異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私の検査結果を見てから、その施設は非常にバタバタしていた。あり得ない、こんなもの初めて見る、どうなっているんだ、そんな言葉が行き交い、その度に私は不安に駆られる。
「あ、あのー」
「ごめんなさい、もうちょっと待っててください!」
何が起きたのか尋ねたいだけなのに、私には伝えられないのか職員の人から突き放されるように放置された。なんというか、それどころじゃ無いという気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
そこまでとんでもないことなら、まず私に話すべきでは無いのか。当事者を放っておくほどの大事と言われてもピンと来ない。
「すっごく不安になるんだけどなぁ」
私自身の体調は至って正常。検査といっても私が病気だからとかそういうことでは無い。とある
10年程前から海の底から侵略者が現れた。深海棲艦と名付けられたその侵略者達は、瞬く間に海岸線を占拠していき、街を滅ぼして行った。私の家族もそれによって命を失っており、深海棲艦のせいで私は天涯孤独の身になった。私自身も大怪我を負い、そのせいでその時の記憶を殆ど覚えていない上に、まともに動けるようになるまでに半年以上かかった程である。当時5歳だった私としては、すごく頑張った方だと思う。
その侵略者達への対抗策として人間が生み出したのが、艦娘というシステムである。何人もの犠牲を出した末に手に入れた侵略者のシステムを、
私が受けた検査というのが、その『才』があるかどうかを調査するための検査。大半の人間にはその『才』が無く、あったとしてもそれを受け入れるかは本人の自由とされている。当然ながら、受け入れた場合に向かうのは命のやり取りをする戦場。検査を受けた上で恐怖を感じてそれを拒否することだってある。
今のご時世、世界各地で危機に瀕しているため、適正な年齢に達した者は半強制的にこの検査を受けることになっている。突然発現する場合もあるらしいので毎年である。
私も今日それがきっかけでここにいる。これで受けるのも5回目になるのだが、今までの4年間は『才』があるなんて言われたことが無かった。
「のんびり待つしか無いかぁ」
軽く伸びをして、椅子に深く腰掛ける。この様子では、もうしばらく放置されそうだ。年一回受けている検査なのに、今回に限ってこれはどういうことなのだろうか。
今まで受けた時はすぐに結果が出たのに、今回はもうかれこれ1時間。予想以上に時間がかかっている。そしてまだまだかかりそう。
「はぁー、なんなんだろうなぁコレは」
適性検査1つでここまでの大事になるのだ。私はこの
世界でも発見されたことのない奇病が見つかったかのような大騒ぎに、私の不安は最高潮に。帰りたくてもこの騒ぎの原因を聞き出さなくては帰ることも出来ない。むしろそんな状況で私は帰ることすら許されないだろう。この1年で何が起きた。
「誰かー、私をどうにかしておくれー。放置は嫌だぞー」
なんて口に出してみたものの、誰もその言葉を聞き入れてくれることはなかった。路傍の石になったような気分である。
「アンタかい、検査の結果がえらいことになったってのは」
ちょっと不貞腐れ気味になってきたところで、ようやくあちら側から声をかけられた。放置の終わりに少しだけ安心する。
その人は簡単に言えば、少し恰幅の良いおばさんだった。声からして強気そうな、見た目も自信に満ち溢れたような、そんな女性。不思議な安心感が全身から湧き立っている雰囲気だが、逆にこちらが物怖じしてしまいそうな威圧感も持ち合わせている。
さらにその隣には側近と思われる眼鏡の少女が並んでいる。おおよそ私と同じくらいの歳に見えるが、そちらはおばさんよりは威圧感は無く、どちらかと言えば少し弱々しく感じる程だったが、芯はしっかりしてそうな雰囲気。
「すまなかったね。えらく待たされたそうじゃないか。あいつらはお役所仕事しか出来ないから緊急事態に弱いんだ。アタシゃそういうのをよく見てきているからね」
「提督、あまりそういうことは大きい声で言わない方が」
「自覚が無いのなら口で言って聞かせてやんないとわからないだろうに。か弱い女の子を放置するような輩には」
提督と呼ばれたおばさんの言葉に、周囲でバタバタしていた職員の面々はタジタジである。当事者の私を放置した事実は消えないため何も言い返せず、このおばさんは立場が非常に上なのか恨み言すら言われない。
今まで受けてきた中で、そんな大物が出てくることなんて無かった。余計に不安になる。
「アンタの検査結果はアタシが伝える。ついてきな」
「えっ、は、はーい」
おばさんに促され席を立つ。スタスタ歩いて行くため追いつくのがやっと。
「ごめんなさい。提督はこういう人で」
「い、いやいや、だいじょーぶだいじょーぶ」
側近の少女に謝られたが、いつまで続くかわからない待機が終わったのはありがたいので良し。あちらもこれはいつもの事のようで苦笑していた。
慌ただしい場から離れ、静かな個室に連れてこられた。そこに座らされ、対面におばさんが座り、その隣に少女が立つ。
「アタシゃ提督をやってる
「すごく偉い人」
「その程度でいいさね」
私に話をしてくれるのは、とにかく偉い人であるということはよくわかった。そりゃ誰も文句は言えない。
提督ということは、艦娘を取り纏めている人ということだ。艦娘となることが出来た場合、この人が上司になる可能性がある。
「単刀直入に言おうかね。アンタが艦娘になれるかどうかだが、正直なところ
「よくわからない……? なれるかなれないかのどちらかじゃ?」
「ああ、説明してやりな」
側近の少女に話を振るおばさん。振られた少女はコホンと咳払いをし、この施設で行なわれた検査の結果が書かれた紙を取り出す。それがあるのならまず私に見せてもらいたいものなのだが、あれだけ大騒ぎになったのだから何かあるに違いない。
「私はすみませんが自己紹介出来る名前がありません。
「しーちゃん……急にフランクになったね」
「戦火の中でも暗くならないようにという、提督の気配りですね」
「ガキばかりなんだ。暗くなってちゃ出来ることも出来やしないだろう。せめてアタシの鎮守府にいる時くらい笑っててもらいたいって話さね」
ぶっきら棒でも、部下のことを思ってのやり方のようだ。それなら信用出来る。
「うちは提督であるアタシも含めて女ばかりだからね。整備員にゃ男がいるが、女所帯なら過ごしやすい方がいいだろうに。だから、しーにも気楽に仕事してもらいたいんだ」
「感謝します。お陰様で、戦火の中でも毎日が明るく過ごせています」
艦娘というのは『娘』とつくだけあり、女にしか出来ないものという。私は実際に見たことないし、ニュースでもそこまで大々的に取り上げられることもないが、侵略者側も女性型が多いそうだ。
何処かのコメンテーターが『
「話を続けますね。艦娘になるためには同期値というものを測る必要があります。艦娘の扱う装備、艤装と同期する力のことを指すんですが、この辺りは知っていますか?」
「まぁそれくらいは」
事前にその程度のことは話に聞いている。むしろ一般常識的に扱われるような内容だ。同期値なんて仰々しい言い方だが、『才』を数値化してるって思えばいい。
0なら才能なし、1以上あれば艦娘になれる。大きければ大きいほど、艤装とのリンクが強力で、艦娘としての力を自在に扱えると言えるだろう。
「実はコレ、M型とD型があるんです。同期値にも2つあるということになるんですが、貴女の場合は、その片方でおかしな値が出たんです。それがこの施設を混乱させているみたいで」
これは5年やっていても知らなかったこと。本来なら口外すらされないような機密らしいが、私の場合はそれが異常値のせいでどうにもならないようである。当然これに関しては他言無用と念を押された。
M型は
理由はわからないが、その値が私の場合はおかしいとのこと。今までまともに生活してきたつもりだが、何処かで道を間違えていたのだろうか。それとも天性の才能か。だとしたら別にもっと早く発現してくれてもいいのに。
「実際の数値がこれです。普通の艦娘候補は1から100、よく行っても200になります」
しーちゃんが紙を見せてくれた。本来この紙は検査を受けた者に見せられることは無いが今回は特別とのこと。
いろいろな項目がある中に今言っていた通りMとDという枠があり、M型の方には0とあった。つまり、人間の作った艤装を私が装備したところで、動かすことなど出来ないのだろう。そもそも装備することすら出来ないのかもしれない。
まぁそれは大半の人間がそこに含まれるわけなのだから驚きもない。そもそもこの4年間は常にこうだったはずだし。
問題はD型の値。
「……え、何これ。
「そもそもこんなデカい値が出ることも稀も稀なんだが、マイナスなんて値は出たことが無いのさ。しかも、去年までは何も無かったのに突然だ。アンタは本当に初めての事例だってことさね」
こんなバカみたいな数字はさておき、マイナスというのが今までに無かったことらしい。そんな数値が出たくらいなのだから、検査結果にエラーが起きているのだろうと思うのだが、そもそもこんなエラーが起きたことすら今までに無かったのだそうだ。
当事者の私でもこの値を見せられたら混乱する。施設の人達の動揺も納得が行った。それでも私を放置するのはどうかと思うが。
「つまりアンタは
異端児と言われて、それが褒め言葉に取れないような結果である。何せマイナス、0で才能無しでそれより下ということは、普通以上に才能が無いと考えるのが妥当では無いだろうか。お前には無理だと言われているようなものだが、ただ才能が無いと言われるより酷いと思う。
しかし、おばさんから出た言葉は私の想像していたものとは違った。
「だから、アタシがアンタをスカウトしに来たんだ」
「え、スカウト?」
「アタシ以外にゃ見向きもされないだろうね。こんなわけわからないような奴、『才』があっても使おうと思わないだろうさ」
辛辣な言い方ではあるものの、おばさんの言いたいことは理解出来る。私自身がスカウトの立場だとしても、こんな得体の知れない奴はスカウトなんてしない。むしろもっと細かく調査するべきだと思う。
それでも、この人は私に何かを見出したようだった。マイナスという前例のない値にこそ価値があると、その目が語っている。
「だが、アタシはアンタに他に無い資質を感じたね。マイナスと言っても0じゃ無いってことは艤装も装備出来るんじゃ無いかい? しかもD型の方だからね。馴染めばM型よか強いんだ。それなら立派に艦娘やれるってことさ」
ニヤリと笑って私を見つめる。振る舞い方からして自信満々なこのおばさんに言われると、そうかもしれないと思えてしまう。マイナスという値でも、何かしら役に立てると確信している。
「どうだい。アンタがやる気があるのなら、うちに来ないか。艤装を受け付けなかったとしても、しーみたいな事務として手元に置いておきたい」
「これは珍しいものを他に渡したくないだけなので、嫌なら嫌と言ってくれて構いませんからね」
「しーはアタシのことをよく理解しているようだね」
なるほど、物珍しさから。
とはいえ、私の進む道を作ってくれるのなら喜んで乗っかろう。こんなことを言っていても、悪い人では無さそうだ。この人の下でなら、私のやりたいことも出来るはずだ。
「うん、お願いします。私、おばさんのところに行くよ」
「おばさんはよしな。提督、もしくは司令とお呼び」
「じゃあ司令で。よろしくね、空城司令っ」
私だって最初からなれるものならなりたいという気持ちでここにいるのだ。喜んで戦いに身を投じよう。
おばさん、いや、空城司令の斡旋のおかげで、私は歩きたい道を歩くことが出来そうだ。そもそもの可能性が低いものだったのに、まさかこんな形で道が拓けるとは思わなかった。
艦娘になることが出来ない可能性も大いにあるが、鎮守府で働くことが出来れば、私の目的をここで果たすことも出来るはずだ。
家族を奪った深海棲艦への仇討ちは、この時から始められそうだった。
この世界では、建造艦もドロップ艦も人間です。建造で出来上がるのは艤装のみ。ドロップするのも艤装のみ。それを装備出来る人間を大本営が探しているということになります。