

 

そう言おうとした彼女の心臓を鷲掴みにする。

そして表情から不愉快さを隠さずに口を開く。

 

「失敗などではない。....貴様に、それを判断する資格はない。...まぁ安心したまえ。何もそのまま使おうというわけではないさ。」

 

「なにを....」

 

戸惑う姉に対して目を向ける。

その目は見開かれており、口元には笑みが刻まれている。

 

「父は人々を神の領域へと押し上げようとした。それを人々が拒むのなら、私が神を人の下へと墜としてやろう。そうすればきっと...人々は救われる!きっとねぇ!!」

 

そう言って高笑いを上げる弟にアイリスさんは目を向ける。

 

いつからだろうか....弟が変わってしまったのは。

きっとあの頃だ。

私が選ばれたあの日から、...そして父が火あぶりになったあの日から。

あの子はきっと変わってしまった....。

 

「ん?我が父を拒んだ人々の為に救いを成す。まるで....聖書のメシアのようじゃないかい?姉上。」

 

「貴方はくるって...る....まだやめればきっと....まにあ....」

 

そう言葉を吐こうとする姉を冷めた目で見つめるアレクサンドル。

そしてそのまま吐き捨てるかのように言葉を口にした。

 

「間に合わない。もう局面は終わりに向かっているのさ.....。」

 

「かひゅ...ひゅ....ひゅ......」

 

腕を引き抜くとその辺に姉を放る。

そして手には紅くてらてらとした心臓。

それは微かに光を放っている。

それを見て笑みを浮かべると口元へと持っていき、それを口腔内に含む。

そしてごくりと丸呑みした。

蠕動する喉元。

そして飲み込んだ心臓が胃の腑まで届くと、背中に黒い靄が纏わりつく。

 

「...無限、アイン・ソフ。セフィロトの管制権限を取得。....完成だ。」

 

その言葉を口にした瞬間、靄からバキリと薄氷を砕いたような音が鳴り、背中から翼が生える。

まるで嘘のように白い翼。

しかしそれは根元から赤黒い血管のような物が翼を覆っていた。

 

「ご...め......」

 

何か言葉を発しようとするアイリス。

しかしそんな彼女に目を向けると、手を翳す。

すると黒い澱のような物が地面に現れて、飲み込まれていく。

 

「有難う姉さん。私は救うさ、もしくは壊すかな?どちらでもいい...どちらにせよ、後には誰も残らない。」

 

そう言うと、彼自身もその空間から消えて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「これは....山か。何か祭壇のような物を設置しているのか。位置は.....アジトから四方の山ね。」

 

未だに組織からの休暇を貪る日々。

この前は首輪付きの家に予期せずに泊まる羽目になったが、日々葛木からもらった情報を読み続けていると、終わりが見えてきた。

 

御使いがサイレント・アズールが生まれる前にあった存在であること。

太刀洗家を本家として何個かに派生した分家によって適正者が選ばれたこと。

そして俺がそれにあぶれた結果、どこかの山神か穢神と契約した人間である可能性が分かった。

まぁこんな過去の自分が分かった所で...って感じなのだが、read meには全てのファイルに目を通すように書いてあった。

だからこそ、終わりが近づいて来てくれたのは素直に嬉しくもある。

 

というより偶になんというか俺の過去と関係のない書類が入っている。

今見ているサイレント・アズールの戦闘員部門が集めさせられたエネルギーの結晶体とその近くに設置された山の祭壇などがそれにあたる。

こんなこと俺に見せてどうしようというのか。

 

そうして最後のファイルを開けると、そこには今までとは違って動画ファイルが入っていた。

なんだこれは.....。

 

動画を再生する。

そこには...。

 

「バロウズ.....!?」

 

金髪碧眼の青年。

バロウズが写っていた。

 

『先輩、今あなたがこれを見ているということは、俺はもうこの世にいないということ...かもしれませんね。普通に生きていたら恥ずかしいからアレなんですけど....。』

 

そう言って恥ずかしそうに笑う。

その姿は俺の知る後輩の姿、その物だった。

なぜこんなものが入っているのか....。

戸惑っていると、彼は言葉を続ける。

 

『今日、俺が先輩に伝えたいこと。それは、あのボスのことです。彼はある石を俺たち戦闘員部門に集めさせました。黒い石。先輩は知らないでしょう。それも当然です。ボスは、態々先輩には言わないように言っていました。開発部門で実質運営に置いて多く影響力を持つ先輩相手であるにも拘らずです。それに....私達戦闘員部門は何故か貴方の支援に回ることが許可されていない。それもおかしな話です。』

 

石....というのは資料にあった黒い宝石の形のエネルギー結晶体か。

しかし、あれは事実だったのだな。

そう思っていると、彼は言葉を告げる。

 

『俺は、先輩に隠し事をしているボスは信じられません。それに不自然な失踪者が多いです。脱走や事故、そうして失踪した人たちは、大体ボスに対して意見を申告したりした人達であるそうです。』

 

確かそんな書類もあった。

よく調べた物だと思ったものだ。

そうしていると、彼は神妙な顔で言葉を告げる。

 

『もしかしたら...何かしらの理由で俺も失踪するかもしれません。でも....俺は先輩であるあなたの顔に泥を塗るようなことは絶対にしない。そこだけは....信じてください。』

 

そう言葉を吐くバロウズ。

そこで動画は終わりだ。

アレがバロウズの言葉......

 

そう思った瞬間、PCの画面がおかしくなる。

絶えずファイルのアイコンが変わっていく。

やばい....もしかしてよく分からないけど壊しちゃったか!?

もしくはこれそこそこ古そうだし、経年劣化か?

 

そう思っていると、ウィンドウが開く。

そしてそこには一人の男が写っていた。

 

「か、葛木.....!?」

 

そこには葛木が写っている。

葛木はただこちらに笑みを浮かべている。

 

『...このプログラムが起動したということは、ファイルを全て閲覧したということだろうか。それはご苦労な事だ。』

 

葛木がこちらを称えるように拍手をする。

なんだコイツ....。

俺が怪訝な顔で見ていると、彼は話を続ける。

 

『なんでこんな形式を取ったというと....まぁバロウズの件など後付けの情報が入ったからな。ちょうどこういうのに憧れていたからこれ幸いとこの形式を取らせてもらったってところだな。』

 

...なんかスパイ映画とかでもありそうだからな。

そう思っていると、ウィンドウの隣に更にいくつかウィンドウが表示されていた。

そこにはボスと二人きりになっている人達。

そこには....最近懲罰班に出世していた彼、そしてバロウズが写っていた。

 

『これは監視カメラに写っていたもんだ。アンタの所のボスは処分したつもりみたいだけどな。』

 

「これは....」

 

見ていると、勝手に再生される。

そこにはどれもボスによって殺されている二人。

 

懲罰班であった彼はその後、何か黒いのが彼の身体に入っていき、そのまま立ち上がる。

様子がボスにやられる前と比べるとおかしい。

腕章を見ると、素材班と書いてある。

懲罰班になる前の彼だろうか。

というよりなんで今生きているんだ....ボスが何かしたのか?

 

それに、バロウズ。

死にざまは残酷な物だった。

こんなことが...あっていいのかと思う程の死にざまだ。

逃げたんじゃない。

ボスが殺した....。

 

『まぁ、見た通り。アンタの所のボスが言っていたことは間違いなく嘘だ。バロウズは別に逃げちゃいない。寧ろアンタの所のボスが殺した。それが事実だ。そして懲罰班になった奴が以前と違うのもその為だ。それに....これは忍ばせたカメラの映像だ。』

 

葛木が指さした所に再度新しいウィンドウが現れる。

そこには開発室の冷暗室から運び込んでいた魔法少女の片割れを持ち出すボスの姿。

じゃあ、別にバロウズが魔法少女を持ち出したわけでもない....。

 

ならボスが言っていた言葉は嘘だということだ....。

俺の後輩は、ボスに殺されたのだ。

それも、魔法少女を持ち出した組織の背信者のように仕立て上げられて...。

 

確かにボスは俺の雇い主だ。

でも....こんなことを知って思う事がないわけがない。

だが....今はアジトは閉鎖している。

俺であっても入ることは出来ない。

そもそもアジトにボスは居るのか?

そう思っていると、彼は笑う。

 

『まっ、この後にお前が思う事がありありと分かるぜ。....いつも俺から金借りてたような奴が、なんでこんなことまで知ってんのかってな。』

 

「...確かにそうだ。そうだよなぁ....。」

 

ごめん、葛木。

バロウズのことで頭一杯だった。

だが確かにそうだ。

彼がなぜ組織の暗部に詳しいのか?

それが気になる。

 

すると彼は笑う。

 

『まぁ、それは俺がお前の所の組織の詳細を収集して俺の所の組織に持ち帰っているからな。まぁいわばスパイだってことだな。』

 

「は?」

 

それはつまりマジでスパイだってことか?

えっ....さっきまでの情報の真偽が疑わしくなってくるんだが。

最近は映像の編集とか簡単に出来るし....。

いや、でもな。

あれは合成のようには思えなかったし....。

 

戸惑っていると、彼は笑う。

 

『ハハッ、急にさっきの映像やファイルの情報の真偽が疑わしくなったか?まっ、俺の組織は水平機関って言ってな。組織間の勢力を均等にするのが目的のむが~いな組織なんだよ。いわばバランサーだな。そんでお前の所のサイレント・アズールが急激に勢力を伸ばし始めた。それと同時にこの土地で確認されていた妖魔なる存在が消えた。だから調査の為に俺は派遣されたんだ。...気づかなかったろ?結構そこら辺にカメラとか仕掛けてたんだぜ?まぁ、片付けんの大変だったけどな。』

 

気付かなかった....。

てかそういうのってプライバシーの問題にならないか?

...まぁ、コイツの場合は仕事だから気にしていられないのか。

よくバレなかったものだ。

 

だからこの土地の調査書なるものまであったのか。

彼は笑う。

 

『まぁ妖魔が出現しなくなった理由もお前の所の組織が何故か枯渇させるまで使用していることだとも分かったし、お前の所の後輩から頼まれたことも大方終わった。これがアンタの所の暗部さ。さて、どうするかはお前次第だ。スパイの言う事を信じないなら別にそれでいいし、俺を信じてくれるならそれでもいい。まぁ、俺を信じてくれた方がお前の後輩も浮かばれると思うけどな。後は、辞職届も出さずに失踪するつもりだからよろしく。』

 

「辞職届を出さないって....去り際も迷惑な奴だなお前は,,,,。」

 

だが、コイツらしい。

それにコイツは金はせびったことはあっても、書類はちゃんとしていたし、嘘など吐かれたことはない。

...そしてバロウズのこともある。

俺の目を掛けていた後輩だ。

あの後輩を背信者か被害者、どちらと思いたいかと聞かれたら当然後者だ。

人は信じたい物しか信じない。

だからこそ、俺は葛木を信じたいと思った。

 

すると、葛木は笑う。

 

『まぁ....お前には色々と世話になった。また縁があったら会おうぜ。...くれぐれも映像の連中のように、お前はなるな。...幸運を願う。』

 

そう神妙な顔をして言った後、彼はチャオ!と言う。

するとPCは正常な状態に戻る。

色々新しい事実に頭が追いつかないが、それでも後輩のことや自分のことについて知るには良い資料だった。

そしてボスのことも。

ボスは後輩を殺し、素材班の男をどうにかして一体何のつもりなのか?

それにあの双子魔法少女をどうするつもりなのか。

そう考えながらも立ち上がろうとした矢先、突然地面が揺れ出す。

 

なんだ!?じ、地震か!??

立っていられない程の揺れ。

戸惑いながらもちゃぶ台の下に隠れる。

そしてテレビを点けた。

だが、テレビでは緊急地震速報は鳴っていなかった。

ただそこには....。

 

『...街一つが浮上を始めています!このようなこと、信じられません!この世の物とは.....』

 

俺達の街が地面ごとえぐり出されたようにしてそのまま浮いていた。

抉れた部分には魔法陣が所狭しと現れていて、それが脈動している。

しかし、その瞬間周囲の電気が消える。

そしてしばらくすると揺れがドンドン小さくなっていき、収まっていく。

 

これは...一体。

何が起きているんだ?

あんなの、作り物の映像だと言われた方がまだ納得できる。

そのくらい現実離れした光景だった。

戸惑いつつも、テレビを再度点けようとするが、点かない。

それどころか、部屋の電気も真っ暗だ。

 

情報収集も出来ないぞ....

そう慌てる中で一つ思い出す。

そうだ、スマホのSNSを見れば.....。

もしくは動画配信サイトか?

 

そう思い、スマホでSNSを見てみると、そこにはトレンドが浮く大地と共にカバラという文字があった。

カバラって....今度合併するってボスが言っていた組織のことか?

このトピックを選ぶととあるツイートが目に入る。

 

「宣戦...布告?」

 

そのツイートには宣戦布告wwwみたいな言葉と共に動画が取られていた。

それは直撮りのようだ。

再生する。

 

『えぇー、現在、関係各所に問い合わせの上、確認中でございま.....』

 

アナウンサーが話している中、急にノイズが走る。

そして、違う場所を写し始める。

見覚えのある場所....ここは......。

 

「ボスの...統括室だ......。」

 

自分の組織のボスの部屋。

そしてボスは正装を身に纏い、まるで会見のように席に座ってまっすぐテレビカメラを見ている。

 

『皆様、こんにちは。私は、サイレント・アズールの統括者であるアレクサンドル・エイロヒィムです。』

 

そう言って彼は頭を下げる。

その仕草は紳士そのもの。

彼の甘いマスクも相まって良い印象を初対面の人に与えるであろう。

だが、奴は後輩を惨たらしく殺した。

その人である。

...まぁ、雇い主でもあるのだが。

 

『今日は、皆さんに二つ...お知らせがあります。』

 

彼は神妙な顔でそう告げる。

 

『一つは、私は...現時点を以て、サイレント・アズールを解体。新たな組織、カバラを樹立し、新たな組織の主となることを宣言します。』

 

は?

どういうことだ?

合併するのではなく、樹立?

確かに掲示板ではそもそもカバラなんて組織は見ないって話だった。

しかもそれなら俺たちに連絡が入ってしかるべきはずだ...。

 

『サイレント・アズールに所属していた人員は全員解雇ということになります。理由としては最後の時を好きに過ごして欲しいから。』

 

笑みを湛えつつ、そう言うボス。

どういうことだ?

首を傾げていると、彼は話を続ける。

 

『そしてもう一つは....私はこれより今浮かび上がらせている街を地球にぶつけます。有史以来、人々は争い、苦しんでいた。神に祈るも神に遠ざかり、救いを渇望しながら拒絶した。それが人の業だ、致し方ない。』

 

この街を地球にぶつけるだと?

そんなことしたら.....どうなるか。

遠い目をしながら話すボス。

 

『あなた方は知らないかもしれないが、セフィロトシステム...人を神に押し上げようとする試みがあった。まぁそれも諸君らが拒絶した果てに頓挫したが....逆に考えた。セフィロトシステムが人が神の領域に至る為の道筋を示すなら、反対にしてしまえば?人を神の位置へ、神を人の位置にすれば...人はきっと神に至れる。神を堕として救われる。』

 

なんかカルト宗教みたいなこと言ってるんだが....

この人こういう人だったのか?

そう思っていると、彼の背後のスクリーンにある画像が写る。

球体を線で繋げて樹形図。

それを逆さまにひっくり返した画像。

 

『それが私が為そうとする逆しまの樹、<クリフォト・システム>の基本理念だ。今浮かびあがっている大地を天と仮定して地へと墜とし、その時に発生したエネルギーを以て人を神の領域へと至らせる。...もちろん諸君らの犠牲が付き物だが、...怖がらなくていい。君達は礎となる。衝突は二日後、それまで家族や恋人と過ごすなり、やりたいことをやるなり、心穏やかに過ごすと良い。』

 

そう言うと彼は笑顔を見せて、こちらを見る。

そして口を動かした。

 

『では、ごきげんよう。人類最後の魔術結社カバラから人類諸君への最後通牒でした。』

 

そう言ったところでまた画面はニュースに戻る。

いうなら電波ジャックでもしていたのか。

SNSでは未だ上昇続けるこの街の様子、そしてそういう公的機関が地球に衝突した場合の被害状況を示していた。

良くて大津波や大地震。

悪くて地球崩壊と。

少なくとも現生人類において最大の脅威であることが示されていた。

 

....もし人類が滅んだら?

そんな問いは暇な小学生とか創作家とかしか考えない物と思っていた。

だが、いざその命題に直面した時、俺はどうするか。

 

「人類が滅んだら....上手いスイーツも食えないんだよなぁ。」

 

そう呟く。

それにボスは後輩を殺し、そして素材班のアイツも手に掛けた。

確かに黄色魔法少女によって見た昔の記憶では、俺はボスには勝てない。

多分、今でもそれはそうだ。

だが....妨害なら出来るんじゃないか?

これも同じ魔法によって起きているなら....魔法少女の魔法を刀で吸収出来た俺になら。

きっと妨害できるんじゃないか。

 

「ありがとう、葛木。」

 

お前が怪しい所などを調べてくれたおかげで、俺はやるべきことが見つかった。

多分だが、アジトの四方の山に置かれていた祭壇、それが関係あるはずだ。

本来ならば、雇い主がどうとかで歯向かうことはしなかった。

だが....。

 

「組織は解散したし、多分これ給料出ないよな....それに好きに過ごすように言ってた。...なら、俺も好きにさせてもらおう。」

 

金の切れ目が縁の切れ目。

俺はまた.....アンタの敵になってやる。

そう決めると、立ち上がって外行きの服を着始めるのだった。




妖魔の存在が消えたというのはボスが土地の霊力を魔力に変換したからであり、現在土地を浮かべるのに使っています。
双子の片割れ、ダアト、姉の無限<アイン・ソフ>と彼の虚無<アイン>を以て、クリフォト・システムを完成させました。
...ただ、ボスが本当に人類を救うつもりがあるかは不明です。

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