異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
南方棲戦姫の中から現れた新たな鎮守府の一員、長門さんは、後遺症として太陽の姫への忠誠心が残ってしまっていた。それでも人間としての思考も持ち合わせているようで、何をしでかすかわからないと現在自ら拘束着を着用している状態。
空城司令は長門さんに対して、贖罪という形で後遺症を克服するように指示を出している。その一環として、まずは鎮守府の雑務を担当しながら慣れていき、定期的に私、陽炎と会話をするというところに落ち着いた。どういう形であれ、罪の意識を晴らしてもらうのがいい。
長門さんが目を覚まし、一応はこの鎮守府で引き取ることが決定したため、支援艦隊はこれで任務完了。予定通り、帰投することとなった。
「助かったよ。また援軍を頼むこともあるだろう。その時はいいかい」
「ああ、今回は通用したようで良かった。これ以上の強敵と戦うこともあるだろうから、そのときはまた力を貸そう」
この数日で元々ここにいたのではと思えるほどに馴染んでいた支援艦隊の6人。別れも少し寂しいものである。だが、あちらも鎮守府を空けてここに来てくれているのだから、いつまでも引き留めておくわけにはいかない。名残惜しいが、ここでお別れだ。
だが、これが今生の別れでは無い。それこそ太陽の姫との最終決戦の時にはまた手を貸してもらう可能性は高いだろう。私達よりも強い艦隊なのだから、頼りたくなるときはきっとまた来てしまう。
「キリシマ! 私はまた来るからな!」
「はいはい、わかったから。その時はまた演習でもしましょう」
「OK! 確かに聞いたからな! 次はタイマンだ!」
特にここは仲良くなっているようだ。最初から物凄くテンション高めだったが、徹頭徹尾このスタンスを崩さなかったサウスダコタさんは、それはそれで凄いと思う。
「カゲロー、ちょっといい?」
アクィラさんに呼ばれる。私の戦術を決める助言をしてくれたアクィラさんは、私にとってはもう大先生と言える程の恩人。
「私の助言をあんな形にしちゃうなんて、とってもビックリしたわ。それが貴女の戦い方なのよね」
「うん。本当に感謝してる。アクィラさんのおかげだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。お話した甲斐があるわよね」
よしよし、と頭を撫でられる。確かあの時のお風呂でも撫でられた。アクィラさんは多分これが癖なのだろう。恥ずかしさはあるものの、悪い気分では無い。
「カゲロー、貴女はきっと今よりも酷い目に遭うでしょう。でも、貴女は強い子だから、きっと乗り越えられるわ。
ニッコリ笑顔で、それでいて茶目っ気もたっぷり。アクィラさんにそう言われるのが自信に繋がる。あれだけ人間観察が得意なのだから、この助言もきっと私の役に立つはずだ。
酷い目に遭うというのも、それはもう決まっていることだ。ここまで悪夢も更新してしまったし、太陽の姫との戦いもまだ残っている。だが、それを乗り越えることが出来ると保証してもらえたのなら、そのように出来るだろう。アクィラさんの期待にも応えなくては。
「うん、ありがと。絶対に乗り越えるよ」
「よしよし♪ それじゃあ、
これでひとまずの別れ。だが近々また会うことになりそうな気がする。その時にはいろいろと心配をかけないようにした状態で再会したいものだ。
支援艦隊が帰投したことで、ここからは私達のみで戦っていくのだが、まずやらなくてはいけないのは南方棲戦姫の巣の破壊。南方棲戦姫を倒した今、大きな障害はもう出てこないだろう。知性を持つレ級が出てくる可能性が無いとは言わないが、2体も3体も纏めて出てくることはもう無いだろうし、今の状態ならここの最高戦力を出せば撃破は可能。
目下の問題は、その場所である。駆逐水鬼の時もそうだったが、巣の場所は未だ明確になっていない。障害が無いにしろ、調査は必要なのである。
そこで、今回も元々そこにいた者に力を借りることにした。本人は拒むかもしれないが、話を聞かない理由が無かった。
またもや私と萩風が呼び出され、長門さんがいる医務室へ。直近の被害者がいれば心が休まるかもしれないという配慮。やはり同類がいると何処かしら落ち着けるものである。私の便乗はちょっとどうかと思ったが。
「最初の仕事なんだが、覚えていたらでいいんだが
「ああ、構わない。私に抗う理由はない。無いはずだ」
構わないと言いつつも表情が曇るのは、太陽の姫への忠誠心が意思に反しているからだろう。あそこを破壊してしまえば、残るは太陽の姫本陣のみとなる。それは
それでも、長門さんはその相反する思考に苦しみつつ、私達に対して友好的に接してくれようとしてくれた。自分が間違っていることが理解出来ているからこそ苦しいはずなのに。
「艤装もないただの人間のアンタを領海の外に連れて行くことになるからね。萩風の時もそうだったが、万全の態勢で向かうから安心してくれりゃいい」
「……そうか、わかった。それも償いになるのならな」
萩風も罪滅ぼしなんて言っていたが、深海棲艦に変えられて私達と敵対していたのは、本人の意思では無いところなのだから、罪と思わないでもらいたい。言い方は悪いが、太陽の姫をこれでもかと言うほど恨むべきだ。そんなことをさせた奴に対してなんて、ありったけの負の感情を全てぶつけるくらいが丁度いい。私のように。
「何度も言うが、まずは気負うんじゃない。ここの奴らとは仲良くするんだ。今は希望を受け入れて拘束しているが、すぐにでも自由に動けるようにする。アンタは人間で、対等の関係だからね。いいね」
「……善処する」
やはり萩風以上に罪悪感が酷い。まだ目覚めて間もないというのもあるが、ずっと浮かない顔をしている。私とは目を合わせることも出来ない。
おそらくこの人は、身体も心ももっと強い人なのだと思う。話し方からしてもっと凛とした、カッコいい女性なのだろう。すごく美形だし、背も高い。スタイルまでいい。
なのに、今はすごく小さく見える。罪悪感に震え、人との関係を極力持とうとしない。本来持っていたであろうこの人の良さが、全て壊されてしまっている。それが私としては残念だ。全部太陽の姫のせい。
「任務は明日からだ。部屋と服を用意させるから、今は休んでいてくれ。勿論、鎮守府の奴らと交流するのが一番だが」
交流は難しそうではあるが、おそらく何も考えずとも何人かは突撃するだろう。長門さんはそれを躱すことも出来ず、嫌でも交流する羽目になる。贖罪というのなら、これも耐えてもらわなければならない。
私達はあくまでも、長門さんと仲良くしたいのだ。それが長門さんにとっては苦しみになるかもしれないが、罪悪感を払拭するためには受け入れてもらうしか無いだろう。
「長門さん、大丈夫です。ここの人達は本当に優しい人達ばかりですから。みんなと付き合っていけば、きっと気が晴れます。私だってそうなので」
ここで前に出たのは萩風だった。同じように太陽の姫に利用され、同じように救出された、長門さんとは本当の同類。抱える問題は違えど、境遇も何もかもが同じである。
「だが……私にそんなことが出来る資格は」
そんな萩風の言葉なら届くかと思ったが、長門さんの心の傷は思った以上に根深い。開き直ることなんて簡単には出来ないことは理解している。だからといってずっと後ろ向きでは何も変わらない。
そんな様子を見て、空城司令が何かを思いついたようにニヤリと笑みを浮かべた。まるで悪戯を思いついた子供のようだったが、長門さんにとって害になるようなことは決してしないだろう。
「長門、アンタには雑務を与えると言ったが、何をするか今決めたよ」
「……何を求められるのだろうか。どういう形で償えばいい」
「アンタは今日から間宮と伊良湖の下について食堂に入ること。そこで、ここの艦娘全員と顔を合わせて、交流を深めることだ」
これは少し予想外だった。しーちゃんの手伝いで事務をしたり、整備班の一員になって力仕事をしたりと予想していたのだが、あえてここで食堂とは。
事務も整備も、ここにいる艦娘と顔を合わせることが極端に少ない仕事ではある。整備の方は積極的に行こうと思えば顔は合わせられるが、やはり棲み分けはされているので、付き合いは難しい。
しかし、食堂なら朝昼晩と必ず顔を合わせることになる。ある意味接客業みたいなものだし。それに、この人数分の食事をたった2人で回している間宮さんと伊良湖さんに助け舟を出せるというのは素敵なことである。
「わ、私が、食堂で……!?」
「まぁリハビリみたいなもんだ。よし決めた。拒否権は無い。今日の晩飯からよろしく頼むよ。さっきも言った通り服も用意しておく。しー、間宮と伊良湖に伝えといてくれ」
「了解しました。すぐにでも伝えておきます。きっと喜びますね。給糧艦はどうしても増えませんし、一時的でも仲間が増えることは」
長門さんが何か言い返す前に、とんとん拍子に話が進んでいってしまった。呆気にとられているうちにしーちゃんは医務室から出て行き、空城司令も長門さんの拘束着を勝手に脱がしていく。
「わ、私は料理の経験なんて無いぞ!?」
「間宮も伊良湖もその辺りを考慮して仕事を振るだろうよ。それに、出来ない出来ないで人生は回んないんだ。ここいらで花嫁修行とでも思って覚えてみるのはどうだい。アンタはまだまだ先があるんだからね」
それなりに歳を召されている空城司令の言葉だからこそ重たい言葉である。長門さんが何歳かは知らないが、少なくとも今からはまだまだ長い人生が待っているのだ。先のことを見据えて動くのも悪くは無い。
結局、空城司令の押しには勝てず、長門さんは一時的に食堂に配置されることになる。
妖精さんの用意した服は、艦娘の制服などではなくどう見ても普段着。元から凛々しい長門さんにとてもよく似合っているシャツとズボンに、何やら船のイラストが描かれたエプロン。スタイルがいいのでこんな恰好でもやたら様になっていたが、どう見ても艦娘では無い。
「い、いいのか私は、こんなことをしていて……」
「いいのよ。間宮食堂はアルバイトでも来てもらえるのは喜ばしいことだから」
「私も後輩が出来るなんて思っていませんでしたから嬉しいです!」
ニコニコしている間宮さんと伊良湖さん。給糧艦というのは早々増えるものでは無いようで、もうこの戦いが終わるまで2人で食堂を切り盛りし続けるのだと考えていたらしい。だが、一時的とはいえ3人目が入ったのは予想外も予想外。心底喜んでいるようである。
「私達は、戦えない代わりに皆さんを食という形でサポートする艦娘。私達の働き次第で、仲間達のコンディションが左右される大事な大事な仕事なの。長門さん、その辺りはちゃんと念頭に置いてね?」
「う、うむ……」
まだ戸惑いが無くならないようであるが、これが司令からの指示なのだ。受け入れてもらうしか無い。
「長門さん、料理の経験は」
「無い。無いのだが、練習をしようと思ったことはある。結局何も出来なかったが……」
「なら、そのように仕事を振るので任せてね。そのうち料理の方にも手を出してもらうからね」
結局最後まであたふたしていた長門さんだが、今日の夜からはこんなおかしな形で鎮守府に馴染まされることになった。
食堂の新人というのはそれだけでも目立つもの。嫌という程絡まれることになり、その都度長門さんは困惑し続ける羽目になる。
この空城司令の采配は、後々になって効いてくるのだろう。その時が楽しみだ。
給糧艦長門爆誕。メンタルケアには人付き合い。
本作『異端児』も、今回で100話目となりました。今後ともよろしくお願いします。