異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
なんとか海上移動の訓練を終えることが出来た私、陽炎。最後はかなり強硬手段ではあったものの、鎮守府の最速記録になる早さでの攻略だったので、少し気分がいい。
水浸しであるのでお風呂に行った後、早速訓練が終わったことを空城司令に報告する。木曾さんが事前に進捗と解決方法を伝えていたので、私が直に行ったことで上手く行ったのだと察してくれた。
「1日で終わらせられた子はかなり少ないからね。アンタはなかなかに優秀なようじゃないか」
「あはは、なんか他の人達と違う考え方したら上手く行ったんだよね。木曾さんのアドバイスのおかげだよ」
本当にこれ。木曾さんに私は無意識の方がやれるんじゃないかと言われてなければ、今でも力みすぎて水没とかしてそうである。
とはいえ、占守を突撃させるという割と無茶な手段は焦るのでやめてもらいたい。
「なら明日からは戦闘訓練だ。最初は主砲から始めてもらうよ」
海上での移動が出来るようになったため、明日からはついに艦娘としての活動をするための戦闘訓練となるだろう。命のやり取りに関わる一番重要な訓練だ。緊張感は海上移動の訓練など足元にも及ばない。
「先に言っておかなくちゃいけないね。陽炎、心して聞くように。これは新人全員に言っていることだ。脅かしてるわけじゃあ無い」
突然真剣な雰囲気。
「アンタが明日から持つ物は、
当たり前だが、艦娘が扱うことの出来る主砲は、人間に撃てば簡単に命を奪うことが出来る兵器。使い方を間違えば自分だって命を落としかねない代物だ。軽い気持ちで扱っていいものではない。それこそ、ハサミや包丁と同じ。使い方次第では自分を危険に陥れる。社会的にも。
「いいかい、陽炎。アンタ達艦娘ってのはね、侵略者を殺して回るのが仕事なんじゃない。世界を守ることが仕事なんだ。命を奪う存在じゃない。命を守る存在なんだ。これだけは肝に銘じておくように。わかったね?」
「うん、わかった。心に刻む」
明日から私が手にする力は、簡単に立場を引っくり返すことが出来るもの。しっかりと学び、正しい心を持って引き金を引かなければ、それこそ私達の倒すべき侵略者と同じになってしまう。
空城司令の言う通り、私達艦娘は世界を侵略者から守るのが仕事。そりゃ仇討ちは私の中で優先順位は高い。だが、艦娘として成すべきことをしたら、その目的は達成されるのだ。ならば、正しいことをするのが正解に決まっている。
「そうしとくれ。アンタ達が問題を起こすと、アタシにも面倒事が降りかかってくる」
そっちが本音なのでは、と思ったが、これは空城司令なりの冗談なのだろう。
実際、空城司令が真面目にやってきても、私達が不祥事を起こしたら、責任を取るのは全て空城司令だ。流石に私はそんな
「海防艦の子供達にもしっかり教育していることだ。あの子達よりも歳が行っているアンタがわからないわけないだろう?」
「勿論。それこそ孤児院で育ってきたんだから、子供達の手本になる大人にならなくちゃ」
「それならいいさね。仇討ちなんていう動機もわからなくはないし、アタシゃそれを否定するつもりは一切無い。それでも
艦娘の心得、つまり自分は破壊者ではなくて守護者であるというもの。これだけは絶対に忘れるなと、空城司令は言う。
これは今まで他の艦娘達にも口がすっぱくなるほど言い続けてきたことだそうだ。幸い誰もそれを踏み躙るようなことをしてはいない。これからもそれが続くはず。
「じゃあ、今日はしっかりと休んで、明日に備えな」
「わかった。今日は早めに寝るよ」
「艦娘といっても、艤装が無けりゃただの人間だ。疲れないわけじゃあ無い。特にアンタは今日からやり始めた素人だ。筋肉痛は覚悟しておくんだね」
怖いことを言ってくれる。だが、既に若干脚が痛いので、いろいろと覚悟した。普段使わないような筋肉ばかり使っているのだから仕方ないか。
翌日、案の定全身筋肉痛に苛まれながらの朝。ギシギシと身体が軋む中、艤装を装備するために工廠に集合。
主砲の訓練なのだから、やることはおそらく的当てか何かだと思う。適当に撃っても意味が無いし、少なくとも止まった状態で的に当てられなければ、戦場で命中させることなんて出来やしない。
「身体痛い、全身ギシギシ言ってる」
「でも昨日だけで済んだんですよね……早いです」
その訓練に便乗してくれるのは磯波。同じ異端児ということで、お手本を見せてくれるとのこと。私よりも先に来ていたからか、既に艤装は装備済み。
1人で訓練している海上移動とは違って、戦闘訓練は基本的に相方を誰か置くことになるそうだ。今日はたまたま磯波だっただけで、明日はまた別の子になるのではとのこと。
「磯波さ、私も夕立みたいにタメ口でいいよ。同じ駆逐艦だし、同年くらいでしょ。むしろ私より歳上だったり……」
「あ、わ、私は14歳で……」
「私15歳ね。別に一個下くらいなら気にしないよ。むしろタメ口じゃないと嫌だ」
同年代の仲間に敬語を使われるとか私にはちょっと耐えられない。しかもお互い異端児という共通点まであるのだ。仲間ならもう少し友達感覚で。夕立相手にタメ口なのだから尚更。もっとお互いフランクに。正直もっと馴れ馴れしいくらいでもいいくらいだ。
「……ん、わかった。じゃあ……改めてよろしくね?」
「はい、よろしくっ」
これでちゃんとした仲間として見れるようになっただろう。磯波との関係を一歩進めることが出来たのは嬉しい。
「ごめ〜ん、待たせちゃったかなぁ」
などと話している間に今回の訓練を見てくれる艦娘が到着。訓練はそれが得意な人に見てもらうというのが定石なので、今回も勿論得意な人。
軽巡洋艦の阿賀野さん。最新鋭軽巡と名乗りつつも、何というかちゃらんぽらんな雰囲気が漂っているが、私達と同じ異端児の1人。何でもD型の同期値が500ちょっとという値が出たらしい。私の知る異端児の値で考えると少し小さめな値ではあるが、本来想定されている値からは大きく外れているため異端児扱いである。
「今日は主砲訓練で〜す。陽炎ちゃんは初めての訓練だから、阿賀野が手取り足取り教えてあげるね〜」
軽い。すごく軽い。今から命を懸けるための武器の扱い方を教えられるというのに、まるで主砲をオモチャか何かと勘違いしているのではないかという軽さ。大丈夫かこの人。
「陽炎ちゃん、この人普通に凄い人だから」
「そうなの?」
「ビックリする程
磯波が言うくらいなのだから、本当に凄い人なのだろう。見た目や態度に惑わされてはいけない。
「それじゃあ、定番の的当てをやりま〜す。陽炎ちゃんはまずは当てられるまで撃ってみようね〜」
的は磯波が用意してくれるということで、私はまず阿賀野さんと共に艤装の装備から。今回は夕張さんではなく整備長が準備してくれた。
整備長が持ってきてくれた艤装は昨日までとは違う。マジックアームの片方には、明らかに弾を撃ち出すもの、主砲が接続されていた。イメージで動かす艤装なのだから、おそらくこの主砲の引き金も私のイメージである。
「陽炎ちゃんは、艤装に備え付けの主砲と、手持ちの主砲、2基使うのよね〜。阿賀野の主砲は艤装に備え付けのだから、そっちは教えやすいと思うな〜」
形状や威力は違えど、やることは同じ。備え付けの主砲ならば、その砲門を的に向けて、放つ。ただそれだけ。手持ちの主砲だってそうなる。
「こいつが陽炎型の主砲だ。わかってると思うが、取扱注意。お前さんのミスで工廠が吹っ飛ぶ可能性があることを忘れないようにな」
「空城司令にも念を押されたよ。これは命を奪う兵器なんだって」
「わかってりゃいいんだ」
さらに持ってきてくれた手持ちの主砲は両手持ちのもの。ネックストラップが付いているということは、首からぶら下げて持ち運びをするわけだ。
だがその主砲、整備長の力では持つことが出来ないくらい重いらしい。しっかりと艤装を装備してから持たなくては、私の首が折れる。そういうところからも慎重に取り扱わなければならない。
「阿賀野からもアドバイス〜。冗談でも人に向けちゃダメよ。多分これ訓練用のペイント弾が入ってると思うけど、それぶつけられただけで人間だったら大怪我だからね」
「わかった。本当に取扱注意なんだね」
水の衝撃も馬鹿にならない。一度にどれくらいの量が飛んでいくかは知らないが、例えば野球のボールくらいだったとしても、直撃したら骨なんて簡単に砕いてしまう。
艦娘ならまだ無傷かもしれないが、それは艤装による強化の賜物だ。生身で受けたらひとたまりもない。
「阿賀野ちゃんの艤装も用意してるから、ちゃっと装備してくれ」
「は〜い」
私が艤装の感触を確かめている間に、阿賀野さんも艤装を装備。
他人の艤装というのをマジマジと見ることはあまり無く、昨日の木曾さんのものくらいしかよくわかっていないのだが、阿賀野さんの艤装は結構ゴテゴテしていた。さっき言っていた通り、主砲は全部艤装に備え付けられ、そのトリガーが掴めるように両サイドに伸びている。
備え付けという意味では私の主砲と同じ感じだが、やはり要所要所違うのはわかる。大きい分、私のものよりも小回りが利きづらいとか、そもそも設置位置が違うとか。
「あ、昨日の筋肉痛が無くなった」
「艤装装備中の身体能力強化のおかげだな。治ったわけじゃないから、無茶はしないようにな」
艤装を装備したことで、ギシギシ言っていた私の身体が悲鳴を言わなくなった。無理矢理ブーストされてるように思えて怖いが、艤装装備中はそれだけ私が普通とは違う身体になっているということが理解出来る。
「的、用意出来ました」
私達の準備が出来たところで磯波が戻ってくる。遠くの方の海の上にはわかりやすく二重丸な的がプカプカ浮いていた。完全に固定されているわけではないので、初心者の私には最初から難易度が高く感じる。
だがこれもみんなが通ってきた道。敵には意思があるのだから、的と違って避けるのだ。そもそも避けない的に当てられなかったら、戦場では絶対に当たらない。
「よ〜し、それじゃあ行ってみましょ〜」
早速海へ。昨日までは木曾さんに支えてもらいながら陸から離れたが、今日は違う。それこそ本当に無意識に、さも当然のように着水。何というか、それが当たり前だとわかると簡単に出来てしまう。意識しない方がやれるという木曾さんの分析は間違ってなかった。
「それじゃ〜、陽炎ちゃんにはまずお手本を見せるね〜」
所定の位置に着くと、早速阿賀野さんの実演。磯波が言うビックリする程
「的に身体の向きを合わせて撃つだけで当たっちゃうからね〜」
遥か彼方にあるように見える的に向かって身体を向けた途端、トリガーを引く。ドンと空気が震えたと思ったら、撃ち出されたピンク色の弾丸が的目掛けて飛んで行ったかと思うと、見事に的のど真ん中に直撃。穴が空くわけでは無いが、それが狙った場所に命中していることは遠目にもわかる。
阿賀野さんの言った通りだった。身体を向けて撃つだけ。たったそれだけでコレ。
「陽炎ちゃん……あんな簡単に出来るの、阿賀野さんだけだから」
「そうなの?」
「威力がある主砲を撃った時、その主砲ってどうなると思う?」
弾を前に放つということは、その衝撃が後ろに行くということ。あれが輪ゴム鉄砲ならまだしも、命を軽く奪うことが出来るほどの威力なのだから、私に掛かる負担だって相当なものになるはずだ。撃った時点で体勢が崩れて、狙いがまともにつけられない。
それを阿賀野さんは、艤装の性能とかもあるのかもしれないが、それでも撃った反動を全く感じさせなかった。
「え、マジで?」
「そういうこと」
飄々と撃つが、そうなるまでにどれだけ努力したのだろうか。それとも真の天才なのだろうか。ともかく、この1回の砲撃だけで阿賀野さんの実力がわかった。
「それじゃ、やってみよっか〜。とりあえず手持ちの方が狙いやすいと思うから、そっちを撃ってみようね」
簡単に言ってのける。だが、やらなければ始まらない。
身体を的に向け、両手持ちの主砲の砲門で狙いを定める。私の目では直線上に並んでいるはずだ。そのまま撃てば当たる。
「じゃあ、行きまーす!」
引き金を引いた瞬間、真正面から体当たりを喰らったかのような衝撃を主砲に受け、思わず後ろに傾いてしまった。たったそれだけで照準はブレ、狙っていたはずの的から遥か遠くに弾が落ちる。
なるほど、これを全くブレ無しで撃っているようなものなのか阿賀野さんは。なるほどなるほど。とんでもないなこの人。
「……あ、ああー……なるほど、うん、わかったわかった」
「初めて撃って倒れなかっただけマシよ〜。じゃあ、当たるまでやろっか」
まずはこの衝撃をどうにかしなくちゃいけないだろう。これもまたコツを掴む必要があるようだ。
ならば無意識でなら普通にやれるかもしれない。無意識に敵を撃つとかどうかと思うが。
砲撃訓練は始まったばかりだ。まだまだ先は長い。
阿賀野型の中でも一番それらしくない子が長女ってのもどうかと思うんですが、ここの阿賀野は異端児。さらには普通ではない力の持ち主。