異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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本質を見抜く子供

 翌朝、悪夢を見ることなく目覚めることになった私、陽炎。ああなってしまったことで毎日見る羽目になるかと思ったが、そうでも無かったらしい。これは本当にありがたかった。

 

「今日は気持ちよく寝られたねぇ」

「良かったですね。毎日あんなシーンの悪夢を見せられたら、確実にノイローゼになりますよ」

 

 全貌を知っている上に体験している萩風が言うと、その重さがハッキリとわかる。私としても、自分の身体が深海棲艦になる瞬間の夢なんて毎日見たいものでは無い。見るたびに謎が残るから変に勘繰ってしまうし。悪夢を毎日見続けるとか、百害あって一利なし。

 そもそも、悪夢を見たらこの部屋にいるみんなを起こしてしまう。私の悪夢がみんなに迷惑をかけてしまうのだから、悪夢を見なかった日の朝はそれだけで気分がいい。

 

「とはいえ1日飛ばしで見る可能性はあるんだよね……。これからもよろしくしていいかな。全員じゃなくてもいいから」

「ここまで来たらみんなずっとこのスタンスで行くんじゃないかな。陽炎ちゃんが心配無くなるまでは」

 

 沖波がそう言うと、みんなが力強く頷いてくれた。今まで何度も思ってきたが、つくづく持つべきものは仲間である。

 誰か1人、いや2人いてくれれば私も安心して寝られる。特に夕立は私を起こすタイミングがわかったと言っていたくらいだし、本当に安心。熟睡しすぎて反応に遅れるという心配もあるかもしれないが、夕立はそういうところに物凄く敏感なのでありがたい。動物的勘みたいな。

 

「ここまで来たら……乗り掛かった船だからね」

「艦娘だけに」

 

 磯波破裂。自分の発言に対して夕立が被せてきたのは完全に不意打ち。朝からいきなり蹲る羽目に。着替えの途中だったため、正直あられもない姿である。

 

「ま、まぁ、私達は姉さんの味方ですから」

「ありがと。ホント助かる」

 

 みんながいるから私はギリギリを維持出来る。足を向けて寝られない。

 

 

 

 今日の鎮守府としての予定は、南方棲戦姫の巣の破壊、および残党狩りである。

 知性を持つかはさておき、レ級がいる可能性は大いにあるため、残党狩りも大規模な部隊で向かうことになっている。さらにはそこに、巣の位置を知っている長門さんを連れて行くというのがあるので、かなり慎重な部隊編成になる。

 

「以上が今回の部隊だ。すぐに準備しておくれ」

 

 その部隊の中に、私は入っていなかった。今回はお留守番である。理由はとても簡単な話で、長門さんが便乗するからである。食堂の仕事はそこそこに、今回の任務に参加してくれることになった。

 完全な非武装どころか艤装そのものを装備していない長門さんであっても、私が一緒にいるときに後遺症による太陽の姫への忠誠心が表に出てしまった場合、部隊に何かしらの不利益がもたらされる可能性がある。特に私は、たった一言で綱渡りなバランスを崩される可能性があるのだから、それが司令の目の届かないところで起きてしまっては困るのだ。

 

 だから、最初から私は一緒に出撃ということは無いことになった。それは賢明な判断だと思う。私自身もその方がいいと思うし。

 

「しっかり縛ってくれ。()()()()()()()()()()()()

「あまりキツくすると、肌に傷がついちゃいますから」

「それくらいの方が今の私にはちょうどいい」

 

 出撃となると、長門さんは例の拘束着を使う。その状態で大発動艇に乗ることになるので、さらに雁字搦めに。まるで貨物を載せるかのようになってしまっていた。身動きが取れない者を運ぶのだから、万が一の転落防止のためにここまでする必要はあるといえばあるか。

 この申し出には大発動艇を操る由良さんも困惑気味だが、空城司令からも渋々許可されたことで、長門さんを()()として大発動艇に載せた。ある意味、南方棲戦姫の巣にのみ反応する電探のようなものである。

 

「協力してくれるなら、もう仲間でしょ。罪悪感はもう無しにしてちょうだいよ」

「……そうはいかない」

 

 陸奥さんに言われても、目を合わせることは無い。こうやって協力してくれていても、相反する感情に葛藤しているのは今でも続いたままだ。巣の場所を教えるのも、縛られるのも、何もかもが贖罪であると言い聞かせている。

 

「まぁいいわ。まずは巣を破壊しないと始まらないもの。ちゃんと教えてよね、()()()

「……姉と呼ぶのはやめてくれ」

 

 これはもう常に絡み続けるつもりだろう。陸奥さんは完全に長門さんを気にかけ続けるつもりだ。私と萩風のような関係になりに行くため、構えるところは全部構う。長門さんは少し嫌そうにしていたが、大分力業に出ようとしている。

 その方針に対して誰かが何か言うわけでもなく、ただ見ているだけ。まだ出撃する前なので空城司令もその様子を見ているが、何も言わないということは容認していると考えてもいいだろう。

 

「その辺りにして、さっさと行ってきな。領海の外なんだ、時間がかかれば戻ってこれなくなるだろうに」

「そうだったわね。じゃあ、出撃するわ。今日は巣の破壊まででいいのよね」

「ああ、いつも通りなら渦潮のせいでどうにもならないだろう。後日残党狩りだ」

 

 というわけで、巣の破壊部隊が出撃。

 今回はレ級対策も必要なため、大型艦メインの連合艦隊。陸奥さんが旗艦で戦艦と空母は総出であり、大鷹も対潜の兼任で出撃である。そこに夕立が加わって第一艦隊。

 第二艦隊は旗艦としての衣笠さん、大発動艇運用の由良さん、例の巣を破壊する大型爆雷のために夕張さん、駆逐艦からは対空の初月、対潜で磯波、小回りの利く火力として菊月という合計12人となった。

 

 

 

 残りの者は鎮守府で待機。休みではなく、近海警備やちょっとした訓練をしながら過ごすことになる。

 私はというと、本来保護者をやっている大鷹や、臨時の保護者をよくする由良さんが出撃してしまっているため、海防艦の保護者を一任されていた。萩風もそれに便乗してくれている。

 

「萩風、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。訓練も続けてきたので結構体力ついてきました」

 

 今回任されたのは海防艦の体育なので、萩風と一緒に走り回ることになった。なので、子供達と同じように私達も運動着。私は久々に初月インナーをやめて、シャツにスパッツと軽装。萩風も同じ。だからだろう、後遺症のせいで萩風の視線が少しだけ怖い時がある。だから脚をジロジロ見るな脚を。

 汗ばんではいるが、確かに息は上がっていない。艦娘として活動し、常日頃から訓練を続けてきたところが如実に出ていた。体力面では大分良くなってきたので、実戦の訓練をもう少し重ねれば、初任務も近々という感じ。姉として喜ばしいものである。

 

「子供達と戯れてると、嫌なこと全部忘れられるんだよね」

「ですね。鬼ごっこ、結構必死で追いかけますし」

 

 やることは毎回似たようなことではあるのだが、やるたびに子供達は成長しているため侮れない。内向的な松輪ですら、タッチするのに苦戦したりする。

 子供達にタッチするためには少し頭を使わなくてはいけないため、今思い返したくないことを忘れることが出来て、なかなか楽しい。これも思った以上に体力作りになるし。

 

「あ、そうだ。長門さんにもこれやってもらう? 嫌なこと忘れられるなら、もしかしたら吹っ切れられるかも」

「いいかもしれませんけど、もしやってる最中に後遺症が出てしまったら……」

「あー……怖いことが起きるかもしれないね」

 

 追いかけている時に子供達に対してすら敵対心が芽生えてしまった場合、そのまま手にかけてしまう可能性も無くはないという恐怖。

 長門さんは戦艦なので普通に大人。対する海防艦の子供達は、言ってしまえば一番()()()()()存在。

 

「長門おねーさんは優しい人っすよ」

 

 萩風との話に休憩中の占守が入ってくる。そういえば昨晩の夕食の時、食堂でガッツリ絡んでいたのを思い出す。

 

「長門おねーさん、占守達の頭撫でてくれたっしゅ!」

「な。あのねーちゃん、あたい達に暴力振るうとかは絶対しねーよな。こっちくんなーって感じには思えなかったし」

 

 大東も占守と同じように、長門さんに相当絡んでいた1人だ。食事中ということでいろいろと咎められたようだが、敵対心のようなものを感じることは無かったようである。

 そういうことに人一倍敏感な松輪はどう感じているのだろうか。占守や大東と違って、それを遠目で見ているだけだった気がするが、何か感じるものはあっただろうか。

 

「松輪、長門さんのことどう思った?」

「……ながとおねぇちゃんは……そんなにこわくなかったです」

 

 松輪にこれを言わせるということは、本当にその類。

 

「よくわからないですけど……まつわたちといっしょにいるのがつらそうで……いやなのかなっておもいました。でも……なんだかやさしいひとにも……みえました」

 

 松輪は長門さんの本質を感覚的に見抜いているのかもしれない。雰囲気で長門さんの葛藤を感じ取っているような。

 艦娘という一種の極限の状況に立っている子供だからこそ、そういうところに敏感なところはあるかもしれない。敵味方の判断が的確というか、自分に害をなさない者を見抜く力があるというか。

 

「そっか。じゃあ長門さんは悪い人じゃないね。もし長門さんとこうやって遊べるなら遊ぶ?」

「やりたいっしゅ! すごい強そうっすよね!」

「あたいもやりたいぜ! ねーちゃん達より手強いんだろうな!」

 

 占守と大東は好奇心旺盛なために、仲良くなれそうと思えば積極的に突き進む。それに、新しい人材となれば興味も湧くだろう。それが昨日の夕食の時だったわけだし。

 対して、消極的な松輪はそうなってもすぐには前に出ない。子供ながらに思考を巡らせて、どうしたものかと考える。とはいえ優しい人と見ているようだし、おずおずとだが長門さんとも遊びたいと手を挙げた。

 

「なら、陸奥さんに話してみようか。遊んでもらえるように掛け合ってみるよ」

「よろしくっしゅ!」

 

 上手くいけば、長門さんのストレスを解消することも出来るかもしれない。子供達との戯れては、思った以上に効果的である。

 

 

 

 お昼も終わり、午後も同じように海防艦の保護者をしていたところで部隊が帰投した。誰も欠けることは無いが、今回は怪我人がいた。あそこの海域は、敵の艦種も多種多様。小型から大型までバリエーション豊富。故に、どうしても不意をつかれやすかったようである。

 見た感じでは、霧島さんと夕立から血が見えた。あの親分子分コンビはどんな状況でも前のめりだし、ああなってしまうのは仕方ないのだろうか。もう少し自分の身を大事にしてもらいたい。

 それ以外にも小さな傷を負った者は多く、無傷の方が少ないと言える。対潜で出ていった磯波や、対空に専念している初月も、お風呂で治る程度の擦り傷は負ってしまっていた。

 

「巣の破壊はおしまい。案の定レ級が出てきたわ。あの時みたいに知性は持ってないみたいだったけど」

「そうかい。それでここまで無事なら大したもんだよ。怪我人はすぐに休みな!」

 

 今回は大規模な部隊で行った甲斐があって、しっかりと制圧した上で巣を破壊出来たということで、任務としては勝利と言える。

 長門さんの情報は正確なものだったらしい。南方棲戦姫への忠誠心があれど、贖罪の気持ちがこの時は強く、嘘の情報を話すことは一切無かったようである。

 

「長門さん、拘束を解きますよ。もう大丈夫ですよね? ねっ?」

「ああ……」

 

 由良さんが積荷(長門さん)の拘束を解いていく。あんな運ばれ方をしたら、自分で望んでいても酷く疲れるもの。それでも長門さんはしっかり無傷で、埃すらついていない。由良さんが長門さんを守りながらの戦いを続けてくれたおかげだ。

 

「アンタも風呂に入ってきな。まさかそれは拒否なんてしないね?」

「……ああ、潮風と汗でいろいろと酷い」

「ならぁ、私と裸の付き合いね♪」

「ちょっ」

 

 拘束が解かれるや否や、陸奥さんが長門さんを引っ捕まえてお風呂へ引き摺って行った。なんという強硬策。脱がしてしまえば逃げ場もないということか。

 長門さんも最初は抵抗を見せていたが、思った以上に鍛えられている陸奥さんの腕力には敵わず、最後は抵抗もしなくなった。ここからどういう展開になるかは見ものである。

 

 

 

 これで南方棲戦姫との戦いは完全に終了。ここからは残党狩りをしていくことになるが、駆逐水鬼の巣と同じなら数日で終わるだろう。

 それからはようやく本陣、太陽の姫との戦いだ。これまで以上の激戦になると思うが、負けるわけにはいかない。

 

 だが、それよりも前にやらなくてはいけないことは沢山ある。当面は長門さんのメンタルケアが優先されるだろう。開き直れるかどうかは、本人次第か。

 




ここの長門は、俗に言う『ながもん(ロリコン)』ではありません。それだけは念頭に置いておいてください。子供好きとアレは別物。
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