異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
南方棲戦姫の巣の残党狩りを進めつつ、新たに現れた太陽の姫の巫女、『雲』への対策を考えていく必要が出てきた。あちらから襲撃してくるという発言もあることから、全員が万全な状態を維持しつつ、迎撃が出来るように力を蓄えていく。
早ければ翌日には襲撃されかねないので緊張感はあるものの、だからといってコンディションが悪くなっていたらお話にならない。普段通りに生活して、訓練や任務で練度を上げて、その時に備えるのだ。
「で、明日は諜報部隊が来ると」
「久々だよね。秋雲ちゃん達がまた来るんだ」
夜、いつものように私の部屋に集まる異端児駆逐艦だが、話題は専ら諜報部隊のこと。支援艦隊とは違って一度面識がある面々が再び来てくれるということで、久しぶりに会える喜びが大きい。
特に秋雲は私、陽炎と艤装姉妹。私を主人公にした漫画を描くとか言っていたが、アレはどうなったのだろう。本当に持ってきたら引っ叩いてしまいそうだが。
「あ、そうだ。萩風、今度来る秋雲って子、私の艤装姉妹だからさ」
「そうなんですか。じゃあ、私とも艤装姉妹ということですね」
「ちょっとヤバイ奴だけど、いい奴だからさ。仲良くしてあげて」
前回と違うのは、太陽の姫の配下として活動していた深海棲艦の2体が、倒されたことにより人間へと戻っていること。人員が増えているため、そちらの紹介が必要になるだろう。
長門さんはこの鎮守府の艦娘でさえもまだ抵抗が残っているのに、外の艦娘なんてもっと厳しいだろう。今は食堂のお姉さんという立ち位置にいてもらうのが一番だ。事情も話しておけば大丈夫のはず。
萩風は前向きになっているため、是非とも秋雲と仲良くなっていただきたい。弄られる可能性は非常に高いものの、
「残党狩りの合間に調査も進むみたいだし、『雲』が襲撃する前に太陽の姫の本陣見つけてくれたりして」
「それだと太陽の姫とその『雲』とかいう奴の集中砲火受けるっぽい。来てくれるなら来てもらった方がめんどくなくていいと思うっぽい」
夕立のいうことも一理ある。近海で戦うことが出来るのなら、その場所に行くまでの消耗は無いし、部隊を組んで行くとかもないので、容易に総動員での対処が出来る。何かあった時にすぐに工廠があるのも魅力的。
だが、あちらの部隊が酷い量だった場合、鎮守府が防衛しきれない可能性もある。それこそ、空母がわんさか来てしまったら、空襲だけで鎮守府がえらいことになるだろうし。そこは難しいところ。
「作戦は提督にお任せするしか……無いよね」
「だね。私達はそれに合わせて戦うだけだよ」
そこは私達が考えても仕方ない。戦場に出て会敵してからは自由に動き回ることになるが、そもそもの方針というものは司令頼りである。そこは私達が独断で考えることは出来ない。
「そこはなるようになれっぽい! 勝てば何でも同じっぽーい!」
結局はそれである。誰にも被害無く勝てばいいだけ。多少の怪我は仕方ないにしても、死ななければいい。
『雲』との邂逅で刺激されたことにより悪夢は見たが、いつものところで起こしてもらえて一安心。今日も仲間のおかげで夜を乗り切れた。2日連続だったため、外的要因があれば連日悪夢に苛まれるということがわかった。困ったものである。
で、今日も残党狩りなのだが、昨日よりは人員削減。昨日の段階で大分減らすことは出来たため、もう終わった可能性すらもある。それでもレ級対策の大型艦運用だけで向かうことになった。連合艦隊ではなく通常艦隊となる。
そうなると残りの者達は通常業務になるわけだが、私と萩風は諜報部隊への説明のために待機。それが終われば訓練の方に移る。私を護るのだとやる気満々の萩風に、空城司令もそれならばとハードな訓練に移行していく旨を伝えている。
「久しぶりだね、アンタ達」
「お久しぶりであります、空城提督殿。諜報部隊隊長、神州丸外2名。本日より数日の間、再び出向させていただくのであります」
「ああ、よろしく頼むよ。今回は戦いもあるかもしれないからね」
到着したのは相変わらずの3人。神州丸さんに、青葉さん。そして、秋雲である。私の姿を視認した途端にニヤッとした笑みを浮かべて、うちの司令への挨拶もそこそこにこちらへ近付いてくる。
「おーおー、ゲロ姉お久ー。何それ、予想以上に変わってんだけど」
「しーちゃんが用意してくれてさ、これのおかげでD型異端児が匂い感じなくなるんだよ。しかも脚はサポーター付き」
「マジで!? ただの全身タイツにしか見えないんだけど、すごいねぇ」
まぁ私もこの初月インナーの効果はすごいと思っている。オカルトが効くということを実証した物なわけだし、今後もガッツリ使っていくことになるだろう。
しかし、秋雲の視線はそれだけではない。なんだかねちっこい視線で私の上から下まで舐め回すように眺めて、フンスフンスと鼻息を荒くする。
「いやはや、ゲロ姉それはエロいっスよ。スパッツの健康的なおみ足のエロさも良かったけど、それは純粋にヤバイ。ただでさえスタイルいいのに、強調してるようなもんよ。あとからスケッチしたいから、制服
とりあえず同じものを使っている初月に謝れ。
「お断りだっつーの。ホント変わんないねアンタ。いや、随分と変わってるか」
「お、気付いちゃった?」
「それに気付かなかったら流石に目が悪すぎると思う」
ドヤ顔で見せ付けてくる秋雲は、前回とは違う制服を着ていた。色は違うし、ところどころアレンジっぽいものが加わっているが、デザインは今の沖波と同じものだ。つまり、秋雲も改二。
「秋雲改二よん。前よりも戦闘能力まで上がっちゃったから、期待しててよね」
「そりゃ楽しみだ。時間があったら演習でもやってみる?」
「いいねぇ。で、そちらのお嬢さんは?」
このノリで萩風の方に視線を向けた。制服の形状からして、私の艤装姉妹であることは一目瞭然だと思う。それでも話を振っていく感じ、コミュニケーション能力にステータスを過剰に振っている感がすごい。
「萩風です。陽炎姉さんの艤装姉妹で」
「ということは、この秋雲さんのお姉ちゃんになるわけだね。よろしくハギ姉」
「よろしくお願いします、秋雲さん」
陽炎型艤装姉妹では必ず末っ子になるということで、萩風も姉扱い。あのノリをガッツリ見せた後ですんなりと受け入れることが出来るのは、秋雲の人柄故か。
秋雲のことだから、萩風が元々駆逐水鬼であることくらいはわかっているだろう。だが、あえてそれをこの場で聞かない辺り、萩風がどういう考えの持ち主なのかを測っているのではなかろうか。最初から距離感が近いものの、本当に踏み込んでいいところをちゃんと考えているのはさすが。
「んじゃあ、今までのこといろいろ話してもらおうかな。ゲロ姉漫画の続きをどうすりゃいいのか聞かなくちゃいけないからさ」
「アンタ、マジで描いてんの? 勘弁してよ……」
積もる話は後からとして、今からは仕事をしなくては。こう話している間も空城司令を待たせているようなものだし。
会議室。今回の打ち合わせは、私と萩風、そして先んじて部屋に待機していた長門さんが参加する。長門さんは一歩引いた位置に立っていたが、この場にいてくれるだけでもありがたい。
空城司令の口から今回の件が説明された。その時に萩風と長門さんの正体も語られたが、事前にそういう存在がいると聞いていたため驚くことも無い。批判的な目が無いだけでも、2人はこの場に居やすいだろうし、これからも生きていくのが苦しくなくなるだろう。
「で、だ。『雲』と名乗る深海棲艦が現れた。アンタ達は見たことはないかい」
「雲でありますか。外見の特徴を教えていただけないか」
それを細かく説明できるのは萩風と長門さんだ。私も1度見ただけなので、詳細までは語れない。どうしても敵対心が出てきてしまう長門さんに説明は難しいため、萩風が上手いこと説明してくれた。
「ふむ……その深海棲艦は噂になっていたものでありますな。青葉、確か取材で話を聞いていたな」
「ですねぇ。街が襲撃される時に稀に姿が見られると、他の鎮守府でも話を聞きました。救助された一般市民からも聞いてます。青葉達はその姿を見たことは無いんですけど、割と複数の場所で目撃情報があったので、それではないかと」
太陽の姫とは違い、ちょくちょくその姿は確認されているようだ。しかし、姿は見られていても、戦いになることなくその姿が消えているというのが常とも。
『雲』が出てきていることで太陽の姫の存在が隠蔽されている。雲のように太陽を隠し、雲のように掴めない。名前通りである。太陽の姫はそういう存在が欲しいから『雲』を作り上げたのだろう。
襲撃の現場にいるのは、分霊する人間を見繕っていると考えるべき。最近では艦娘側も力を付け、街が全滅する前に被害を最小限に抑えることが出来るようになったため、『雲』は活動がしづらくなっているようだ。鎮守府の存在が間接的にも被害を食い止めているわけだ。
「外見とかそういうところになると、最近青葉はあまりお役に立てていませんねぇ。そういう輩は写真にはなかなか収められないんですよぅ」
「となると、やっぱり秋雲さんの力が必要ってわけだね。オッケーオッケー、じゃあ特徴からイラストに起こしてみましょっかね」
直に見たわけではないので、以前に描いてもらった太陽の姫のイラストほどに精度の高いものは描けないと先に念を押し、そこからサラサラとペンを走らせていく。
萩風が説明した特徴を完璧に再現した結果、多少の差異はあれど、あの時に見た『雲』とかなり近いイラストが完成した。その速さと画力に、一歩引いていた長門さんも驚いている。
「此奴の目的は、やはり陽炎殿ということでよろしいか」
「ああ、それでいいだろう。次はここに襲撃すると宣言されたらしいからね。それは陽炎を
「難儀なものですな。陽炎殿、モテ期というヤツでは」
嫌な奴らからモテるものである。全員フって戦いを終わらせたいところだ。
「今回、諜報部隊に頼みたいのは2つ。1つ目は太陽の姫の巣の調査だ。南方棲戦姫の巣を破壊した今、本陣の場所を探さない限り戦いは終わらない。2つ目は『雲』の迎撃。これは想定外だったんだが、出向中に襲撃がある可能性は無いとは言えない。その時には力を貸してもらえるかい」
「無論、そのつもりで我々は艤装も整備していますので。特に秋雲は戦力としても成長しているので、ご期待ください」
「ハードル上げないでもらえるかな!」
少しでも人員が増えれば、迎撃がしやすくなるだろう。裏側ではまた呉内司令に声をかけているらしいし。
『雲』は他の姫を率いて襲撃をすると聞いているため、強力な艦娘が多ければ多い方がいいに決まっているのだ。
「残党狩りはもう終わるはずだ。今日は待機で、明日から調査に出てもらいたいんだが、良かったかい」
「了解であります。その間に襲撃を受けるようでしたら申し訳ありませぬが」
「それは仕方ないことさね。どちらも重要なことだ」
巣の調査と『雲』の迎撃は同時に出来ない。優先順位は太陽の姫の巣を探すことだが、タイミングが合えば迎撃にも参加してもらうということで。
「じゃあ、また短い間だがよろしく頼むよ」
「お任せください」
空城司令と神州丸さんがガッチリ握手。これにより、一時的にまた仲間が増えることになった。どれくらいの期間になるかはまだわからないが、3人ともここの鎮守府は初めてでは無いのだからストレスも無い。
「よし、じゃあゲロ姉、デッサンするから脱いで」
「脱ぐかバカ」
「減るもんじゃないっしょ」
「減るわバカ」
このノリも久しぶり。もう鎮守府のみんなに馴染んでいるようなものなのだから、受け入れもすぐだろう。まずは海防艦の子供達に絵でも描いてもらおうか。松輪が喜ぶだろうし。
諜報部隊の再参入で、戦いは終わりに向かっていくはずだ。早急に太陽の姫を追い詰めていきたいところである。
秋雲は萩風ともすぐに仲良く出来る超強いコミュ力を持っているので、この鎮守府でも安心。