異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
まだ完全に吹っ切れたわけではないが、長門さんは鎮守府の一員としてみんなをサポートさせてほしいと願った。まだぎこちないかもしれないが、深海棲艦ではなく人間として、そう言ったのだ。ゆっくりと慣れていってくれればいい。食堂のお手伝いも、今までよりはやりやすくなるだろう。
朝食の時間からそれは早速発揮され、まだ抵抗はあるものの、長門さん自身から歩み寄るような形を取るようになった。勿論こちらからはズンズン歩み寄る。表情は硬いが、会話を避けるようなこともしない。
「まだまだ笑顔が足りないわね。もっと表情豊かに」
「喧しい。私は元よりこういうタイプなんだ」
「笑ったらもっと綺麗なのに」
陸奥さんとの絡みも、言葉とは裏腹に喧嘩腰ではない。姉妹喧嘩は完全に終息したと言える。ああいうスタンスで話が出来ている感じは、ある意味姉妹らしい姉妹とも言えるかもしれない。昨日までは一触即発だったが、今では微笑ましい光景に見えた。
だが、長門さんの中には陸奥さんを筆頭とした艦娘に対する敵対心は残ったままだ。あまり軽口ばかり叩いていると、また昨晩のように喧嘩になりかねない。そこだけは陸奥さんも注意してもらわなくては。
「定期的に私は長門さんと話をしてみます」
「だね。私も司令に言われてるし、これからも長門さんと話をしていこう」
私、陽炎と萩風は、長門さんとの会話を推奨されている。萩風は同類であるが故。そして私は、長門さんに対する贖罪という体裁を取る行いのため。
生真面目な長門さんは罪を償うという行為を求めている。それが一番感じやすいのが私相手。おそらく太陽の姫による被害者の中で最も酷い目に遭っているのは私で、今尚その脅威に晒されているわけなのだから、そう考えるのも仕方ないことかもしれない。
「今度はながもんさんも一緒に寝てみるっぽい?」
「さすがにもう部屋が狭いよ。今ですら1人部屋に5人入れてるんだよ? そりゃあ私のせいでもあるけどさ」
夜通し話をしてみるというのもアリかもしれないが、長門さんへのストレスが酷くなり、また体調不良を起こしかねない。せめて夜くらいはそっとしてあげたいものである。陸奥さんが突撃するようだが。
それに、こうなってしまえば長門さんを放っておく者はいなくなるだろう。特に海防艦。まず間違いなく保護者に祭り上げられる。占守や大東だけならともかく松輪も長門さんに対して抵抗が無いため、長門さんさえ大丈夫なら心配はいらない。
「でも、みんなで話をするのもいいよね。この鎮守府にはすぐに馴染んでほしいしさ」
「迷惑じゃなかったら……お話ししたいかな。花壇とか興味あったりするかな」
「本とかどうだろう。長門さん、読書する姿とかも似合いそうだよ」
こういう会話が出来ているだけでも、もう長門さんは鎮守府の一員なんだなと実感する。みんな新人を受け入れる速度が半端ない。私もそのうちの1人であると思うと、胸が熱くなるというものである。
今日の日程は残党狩り。南方棲戦姫の巣は破壊出来ているので、そこに残る深海棲艦を一網打尽にして終了。なんだかんだで数日かかったりするので、目安は3日くらい。
今回は私もそこに参加させてもらう。あの場所にはレ級がいるため、どうしても重たい編成になってしまい、巣の破壊が終わったため、由良さんと夕張さんが木曾さんと阿賀野さんに、衣笠さんが加古さんに交代している程度で昨日と殆ど同じメンバー。他の艦種は人数が少ないのでローテーションが難しいところ。
人数が多い駆逐艦は持ち回りが可能。昨日は夕立、初月、磯波、菊月と参加しているため、うち3人を入れ替え。萩風が出撃可能なら総入れ替えだったが、さすがに実戦はまだ早い。
「で、初月が居残りね」
「ああ、残党には空母も出てくる。なるべくみんなの負担を減らしたい」
うちの鎮守府で最も防空性能が高いのが初月だ。空母が出てくるのならどうしてもいてもらいたい存在である。他の駆逐艦も対空砲火は訓練しているが、初月は追随を許さない。
「レ級が出たら、私と霧ちゃんで仕留めるわ。みんなは他の連中をお願いね。昨日は怪我人も出ちゃってるけど、今日は無傷で行きたいわね」
旗艦は陸奥さんなのだが、やけに上機嫌である。なんというか、キラキラしているようにも見えた。やはり、長門さんがある程度前向きになれたことは嬉しいようである。
このコンディションなら、レ級が現れたとしても難なく突破してしまいそうだ。こういう時はいい流れが来ていると思うし。
「陸奥さん、今日はやる気満々だね」
「帰って姉さんの恋バナを聞かなくちゃいけないんだもの。やる気も出るってものよ」
どういう形であれ、意欲があるというのはいいことなのだろう。それが下心だろうが、鎮守府には帰る目的があるのならそれを達成しようと頑張れるし。
「ここってそんなに縁もゆかりもない? 整備班の人達、男の人多いけどさ」
「それが意外と無いのよ。こういうところに配属される人だから、変な気を起こさないようにされてるの。既に相手がいる人が多いし、歳とかもあるでしょう?」
「あー……私達には歳上過ぎるしなぁ」
「だから、結果的になかなか縁が無いのよ。元から相手がいる状態で艦娘になる子っていうのも少ないしね。艦娘が機密みたいなものだから、合コンとかも出来ないし」
現地に向かうまでは時間がある。陸奥さんのテンションが高いため、その間も結局恋バナに花を咲かせることになった。孤児院で過ごした私としては、そういったことに本当に縁が無かったので、割と興味深い話ではある。恋愛なんて小説の中だけの話。
意外と喰いついたのは、私と同じように本の世界でしかそういうことを知らなかった沖波だった。やはり年頃の女の子である。
元々巣のあった海域に到着したところで残党に遭遇。昨日の段階で大分片付けていたようで、数はそこまで多い感じがしなかった。南方棲戦姫と戦っていた時の随伴艦よりは確実に少ない。
レ級はまたいたが1体のみ。さらには知性無しという個体のため、陸奥さんと霧島さんが速攻で片付けた。先にやっておけば、後々も楽である。昨日も片付けていたようだし、レ級退治もこなれたもの。
ここまで来ると流石に太陽の姫の視線は感じていた。私の戦いをしっかりと見ている。見ていることをこちらに伝えるほどに。
これももう何回目かなので、視線を受けながらの戦闘も普通に出来た。初回は体調不良を起こしたが、これも私が成長した証なのだろうか。嫌な成長である。
「ふぃー、ひとまず敵影は無くなったかな」
「潜水艦もいないみたい。これで全部片付いた……?」
しばらく戦い続けたことで、周囲から深海棲艦は消え失せた。私も駆逐艦を数体沈めたが、ありがたいことにほぼ無傷。やはり昨日よりも数が少なくなっているため、被弾率は大分落ちているようだ。それでも初月インナーの一部が破れてしまっているため、擦り傷はどうしても受けてしまっていたようだ。意識すると少し痛いという程度。
他の仲間達も、擦り傷はあれどダバダバと流血するほどの怪我人はいない。一番突っ込んでいった陸奥さんと霧島さんも、今日は擦り傷で終わっている。あとは服が汚れているくらい。
「はい、お疲れ様。見る限りでは今日はこれで終わりね。まだ潜んでいるかもしれないから、警戒だけは怠らないでね」
全て終わっても周辺を見回して本当に何もいなくなったかを確認。特に私は、ここに来るまでに太陽の姫の視線を感じたりするのだから、より入念に確認した。こうしている間も視線は感じ続けているし、ここは長門さんの証言からして、太陽の姫の居場所に近い場所のはず。何か起きてもおかしくはない。
私は特に視線の方向に対して警戒していた。何かあるとしたら、そちらから来てもおかしくない。
例えば、太陽の姫の刺客。駆逐水鬼、南方棲戦姫と撃破してきたが、今まではその2体が表に出てきていただけで、他にも配下の姫がいてもおかしくない。
「……ん?」
水平線の向こうに何かが見えた気がした。望んでいるわけではないのに、本当に新たな刺客がいるとでもいうのか。
「あっち、何かいない?」
「えーっと、何も見えないけど……」
近くにいた五月雨にも見てもらったが、その時には私にも何も見えなかった。気のせいとはしたくないので、もっとよく見てみる。水平線ギリギリのところだから、波がそう見えただけかもしれないし。こういう時に双眼鏡とかあればもっとはっきりわかるのだが。
私の発言から、駆逐艦4人でそちらの方向を凝視する。何かいたら一大事だが、何もないならそれだけ。安心を得るためにしっかりと確認。
「見間違いだったのかな……」
「それだといいんだけどね。せっかく南方棲戦姫を倒したんだから、ここでの戦いは終わりにしたいよ」
私だってそれは同意。ただでさえ視線は感じ続けているのだから、終わりとみなして早く帰りたいものだ。
だが、そうは問屋が卸さないらしい。
ゆらりと、人影が見えた。
「今何かいた!」
「私にも見えた!」
私と同時に五月雨も叫ぶ。2人が見えたならそれは見間違いではない。こうなったらそちら方面への警戒を厳とするしかなくなる。
「どんな奴が見えたの」
「いや、ホントにチラッと見えただけだから、人影ってことくらいしかわからなかった。人型の深海棲艦かもしれない」
遠いから色合いすらもわからないし、体型なんて以ての外。人型であるということしかわからない姿なので、深海棲艦ですら無いかもしれない。しかし、ここは領海の外なので深海棲艦以外がいる可能性は極めて低い。それこそ諜報部隊がこちらに関係なく調査しているくらいでなければ。
これだけ見ていれば向こうも気付くはずだ。深海棲艦だった場合はそのまま戦闘になる可能性が高いので、警戒を強める。
「見えた。確かに人影」
全員でゆっくりとそちら方面へと近付いていくと、ゆらりと見えた人影がハッキリと見えるようになっていく。私や五月雨だけでなく、部隊の全員がその姿を視認した。
あちらもこちらを意識してか、ゆっくりと近付いてきていた。色合いすら見えなかったそれは、
どう見ても普通では無い。明らかな人型なのだが、人間や艦娘とは明らかに違う部分がある。この海の上で、何かに腰掛けていた。雲のようなクッションだろうか。その状態でこちらに向かってきている。
「初めて見るタイプね……諜報部隊がいないのが残念だわ」
「あちらから攻撃してくる感じはしないけど……」
近付くにつれ、その姿が明確になっていく。今まで見てきた深海棲艦の姫とは大分違う。
ツノの生えた帽子や、やたら長い2つの三つ編みが特徴的な少女の姿。見た目だけは私と同い年くらい。駆逐水鬼と似たような感じだし、艦種としては駆逐艦か。服装もドレスのような豪奢なイメージだが、チラリとスパッツが見えたので活動的にも見える。
だが、一番気になったのはその両腕である。骨のようとは言わないが、指先は太陽の姫のように尖り、他者に突き刺すことが出来るような形状をしていた。まるで、
「ハイハァイ、初メマシテ陽炎」
攻撃もなく、微笑みをたたえながらこちらに話しかけてきた。こちらは武器を構えて警戒するが、あちらはそれを気にも留めていない。
「ギリギリデ、耐エテイルノネェ」
「悪いね。そっちの思い通りにはいかないよ」
「無理シチャッテ……オバカサン」
微笑みは崩さず、私達を小馬鹿にするような態度。これはまた他の連中とは違ったタイプ。
「今日ハ顔合ワセニ来タダケ。次ハ私カラソチラニ行クワネ」
「逃すと思ってんの?」
夕立のように空気を読まずに主砲を放つ。備え付けの方だから精度は高く、殆ど不意打ちなため避けることだって出来やしない。
だが、その深海棲艦に直撃する直前、
「私ハ『雲』。日ヲ隠シ、守ル者。陽炎、貴女ノ次ニ分霊サレ、貴女ヨリ先ニ目覚メタ
そして、その名の通り雲のように消えていった。正確には海中に隠れてその場から撤退しただけなのだろうが、私達には霧散したように見えた。
新たな敵、雲。まだ太陽の姫に辿り着くまでには障害があるようである。
太陽の姫が何者かは皆さんもうわかっていると思いますが、雲が誰かは……まぁわかりやすいですね。同じイベントで出てきた深海棲艦は極々少ないですし。