【急募】安価で怪人作るわwwww   作:胡椒こしょこしょ

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人と繋がり、神を超越する

塔の中腹。

今までの怪人を寄せ集めていたような見た目の肉腫蜘蛛は二人を嘲るように揺れる。

そして、そこには自身の乳房や股にへばりついている小型の異形が取れないことに辟易とする信女と糸で武器を掴んでいる腕ごと身体に縛り付けられたことで利き手を使うことが出来ないマリア。

二人の魔法少女は、相手の術中に嵌って本領発揮できなくなってしまっていた。

 

顔を赤くし、肩を微かに跳ねさせながらも信女はマリアの近くになんとか歩み寄る。

そして糸にチェーンソーを宛がった。

刃を手元の糸に当てた瞬間、不安そうに彼女は信女を見上げる。

 

「け、契約者....大丈夫か?というか、これは大丈夫か!?」

 

心配そうに一度尋ねた後に、信女に食い入るように再度聞く。

前者からは信女を気遣う心、そして後者はチェーンソーを宛てがわれたことに対する不安感から発せられた言葉であった。

そんな彼女の問を受けて、信女は息を荒くしながらもマリアに笑顔を見せた。

 

「私は、だい....じょうぶ。それに....こうしないと、マリアは戦えない。私を、信じて...。」

 

「....それもそうだ。我が戦うにはまずこの軛から解き放たれねばならない!フッ、我も耄碌したか。同じ運命を進みし契約者が失敗などするはずがない。」

 

(そこまで完全に信じられてもどんな顔して良いか分からない...物なんだね....。)

 

したり顔でそう言うマリアに信女は内心困惑する。

すると、マリアはすぐさま付け加えるように二の句を継ぐ。

 

「ただもし腕をやってしまったなら....汝が我が右腕となるのだ。運命共同体だからな!....その、なんだ。つまりはまぁ....別にやっちゃっても汝は悪くないと言うか....」

 

不器用にも視線を右往左往に動かしつつ、頬を掻いてそう信女に言うマリア。

そんなマリアを見て、信女は笑ってしまう。

そんな彼女に頬を膨らませて不満を露わにするマリア。

 

「なっ、なぜ笑う!?人が気遣おうとしてたのに何がおかしいというのだ!!」

 

「ううん、ただ似合わない....って思っただけ。」

 

そう笑顔で告げると、彼女はジト目で信女を見つめる。

そして口を開いた。

 

「やかましい!....まったく、とにかく早く戦えるようにしてくれ、コクマーよ。」

 

「うん。任せて。」

 

信女は彼女の言葉に頷くと、チェーンソーを糸に宛がった。

そして目を閉じる。

 

(んっ....んぁ....、集中しろ。この程度の茶々がなんだ。現状はただ身体を弄られているだけに過ぎない。気持ちいいと言うより、キツイという気持ちが強い。でも、それは反対に言えば....。)

 

「普段の調子悪い時よりは....幾分かマシ。」

 

痛い時は一歩も動けなくなるくらい心臓が痛んだ。

沢山管や点滴を付けられて、起きているのか寝ているのかも分からないのに、息だけは苦しくて....。

そんなのと比べれば幾分も今の状況の方がマシだった。

こんなの、大したことじゃない。

 

目を閉じて集中するとゆっくりとチェーンソーを稼働させる。

いつもとは違ったテンポで鳴り響くエンジン音。

そして目の前には未来が見える。

確かに、今の自分は手元が狂いやすい。

 

だが、それなら逐一そのままの軌道で斬っていけばどうなるのかを未来を見ることで随時手先を修正する。

そうすれば、今の不安定な自分でも糸を切り裂くことが可能なはずだ。

ゆっくりと、糸をプチプチと切っていく。

そこでこのままの軌道で行くと、右手首に当たってしまう未来が見える。

 

「...ここから左斜めに少しずらすか。」

 

チェーンソーの刃先を少し左斜めに向ける。

そして今度はそのまま切っていけば斬れた勢いで胴体に当たるのが見えた。

 

「ゆっくりと慎重に...っ....慎重に!!」

 

胸元を一瞬ペロリと舐られて動きを一瞬止める。

だがこのままの軌道でも彼女を傷つけてしまう未来は見えない。

集中力を切らすな。

このままいけばうまくいくのだから....!

 

「すー、はー、すー....はぁー.....。」

 

呼吸を整えると、仕上げに取り掛かる。

着実に刃先を進めて行って糸を断ち切っていく。

そして、遂に。

 

「....ッ!!」

 

プチッと最後まで糸を断ち切れたことを理解すると、即座にチェーンソーを杖に戻す。

そして目を開くと、彼女の様子を見た。

 

「...流石は我が契約者。卓越した集中力だ。心配は....不要だったな。ありがとう。」

 

糸は腕と胴体の間を完全に斬ることに成功しており、そして彼女の身体からは血も何も出ていない。

マリアは信女を見ると、安堵の笑みと共に礼を言う。

その姿を見て、自分が無事に彼女の拘束を解くことに成功したと気づくと、膝から力が抜けた。

 

「ッ、信女!」

 

「あ、あはは....結構、疲れちゃった.....。」

 

張り詰めていた糸が切れたかのようにその場でへたり込んでしまう。

マリアはそんな信女を腕の糸を慌てた様子で雑に取り払うと受け止める。

奇しくも抱き締める形になる。

 

「...色々、服の下で....ちょっかい掛けられちゃって.....もう、アレ以上に集中するのは無理、じゃないかな....」

 

そうおずおずと言い出す信女。

するとその言葉を聞いてマリアは彼女に快活にも笑顔を見せる。

 

「フンっ、問題ない。我が右手の封印は今解かれた!っあぐぅぅうううう!あ、暴れるな我が右手!ぐぅぉおおおおお!!!振るう相手を、求めてっ...いるのかっ!?」

 

「...はは、それについていくのも、無理かな。」

 

割と、疲れ切っている様子の信女を見て一度気を取り直すかのように咳き込むとマリアは口を開いた。

 

「そうか。....だが大丈夫か?奴は力をこちらに振るおうとしているが。」

 

そう言われて、奴の方向を見ると奴は周りに黒い液体を撒き散らしている。

すると液体は様々な怪人のパーツがちぐはぐに突いた四つ足の異形へと変化する。

足を斬られたことで気が立っているのか肉腫蜘蛛の身体がボコボコと沸き立ち、唸りを上げている。

 

信女は苦笑いを浮かべながら、マリアの問いに答える。

 

「多分....いや、どうだろう....うん.....。」

 

自信をもって返答できない。

大したことはないと断じたとはいえ、今もなお服の上では癒着した異形が身体を嬲りまわることで体力を奪うし、ましてやさっきまで膝を突いていたのだ。

それにマリアの糸を切ることに集中したことで精神的にも疲労が溜まっている。

心身ともに、十全とは言い難い状況だった。

 

その言葉を聞いて、マリアは目の前の相手に視線を向け、私に視線を向けることなく言葉を述べる。

 

「....だろうな。契約者のことは経路を通じて手に取るように分かる。...であれば、方針を変えよう。」

 

そう言ってマリアは前に出る。

 

「方針?」

 

私は彼女の言葉を聞き返す。

すると、彼女は頷いて口を開いた。

 

「然り。さっきまで鶴翼のごとく別れていたが...今や奴は動きがトロい。それは奴自身も理解しているのだろう。攻撃が苛烈になるはず。それに、イェソドを盾にする以上、攻撃しにくい。だから...」

 

「....私が後方支援でサポートする..ってこと?」

 

そう言うと、彼女ゆっくりと嬉しそうに頷く。

 

「ほう、よく分かったじゃないか。クク....我との契約の強度が上がったか?約束の日は近い....。」

 

何やら変なポーズを取りながらも、したり顔でそうのたまうマリア。

そんな彼女を見ながらも、信女は口を開いた。

 

「じゃ、マリアが突き進んでいって....奴が人質を盾にしたら奴の身体から切り離す。そういう感じで....どう?」

 

「異存なし!!」

 

そう言って、マリアは走りだす。

後ろに控えた信女は柱の一つに紐状の魔力を絡ませた。

そして手を引き、紐を手繰り寄せて空中へと舞い上がる。

 

キメラのようにちぐはぐな四足異形もまるで肉腫蜘蛛を守る様に立ちはだかるとこちらにバタバタと走って来る。

接近速度はかなり早い。

自分達に向かって走って来る大量の異形。

しかし、マリアの表情から笑みは失われない。

 

「我が契約者よ!」

 

「はいはい。」

 

信女は上空でマリアの声を聞き、返事する。

そして手からチェーンソーを投げる。

チェーンソーは地面に向かって勢いよく迫っていく。

しかし、そのチェーンソーが地面に突き刺さる前に、手をそちらの方向に翳した。

 

<sträng>

 

手から伸びる紐状の魔力。

それはチェーンソーの柄に巻き付く。

そして落ちながらも信女はそれを振り回した。

 

稼働するチェーンソー。

空から不規則に地面に迫る刃は相手に攻撃の瞬間を察知させない。

そして異形に当たると一瞬で両断した。

チェーンソーが掠めた後には、ズタズタになった四足異形の残骸。

 

黒い液に塗れながら、吼えるかのようにチェーンソーは唸りを上げている。

 

「我も負けてられん!!」

 

目の前から飛び掛からんとする四足をメイスで打ち返す。

 

「ミシャァァァ!!」

 

横から迫る四足には手元に魔力弾を形成。

避けた瞬間、掌を押し付けることで破裂させる。

すると、上空の信女が声を上げた。

 

「12時の方向!針が来る!!」

 

その声を聞くやいなや、マリアは地面を力いっぱい蹴って上空へと飛び上がる。

そして置き土産かのように掌から魔力弾を大量に形成し、ぽろぽろと墜とす。

 

「粉雪.....散華.....」

 

「雪なのか花なのか...はっきり、しなよ。」

 

「うるさい!」

 

マリアがカッコつけた吐いた言葉に突っ込む信女。

マリアはそんな彼女の言葉を一言で片づける。

すると、相手は上空に居ることに気づいたのか、背中に埋め込まれているヘドロのような怪人がボコボコと脈動を始める。

 

「空中勢力対処:acidgarbage」

 

ヘドロの塊をこちらに連射する肉腫蜘蛛。

身構えるマリア。

しかし、そんなマリアの背中を抱く信女。

 

「の、信女っ!?こんな時に何をっ....!」

 

「私が、全部避ける。貴方は....任せてくれればいい。」

 

彼女の魔法、未来予知。

それがあれば攻撃を避けることなど容易い。

マリアは力強く頷いた。

 

「了解、貴殿に我が御身を任せる!」

 

そう言うと、ゆっくりと横に揺れるように飛ぶ信女。

しかし、捉えどころのないその機動は、ヘドロの合間を綺麗に縫うように抜けていく。

横を掠めていくヘドロ。

 

相手は、こちらに愛羽を向けている。

空から魔力弾などを撃たれないようにする為だろう。

それを見て、信女は小声で呟く。

 

「一気に...行くよ。マリア。」

 

「了か....いっ!?」

 

マリアが返事するよりも早く、信女は加速する。

急降下する二人。

一直線に肉腫蜘蛛に迫ろうとする二人に対して、肉腫蜘蛛は体制を変えてフグのような怪人の口をこちらに向ける。

確かにこのままの進路であれば、もろに受けてしまうだろう。

しかし、マリアは笑みを浮かべた。

それもそのはず、体勢を変えたことで愛羽の身体とは入れ違いにフグ頭の怪人の一部が入ったのだから。

 

「一直線に撃ち抜け、我が聖光!!」

 

そう言うと、抱きかかえられて急降下しながらもメイスをフグ頭目掛けて投げつける。

力一杯投げたメイスは風を斬りながらも肉腫蜘蛛に向かって落ちていく。

肉腫蜘蛛は避けようと、身体を引き摺る。

しかし、片足を切り落とされている為、動きが鈍い。

 

そんな異形を守るために四足異形はメイスの行先に飛び跳ねて立ちはだかる。

しかし、メイスは無情にもそんな小物ごと薙ぎ払っていく。

そして、狙っていたフグ頭の部分ではなく肉腫蜘蛛の左足をメイスが容赦なく潰す。

ぐしゃりと潰れて噴水のように吹き出す血液。

二本の脚を潰されたことで自重を支えきれなくなった肉腫蜘蛛は地面に胴体を付けてへたり込む。

 

「左足を喪失。バランス維持不能。固定迎撃へとプロセスを切り替え。」

 

愛羽は無表情で淡々と言葉を口にする。

その言葉を聞いて、マリアは笑みを浮かべる。

すると、彼女の身体も光を帯び始める。

 

「刮目せよ!新たな局面へと導く我が輝き、《†天開キ照ラシ出す明星†》!!」

 

そう言うと、彼女の身体の輝きが増して周囲を包み込む。

噴き出す白い光の粒子。

光を出しながらも、相手に迫る様はまるで流れ星。

しかし、次第にその光は尾とならずに信女の身体に吸い寄せられていく。

 

「これは.....、そっか。なるほど。」

 

マリアは自身を第一の使徒と言っている通り、最初の魔法少女だ。

その魔力は白く、力を与えたアイリスに最も近い。

だからこそ、彼女の魔法は他の魔法少女の進化の促進、強化。

柚月の時と同じく、白い光が信女に吸い寄せられると彼女の背中で集まり、マントを形成する。

軍服のような魔法少女服を包み込む白いマント。

そして胸元に略綬が現れる。

身体に取り付いている小型の異形は一瞬動きを激しくするも、濃密な光の粒子を浴び続けて動きが鈍くなっていく。

 

「不浄なる尖兵は、天蓋の聖光の中では生きられぬ....さぁ!おもいっきりやれ!!!」

 

「うんっ!お願い、ヴィートロメリア!!」

 

マリアに言われ、空中で体勢を変えると彼女を上に投げる。

風を斬って、信女の少し上の位置へと昇るマリア。

そして信女はまた体制を変えると、チェーンソーを再度唸らせる。

周囲に響き渡る稼働音。

それと共に、チェーンソーから機械音声が鳴り響いた。

 

<vitromeria Uppvaknande Titta på många futures>

 

信女の新たな姿。

その名前を高らかに周囲へ宣誓する。

そして、信女は目を閉じる。

 

『接近を検知、拡散性広域制圧武装:smog』

 

未来が見える。

奴の身体が膨れ上がり、破裂してそこから紫色のガスが自分達目掛けて噴き出すその瞬間が。

それだけじゃない。

視界が切り替わる。

 

『接近を検知、脅威測定:不能 排除:精槍』

 

今度は奴の身体から無数のイカの触手が出現し、こちらに白い液体を飛ばす光景。

また切り替わると、今度は糸をこちらに放つ異形の姿。

 

『攻性シークエンス:Ariadne』

 

それら以外にも複数の未来が見えた。

前は単一の未来しか見えなかったにも関わらず。

 

(これは....今までとは違う。そうか....今、私は起こるべき可能性を見ているんだ....。)

 

そう理解すると、彼女は手を伸ばす。

すると、翳した位置に魔法陣が現れる。

そしてそこから魔力の紐が伸びていく。

その紐は以前よりも色が薄く、そして細い。

伸びていく紐は糸を噴き出している縦割れの口を貫く。

溢れんばかりに地面へと噴き出す血液。

 

視界が切り替わり、また手を伸ばすと同じように紐が相手の攻撃手段を貫いて攻撃をする。

身体をぶち抜かれて血液を噴き出す異形。

その様を何通りも見る。

 

(どういう....ことなの。見える可能性に、私は今...攻撃しているの?)

 

自分の能力は未来が見えるはず。

しかし今、自分は未来に手を伸ばし、魔法を行使出来ている....?

困惑していると、チェーンソーから音声が鳴る。

 

<Förskott>

 

その音声と共に、未来視が終了する。

愛羽は自分を見上げて、口を動かそうとする。

どの攻撃方法を行うのか。

そう身構えた瞬間。

 

「敵性体せっき....っ。」

 

愛羽が声に詰まる。

それも当然。

いつの間にか地面に現れた魔法陣。

そこから出現した紐が異形の身体に絡みついている怪人の一部。

そこを余すなく紐で貫いていた。

地面にとめどなく流れ出る異形の血液。

針鼠のように身体を数多の紐で貫かれた肉腫蜘蛛は身動きすら取れなくなる。

 

「攻撃手段...喪失。対処...検索中...検索中...検索中....」

 

うわ言のように言葉を呟き続ける愛羽。

そんな彼女の元へ降り立つと、彼女が埋もれている部分、その周りにチェーンソーを押し当てる。

びくびくと蠢く怪人部分。

しかし、貫かれたことで蠢いても攻撃をすることが出来ない。

それを確認すると、信女はチェーンソーを一層激しく稼働させる。

 

稼働音と共に、肉をぐしゃぐしゃと引き裂いていくチェーンソー。

彼女の周りを円を描くようにチェーンソーを押し当てながら走る。

斬った円に沿って噴き出す血液。

そして彼女を抱くと、飛行する。

彼女は抵抗することなく、ただうわ言を続けた。

 

「検索中....検索中...けんさ、中...けんさく....けんさ....けっ....」

 

愛羽を引っ張り上げようとするたびにブチブチと肉が千切れる音がする。

彼女の周りの肉は少し持ち上がり、そして最終的には愛羽が引き抜かれる。

肉の塊が多少くっついていはいるが、埋もれていた下半身には傷一つなく五体満足であった。

 

身体からは力が感じられず、ただ持ち上げられるままにぐったりとしている。

そんな彼女を抱き留めて、天に昇るとマリアの横へ行く。

 

「愛羽さんは大丈夫....お願い、マリア。」

 

「言われなくても!来い!戻ってこい!我が力よ!!!」

 

そう言って手を伸ばすと地面に突き刺さっていたメイスが一人でに彼女の手中に戻ってくる。

 

見下ろすと愛羽を引き抜かれて最早身じろぎ一つ取らず、ただそこにあるだけの肉塊と化した異形。

そんな彼らの周りに生き残った四足異形達が集まっていく。

それはさながら創造主が動かなくなっても自身の役割を為そうとしているかのようであった。

 

そんな様を見下ろしながら、マリアは笑みを浮かべてメイスを振り上げる。

 

「瞠目せよ!我が裁きの鉄槌を!!」

 

手を翳すと、展開される巨大な魔法陣。

白く輝くその魔法陣にメイスを両手で勢いよく叩き込んだ。

割れたような甲高い音、そして壊れた魔法陣から膨大な魔力を帯びた魔法弾が直下の異形達へと落ちていく。

 

雷鳴のような轟音と共に、周囲が真っ白に光る。

そして光が収まると、そこには上半分が消し飛び、焼け焦げた姿で崩れいく異形達の姿があった。

 

「終わった....。」

 

「うん...そう、だね....。」

 

ボソリと言葉を漏らすマリア。

その隣でふらりと体制を崩しそうになる信女。

そんな彼女の身体を抱いて支えるマリア。

 

「あ、あはは...だ、大丈夫....ちょっ...と、張り切り..すぎた....。身体についてる奴らの動きは止まってるから...さっきよりかはマシだけど....。」

 

「...我が勝利は汝の尽力によるものだ。礼を言う。」

 

脱力している信女に肩を貸すと、彼女から愛羽を受け取り空いた方の手で抱える。

塔の中腹、笑い合う二人。

二人の魔法少女によって、絶えず下界に異形が降り注ぐことはなくなった。

 

 

 

 

 

 

塔の屋上。

依然とは違い風が激しく吹き荒び、植物は轟轟と風にあおられて音を立てる。

向かい合う私とアレクサンドル・エィロヒム。

二人の間には一抹の静寂が流れる。

 

そしてそれを先に破ったのは私の方だった。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

地面を強く踏みしめて、一歩踏み出す。

裂帛の気合を叫び出し、相手に肉迫しようとする。

それを見て、笑うアレクサンドル。

 

「そのような攻撃など....私には通用しない。」

 

そう言って微動だにせず突っ立っている。

そしてこちらの攻撃を無視して手をこちらに翳し、手元から黒い靄を柚月へと噴出する。

真っ直ぐに私目掛けて迫る靄。

それを見て、アレクサンドルは笑う。

 

「君は存在し続けられるか?」

 

アイリスさんに聞いていた能力。

いないことに出来るということしか分からなかった。

でも、その能力を他人に対して振るえるならそれは尋常ではない脅威である。

だけど....。

 

「お願い!リンカリオン!!」

 

<Existentialisme>

 

リンカリオンの名前を呼ぶ柚月。

その声に応えるようにリンカリオンも声を上げる。

手を伸ばす柚月。

そして靄に触れた瞬間、靄がその場で固まる。

そしてそれを手で払った。

 

「....」

 

「はぁぁぁ!!!」

 

その様子を見て、神妙な表情で黙るアレクサンドル。

変わらず彼に肉迫しようとする彼女。

後3歩。

その距離を瞬時に縫って近づいていく。

 

「....やれやれ。そういうことか。」

 

そう一言彼は呟く。

しかし、その瞬間...私の拳の間合いに彼が入った。

力強く地面を踏みしめて、拳に今までの勢いを乗せる。

すると、拳に魔法陣が現れる。

その魔法陣は白い大型の魔法陣の中で、黒・黄・緑・赤の小さな魔法陣が回転している。

今までのリンカリオンとは大違いの膨大な魔力。

それを、目の前のこの人に....ぶつける!!

 

迫る拳。

それをただ棒立ちで迎えるアレクサンドル。

姫啞ちゃんの時に見た通り、この人に攻撃は通用しない。

自身の存在をなかったことに出来るこの人には....。

でも、私の攻撃なら......!

 

そして拳はあの人の顔に当たり、そして殴りぬくことが出来た。

凄まじい勢いで殴り飛ばされ、真ん中のクリフォトシステムであろう術式に激突する彼。

座り込む様な状態で俯く彼。

 

「やった....ちゃんと、攻撃が当たっ....」

 

アイリスさんが言っていた私の物質化。

なかったことになったことをあったことにする力。

攻撃が当たったことに安堵の表情を浮かべる柚月。

しかしその瞬間、自分の肘が光っているのに気づく。

見ると、そこには爆の印字。

それは俄かに光を放ち、そして.....

 

爆発した。

 

立ち込める煙。

それが収まると、咳ごみながらもへたり込む柚月。

 

危なかった....今のマルクトと化したリンカリオンでなければ今の爆発...耐えられなかった。

肘には擦り傷が出来、身体は煤に塗れている。

....あの攻撃は一体.....?

そう思っていると、目の前のアレクサンドルが立ち上がった。

そして私を真っ直ぐ見つめると口を開く。

 

「少し....私を侮りすぎじゃないかい?姉上。」

 

そう言って笑うアレクサンドル。

しかし彼の周りにはありとあらゆる文字が黒い流動体のように地面に広がっている。

手には黒い本。

 

あれは.....一度、見たことがある。

橘姉妹を使った怪人。

その怪人が一度おかしくなった時にも吐き出していた黒い澱。

でも、なんでこの人が.....。

 

戸惑う柚月。

アレクサンドルはそんな柚月を無視して言葉を続けた。

 

「確かに、私は姉上と比べればセフィロト・システムの知識は劣っている。しかし、今や姉上の持っていた管制権は私の手、そして手にはこのダアトがある。....君が私の能力を無力化出来ることは知っているよ。....だが、それならそれでやりようはあるという物だ。」

 

そう言うと、文字の澱が勢いよく私目掛けて流れ出していく。

あれに触れちゃ....いけない。

アレに触れてしまえば、身動きが取れなくなる。

地面を蹴って空中に飛び上がる。

 

文字はそんな私を追尾して、空中にまで浮かんでくる。

どうすれば....。

そう焦っていると、リンカリオンが声を上げる。

 

<Биннер>

 

その音声と共に、地面に黒い魔法陣が展開。

そしてそこから大量の鎖が出てきて文字を縛り付ける。

 

「これって....姫啞ちゃんの....」

 

鎖に縛り付けられた文字は身動きが取れずにその場で停滞する。

それならもしかして....。

 

「リンカリオン!ブレッシングハート!!」

 

<Kevlar>

 

その音声と共に、手元に姫啞ちゃんの赤い杖。

それを向ける。

目の前の黒い文字。

それを一層できる魔法!

 

<Cannone magico multiplo connesso>

 

すると、私の背後に複数の赤色の魔法陣が現れる。

 

「ファイア!」

 

そう口にすると、背後の魔法陣から魔力弾が発射される。

直下が赤く光り、文字は消え去る。

やっぱりだ!....私は、3つの杖の宝玉を取り込んだ。

その力を....使う事が出来る!

 

そう言えばさっき爆発した時に出来た傷。

その痛みがもうない。

自分の肘を見てみると、元から何もなかったかのように綺麗な肘をしていた。

これは.....緑の宝玉、早紀さんの能力.....。

 

皆の力が私の元にある。

私は一人で戦っているんじゃない。

みんなが私に、ついている。

それに....アイリスさんの力。

それが今のリンカリオンを動かしているんだ。

 

目の前の気迫を放つ男。

それに恐れる必要もない!

 

「エピメディウム!!」

 

<Биннер>

 

リンカリオンは声を上げる。

すると、地面にまた黒い魔法陣が広がってそこから鎖が幾重にもなって飛び出してくる。

 

「...ッ!」

 

アレクサンドルも飛行して、鎖を避ける。

鎖の間を縫うような飛行。

偶に、その場から消えたと思いきや別の場所にまるでテレポートするかのように表れる。

よく見れば彼の身体自体がゆらゆらと朧げになっていた。

 

これは....

 

「リンカリオン!当てて!!」

 

右手を前に構えて彼に翳す。

そして左手を添えると、リンカリオンに声を掛ける。

四つの色の巨大な魔法陣が現れると、それは籠手へと集束していく。

そして掌にピンポン玉大の魔力弾。

それを、殴り飛ばす!!

 

拳を振るい、魔力弾を殴りつける。

目を開けていられない程の閃光。

そして一瞬遅れて周囲に轟音が鳴り響き、そして膨大な魔力砲はアレクサンドル目掛けて直進する。

鎖すらも飲み込み、辺りを照らす破滅の光。

 

これで倒せた....?

そう思った瞬間、光を切り裂いて白い杭状の何かがこちらに飛来する。

 

「ッ!!」

 

空を蹴って、右へと跳ぶ。

これで....。

そう思った瞬間、杭が眩く光を放ったと思った瞬間目の前が白くなる。

これ...は....爆発....。

 

響き渡る轟音。

白く染まる空。

そして、地面へと墜ちていく柚月。

 

叩きつけられた地面。

見れば、頭の王冠はボロボロ。

ステンドグラスのようになった装甲は所々が割れており、肌からは擦り傷などが色んな所に出来ており、血が出ている。

そしてそれは、いつまで経っても治らない。

 

するとゆっくりと目の前に降りてくるアレクサンドル。

手にはビナーの鎖を持っている。

彼は膝を突く私を見て、口を開いた。

 

「....君は4つの力を合わせ、姉上の力も手にした。君に私の能力は通じない。だが、その姉上の力は....私が奪った物の搾りかすにしか過ぎない。たかが一滴、私が持つのは姉上の力のほとんど。だから....こういうことだって出来る。」

 

そう言って鎖を握りしめると、まるで砂糖菓子を握りしめたかのように容易くバラバラと崩れていく。

 

「そんな.....。」

 

「君たちの力の出所は姉上だ。そしてその力は今や私の物となっている。そして私の手にはダアト。....さぁどうする?」

 

茫然とする私にそう言う彼。

どうする?

どうすると聞かれても....私には、こうするしか!!

 

「リンカリオン!ブレッシングハート!!!」

 

<Kevlar>

 

そう言うと、手元に彼女の杖を出現させる。

そして再度魔法陣を広げる。

 

<Cannone magico multiplo connesso>

 

放とうとした瞬間、彼は手を翳す。

そして一言告げる。

 

「駄目だ....。」

 

その一言で、魔法陣が掻き消える。

そんな....。

ッ!!!

 

「姫啞ちゃん!!!和泉さん!!!!」

 

<Биннер>

 

<内扎克>

 

自身の後ろに黒い魔法陣が広がり、鎖が彼目掛けて飛んでいく。

そして手には薙刀。

彼に向かって走り出す。

しかし、彼はまたしてもただ口を開くだけ。

 

「駄目だ駄目だ....」

 

そう言って手を払うと、彼に直進していた鎖が彼の目の前で停止する。

そして....私目掛けて飛んでくる。

 

「そんなっ....!!っあぁぁ!!!」

 

なんとか逃れようとするも、身体を縛り付ける。

なんでっ...!

 

藻掻くも、腕と足を縛られて身動きが取れなくなる

そんな私にゆっくりと着実に距離を詰めて、目の前まで経つ。

 

「駄目だ駄目だ駄目だ....駄目駄目駄目駄目!!!」

 

そう言うと、さっきまで表情を変えることがなかったアレクサンドルの表情が一変する。

怒りと憎悪を露わにした表情。

そして腕を振り上げると、私の顔を力いっぱい殴る。

 

何度も何度も何度も....。

 

「がはっ....がっ.....あ、あなたは...っつぁ!!」

 

「君たちの能力はセフィロトシステムを改造しただけに過ぎない。その管制権を持っているのは私だ。姉上の力で形成されているマルクトはともかくとして、君たち単体の能力を使用したところで通じないと何故分からない!?

!?えぇ?こんなことも分からないのか貴様はァ!!!」

 

「えぐぅっ....!」

 

顔を勢いよくまた殴られる。

鼻血が出てきた。

口の端が切れて、血が流れる。

 

「は、はは...ははは!笑ってしまうよこんな小娘共が我が物顔でセフィロトシステムを使っているなんて....。おや、鼻血が出ているね。鼻が詰まるといけないから拭ったらどうだ?...そう言えば縛っていたから動けないのか。私が拭ってあげるよ。」

 

ズボンからハンカチを出すと、鼻元に押し付けられる。

その瞬間、腹を蹴られた。

 

「がっ...ごほっ....ごほっ.....」

 

口から空気が出る。

そんな私の髪を掴む。

 

「そんな力まで身に付けて....姉上は君をお気に入りなのかもしれないが、私は君が一等気に喰わない。...君は、選ばれない者の気持ちは知っているかな?」

 

「何を....。がはっ!」

 

真意を聞こうとしても腹を蹴られる。

腹を蹴られて下を向き、口から空気を出す。

そしてそれを咎めるように髪をまた掴み上げる。

 

「肉親をまるでゴキブリを退治するように踏みつけ、殴りつけうさを晴らしている連中を見たことは?肉親の爪がはがされ、髪を抜かれ嬲られている様は?親を火あぶりにして、その間でやっと死んでくれたと大手を挙げて喜ぶ人間を見たことは?その人間から逃げる為に泥を啜る思いをしたことは?選ばれなかったことで、姉上が父の思いを継いでくれると思ったら、希望であったその人が、その役目を放棄した瞬間は?父の存在を許さなかった世界、それを守るためになどと言って父の行ったことを否定した肉親を見たことはあるのか!?アァ!!?」

 

そう言いながらも、拳を振るい続ける。

ただ吐き出すように言葉を続ける。

 

「貴様のことは知っている。貴様の事は、ダアトを見たからな。貴様は、親が居て友達が居て文明的に暮らせて誰にも殺意を抱かれず、勉強が出来て、そして....そもそもちゃんと親の腹から生まれた人間だ。恵まれている。恵まれているんだよ貴様は。」

 

そう言って私の顔を見詰める。

 

「他の魔法少女には死を間際にした少女、受け入れられぬ思いを抱いた少女、奪われた物を求める少女、魔法少女にならなければ暮らしていけない少女などが居る。だが、君には、ただ普通の少女でしかない君には何があるんだ?えぇ?恵まれた君が何故力を振るう。君が今相対する理由としても、姉上の受け売りでしかないのだろう。理由も持っていないただの少女が、何故今まで勝ってこられたのか。お前は、異常だ。」

 

忌み嫌うような目で私を見つめる。

私が今、ここに立っている理由。

それは確かにアイリスさんに言われたのもある。

でも、それよりも....私は、みんなを、みんなが暮らしているこの町を守りたい。

この世界を守りたい。

守らないと....終わってしまうから!

今までだって、私は人を守るために戦ってきたじゃないか!

だから迷う必要なんか.....ない!!

 

「確かに受け売りかもしれない。....でもっ!私はまだ生きたい!みんなとまだしたいことがある!だから...私は!!」

 

世界を守る。

そう言おうとした瞬間、彼の背後に高く聳える樹形図状の術式。

それがパキパキと音を立てる。

亀裂が走り、枝のようになっている部分からパラパラと破片が落ちていく。

 

「えっ、あれって....」

 

私が声を発した瞬間、その亀裂は決定的になり、術式はバラバラと崩壊していく。

そしてその破片と共に、舞羽ちゃんも落ちていく。

 

「舞羽ちゃん!!」

 

舞羽の名前を呼ぶも、彼女はふかふかと草の生い茂るところに落ちる。

大丈夫だろうか?

それに.....、あれはクリフォトシステムのはず。

でも砕けて、壊れてしまった。

私の目の前で....。

これはもしかして....。

 

戸惑いながらも、周りを見ると、さっきまで聳え立っていた紫の光の柱。

それがどこにも見当たらない。

みんな....やったんだ。

やってくれたんだ!

 

すると、目の前でまるで他人事のように彼は一言呟いた。

 

「術式を構成している力場を壊されて形を保つことが出来なかったか。」

 

そのあっさりとした反応。

それが却って不気味だ。

私はおずおずと声を出す。

 

「これで....貴方の救済は終わりのハズです。なのに....なんでそんな....」

 

そう言うと、彼は私を見ると口を開く。

 

「そんなの元より、どうでもよかったからさ。」

 

どうでも...いい?

世界を使ってみんなを救う。

それが彼がやろうとしたことじゃないのか?

そう思っていると、一つあることに気づく。

 

術式が壊れても依然、落下は続いている。

 

「...術式を壊せば、全て都合よく丸く収まるとでも思っていたのか?君は。」

 

彼はこちらを嘲笑している。

そして私の顎を掴み上げる。

 

「同じように私を倒しても無駄だ。この町は落下を続ける。姉上は術式が土地に結びついているから、私を倒して君が管制権を奪い返せばイイと思っていたっぽいが、これらの術式は既に私の手元から離れている。土地の浮上には魔術が関係していても、落下自体にはなんら関係はない。最初に言った通り、誰が何をしようが止められないんだよ。」

 

そんな...じゃあそれって。

 

「それじゃ...私がやっていたことは....」

 

「あぁ。無意味だ。笑いそうだったよ、君が私に詰られて世界を救いたいとか抜かしだした時は。どちらにせよ、私が勝とうが負けようが君の望みが叶うことはなかったのだよ。」

 

告げられる真実。

じゃあ、この人は....。

 

「じゃあ、貴方は....救うつもりなんか、毛頭なかったってこと...なんですか?」

 

それを言うと、彼は私に問い返した。

 

「逆に聞くが、君は私達人間が救われるとでも思っているのかい?そんな術が本当にあるとでも?」

 

心底馬鹿にしたように鼻で笑う彼。

しかし、私には理解できない。

 

「貴方は....さっき、父の遺志を捨てた肉親と言った。貴方がここに居るのは、お父さんの遺志を継ぐため....じゃないと、おかしい.....意味が分から....」

 

「姉上は父の遺志を捨てた。だが、私は別に捨てたわけじゃない、信じられなくなっただけさ。あのシステムに欠陥があったことは理解していたからね。そして、星辰が来たあの日、理解したんだよ。父は....人類史において排除された一人に過ぎない。自分達とは違うから、怖いからと言った理由で殺された人間の一人でしかなかった。」

 

そう語る彼。

その目には怒りと憎悪以外に、もう一つ感情が窺える。

これは....悲しみ....?

この人は悲しんで.....

 

「人は分かり合える、平和は大切などと言いながら、真に分かり合えることはない。人間は理解できない者への根源的な恐怖から傷つける。いくら平和を享受しようとも、それがなくなることはない。そして質の悪いことに排除することで優越感と喜びを得てしまう。父の術式と同じく欠陥があるんだよ人類には、私も含めてね。」

 

彼は笑みを浮かべる。

そして手を広げた。

 

「だから、私は思いついたのだ。父の遺志を捨てるつもりもないが、私は今のままの人類を受け入れるつもりもない。だからこそ、もし父の術式を改良したものが発動すれば万々歳。発動せずともどちらにせよ今の人類は死滅する。」

 

「...そんなのは、貴方のエゴでしかないじゃないですか!確かに、人は良い所だけじゃない、悪い所だってある!でも....悲しいからって世界相手に八つ当たりなんて、間違っています!悪い事だけじゃなくて、良い事だって世界にはあって.....。」

 

「知っているとも。私だって組織を作って、部下と話せば楽しかったし、面白い奴だって居た。...でも、だとしてもそれは一面に過ぎない。人間の根源的な恐怖、妬み、嫉みなどの負の感情の方が多面的に見れば心を占めている。それがあるという事実はどんなに良い事があったとしても変わらない。...私は君のそんなところが気に喰わないのだ。」

 

そう言ってまた拳を振るい降ろす。

口から空気を吐く。

 

「物事の一面だけしか見ない。君は自分が善良だと思っているのかもしれないが、私の父を殺した人間だってそう思っているさ。そうやって断定的に話し、見たくない物から目を逸らし、自身の過ごす世界を正当化する。良い事があれば悪い事があっても帳消しに出来るとでも思っているのかい?それに...君だってエゴイストさ。能力で人の心に勝手に入り込み、分かり合ったつもりでいる。お前は本当に分かっているのか?ただ心を見ただけで、追体験しただけで、その人の感じた心を分かっているのか?」

 

「私は....っ!」

 

畳みかけるように話す彼は、不意に本を開く。

すると、黒いインクが噴き出すように文字が現れて地面へと滝のように落ちる。

そして私の足に染みこむように昇ってくる。

 

「これはっ.....!」

 

「君は人間の愚かさの象徴だ。力を振るい、どんな人とも分かり合えると信じてずかずかと人の心に足を踏み入れる。そして悪性を見なかったことにする。」

 

身体がどんどん重くなって、身じろぎすら取ることが出来なくなっている。

インクは首のあたりにまで一気に登ってくると、顔にまで至ろうとしていた。

 

「...私が言う通り、最後の瞬間くらいは好きに過ごせばよかったのに。君には....最後の瞬間を感じることすら許さん。自分が何者かもわからなくなりながら、終わりを迎えるといい。ダアト。」

 

すると遂に顔にまで文字が至る。

このままじゃ....

口すらも飲みこまれて声が出せない。

そしてついには視界まで飲み込まれた。

 

そしてそこにはただ黒い彫像のようになった少女が居た。

身動きも取れず、声も出せない。

そんな少女が。

 

そんな彼女を一瞥すると、彼は元の椅子の所にまで戻っていく。

最早見る価値などないと言わんばかりに。

希望は、今....潰えた。

 

 

 

 

 

 

暗い....黒い。

音は聞こえず、目も開けない。

私は....誰だろう。

分からない

 

...でも、やらないといけないことはあったはず。

絶対に為さないといけなかったことが、私にはあったんだ。

でも、動けないんだ。

どうしようも....ない。

 

そう思っていると、不意に声が聞こえた。

何かの声が。

 

『....こ!....るの!!』

 

何?

誰の....声?

 

その声はどんどん大きく、はっきりと聞こえてきた。

女性の声。

でも幼い女の子の声。

 

『どこ....。どこなの....どこ!!』

 

その少女は必死に探している。

すると、今度は別の光景が私の脳裏に浮かんでくる。

 

これは、愛羽さんと舞羽さんが組み合わさった時の怪人と戦った時の私?

視点的には橘川姉妹側の光景だろう。

 

<同質魔力体を感知。>

 

視界にはある人の顔が写る。

それはアイリスさん。

アイリスさんの顔が写った瞬間、声がした。

 

『みつけた....』

 

そう言って私にインクのような物をぶちまけていく。

そして身動きを取れなくした瞬間、機械音声がなる。

 

<同質魔力抽出準備....開始>

 

『戻らないと...帰らないと.....』

 

そして光景が切り替わった。

頭上にはアイリスさんの顔。

そして位置する場所は...胸?いやこれはアイリスさんの中だ。

 

彼女は何かと戦っている。

....いや、何かじゃない。

あれはアレクサンドル。

空を飛び回り、奴と戦っていた。

そして不意にある攻撃が当たった瞬間、アイリスさんの中から抜けて出て行ってしまう。

 

空を落ちていく光景。

そして、視点主を掴んだのは....アレクサンドルだった。

 

『...私は常に戻るべき場所を探していた。』

 

ハッとすると目の前には透明で朧気で良く分からないけど、確かに少女が立っていた。

 

「あ、あなたは....?」

 

私が問うと、彼女は感情を窺わせない声で答える。

 

「私はダアト。」

 

ダアト....。

それはアレクサンドルが使っていた力。

身体を拘束する文字。

その力そのもの。

 

...私、自分が誰かもわかっていないのに、なんでそんなことを覚えているんだろう。

何故だか靄が掛かっていた記憶。

それが彼女の声が聞こえてから記憶が段々とはっきりとしてくる。

 

『一度、貴方に私の元居た場所と同じ魔力が流れているのも感じた。』

 

それは....リンカリオン。

アイリスさんの力で進化した私のリンカリオンのことだろうか?

だから、あの時に私だけにインクを飛ばしていたのか。

抽出というのも私がアイリスさんか判別する為?

 

『...そして今、貴方に直接触れた。』

 

そう言うと、彼女はこちらに近寄ってくる。

そして頬にゆっくりと手を触れた。

 

『私は戻りたい。元居たあの人の中へ。....でも、もう知っている。あの人はもう居ない。』

 

「それは....。」

 

そう言われると、頭の中にあの時の光景が浮かんできた。

アイリスさんをアレクサンドルが貫いている光景。

悲しそうに俯く少女。

戻るべき場所がないのだ。

それを探していた彼女にとっては悲しいことだろう。

なんて声を掛ければ良いのか。

そう思っていると、彼女が顔を上げる。

 

『でも....貴方の中には確かにあの人が居るのを感じる。生きていなくても、あの人の心があることに気づく。』

 

「あの人の...心?」

 

そう言うと、彼女は私を指さす。

見ると、そこには黄色いステッキ。

それは確かに白く輝いていた。

 

『私の持ち主とは違う、あの人の心。私が生まれ出た場所がそこにある。....だから、私をそこに入れて?私は....ただ帰りたいだけなの。』

 

ステッキを触る。

その光は暖かく、じんわりと手を照らす。

人の温かみが、そこにはあった。

 

私が返すべき答え。

心細げにそう私に切り出す少女。

そんな少女に掛ける言葉なんて、私には一つしか出てこない。

 

「....いいよ。ほらっ、おいで。」

 

私は手を広げられた....広げられた!?

身体が動かないハズなのに、どうして....?

 

戸惑っていると、彼女は笑ったように首を動かして口を開いた。

 

『ありがとう....。』

 

そう言うと彼女が光の粒子となり、リンカリオンに収まっていく。

透明な粒子。

すると、不意に頭の中がはっきりとした感覚がした。

そうだ、私は...私の名前は、愛川柚月。

世界を....みんなを守らないと、いけないんだ!!

 

 

 

 

 

 

「っぐぅ...あぁ....ダアト、どこへ行く。ダアト!!」

 

最後の時を静粛に過ごそうと椅子に座って下界を眺めていると、アレクサンドルは胸を抑える。

そして胸元から透明な輝きが、勝手に出て行く。

それを手で追うも、追いつくことが出来ずにダアトは黒い彫像のようになっている少女の胸の中に入っていく。

 

その直後、パキパキと音を立てて亀裂が走る。

亀裂から仄かに光が漏れ出ていた。

ぱりぱりと黒い破片が地面に落ちていき、光が増していく。

そして、そこには....。

 

「そんなバカな.....セフィロトの管制権を持っているのは私のはず......。」

 

目を見開き、驚愕する彼。

思えば、ここに来てから怒りや憎しみ、余裕の笑みなどは見たが、そんな表情は初めて見た。

私は口を開く。

ダアトが言っていたこと。

それを口にした。

 

「貴方は、確かに管制権?っていうのを持っている。....でも、貴方はそれしか持っていない。私には、アイリスさんに託された光がある。ここに来るまで助けてくれたみんなの思いが。分かり合えなくても、分かり合おうとするからみんな繋がれるんです。」

 

そんな私を見て、仏頂面で聞き返す。

 

「...それで、また私に立ち向かうつもりか?仮に私に勝てた所で、終わりは避けられぬのに。」

 

....確かに、この人を倒したって意味はない。

このまま町は墜ちてしまう。

でも、私は.....。

 

「そんなの、関係ありません。私はみんなと生きる。例え、術がないとしても私は最後まで諦めません。諦めずに、足掻き続けます!あの日を...私達の日々を、諦めたりなんか、絶対にしない!!」

 

今までみんなと過ごした時間。

怪人と戦って、痛かったり辛かったり、苦しかったことだってあった。

でも、それでも一緒に戦って...仲間になって。

衝突することだってあったし、みんながみんな仲良しってわけじゃないけど....それでも、歩み寄ろうとする。

あの日々を、こんな所で終わらせたくない。

 

「...意思だけで....どうにかなるものか!!」

 

手を翳して黒い靄を出す。

それを手で払う。

そして拳を構える。

 

街が落ちてきているのなら、時間なんかかけていられない。

この一撃に全てを掛けて!!

拳を握りしめた瞬間、小さな少女の声が耳元で響く。

 

『このまま行って、自分を信じて。』

 

言葉にはなんの確証もない。

だと言うのに、なぜか安心感があった。

 

「っ、リンカリオォォォォォン!!!!!」

 

<Libération 四極魔力源 Renforcement La véritable intention de Dieu>

 

割れた装甲が光が飛び出す。

握りしめた拳に光が収束する。

装甲がギリギリと音を立てて、籠手はパキパキと砕けそう。

透明な魔力が拳をまるで保護するかのように覆う。

 

一歩、踏み出す。

今まで以上に、力を込めて。

そして、地を蹴りだした。

 

その瞬間、背中の割れた装甲。

その亀裂から黒い液体が噴き出す。

見ればそれは一つ一つが文字。

その姿はさながら黒い翼を広げているかのよう。

 

噴き出す液体を推進力にして加速していく。

 

(あの籠手はティファレトが由来だ。ならば管制権で逆に奴の能力を利用して心象風景に入り込んでやる...)

 

手を振り上げる。

自身のアインとしての力、そして姉から奪ったアイン・ソフを最大出力で拳に込める。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!届けぇぇぇぇぇえええ!!!!」

 

「届かん!終わりだぁぁぁぁあぁああああ!!!!」

 

拳がぶつかる。

メリメリと空間が悲鳴を上げる。

風が二人を中心に吹き荒ぶ。

魔力同士がぶつかり、火花が散る。

 

するとその瞬間、アレクサンドルは目を見開いた。

 

「そんな....アクセスできない、まさか...ダアトかぁ!!!」

 

『私は、セフィロトの樹に含まれない番外。だから樹の担い手の傍には居ても、無限では干渉は出来ない。』

 

こちらに絡みつこうとする魔力。

しかし、それは透明な魔力の奔流に阻まれる。

すると、籠手がぴしりと音を立てる。

それを見て、笑みを浮かべるアレクサンドル。

その直後に、彼の腕自体に罅が入り始める。

 

「そんな....無限と虚無だぞ!私が持っているのは....セフィロトの樹の源流。このような樹の力の寄せ集めなどに負けるわけが....なっ....!」

 

言葉を吐くアレクサンドル。

しかし、その表情に恐れのような物が過る。

見ているのは私の背後。

そして背後からは何か暖かい感覚。

それは、初めてアイリスさんを見た時に感じた感覚に近い。

 

茫然とした様子で彼は呟く。

 

「私は....また、選ばれないと...言うのか。」

 

その瞬間、ガラスのように砕け散る腕。

そして私の拳は勢いを失う事なく、彼の顔面を捉えた。

顔面を殴りぬける感覚。

まるで勝敗を表すかの如く、噴き出す白い魔力が相手の魔力を塗りつぶす。

 

目の前が白く染まる

 

 

 

 

 

 

全面真っ黒な大地。

空には星空が広がっており、そして地面からは泡が空目掛けて絶えず昇っている。

これは....心象風景。

でも....誰の?

 

そのうちの一つに触れてみる。

 

『何故です父上。魔力運用の効率などを鑑みても後継機である私の方が優れているはずです。合理的に考えて無限は私なのでは....』

 

一人の青年が老人に問う。

その顔は本当に理解できないといった様子。

しかし、老人は表情を変えずに彼に返答する。

 

『....理屈だけでは人は救えない。お前には、アイリスを支えてもらう。』

 

『ですが.....』

 

『....君には、命令に疑問を持つように指示した覚えはない。ホムンクルスとしての役目を果たせ、命令の真意を知る必要など、君にはない。』

 

話はこれで終わりだと言わんばかりに言い放つ老人。

そんな彼の言葉に青年はただ頷くだけだった。

 

『了解...しました。』

 

すると今度は別のシャボン玉の記憶が見える。

今度は痛ましい光景。

暗い中で絶えず鞭を振られ、爪を剥がされるなどの拷問を受けている老人。

そして、遂には処刑台にまで連れていかれている。

その姿は打撲痕や爪が剥がれたことで出来たカサブタなど痛ましく。

処刑台に向かう老人に人々は石を投げ続ける。

 

そして、火を放たれて燃やされた老人。

それを見て、口々に喜び、罵倒の言葉を吐きかける沢山の人々。

視点は常に遠くから見ているだけだった。

 

『父上....何故ですか。何故....貴方は、我々の行動を縛った。私は....貴方が死ぬその瞬間まで...何もっ、何も出来なかった....。』

 

そして彼が思い浮かべるのは父の言葉。

連れて行かれる前の彼の言葉は遺志の継承。

それを管制権を持つアイリスに頼むというものだった。

 

それを思い返し、青年は決意する。

 

『....父上、貴方の遺志は....私達が継ぐ。』

 

(ですが....本当に、貴方が言うように救われるべきなのですか。人という物は.....。あの者どもへの報いは...ないのですか?)

 

疑問を抱く青年。

その記憶には悲しみと共に、固い決意と少しの疑念を感じられる。

 

「この記憶の主は....もしかして.....」

 

記憶の主。

それが一体誰なのか、私は察し始めていた。

だが、記憶は待つことなく私の前に現れる。

 

とある一室にて、青年は女性と対面していた。

しかし、その雰囲気は和やかではなく、彼は信じられないと言ったばかりに目を見開いていた。

 

『姉上....今、なんて....?』

 

問う青年。

それに、アイリスさんは目を伏せた返答する。

 

『私達の行ったことで沢山の人を犠牲にしてしまった。御父様の術式は破綻していたのです。だから....私は、管制権を持つ者として術式を封印すると言ったのです。』

 

『そんな....アンタが、アンタが選ばれたんだぞ!!選ばれた物として役目を果たせ!!これじゃ、殺された父上が浮かばれないじゃないか!!それに、例え今は欠陥があったとしても、私達が繰り返し実験をして理論を完成していけば.....。』

 

そう詰め寄る青年に、アイリスさんが眉を顰める。

 

『繰り返すと言うけれど、そうやってまだ犠牲を出していくの?罪もない人達を消し飛ばして。』

 

『....っ。』

 

言葉に詰まる青年。

そんな青年を見て、彼女は表情を一変させて柔和な笑みを浮かべる。

 

『...気持ちはわかるわ。でも、私達の都合で人の命を奪い続けるなんて、傲慢だわ。...少し落ち着きなさい。暫くしたら呼ぶから。貴方が好きな紅茶が入ったのよ?』

 

『....分かった。』

 

青年の返事を聞いてアイリスさんは部屋を出る。

部屋の中で一人、立ち尽くす青年。

その表情は苦々しく歪んでいる。

そして一言呟いた。

 

『....どうだっていいだろ。他人の事なんて......っ!』

 

絞り出すように口にする言葉。

その記憶からは、深い失望が感じられる。

 

「これは....アレクサンドルの、記憶....。」

 

となればここは彼の心象世界と言うことになる。

すると、最後に一番大きなシャボン玉に触れた。

天体望遠鏡のような大きい機器。

それに目を付けて星を見ている。

 

『...エネルギーが足りないなら占星術と術式を組み合わせれば....駄目だ、互換性が致命的にない。これじゃ、上手く術式が発動しないぞ....。これじゃダメだ....。』

 

そうやって眺めていると、不意に彼の視界にある者が写る。

赤く輝く三つの星。

それを見ると、彼は首を捻る。

 

『....こんな天体、あったか?』

 

そして拡大度を上げた瞬間。

 

「痛っ!!!」

 

シャボン玉から弾かれた。

そしてシャボン玉は天に昇ることなく、その場で割れてしまう。

今、弾かれた....?

そんなこと、今まで....。

 

『情報量が多すぎて、ティファレトが安全装置を起動した....。』

 

「そ、そうなんだ....」

 

ダアトが解説してくれる。

すると、自分の前に一人の人影が見える。

金髪碧眼の男。

彼は膝を地面に付き、息も絶え絶えでこちらを見やる。

 

「....こうやって私の心の中にまで入るか。」

 

アレクサンドルは私を見て、嘲笑うように言ってくる。

しかしその体は足元から粒子となって上空へと昇って行っている。

 

「あなたは...!」

 

「君がやったことだろう?何驚いている。見事、君の一撃で私は存在を保つことが出来なくなった。まぁ元々バラバラになった身体だ。こうなるのは必然であったな。....まぁ、それでも私の勝ちは変わらないが。」

 

そう言って彼は自嘲する。

私は一歩踏み出していた。

彼の記憶。

確かに、彼のやっていることは許されない。

でも....それに至るまでの過程には悲しみがあった、失望があった、慟哭があった。

確かに敵同士だ。

でも、私は....目の前で彼をこのまま倒して万歳とするべきか?

決心したはずなのに、少し迷ってしまう。

 

「貴方の記憶を見ました.....。確かに貴方のやったことは許されない。...でも、それは貴方に寄り添ってくれる人が居なかったから、ここまで捻じれてしまった。...私は、そう思います。だから.....!」

 

「罪を償うと誓って大地の落下を止める手助けをすれば緑の力を使って助けてやると?よくそこまで分かった風な口を聞ける。お前は私の事など何一つ分かっちゃいないよ。....私が誓うと言ったら信じるのかい?」

 

そう言って笑うアレクサンドル。

確かに、信じられるかと言われれば微妙だ。

でも.....。

 

「信じます。信じられないけど、頑張って。貴方は人は繋がれないと言った。確かにそうかもしれない。でも、繋がろうとすることに意味がある。繋がろうとしなければ、手を取ることも出来ない....だから!!」

 

私の言葉を聞いて、被せるように口を開くアレクサンドル。

その表情は酷く歪んでいた。

まるで、こちらを見て怯えているようだった。

 

「お前....本当に気持ち悪いよ。人の善性をよくそこまで盲目的に見れる。お前を見ていると...姉上を想起する。」

 

「....貴方は私のことをエゴイストと言いました。確かにそうかもしれない。私は人の良い所だけしか見ないのかもしれません。...でも、私は人の嫌な所なんて見たくない。嫌な所よりも良い所の方を見ていたい。でも、それでみんなと笑い合えるなら....私は、エゴイストで良いです。」

 

思っていたこと。

確かに人には嫌な所があるし、世界には悲しい事がある。

でもそれ以上に、良い事や嬉しい事があると信じたいから生きているんだ。

明日はきっと良い日になると信じ込めるからベッドで寝られる。

私はそう思う。

 

すると、彼は溜息を吐いた。

 

「....会話にならないな。もう、出て行け。」

 

そう言ってアレクサンドルが項垂れる。

すると、彼との距離がドンドンと遠ざかっていく。

 

「これは....」

 

『拒絶されましたね。そして....アレの限界も来ています。』

 

ダアトのその言葉と共に目の前が光の粒子に包まれていく。

そして目の前がドンドンと白くなっていき、アレクサンドルが見えなくなるな。

まだ話せることがある....そう思い、手を伸ばすも、届くことなく意識は暗転した。

 

 

 

 

 

目を開くと同時に、凄まじい勢いで殴り飛ばされるアレクサンドル。

彼は地面を勢いよく転がり、砂まみれの傷だらけになる。

そして彼の身体の罅は腕からどんどんと全身に広がっていき、身体は黒い粒子と化して空へと昇っていく。

拳を振りぬいた状態の私はただそんな彼を見ているだけだった。

 

すると、彼は私を見て口を開く。

 

「確かに....私は、倒せたな。だが....私の勝ちに変わりはない。精々足掻け。終わりは、避けられないんだよ....。」

 

そう言ってアレクサンドルは嘲笑する。

そして顔まで光の粒子と化すと、空へと全ての粒子が昇っていく。

後に残るのは、彼の踏み潰した陶器の破片や座っていた椅子だけ。

....悲しい人だった。

誰かと分かり合う事を諦め、人類に絶望した人。

あんな記憶の断片だけを見て分かったような口を効くのは彼が言っていたように憚られる。

でも、私には彼の事がそう思えてならなかった。

 

とにかく、舞羽さんの身体の様子を見ないと....。

そう思い、彼女の身体に駆け寄る。

そして外傷などはないか見る。

肘などに擦り傷はあるものの、見た限りでは深刻な傷はない。

 

「よかった....」

 

彼女の無事を確認して胸を撫で下ろす。

しかし、すぐに気持ちを切り替える。

今もなお、街は落下を続けている。

そしてクリフォト・システムらしき樹形図は既に存在しない。

 

「リンカリオンで土地ごと繋がる?でも....あの人は、落下と術式は関係ないと言っていたし....」

 

とにもかくにも確認しなければ。

そう思ってブレッシングハートを起動した。

姫啞ちゃんの魔法で土地の魔力などを探る。

...駄目だ。

土地に対しては魔力は確かに通っていない。

底面に結界が貼られてあるだけ。

それも、アレクサンドルが消えたからか薄くなっていた。

 

考えられる一番の対処法。

本当は、やりたくないが....でも、高度が低いなら...やるしかない。

 

そう思ってその場で強く地を蹴る。

そして空へと飛び上がった。

最高出力で飛行し、外延部の外へ。

 

風を切る感覚。

しかし、もはや悠長に味わう時間はない。

外延部の外にまで行き、土地と下界の距離を見る。

もはや下界の街並みが見えるほどに近く、衝突も時間の問題だった。

 

私は、そこまで頭が良くない。

だから.....こんな原始的な方法しか思いつかないけれど。

私は大地の下にまで飛んでいく。

 

そして落ちている大地に手を突いた。

落ちる大地を受け止めようとした。

止められないということを知るのは私だけ。

そして、連絡手段は持っていない。

それなら....こうするしか!!!!

 

手を突っ張るも、無駄な行いでしかなくどんどん大地に押されていく。

自分の何十倍もの質量の大地だ。

いくらマルクトの力であろうと受け止められるわけがない。

 

「っ、ぐっ....ぎぃぃぎぎ....はぁぁああああ!!!」

 

歯を食いしばるも、意味がない。

瞬間、左手の籠手が割れた。

 

「そんなっ、今....限界が!」

 

アレクサンドルの一方的な攻撃を耐えながらも全力でぶつかり合った。

装甲はもう限界寸前。

悲鳴を上げている。

そして続いて右手の籠手も続いて割れた。

 

もはや地面に手を突っ張っているのではなく、落下の勢いに負けて底面にくっついているような状態になる。

やっぱり....駄目なのかな。

無駄な行いでしかないのかな...。

私の欲しい物、みんなとの日々。

でも、このままじゃそれも全部なくなってしまう。

 

共に戦ったみんな、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。

私は....。

 

『人は繋がれない。』

 

彼の言葉が不意に私の胸に響く。

今の私は....一人だ。

上に居る彼らを呼べばよかったか?

いや、そんな時間はなかった。

こうするしかない。

彼の言っていた通り、私達はもう終わっていたというの?

少なくとも私だけで、こんな私だけで止められるの....?

 

不安になる心に臆病風が吹き込む。

でも、それでも諦めきれずに情けなく底面にくっつくばかり。

すると、遂に肩のステンドグラスのような装甲が割れて下に落ちる。

それを目で追うと、ある者達が目に入った。

 

「あれは.....。」

 

そこには大地に砲台やビーム砲を向けている人、怪人と戦っている人、必死に大地を見て何かを書いている人が居る。

皆一様に大地にへばりついている私を見上げていた。

それ以外の人では、絶望からか顔を俯けたまま体操座りで動かない人が居た。

 

あれは....私達と、私と同じく世界を守ろうとしている人。

知らなかった、下界でもああいうことが為されていたと。

よく考えてみれば、底面に結界が貼ってある理由は一重に下からの攻撃に土地を守る為だったのだろう。

確かに彼らの作戦が成功してこの土地が壊れていれば私の家族など町の人は死ぬ。

でもそんな犠牲を払ってでも世界を守ろうと、自分の日々を守ろうとしていた人が居た。

私と同じように、知らない、見たことも話したこともない人が一同に集っている。

世界を守るために。

 

そうだ....何を弱気になっているんだ。

私は一人なんかじゃない。

上で戦っている晶ちゃん達だって日々を守るために戦っていた。

世界を守るために。

さっき過った言葉。

人は繋がれない。

確かに下に居る人と私たちは分かり合っちゃいない。

誰かも分からない。

....でも、こと世界を守るということに関して言えば、私達の志は同じだ。

私たちは世界の中で、繋がっている。

当然だ。

私達は、同じこの地球で生きている人類の一人なのだから。

 

人は繋がれるんだ。

分かり合っていなくても、同じ目的があれば繋がれる。

確かに人は争い、世界には悲しみが溢れている。

でも、下には私が信じていたかった繋がりがあった。

争うばかりでもなければ、悲しみだけじゃない。

だから....

 

「まだ、この世界は終わらせちゃいけない!!」

 

自然と口から衝いて出た言葉。

それと同時に、リンカリオンが一人でに起動する。

 

「えっ.....。リンカリオン....?」

 

<管制権限を確認 Ein Sof 検出 Markt 接続>

 

何が....それに、なんで私が管制権限を....。

 

『アレクサンドル消滅時に、現状一番無限であったアイリス・エィロヒムに近い人物に権限が移ったと考えられます。しかし....これは.....。』

 

言葉を詰まらせるダアト。

すると、リンカリオンは私に問いかける。

 

<Tu credis in homine hospites?>

 

その問いかけ。

多分、私の知らない言語。

でも、意味はなぜだか分かった。

 

「うん....信じるよ。繋がりを!」

 

<Te respice prodigiosus...>

 

私の言葉にリンカリオンは返答する。

そして、背中から魔力の線のような物が出てくる。

 

「これは.....」

 

魔力の線は下に居る人々、それどころか大地の方向や、ありとあらゆる方向へ伸びていく。

そして人の胸元に光の線が差し込むと、線に沿って光が私の所にまで昇ってくる。

それは数多集まってきて、目の前が光で見えなくなる。

 

これは....暖かい。

私と、同じ心。

世界の存続を望む心?

すると、触れた光の一つにあるビジョンが見える。

 

『この魔力、....柚月?』

 

『...ねぇ、これって私達ステッキの中だけど一人判定なのかな?』

 

『わ、私の胸元からも出てるからそんなことはないと思うよ、お姉ちゃん...。』

 

壊れた祭壇の前で立っている晶ちゃん。

そんな晶ちゃんと合わさっている愛羽さんと舞羽さん。

 

『あら、これって....柚月ちゃん、まだ戦っているのね。』

 

『これが魔法か。』

 

祭壇の前で沢山のガスマスクをつけて倒れた人。

消耗したのかその人たちの横で荒い息を整えて、木陰に居る琴乃さん。

そしてその少し遠く離れた位置でガスマスク付けた人たちに座りながらスマホを弄っている男の人。

誰だろう....でも、壊れた祭壇の前に居ると言うことは琴乃さん達と同じく世界を救おうと戦っていた人なのだろう。

 

『これは柚月ちゃん....か。』

 

『アンタと同じ意見なのは癪やけど、この魔力は十中八九そうやろな。...はい、スマホダメー!こんな時にまで携帯弄って!スマホ依存症か!!』

 

『いや、こんな時にっていうかこんな時だからこそっていうか....分かったよ。だからそんな目で見るのはやめろ。』

 

跡形もない程に破壊された祭壇の前で姫啞ちゃんと早紀さんにジト目で見られて居辛そうにしている元太刀洗弘人さん。

姫啞ちゃん...お兄さん関係で精神的に不安定で心配だったけど、その人と一緒に居てもそんな風に振る舞えるようになったんだね。

....安心した。

 

『柚月ちゃん!無事だったんだ.....。』

 

『フッ、流石は我が思いを託せし使徒ティファレトよな....。』

 

信女ちゃんに肩を貸すマリアさん。

信女さんは胸から出る光を眺め、そしてマリアさんはしたり顔で決めポーズを取ろうとする。

 

その他にも、お父さんやお母さん、お姉ちゃん、学校のみんな.....世界中の人の世界への思いが私に集まってくる。

とても....暖かい。

 

『魔力量、許容量を大幅に超越。魔力を使用した際の反動が想定出来ない。危険だわ。』

 

ダアトが私に警告する。

確かに、今や常に装甲がバキバキと音を立てて崩れ落ちて行っている。

でも、暖かな心の光.....そして湧き上がるこの力。

みんなの存続を願う心、想いが集えば、この力ならば止めることが出来るかもしれない。

 

だから、私は笑顔で彼女の警告に答えていた。

 

「それでもいい、もう二度と戦えなくてもいい。変身できなくても...良い!みんなの思いを乗せられるなら....私はそれで!」

 

『了解。...私に出来る範囲でバックアップする。』

 

ダアトは私にそう言ってくれる。

有難う。

そう思った瞬間、光の線が私の元に全て帰ってくる。

すると、装甲が全て崩れ落ちると共に、光の線が粒子となって私を包み込む。

 

人肌に白い絹の衣を纏っただけの姿。

光の粒子は私の背中に集まると、光輪が形成される。

光輪は虹色の光を燦然と発し、空を強く照らし出す。

頭の上には白い魔力で形成された月桂冠。

その姿は、あたかも神格を持った女神のよう。

そして、ステッキから音声が聞こえた。

 

<Rinka-Lien union monde...Ein Soph Oulu.>

 

すると、身体から光が放出される。

私も....光に....?

皆の思いの中で....溶けていく......。

 

<Connectez-vous avec les gens et transcendez Dieu>

 

疑問を覚えるまでもなく、機械音声と共に放出された光の粒子は浮遊大地を覆いつくす。

そして大地は先ほどとは比べ物にならない程にゆっくりとした速度で落下し始める。

 

直下のクレーターに集まっていた組織の人間たちはその場から退避を始める。

何が起きているのか分からない。

だが、落下を続けているのは事実である。

もはや打つ手はない。

だからこそ、祈るしかない。

その光が、自分達を救う者であると。

 

光の玉のようになった浮遊大地はゆっくりと時間をかけて降下していき、そしてクレーター部と接地する。

しかし、衝撃もなければ轟音もならない。

光がそれらを吸収でもしているのか、絶えず虹色に輝いていた。

 

光が空へと霧散する。

そして後に残るのは浮遊する前のように地面に聳える街。

空に霧散した光はその直後に粉雪のようにはらはらと降り始める。

その様を見て、避難していた人々は数拍遅れてみな大手を振るって喜び始める。

ある人は万歳をし、ある人は隣の人に抱き着き、そしてある人は愛する人とヴェーゼを交わす。

当然だ。

さっきまで確かに目の前に迫っていた世界の終わり。

 

それを一人の少女によって免れることが出来たのだから。

これからも、当たり前のように明日が来る。

そのことの素晴らしさを痛感しながら人々は大いに歓喜の叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

「柚月!柚月!!」

 

青い髪の少女が一人、街を走り回る。

街は元あった場所へと収まり、世界の終わりは回避された。

建物からは続々と、人々が出てきて喜び、浮足立っていた。

それでも、晶はそう言うわけにはいかない。

 

あの時、繋がった時に....私は柚月を一瞬だが見た。

必死に大地の底面を手で受け止めていた彼女。

そして地面は無事にゆっくりと落下した。

でも、あの光は一体なんだったのか。

それになにより.....底面に居た彼女は無事なのか。

もしかすれば落ちた地面に挟まれちゃいないか。

 

そう思って走って走って走り続ける。

彼女に会う為に。

探し出すために。

でも、彼女は何処に居ない。

もしかして....まさか!

 

「どこに居るの柚月!柚月ィ!!!そんなのっ!そんなの許さないからっ!!世界が残っても、貴方が居なきゃ私は....私は......!」

 

私はこの世界で生きている意味がない。

そう言葉にしようとしたところで声が聞こえた。

 

「あーきーらーちゃーん!!」

 

「柚月!?柚月!!どこ!!どこなの!!」

 

慌ただしく周りを見回すも柚月はいない。

どういう....もしかしてこの振っている光一つ一つから...!?

悲観的な想像と共に天を見上げると彼女をすぐ見つけることが出来た。

 

ゆっくりとまるで透明な足場があるように天から降りてくる彼女。

胸元からは透明な魔力の脈動。

彼女はゆっくりと地面に着地した。

そして私を見ると、その陽だまりのような笑みを私に向ける。

 

「...ただいまっ!晶ちゃん!!」

 

彼女はただそう言って私に笑いかけてくれる。

柚月....柚月!!

 

「柚月!!!」

 

彼女に走っていく。

自然と身体が動いていた。

そして腕を広げると、彼女も腕を広げて私を抱き留めた。

 

ちゃんと形がある。

幻なんかじゃない。

彼女の体温、息遣い。

彼女は確かに、ここに生きている。

 

「あ、晶ちゃん!?ど、どうしたのそんなに....。」

 

「良かった...よかった無事でぇ.....ごめんなさい、私....何も出来なくて。うぅぅ....柚月ぃ!!」

 

強く抱きしめる晶。

そんな彼女を見て笑う柚月。

 

「ううん、そんなことないよ。晶ちゃんの光、確かに受け取ったよ。あの時、確かに柚月ちゃんの心の光は、私と共にあった。有難う...一緒に居てくれて。」

 

「柚月ぃ.....っ!」

 

彼女の笑顔に涙ぐむ晶。

すると不意に彼女たちの脳裏に少女の声が聞こえてくる。

 

『や、やばくね舞羽....凄い出にくいんだけど....。』

 

『....ミスったねお姉ちゃん。聞こえているよ、その声。』

 

凄く気まずそうに声を振り絞る愛羽と達観したかのように姉に言う舞羽。

その声を聞いて、晶は柚月から離れる。

 

私...つい舞い上がってこんなこと....。

柚月はきょとんとした表情で私を見ている。

恥ずかしい.....。

 

「ははっ、愛羽さん達も有難うございます。」

 

柚月が笑ってそう言うと、晶の口が勝手に動いた。

 

「まぁ、頼まれたことはやったぞ。そっちも大変そうだったみたいだし、ご苦労様。」

 

『まぁ、柚月ちゃんが一番大変だっただろうけどね....。』

 

そうして4人で話していると、彼女の中からステッキが飛び出してくる。

そのステッキの宝玉は虹色の光を放つ。

 

『無限光...無限とも虚無とも違うセフィラを超えた高次元の領域。私の知識にないことから、本来の仕様上は考えないようにされていた概念だと思われます。』

 

「柚月、今のは....?」

 

幼い少女の声が聞こえる。

聞き覚えの無い声だった為、晶は尋ねる。

すると柚月も説明が難しいと言わんばかりに苦笑して答える。

 

「えーと、ダアトって言ってリンカリオンみたいなステッキ?多分アイリスさんの一部的な何かなんだけど....今降りてきたのもこの子のバックアップによるものだったりするんだよ。」

 

「そ、そうなの。」

 

良く分からないが、味方であることが分かった為、晶は頷く。

すると、無限光は一人で言葉を発する。

 

<Il est temps de dire au revoir>

 

その音声はリンカリオンの物。

柚月が長く共に戦ってきていた相棒の声だった。

 

「うん...そうだね。」

 

柚月は笑みを浮かべるも、どこか寂しげである。

しかし、彼女はそれを払しょくするかのように微笑むと二の句を継ぐ。

 

「貴方が居てくれたから私は今ここに立っている。こんな私と一緒に居てくれて...ありがとう。いつも無茶言ってごめんね....リンカリオン。」

 

そう言うと、どこか笑い返しているかの如く暖かな声音でリンカリオンが言葉を返す。

 

<aucun problème.....Adieu!>

 

アイン・ソフ・オウルは別れを切り出すと、宝玉の輝きがドンドンと弱まっていく。

そして光を完全に失うと、力なく地面に落ちてしまう。

まるでもはやそこに意思など何もないかのように。

 

「.......リンカリオン、本当にありがとう。」

 

彼女はそんなステッキを見ると、その杖を手に取る。

その瞬間、変身する力も失ったのか羽織るだけのようだった清い衣も、頭の月桂冠も霧散する。

残るのは全裸の少女。

晶は目を逸らしながらも、言葉を口にする。

 

「...そのっ、この位置なら私の家が近いし....服、貸そうか?」

 

「....うん、お願い。」

 

彼女は晶の言葉にそう返事する。

そして柚月は股と胸を抑えながら、晶はなるべく柚月の方を見ないように歩き出した。

再会と別れ。

それでも、日々は続いていく。

その尊さを噛み締めながらも、二人は一歩一歩確かに地面を踏みしめて晶の家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

森の中、二人の女性と一人の男性が歩いている。

 

「なぁ、今日行かないとアカンかぁ?」

 

前を歩く四季を見て、疲れた様子でそう尋ねる早紀。

しかし四季は何食わぬ顔で返答する。

 

「まぁ、仮にも元ボスなわけだし生きてるのか死んでるのか確認くらいはしに行っても良いだろ?それにあの塔が元々アジトならこの先、有用な物があるかもしれないし。」

 

「火事場泥棒ですか?見下げ果てた人間ですね貴方、同じ顔とは思えない...。」

 

四季の言葉を聞いて、鼻で笑う姫啞。

すると、我慢の限界と言わんばかりに早紀が隣の姫啞に指を突きつける。

 

「あんなぁ....そもそもなんでアンタがまだついて来てるんや!!もう世界は大丈夫やろ!!」

 

詰め寄る早紀。

そんな早紀に対して、何食わぬ顔で首を傾げながら返答する。

 

「...暇だから?」

 

「暇なら家に帰ったらどうや!!これからに限ってはホンマにアンタ関係あらへんやろ!!」

 

そう言う早紀にうるせぇなぁと言わんばかりの視線を向けながらも無視する姫啞。

森の中を掻き分けて進んでいく事数分。

ついに塔が見えてくる。

そこには黒い肉片のような物があるだけ。

 

「...ん?あれって....。」

 

「どうかしたん?そない変な物に目を凝らして。」

 

するとその肉片を見て声を出す四季。

そんな四季に対して首を傾げる早紀。

 

「ちょっと待ってろ....見に行ってくる。」

 

「あっ、ちょっ待っ.....!」

 

彼はそう言うと、早紀の制止も聞かずにその黒い肉片に歩み寄る。

そんな彼の様子を見て、姫啞はボソリと呟く。

 

「同じ黒同士親近感でも湧くんですかねぇ?...相手が肉片の時点でクレイジーですけど。」

 

「....あのさぁ、いちいち癇に障るからやめてくれへん?ウチの男揶揄してんじゃねぇよ。」

 

早紀は隣の少女に睨みを利かす。

それもそのはず、ここに来るまでもチクチクと自分の好きな人を刺すような物言いを隣で聞かされていたのだ。

我慢の限界だった。

 

しかし、姫啞も負けずに軽薄な笑みを浮かべて、彼女に言葉を吐く。

 

「すいませんねぇ、貴方の言う所の居場所のない女のやっかみですよぉ?でも、寄る辺とやらがある貴方はこの程度でいちいち目くじら立てたりしない寛容な人物の筈ですよねぇ?自分で言いましたもんねェ?」

 

わざとかと思うくらい挑発的な口調。

苛立ちから早紀の眉の端がピクピクと痙攣する。

 

「は?なんやアンタ...喧嘩売ってるんか?ええよ、買ってやるよ。」

 

「あ?言うだけなら易いんだよ。もういっぺんボコされたい?ちょうど目の前にあの男が居るし、ピンチになったら泣きつけば良いじゃないですかぁ、まぁ私だったら最初威勢良くてそれとか情けなくて死にたくなりますけど。」

 

睨み合う二人。

両者の間には火花が散るかのように視線がぶつかり合っている。

流れる剣呑な空気。

しかし、その空気を切り裂いたのは四季だった。

 

「おい!来てみろ!!これ!!」

 

こちらに振り返り、なぜかテンションが上がった様子で手招きする。

二人は一度、そちらに視線を向けると視線を合わせる。

そして溜息を吐くと、彼の方へと駆け寄る。

 

「どしたん?偉い上機嫌やけど。」

 

「そりゃそうだ!ほら、この肉片。このまま見たらただの肉片だが....中を割ってみてみれば,,,。」

 

肉片を刀で開く。

こんな扱いを受けてどこか刀が泣いているように姫啞には見えた。

肉片の内側にはある機械パーツ。銀色に輝き球体の物。

それを見ると、少し首を傾げた後に、あっ!という声と共に早紀が声を出す。

 

「これって!怪人製造機に付いてた奴やろ!」

 

「そうだ!怪人製造機のコアだ!」

 

早紀の言葉に大きく頷く四季。

それを聞いて、早紀はテンションが上がるのもむべなるかなと思う。

怪人製造機を長い間使ってきた四季に取って見れば、最早相棒とも言える存在である。

それのコアを発見したのだから当然テンションも上がるだろう。

 

「多分あの塔の所から落ちて来たんだろう。コアさえあればあとは保証が効く。後は保証書だけ。塔の中に探しに行くぞ。置き場所は覚えている!」

 

彼は目を輝かせていた。

それは将来の不安を何とか出来る可能性が見えたからであった。

彼は既に一度世間に顔が割れている。

そして今回の騒動を起こしたのは彼の組織のボス。

つまり社会でまともに働くのは厳しいだろう。

 

だからこそ、開発主任としての経験が活かせる稼ぎ口の確保に頭を悩ませていた。

一抹の不安を胸にこの場所に赴いたのだ。

大方怪人を作って今までのように他の悪の組織に売ろうとしているのだろうか。

そして早紀は彼が思い悩む理由は自分であると確信していた。

 

(ウチとの生活の為に....なんか、恥ずかしい....顔見れんくなるやろ....っ!)

 

早紀は顔を真っ赤にしながら四季から目を逸らして返答する。

すると、そんな彼女に怪訝な目線を送りながらも姫啞も口を開いた。

 

「...やることないですし、付き合ってあげますよ。」

 

「お、そっか。二人とも有難う。探し物の人員は多いに越したことはないからな。」

 

そう言って四季は怪人製造機のコアを抱えながら、塔の中へと歩みを進めていく。

そして早紀は隣の姫啞に睨みを利かす。

 

(コイツ....先にウチの旦那に言うてウチが反対しにくい空気を作りおったな....。小癪な....。)

 

姫啞は隣の早紀を見ることなく、彼の後に続く。

早紀は心中穏やかではない様子で彼らの後を続くのだった。




ダアトには神の真意の象徴であります。
人から無理やり抉り取った力では、真意に至ることはなく託された光は真意を指し示す。
神の真意が彼女に写ったことで、彼女が無限や虚無、無限光などアイリスの後継認定されました。
まぁリンカリオンがアイン・ソフ・オウルと共に消滅したのでその力を振ることは愚か、もう柚月が変身することはなくなるでしょう。

またダアトは知識という意味があります。
能力はそこ由来ですね。

また四季が見つけた怪人製造機のコアを発見した肉片は信女とマリアが吹き飛ばしたインキュベーターの身体の一部です。
製造機のコアがあるのは素材として利用したからですね。
また怪人のような物を生み出していたのも素材である製造機由来の能力です。

またタイトルである人と繋がり、神を超越するというのは柚月が皆の思いに溶けていった時になった音声です。
また27話の人として神を掴むはマルクトへ変身した時の機械音声でもあります。
柚月が上から来たのは、まぁ空に昇った粒子から身体を再構築したからです。

次は掲示板+小説回になり、事実上の最終話になります。
最後まで付き合っていただけたら幸いです。

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