異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
南方棲戦姫から解放され人間に戻れたのは良かったのだが、後遺症として太陽の姫に対する忠誠心が残ってしまっている長門さん。艤装を装備させるわけにはいかないということで、現状は食堂で手伝いをするという形に落ち着いた。給糧艦である間宮さんと伊良湖さんは大喜び。長門さんは贖罪のつもりで鎮守府に軟禁されるつもりでいたようだが、こんな形で活動させられるとは思っていなかったようである。
結果的に夕食の時間で鎮守府の全員と顔を合わせることとなり、なんだかんだで全員と交流することになる。案の定、占守と大東からはさんざん弄られ、呑兵衛の隼鷹さんからも絡まれていたものの、長門さん自身が生真面目な性格だったため、与えられた仕事はしっかりとこなしていた。
だが、やはり浮かない顔をしていたのは事実である。こうして交流した艦娘達に対しても、長門さんの頭の中では
初日でいきなり慣れろという方が間違ってはいるか。萩風もそんな感じだった。夜に思い切り鬱憤を晴らしたことで少し良くなったくらいである。
「長門……ねぇ」
その姿をボンヤリ見ているのは陸奥さん。因縁をつけた深海棲艦が人間になるというのは複雑な気分なのだろうか。萩風に対してすぐに仲良くなりに行った夕立が凄まじいだけなのかも。
「陸奥さん、どうかした?」
「ん、いやね、長門って……艤装的には私の姉になるのよ。ゲロちゃんと萩ちゃんみたいな関係ね」
まぁ今まで殴り合っていた相手が突然姉ですと言われれば戸惑いもするか。私はそこまででは無かったが、陸奥さんは意外とそういうものを気にする人なのかもしれない。
「別に姉が出来るのは構わないのよ。私が2番艦ってことは元々知ってたし、もしかしたらいずれ来るかもって覚悟はしてたから。まぁほら、やっぱりあそこまで落ち込んでると、妹として心配になるのよ」
心配はしているが、あまり近付けないというのもある。陸奥さん相手には特に不安定になりそうだからだ。
「ゲロちゃんみたいに、夜に面と向かって話でもしてみようかしら。それでスッキリしてくれればいいし」
「それ、結構効果的だからオススメ。でも長門さんが抱えてるのって」
「太陽の姫への忠誠心だっけ? つまり、私を殺そうとしてくる可能性もあるわけよね」
極端な話、そんなことだってあり得る。長門さんを信用していないわけではないが、常に葛藤しているようなものなのだ、眠っている間に襲われる可能性だって捨て切れないのだ。一緒に寝ていたら翌朝冷たくなっていたとか笑えない。
「でも、話が出来るならしてみるわ。ありがと」
「ううん、私と萩風みたいなものって聞いたら、アドバイスくらいしたいなって」
「また何かあったら相談に乗ってちょうだいね」
似たような問題に直面した私なら相談に乗れるだろう。長門さんの方が萩風よりも精神的なダメージが重たいものの、やることは最終的には変わらないはず。ここは協力出来ることは協力したい。
萩風も長門さんにはとても協力的だし、そもそも鎮守府全体がそういう雰囲気なのだ。きっと長門さんも吹っ切れられるときが来るだろう。
お風呂上がり、飲み物を貰おうと食堂に向かった私、陽炎。今は初月インナーを身につけていないので、D型異端児に効く匂いを振り撒きつつの移動になってしまっているが、お風呂上がりなのだから基本的には仕方ない。
私を1人に出来ないという理由で便乗してくれるのは夕立。他の3人は先に私の部屋に向かい、布団などを用意してくれている。もう、1つの部屋を5人で使うのが当たり前になってしまっていた。
で、食堂の前に来ると何やら話し声が。以前はもう少し遅い時間に呉内司令と話をしたものだが、今回は雰囲気が違う声。あの時は緊張とかばかりだったが、今回は和やかな雰囲気。
「お疲れ様でした。明日は朝からでいいのかしら」
「……おそらくな。提督の指示だ。私は従うしかない」
そこでは、食堂の仕事を終えた長門さんが、間宮伊良湖ペアと共に少し遅めの夕食を食べていた。いわゆる賄い料理というヤツ。
食堂の人達は、行動する時間帯が私達と比べると大分ズレているのは知っていた。普段の夕食の時間は私達に付きっきりで、その全てが終わったところでようやく一息つけるわけだ。
長門さんのことを思うと少し食堂の中に入るのを躊躇ってしまったが、勿論空気を読まない夕立が突入。そうなると抵抗もする必要が無くなるため私も中へ。
私達の姿を見て長門さんがギョッとしたのがわかる。この時間は他の艦娘が来ないと踏んでいたのだろう。申し訳ないが、例外は付き物である。
「間宮さん、伊良湖さん、飲み物欲しいっぽい!」
「もう食堂は閉じてるから、勝手に持っていっていいわよ」
「ぽい! ゲロちゃん、何にするー?」
いやはや、本当に空気を読まない。長門さんが視界に入っていないのではないかと思えるほどである。実際は空気を悪くしないように明るくしているだけなのだとは思うが。
長門さんはといえば、なるべくこちらを見ないように黙々と食事を進めていた。ここにいても誰かと顔を合わせる可能性があるのなら、早急にここから立ち去りたいという気持ちがありありと伝わってくる。
「すぐに戻るから、気にしないでね長門さん」
「……ああ、好きにしてくれて構わない」
長門さんのためにも、さっさと飲み物を貰って食堂を出ようと思う。普段ならここで飲んで片付けまでしていくのだが、今回は部屋まで持っていくことにしよう。
夕立と適当に飲み物を選んでそそくさと戻ろうとしたのだが、そこに更なる来客。間宮さんも伊良湖さんも、こんなに終わった後の食堂に人が来るのは珍しいと笑う。
「ごめんなさい、まだ食事中だったかしら」
それは、陸奥さんだった。あちらもお風呂は終えた後で、もう寝間着と言った感じの、かなりラフな格好である。
「お酒でしたら持ってきましょうか?」
「ううん、今日はそっち方面の用じゃないの。まだここにいるんじゃないかなって来ただけだから」
明らかに視線が長門さんの方へ。長門さんはそれに合わせて目を背ける。
艤装姉妹として、早速行動に出たようだ。夜に話をする、思いを洗いざらい話してもらう。それだけで大分変わるはず。
「長門、夕食が終わったら、私に時間を貰えないかしら」
「……何故だ」
「話をしたいの。私達、なんか姉妹になっちゃったみたいだし」
その辺りは空城司令から聞いていたらしく、突然出来てしまった妹に対して、そこまでの驚きは無いようだった。
しかし、
「ダメ……かしら」
「……すまない。今日は1人にしてほしい」
陸奥さんとも目を合わせられない。罪悪感と太陽の姫への忠誠心から孤立を選んでしまっている。無理矢理与えられた食堂での作業は、提督からの指示、
これを見ると、萩風は後遺症があるとしてもかなり軽症なのではないかと錯覚する。最初からかなり友好的だったし、今の長門さんのように嫌でも湧いてくる敵対の意思なんてものは無い。私への執着心が振り払えないだけなら、まだマシとすら思える。
「1人でいるほどドツボにハマると思うのだけど」
「頭の中を整理する時間をくれ……」
こればっかりは仕方ないか。解放されてまだ丸一日という程度なのだから、今はまだ余裕が無いと言われても納得出来るし。だが、1人でいると嫌な気持ちが頭の中で駆け巡るだろう。
今でこそ私には基本誰かがついてくれているので、
そう考えると、長門さんを1人にするのは私と同じくらいに憚られた。だからこそ食堂勤務にしたというのもありそう。夜以外は大体間宮さんと伊良湖さんがいるわけだし。
「本当に1人で整理出来る? 嫌な感情ばかりが渦巻く気がするんだけど」
「頼む。今は……今だけは関わらないでくれ」
相当重症である。無理もないとは思うが、ここまで後ろ向きでいられると、一生治らないのではないかと思えるほど。
「そう……なら落ち着いたら話をしましょ。明日は出撃だし、ゆっくり休んでちょうだい。艤装も無い生身の人間を連れていくことになるから私達も緊張するけど、萩ちゃんの時に大丈夫だったし、長門も大丈夫よ。それじゃあね」
今は諦めたようで、小さく溜息を吐いた後、陸奥さんは自室へと戻っていった。その後ろ姿を眺めながら、長門さんもあまりいい顔をしていない。
「ながもんさん、追いかけなくていいっぽい?」
ここで夕立から一言。自分から突っ撥ねているが、それを後悔しているような顔に見えたのは私もである。そこは人間側の感情が働いてしまっているのだろう。
負の感情ばかり動いてしまうのは、感情を持つ者の宿命とも言えるかもしれない。1人でいるときは楽しかった思い出よりも辛い思い出の方が頭を巡ってしまうものである。
「……今の私には、何をどうすればいいのかわからないんだ。だから、1人で考えを纏めたい」
「1人で纏められるっぽい?」
痛烈な言葉に、長門さんは俯くばかりである。言葉も失ってしまった。
私はおそらく、纏めることなんて出来ないと思う。纏まったとしても、それは相反する感情の葛藤の中で生まれた答えだ。悪いことばかり考えている状態で纏まったところで、それはいいものとは到底思えない。
「長門さん、萩風は最初から私達を頼ってくれたんだ。夜もみんなで集まって、鬱憤晴らしの愚痴大会みたいなの開いてね。そこで言うこと言ったから、萩風はすごくスッキリした感じだったよ。長門さんもやってみたらどうかな」
「……しかし」
「頼れる人ならいっぱいいるんだし、さっきは陸奥さんの方から関わりに来てくれたんだから。そういう人は貴重だよ」
まだ前向きにはなれないようだが、少しくらいは心が動いたのでは無いだろうか。言葉は出なくなってしまったが、今この場でも考えを巡らせているようだった。
今すぐ吹っ切れろとは言えない。そんなもの無理だ。根深いものであることは誰もが理解しているわけだし。それを吹っ切れやすくするために、私達仲間がついているわけであって。
これはもう1人で解決出来る問題では無いだろう。だから、すぐにでも私達を頼ってほしい。落ち込んでいる姿を見ていると、こちらも気分が沈む。
「ゲロちゃん、夕立達はもう部屋に戻るっぽい。みんな待ってるし」
「そうだね……このまま話していても続かなそうだし」
取り付く島も無いため、私達は食堂から出ることにした。間宮さんと伊良湖さんにこの長門さんを任せるのは荷が重いかもしれないが、大丈夫と笑顔でジェスチャーしてくれたので、少しだけ安心して部屋に戻ることが出来た。
「うーん……根深いねぇあれは」
「夕立達のこと、まだ敵だって思っちゃうんでしょ? だったら仕方ないかもしれないけど、人間なんだから仲良くしたいよね」
鎮守府の仲間達全員と仲がいい夕立のコミュ力を以てしても、今の長門さんは難関のようである。太陽の姫への忠誠心が本当に邪魔。酷い後遺症を残してくれたものである。
「ハギィと話してもらった方がいいかもね。おんなじところにいたんだし」
「かもね」
元深海棲艦同士なら、真の意味で仲間になるので、話し合いが出来るかもしれない。お互いに愚痴しか出てこなそうだが。それでも、吹っ切れるきっかけになるのならいくらでも言えばいいと思う。先日の萩風のように、泣き叫んで疲れて眠ってしまうくらいでも充分だ。
長門さんの傷は相当根深い。簡単には治療出来ないが、ここにいればきっと、人間としての長門さんに戻れるはずだ。
長門はまだ立ち直ることが出来ません。萩風のときのように、巣の破壊が終わった後が勝負所。