異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
諜報部隊が鎮守府に到着し、太陽の姫の巣を調査する方針が決定した。今日は待機という形で身体を休め、翌日から任務に出てもらう。
現在、その海域は南方棲戦姫の巣を破壊した後に残った残党狩りの真っ最中。おそらく今日で終わるのでは無いかとは思われるので、明日からの任務に支障が出ることはないだろう。
打ち合わせも終わり、ここからは各自自由。私、陽炎は萩風の訓練に付き合う日程になっている。
「ゲロ姉、今日の予定は?」
「諜報部隊の迎え入れの後は、萩風の訓練に付き合うくらいかな。司令、私はそれでいいんだよね」
「ああ、予定通りでいいよ。萩風もやる気だしね。今日は付き合ってやんな」
私を『雲』の手から護るという目的が出来たことから、昨日からやる気満々である萩風。私が改二になるためにやってきたハードな訓練も厭わないというくらいのやる気。
『雲』自体、いつ来るかわからないような状態。さらには作戦もしっかりと立てることが出来ていない状況である。ならばと、いつでも戦えるように毎日鍛えていきたいという考えのようだ。私のために頑張るというのも、後遺症による執着心が働いた結果かもしれない。
「私も早く前線に立てる方がいいと思うので」
「無理だけはするんじゃないよ。倒れたら意味が無いんだからね」
「勿論。それで姉さんを心配させてもダメですしね」
最初に比べれば随分と明るくなった萩風ではあるものの、後遺症自体は払拭されていない。今でも何かあったら突然震えてしまうこともあるし、私に何かがあると何かしらの想像が巡ってしまうとも自白しているし。
とはいえ、毎日のように一緒にいるのだから執着心は満たされ、姉妹愛に転化されているような気もする。
「おー、愛されてるねぇゲロ姉」
「まぁ嫌では無いけどさ」
愛されていると言えるのだろうか。まぁ言えるか。
とにかく、ここからは萩風の訓練を見るという方向で。確か早速夕立や五月雨との実戦演習だったし。頑張るのはいいが、相手は天才的なセンスを持つ狂犬と、鎮守府最古参の経験者である。ボッコボコにされて自信を失わないようにしてもらわなくては。
「なら秋雲さんはそれを見学させてもらおうかな。ハギ姉、オッケー?」
「私はいいですけど、スケッチはしないでくださいね」
「チッ、先に手を打たれたか……」
魂胆見え見えだっつーの。
私と萩風が打ち合わせが終わるまで待っていてくれたようで、工廠では万全な状態で夕立と五月雨が待ち構えていた。ちなみにその実戦訓練を見てくれるのは由良さん。
先程言っていたように秋雲は私達に便乗。青葉さんは艤装姉妹である衣笠さんが残党狩りに向かっているため、ここに残っている人達に取材活動。神州丸さんは隊長として司令の下でいろいろと相談をするとのこと。それはあまりお休みではないのでは。
「あ、グモアキー! 久しぶりっぽい!」
「おひさー。だっちゃんも改二になってんじゃん。わんこがもっとわんこになってる」
全員と面識があるので、秋雲も明るい。初対面の萩風相手でもお構いなしなのだから、面識があればもっと気を許すか。
由良さんや五月雨も、秋雲の存在は否定しない。ここに私達と一緒に来たことは少し驚いていたが、簡単に受け入れた。
「秋雲さんにもハギ姉の訓練を見せてくれないかい。今日は待機だから暇でねぇ。御礼にみんなの筋肉とかその辺りしっかり観察しておくからさ」
「グモアキが言うと下心丸出しに聞こえるっぽいんだよね」
「そ、そんなことねーし。訓練の役に立ちたいだけだし」
うーん図星。秋雲はこんな見た目をしているが中身はオッサンくさい。
「何処の訓練が足りないかを見ていてもらえるのは助かります」
「でしょー? ハギ姉の許可も得たことだし、ほら、見せて見せて」
「なんだかなぁ」
結局、由良さんも許可を出したため、秋雲の参加は認められた。
まぁ秋雲がいようがいまいがやることは変わらないので、放っておいた方が良さそうだ。スケッチだけはするなと念を押しておいたが。これはフリじゃないともしっかりと言い聞かせて。
萩風の実戦訓練ということで、まずはお手柔らかにと五月雨が相手をする
「夕立から見て、萩風はどう?」
戦う萩風を眺めながら夕立に聞く。私としては、最初はこんなものかと思っているが、他人の目から見た萩風を知っておきたかった。
萩風はどちらかと言えば受動的なタイプの戦い方をしていた。相手の攻撃を見てから回避し、その隙をついて攻撃をする。艦娘の心得を強く意識していることと、私を護るという目標が生まれたことで、堅実であり
五月雨に翻弄されている萩風ではあるが、その砲撃に対してちゃんと対応出来ており、回避行動も悪くない。しかし経験者にはどうしても劣ってしまうのが新人であるため、攻撃に転じることがなかなか出来ずにいた。堅実に戦えてはいるが、あくまで今は負けていないだけであり、どう見てもジリ貧。
「んー、なんか姿勢が変に見えるっぽい」
「姿勢?」
「うん、姿勢。駆逐水鬼の時のクセが取れてないっぽい」
夕立が言うには、萩風には駆逐水鬼であった頃のクセがそのまま残っているように見えるらしい。
駆逐水鬼は近接戦闘までこなしてしまうわけのわからないものだった。両腕は常にフリー。艤装から生えた剛腕で、殴ることも、主砲を撃つことも、魚雷を放つことも、敵の砲撃を防ぐことまで全てこなしてしまっていた。
だが、今の萩風は当然そんなこと出来ない。艤装のマジックアームの強度がそこまで高いわけがないので殴ることは疎か防御だって以ての外。そこを変に意識してしまってか、動きがぎこちないようだ。
「あー、確かにね。距離感とかもあるんじゃないかな。腕とアームなんて長さすら違うし」
秋雲もそこは看破していたようである。一応一度は駆逐水鬼を見ているわけだし、その辺りは違和感のようなものを覚えたか。
「いっそのこと、ハギ姉はもっと駆逐水鬼みたく戦えばいいんじゃないかな」
「それはなに、トラウマを抉れと」
「いやいやいや、敵の力を自分のものに取り込むっていう漫画的展開っすよ」
いっそそのクセを作った原因に自分から寄せていくと。なら、あの時の戦い方を再現してしまえば、今よりもうまく戦えるとでもいうのだろうか。
萩風は艦娘であって深海棲艦ではない。記憶は持っているし身体は覚えているが、それそのものではないのだ。何かしら不具合が起こると思うのだが。
などと話している間に、五月雨の一撃が萩風の胸に直撃。回避が追い付かなくなったというより、回避方向を読まれてそのまま敗北という感じ。そういうところは五月雨は特に強いので仕方あるまい。
「萩風、ちょっといい?」
「は、はい、なんでしょう」
ちょうどいいのでこの小休止の間に先程の話を萩風にも伝えておいた。本人が嫌がるならやらなければいい。
話が進むたび、だんだんと複雑な表情になっていく。出来ることなら忘れたい過去が穿り返されているようなもの。黒歴史の発掘はそれだけでも精神的な苦痛に繋がるだろう。
「……演習とはいえ、戦っている時はどうしても
砲撃訓練とかの的に対して撃つだけならちゃんと出来ているが、咄嗟の判断がモノを言う実戦訓練ではどうしてもそういうクセが出てしまうもの。萩風に至っては、既に戦っている記憶があるせいで、演習といえども駆逐水鬼であった時の自分が重なってしまうようだ。
「無理しなくていいよ。ただ、そういうクセがついちゃってるって2人が言ってるだけだからさ。順当に訓練を続けていけばクセも無くなると思うし」
「いえ、自分でも少し思っていました。あちらの方が慣れているのは間違いないんです。無理して艦娘の戦い方をするより、まずは慣れ親しんでいる戦い方をしてみるべきなのでは無いかと」
これはいい方向なのか悪い方向なのかわからない。萩風がやりたいというのならやってもいいとは思うが、そのせいで深海の性質に引っ張られるとかになると、引っ叩いてでも止めなくてはいけない。
とはいえ、やってみなければ正しいかどうかなんてわからない。それで萩風がまた駆逐水鬼になってしまうなんてことは無いと思うが、中身だけそちら側になってしまうなんて大惨事だけは避けなくては。
「由良さん、どう思う?」
監督役に聞いてみる。責任転嫁と言われてしまえばおしまいなのだが、こればっかりはみんなの意見が必要。
「そうね……難しい問題だけど、萩風ちゃんの意思を尊重するのがいいと思う。それで悪影響が出ちゃったら、拒んでも止めるっていうのが一番いいかもって、思うかな」
私は少し抵抗があるのだが、萩風自身がやる気になっているため、本当にまずいと思ったら止める方向で行く。
「じゃあ、もう一度私が相手するね。もっとやりたいようにやってみよう」
「了解です。一度何も考えずに思ったように戦ってみます」
小休止もここで終わり、もう一度萩風がチャレンジ。少し怖いことをやるわけだが、ここでコツを掴むことが出来れば、戦力として格段に進歩する。結構心配。
そして始まる2度目の演習。すると、今までとは打って変わって萩風は一直線に突っ込んでいった。
堅実を捨てたように見えるその戦い方は、艦娘というよりは深海棲艦の戦い方。護るために負けない戦いをする艦娘とは逆の、侵略するために勝つ戦い。あまり褒められた戦法では無いなと思う。
「わ、突っ込んだ」
「素人の突撃はあんまり良くないんだけどねぇ。でも、
初めてやるのにこなれている。記憶の中にある駆逐水鬼の戦い方を再現し、身体が覚えているために無意識にでも最善の力の入れ方が出来ていた。
だからだろう、普通では考えられない戦法も使い始める。五月雨の砲撃を紙一重で躱した瞬間に、マジックアームに接続された主砲を
「あー、変態クソヤンデレもああいう戦い方だったっぽい。水飛沫でこっちの視界塞いで、その間に突っ込んできて殴るってヤツ」
「でも今回は流石に殴るなんて出来ないから」
その水飛沫に合わせるように砲撃と雷撃を繰り出した。その前に一歩二歩と引いてから撃ったので、水飛沫が出来る前とは距離感が変わっている。
夕立なら自分で放った魚雷を自分で破壊するという形で水飛沫を作り上げていたが、萩風はさらに強引。普段の性格からは考えられない超力業。
「あんまり褒められた戦い方ではないね」
「だよねぇ……」
「艤装が傷んじゃう。整備の人達にもっと頑丈に作ってもらうくらいしないと、あの戦法はちょっと難しいかな」
由良さんも隣で分析中。確かに、本来ならやってはいけないくらいの戦術。主砲に海水が入ったら機能不全も起こりかねない。波を被るとかそういうレベルじゃないし。それに、マジックアームにも私の時以上の負荷がかかるだろう。演習なのにボッキリ折れてしまいそうで怖い。
しかし、萩風の動きは初戦と比べると格段に良くなっているのは確か。今まで訓練してきた分で砲撃の安定性は出来ているし、先程とは違って攻撃にも転じることが出来ている。
今の性格とは裏腹に、萩風は押せ押せの戦い方の方が得意なようである。攻撃は最大の防御とよく言ったものだが、まさにそれ。私の前に立ち、私より先に突っ込むことで、護るための攻撃に転じる。
「わ、すごい。サミーに肉迫したっぽい!」
「今主砲でガードしなかった? 実弾だったらアウトでしょ」
「それでも突っ込んだのはすごいっぽい!」
水飛沫を何度も繰り出し、距離感をおかしくしながら接近していく萩風。今までにない戦法のため、五月雨も経験の更新に少しだけ時間がかかっているように見える。
だが、そう簡単には行かない。これはもう当てられるというところで、五月雨の砲撃が顔面に直撃。近付けば当てられるかもしれないが当たる確率も上がるわけで、ただただ突撃するだけは自殺行為に等しい。
「気持ちのままに戦ってみましたが、艦娘の身だと間違った動きになりますね……」
「要所でやれるようにしたらいいんじゃないかな。距離感おかしくなるのは結構辛かったし」
実際いい動きは出来ていたのだが、艦娘の身体と艤装では追い付かないところがあるのだろう。それさえ克服出来れば、萩風は一層強くなれるはずだ。それこそ、私を護ることが出来る程に。
「この戦い方、今の私にあった形に昇華して、必ずや身につけてみせます。そうすれば、姉さんを護ることも……!」
「あはは、期待してるよ」
私の声援とともに大きく震えた。表情も若干緩んでいたのがわかる。その瞬間を秋雲が見逃すはずもなかった。
「あー、そういうとこも駆逐水鬼の気質が残っちゃってるのね。オッケー理解。なら、もっとアレに寄せればそれっぽく戦えるかもね。例えば、スカート脱いでみるとか」
「するって言ってもさせないから心配すんな」
そこまで駆逐水鬼に寄せたら、萩風は多分帰ってこれなくなる。
その後は何度も演習を繰り返し、萩風にあった戦法を見出してもらうことに専念した。
最終的にはかなりいいものになりそうだったのだが、その前に萩風の身体がペイントにより余すとこなく塗り潰されていたのは言うまでもない。
「夕立、容赦なさすぎ」
「手加減は失礼っぽい」
気持ちはわかるが。
萩風も日々成長しています。愛する姉を護るため、駆逐水鬼の戦い方すらも身につけようと躍起に。