異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

103 / 284
艤装姉妹

 南方棲戦姫の巣は無事破壊が完了。残すは残党狩りとなり、それも近日中に終わることだろう。ここからは次の戦いに向けての準備を始めることになる。長門さんのことについても重要なので、2つのことを並行して行なっていく。

 長門さんのメンタルケアに関しては、艤装姉妹である陸奥さんが率先して関わり合いを持ちに行こうとしているため、そちらは任せることにした。姉妹とか関係無しにしても、南方棲戦姫に因縁をつけた陸奥さんだからこそ関わりに向かっているように見える。

 

 私、陽炎は、海防艦の保護者役をここで終え、磯波のお風呂と夕立の入渠終了を待つことに。別件の近海警備を終わらせた沖波も合流し、3人で食堂に入る。

 お風呂はすぐ終わるだろうが、入渠はそこそこ時間がかかる。

 

「長門さん……吹っ切れられますかね」

 

 やはり同じ境遇なため、萩風は常に長門さんのことを気にかけていた。萩風自体がまだ完全に吹っ切れることが出来ていないというのに、他人のことを心配するとは。

 

「どうだろう。萩風とはタイプが違うもんね」

「私は……太陽の姫への忠誠心とかありませんから。残ってるのは姉さんへの執着心ですし」

 

 最期もそうだったが、駆逐水鬼は太陽の姫への忠誠心は普通に低かったと思う。私という存在に欲望の全てを注ぎ込んだ結果、忠誠心よりも執着心が成長してしまったのだから。夕立の言葉を借りるなら、変態クソヤンデレ。私以外はどうでもいいというレベルにまでになってしまっていたことにより、萩風の中の罪悪感が多少小さくなっていたことが功を奏していた。

 あの駆逐水鬼も、私への執着心以上に太陽の姫に忠誠心を持っていたとしたら、萩風は今でもここまで立ち直れていなかったかもしれない。艦娘になるなんてことも言い出さず、それこそ長門さんのように食堂手伝いをやっていたかも。

 

「陽炎ちゃん、もしあっち側に行っちゃって、うまくこっち側に戻せたとしたら、長門さんみたいな苦悩を待つことになるかもしれないね」

「脅かさないでよ」

 

 だが、そうなってしまう可能性が無いとは言えない。長門さんは長い年月のせいで生まれた後遺症だが、私の場合は太陽の姫の巫女というやたら繋がりの強い立ち位置にされるが故に、忠誠心が異常に高くされるかもしれないのだ。

 長門さんのことを否定するわけでは無いのだが、私もああなるかもしれないと思うと怖い。周りのみんなが敵にも見えてしまうというのは、考えるだけでも震えてしまいそう。

 

 長門さんはそんな恐怖を今もずっと感じ続けているのだ。ああなっても仕方ないかもしれない。

 

「あ、磯波。お疲れー」

「うん、お疲れ様」

 

 ここでお風呂上がりでホッコリした磯波が合流。お風呂に入る前に負っていた小さな傷はもう塞がっており、疲れもあまり見えないくらいにまで回復していた。

 

「なんだか陸奥さんがすごかった。長門さんにずーっと話しかけてたんだよ」

 

 長門さんをお風呂に拉致していった陸奥さんは、あれからずっと仲良くなろうと話しかけているらしい。お風呂の中でもそれは止めず。それは長門さんからしてみれば鬱陶しいとすら思ってしまいそうなものだという。

 事実、長門さんは陸奥さんの話に対して、目を合わせることもなく、相槌を打つこともなく、じっと聴いているだけだったらしい。無視しているというか、とにかく無反応。そこまで来ると、今度は陸奥さんが可哀想に見えてしまう。

 

「一筋縄ではいかないね」

「力になってあげたいんですが……難しいですね」

 

 こればっかりは諦めるわけにはいかない。せっかく解放されたのだから、ここからは新しい人生として幸せに暮らしてもらいたい。

 

 

 

 入渠が終わった夕立が合流した夕食時。長門さんは先日と同様に食堂手伝いとして働いている。間宮さんと伊良湖さんから指示を貰いつつ、注文を運んだり片付けをしたり。喫茶店の接客みたいなもの。

 そして今日も、席に近付くなり何かしら絡まれる。一言二言の会話くらいだが、長門さんは1度相槌を打つだけで席を離れてしまうため、会話が盛り上がる試しがない。まぁ長門さん自体が別の仕事をしている最中なのだから、仕方ないことではあるが。

 

 しかしここで、ちょっと気になることがあった。

 

「ねぇ、長門さんの顔色、ちょっと悪くない?」

 

 最初に気付いたのは私だった。今日の朝見たときと比べると、幾分か赤い。まるで上気しているかのようだった。目元も何処か寝起きのような、まだ起きていないという感じに見える。

 それともう一つ、少しだけだが動きがおかしいように見えた。疲れが溜まっているというよりは、体調不良なのではと思えるような。

 

「言われてみればそうかも……」

「ゲロちゃんが風邪引いた時に似てるっぽいね」

 

 磯波と夕立の保証が貰えたのなら、私の思ったことは間違いじゃ無かったようだ。特に夕立の言った、私が風邪をひいた時のもの。

 秋雲に太陽の姫のイラストを描いてもらったときや、初めて海上で太陽の姫の視線を受けた時のヤツ。風邪というよりは、過剰なストレスで体調を崩した時だ。

 あの時と同じというのなら、長門さんは同じことが起きている可能性が高い。相反する感情の葛藤により生まれたそれは、確実に長門さんを蝕んでしまっていたのだ。

 

「長門さん、長門さん」

 

 ちょうど近くを通ったので、注文があるわけではないが手招きで呼び寄せた。私の顔を見た途端ギョッとした顔をするのだが、仕事なのでいかにも渋々といった感じで私達のテーブルに来てくれた。

 

「……追加注文か?」

「何か頼むわけじゃなくて申し訳ないんだけど、長門さん顔色悪くない? 体調とか大丈夫かなって」

 

 境遇とかそういうことは一切関係なく、長門さんを1人の人間として心配している。体調が悪いのに無理して働いているとか、その方が良くないだろう。作業効率も落ちるし。

 

「……私は別に」

「無理しても贖罪にはなんないでしょ。むしろ無理させてるって思ったら、こっちの方が罪悪感あるよ。そういうのは素直に言った方がいいと思うんだけど」

 

 うぐっと声が詰まるのがわかった。図星ということがすぐにわかった。

 こういうのは今日が乗り越えられたとしても明日動けなくなるのがオチ。だったら今のうちにゆっくり休んでもらいたい。

 

「なに、体調が悪いの? ならすぐに部屋に戻って寝た方がいいわ」

 

 そこにすかさず陸奥さんが割り込んでくる。この夕食の空間でも常に長門さんに気を向けていたようで、異変を感じたら飛んでくるくらいの瞬発力。艤装姉妹とはいえシスコンかと思える程の瞬発力。

 

 私が思うに、長門さんの体調不良を引き起こしているのは、陸奥さんが大きな割合を占めていると思う。罪の意識から他人との関係そのものがストレスになってしまっているところに押せ押せで突撃してくるのだから、普通以上にストレスを感じてしまってもおかしくは無かった。

 体調不良に加え、ほんの少しだけ苛立ちまで感じられた。昨日からずっと関わり続けているのだから、おそらく長門さんが陸奥さんに対して持っている感情は()()()()以外に無くなってきている。

 

「……しつこいぞ。私は大丈夫だ」

「どう見ても大丈夫には見えないんだけど? ゲロちゃんも言ってたけど、無理してるところ見せられてもこっちが困るわ。ほら、私も間宮さんと伊良湖ちゃんに掛け合ってあげるから。今日は休みなさいな」

 

 甲斐甲斐しく姉に関わろうとする陸奥さんだが、ここでついに長門さんに限界が来てしまった。

 

「しつこいと言っているだろう! なんなんだお前は!」

「妹が姉の心配をすることの何が悪いのよ」

「妹というのなら姉の言うことを聞け! 私に関わるな!」

 

 食堂の真ん中で声を荒げてしまったことで、それはもう注目の的になる。何があったとザワザワし始めるが、一度溢れ出した鬱憤はそんなことでは止まらない。ずっと俯いていた長門さんが、陸奥さんの胸倉を掴んで睨みつける。

 

「鬱陶しいんだよ! 咎人(とがびと)の私に関わってくるな!」

「人生を潰されて意思も関係なくやらされていたことを、全部自分が悪いみたいに思うっておかしなことよ。姉さんは何も悪くないじゃない。悪いのは全部太陽の姫でしょうが」

「お前達に殺意を持っているのは私だ! ()()()()に仇なす者を敵と思ってしまうんだぞ! そんな私に(とが)が無いわけないだろうが!」

 

 後遺症が露見した瞬間だった。やはり太陽の姫への忠誠心は未だに健在。そしてそれが持ってはいけない感情であることを理解していることも。だから太陽の姫のことを()()()()なんて呼んでしまうし、その感情を持つことを(とが)なんて言ってしまうわけだ。

 敵まみれのこの鎮守府にいるだけでストレスになる。それに加えて、敵の中でも因縁のあった陸奥さんから積極的に関わられるのだ。結果がこの体調不良。

 

「じゃあ何、悪いこと考えたらもう犯罪者なわけ? だったら世の中全員犯罪人よ。そんなわけないでしょうが」

「私はこの手でお前達を攻撃している! 殺すためにな! この危険な考えを実行に移しているんだ!」

「私達を攻撃してきたのは南方棲戦姫であって姉さんじゃ無いでしょ。そこはちゃんと切り分けなさいよ」

「その記憶も感触もしっかり覚えてるんだ! ならそれは私の罪だろうが!」

 

 長門さんはより熱く、逆に陸奥さんは冷ややかに。口喧嘩は加速していく。長門さんは今にも手を出してしまいそうだが。

 

「そもそものうのうと食堂の手伝いをしていること自体が間違っているんだ! 何故私を罰しない! 死罪と言われてもおかしくないだろ! 指示だから従っているが、こんなこと間違っている!」

「何度でも言うけど、姉さんと南方棲戦姫は別物なの。南方棲戦姫は私達が倒した、殺したわ。そうしたら姉さんが出てきた。それはもう別人でしょ。死んだ奴は生き返らないんだから。それにこれは贖罪じゃないわ。うちの提督、罪を償うために食堂で働けなんて言ったの?」

 

 空城司令は長門さんに罰を与えるとは言ったが、それは私と仲良くなれるように努力することだ。相反する思考に葛藤することを贖罪とすると。

 雑務の割り振りは贖罪には全く関係無い。ただ鎮守府にいるだけで三食貰えると思うなという理由で割り当てられた作業であり、食堂勤務は交流を無理やりにでも深めるためだ。あくまでもリハビリという表現をしている。罪とは関係ない。

 

「姉さんはただ逃げてるだけじゃない。自分は元々深海棲艦だからって。治ろうとする努力もせず、人付き合いを避けて。本当に罪が償いたいなら、もっと私達に関わりあいなさいよ。葛藤が贖罪になるなら、1人でいようとしないで」

 

 長門さんが初めて言葉に詰まる。

 

「償う償う言いながら、その機会を自分から避けてるわよね。何が咎人よ。そもそも死罪に匹敵するから殺せとか、死んで逃げようとしてるだけよね。償う度胸が無いから、葛藤の苦しみから早く解き放たれたいだけ。本当に罪だと思っているのなら、逃げずに立ち向かいなさいよ」

 

 陸奥さんの言葉が突き刺さる。しかも食堂で、鎮守府に属する艦娘がほぼ全員がいるこの場で、妹から説教されるという環境。普通以上に精神的なダメージが大きい。

 

「今の姉さんは、言葉ばっかりのただの臆病者なの。自分は悲劇のヒロインとでも思ってるのかしら。罪とわかっていても償わず、吹っ切れることも出来ず、ただただいじけてるだけのお子様ね。態度で示しているように見えて、ただのポーズだもの。内心ではこうしておけば許されるくらいに考えてるんじゃない?」

 

 苦虫を噛み潰したような苦しそうな表情を浮かべている長門さん。何も言い返せず、陸奥さんの言葉を刻み付けるように聞いているのみ。

 

「そもそも私達は姉さんに罪があるとは思ってないの。だから、さっさと開き直りなさいよ。贖罪も何も無い。南方棲戦姫の記憶を持っているだけの、真っ白な人間なんだから」

 

 胸倉を掴む手をゆっくりと引き剥がす。体調不良は余程なのか、あまり力を入れずともその手は陸奥さんから離れた。

 

「今日一晩は関わらないであげる。その間に体調も治して、考えを纏めなさいな。それでも逃げるなら逃げてもいいけど、それならここにいてもらっても困るから鎮守府から出て行って。逃げないのなら自分から私達と関わり合いを持って。姉さんにはもうこの2択しか無いと思うわ」

 

 最後に軽蔑したような視線で一瞥した後、陸奥さんは食堂を出て行った。長門さんは茫然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 

 

 衆人環視の中での姉妹喧嘩。これが長門さんの今後にどう影響するか。

 




長門と陸奥では、長門の方が背が高いというイメージ。なので、胸倉掴んでるところは迫力がすごい。でもここの陸奥はすごい鍛えられているので、長門の腕を簡単に引き剥がすことが出来ます。長門が全力でも、陸奥はさらっと返してしまうでしょうね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。