異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

11 / 284
異端児の会合

 砲撃訓練を開始した私、陽炎なのだが、1発目から上手くいくわけもなく、まずは大きく逸れたところに飛んでいってしまうところから始まった。砲撃した時の衝撃は思っていたよりも強く、その場で体勢を崩さないでいられる阿賀野さんがおかしいということがわかる。

 その後からはずっと1つの的に対して同じように撃つ訓練を続ける。1発撃っては阿賀野さんにいろいろと触られ、姿勢がこうだとか力を入れるところはここだとか教えられた。それでそんな簡単に行けば苦労はしないのだが、案の定すぐにクリアすることは出来ない。

 とにかく主砲の反動がキツい。1発撃つたびに身体を持っていかれるのではないかという衝撃に襲われ、そのせいで砲身がブレブレ。

 

「ちなみに、これの最速記録は?」

「夕立ちゃんが3発目くらいでモノにしちゃったかな〜。あの子、戦闘の申し子みたいな子でしょ〜?」

 

 納得。木曾さんからも聞いていたが、海上移動にてこずっただけで、戦闘行為に関してはやたら早かったのだとか。主砲の扱いもすぐさまモノにしてしまったようである。とはいえ3発目って。

 

「ほら、磯波ちゃんの砲撃も見てみて〜。重心が安定してるでしょ〜?」

 

 必死な私から少し離れたところ。私と同じように磯波も砲撃訓練中。

 磯波は肩がけの主砲を使っているようだが、両手持ちの主砲を使う私と違って、片手持ち。代わりにもう片方の手で主砲を支えて撃っている。私とはシステムが違うが、身体の使い方は似たようなもの。むしろ私の方が安定して然るべき。

 しっかりと身体を的に向け、支えることで砲身のブレも無く、腰を落として構えている。これに関しては客観的に見るのがわかりやすい。撃った瞬間に脚や腰に力が入っているのもわかるし、ブレたとしても誤差範囲内程度。しっかり的に当てている。

 

「ほうほう、腰を落として……しっかりと支えて……」

 

 的に向けて主砲を構え、どっしりと腰を落とし、しっかりと狙いを定めて、撃つ。反動が身体を駆け抜けるが、構え方を変えたおかげか、さっきよりも激しいものでは無かった。無いとは言わないが。

 

「おっ!」

「いい感じよ〜。さっきよりブレなくなったね」

 

 的の端を掠めることに成功。今回の場合は、見たことでしっかり成功のイメージが出来ていた。相変わらず力んでしまっていたかもしれないが、そのおかげで先程よりは照準のブレが小さかった模様。

 これを無意識にやれれば、さらにブレが無くなるのでは無かろうか。いや、砲撃を無意識とか物騒この上ないのだが。

 

「木曾ちゃんから聞いたよ〜。陽炎ちゃんは意識しない方が上手くいくって。でもでも、砲撃は意識しないでやることなんて出来ないよね?」

 

 まさに今考えていたことである。

 

「だから、練習あるのみだよね。阿賀野はここで見ててあげるから、頑張れ頑張れ〜」

 

 突然の放任主義。とはいえ、これは私のこと。砲撃に関しては自転車に乗る練習とは訳が違う。海上移動は日常生活の延長線上と紐付けすることが出来たが、これは絶対にやらない行動だ。

 空城司令から言われたことを思い出す。私が持つものは命を奪う兵器だ。常に緊張感を持ってやらなければ、最悪な事故に繋がりかねないものだ。しっかり使いこなせるようになるまでは実戦になんて出られないだろう。

 

「よーし、目指せ今日中!」

「その意気その意気。それでも大分早い方だからね〜」

 

 イメージが力になるのなら、目標を立てればそこに向かいやすくなるだろう。無茶なゴールを設けているわけでもない。これならやれると思いながらやる。これもまた霧島さんのやり方を模倣している感じになるか。

 手持ちの主砲で命中させられるようになっても、また艤装に備え付けられた主砲もある。その後は移動しながらもあるし、的が移動しながらもある。まだまだ道のりは長いが、一歩ずつ進まなくては。

 

 などと意気込みながらの午前中は、命中までは行かなくても大分いい線までは来た。掠めて掠めてを繰り返し、徐々に主砲の反動に慣れてきたという感じ。最初に比べればブレは随分と小さくなったものである。

 

「いっくら艤装があっても重たくなってきたでしょ。お昼だし休憩しよっか」

「はーい……やっぱりしんどいや。なんか腕痺れてきた気がする」

「最初はそんなものだよ〜」

 

 艤装により強化されている身体でも、ずっと撃っていたためか痺れのようなものを感じる。反動を受け続けたせいだろう。これはもしかして艤装を外した時が怖いのでは。

 一応鎮守府に所属しているもののほぼ全員が通って来た道。移動訓練のときの水没のような洗礼の1つと考えれば、こらもまた艦娘になるための過酷な通過儀礼だと納得出来る。

 

「磯波ちゃ〜ん、訓練一旦おしまいで、お昼だよ〜」

「的はどうしますか」

「午後からもやるからそのままでいいよ。陽炎ちゃんは丸一日砲撃訓練だからね〜」

 

 磯波の方を見ると、的がペイント弾で満遍なく塗り潰され、むしろ空いてる部分が無いというくらいだった。つまり、撃った弾が一切外れずに当たり続けたということ。全弾命中とか、私にはまだまだ先の話か。

 ずっと静かに、冷静に、ひたすらに精度を落とさずに撃ち続けている。異端児だとかそういうの関係無しにすごい集中力。たまに私の砲撃を阿賀野さんと見てくれていたというのに。

 

「すごいね磯波。全部当てたの?」

「う、うん、ここに来て長いから、これは慣れてて」

 

 砲撃に慣れるということは、この鎮守府で大分戦ってきているということなのだと思う。もしかしたら鎮守府の中でも結構な古参なのかも。

 

「陽炎ちゃんは午後からもここで砲撃訓練ね。阿賀野も一緒だから安心してね。磯波ちゃんもだっけ?」

「はい、今日1日は陽炎ちゃんのお付きというか、阿賀野さんと立ち位置的には同じです」

 

 初心者の私についてくれるのだから、その技術を全て盗むくらいで無くては。さっきも言った通り、目指せ今日中のマスター。

 

 

 

 工廠に戻り艤装を外すと、案の定腕がジンジンと痺れていた。手を握ることもままならず、これではご飯を食べるのも四苦八苦しそう。箸を扱うのは難しそうなので、スプーンで食べられるカレー辺りにするのが無難か。

 さらには脚の筋肉痛が舞い戻ってくる。艤装を外してただの人間に戻ったことで、全身が軋むかのようだった。思わず動きが鈍くなる。

 

「あらら、もしかして全身筋肉痛かな?」

「うぎぎ……元々痛かったけど、腕がもっと酷くなった……」

「どうしても力んじゃうからね。初めてなんだし、耐えるしか無いかな〜。でも、全部終わったら湿布くらいは貼ろっか」

 

 そうさせてもらえると助かる。それこそ最低限の体調で訓練しなくては、大変な目に遭う可能性だってある。

 

「温めるといいと聞きますし、今からお風呂に行くことになりますから、そこでしっかりマッサージとストレッチをしたらいいと思います」

「あ、そうだね。じゃあ阿賀野が揉んであげる! 最新鋭軽巡の先輩に任せなさ〜い☆」

 

 最新鋭だの軽巡だのはさておき、先輩に後輩がマッサージされるというのがいいのかどうか。好意には甘えたいところではあるが。

 

 ということで大浴場。昨日のようにずぶ濡れだからという理由ではなく、訓練の後はみんな必ずお風呂で身体を流すことになっている。だから昨日は陸奥さんと霧島さんが入ってきたわけだ。

 お風呂での裸の付き合いというのはこういう団体生活では切っても切れないことだと思う。何もかもをさらけ出して話せば、仲もより良くなるだろう。

 

「あ、陽炎だー!」

 

 今回は先客。夕立と沖波が湯船に浸かっていた。私達が訓練している裏側で、あちらはまた別の訓練をしていたようだ。私は自分のことに必死で周りが見えていなかった。

 せっかくなので夕立と沖波に便乗して肩を並べて湯船へ。湯の温かさが身に染みるようだった。全身の筋肉痛が刺激されて解されるような感覚。普通にお風呂に入るより格段に気持ちが良かった。

 

「あ゛あ゛あ゛〜……効くわぁ〜」

「陽炎おっさんっぽい」

 

 痛烈なツッコミに、磯波が決壊しかけた。この子、思った以上に笑い上戸。特に天然な夕立にやられる時が多い。夕立自身が笑わせようとして言っているわけじゃないので、それがより磯波にダメージを与える。夕立の独特なセンスは、磯波の腹筋にはあまりよろしくない。

 

「全身痛いんだっての。私は主砲なんて使うの初めてなんだから」

「あー、わかる。私も初日は酷い目に遭ったなぁ」

 

 沖波もそれに関しては同情してくれた。この筋肉痛もみんなが通る道とは聞いているが、沖波もかなり酷かったらしい。

 

「初日は左腕上がらないくらいだったよ。主砲の反動で痺れてるっていうか、力が入らなくなるっていうか」

「わかりすぎて辛い。むしろ今それが全身に襲いかかってきてる」

「陽炎ちゃんはみんなと違う両手持ちの主砲だからね〜。はい、マッサージマッサージ」

 

 阿賀野さんが二の腕を揉みしだいてくれる。まだまだ若いと思っていたが、そうされて心底気持ちよく感じる辺り、私の身体は相当に疲労しているのではなかろうか。

 揉みにくいからと私の背後に回り込んで、包み込むように抱きかかえて腕を揉んでくれているのだが、こう、背中にとても柔らかい感触がして気が気でない。同性だけど。阿賀野さんもすごくスタイルがいい人なので落ち着かない。同性だけど。

 

「阿賀野はこういうの無かったからなぁ。手持ちの主砲じゃないから」

 

 阿賀野さんは完全に艤装に備え付けられているために私達のような筋肉痛は無かったらしい。代わりに姿勢制御で胴体が酷いことになったらしく、しばらくは笑うだけで腹筋が痛むという地獄に苛まれたとか。それを聞くと、腕で済んでよかったんじゃないかと思える。

 

「じゃあ夕立が脚を揉んであげるっぽい!」

「助かるわぁ……うあ、すごい効いてる。解されてる」

 

 阿賀野さんと夕立に全身を揉み解され、筋肉痛が少し緩和する。多分正式なマッサージではなく適当に揉んでいるだけなのだが、しっかり効いているように思えるのは、それ程までに私の身体が疲労しているということでは。

 簡単に治るわけではないにしろ、午後からの訓練に支障がないレベルには治療されているように思える。

 

「ここのお湯、温泉みたいな効能があるの」

「そうだったんだ。血行促進とか?」

「そんな感じ。人間にもちゃんと効く、()()()()()が入ってるって提督が言ってたよ」

 

 非常に聞こえが悪いが、艦娘になる子達の身体をケアするために開発された、最新鋭の薬湯というものらしい。毒というわけでもないので、こうして浸かっていても何の影響も無い。さらには子供がそれに浸かっても問題ないというのなら尚更高性能。

 だが一般流通させることは出来ないくらいの代物。生産コストの問題か、はたまた成分の問題か。わざわざ()()という言葉を使うのは怪しさを感じるものの、国に認められた艦娘のための薬なのだから良しとする。特に、あの空城司令が推奨しているのだから不安もない。

 

「陽炎、主砲訓練どうだった? どうだった?」

「なかなか難しいね。的に掠めることは出来るんだけど、直撃はまだまだだよ」

「ふふーん、夕立はすぐだったっぽいからね!」

 

 自慢げに胸を張る。こいつめ、それを言いたいだけで話を振ってきたな。

 

「艤装リンクの時間とか海上移動出来るようになるまでの時間で遅れを取ったけど、ここからは夕立が全部記録保持者っぽい!」

「はいはい、わかってるわかってる。すごいすごい」

 

 こういう自信家なところがあるからすぐにでも出来るのかもしれない。イメージは力。戦いのイメージが出来てるからこそ、戦闘行為への慣れが凄まじく早いのでは無かろうか。

 何故そんなことがすぐに出来るかはあえて聞かないでおく。夕立にだって何かしらの事情があるかもしれないし。

 

「崇め奉ってもいいっぽいよ!」

「んなことはしないよ。でも、お互いを高め合う戦友としてならいくらでも付き合っていきたいね。それこそ、陸奥さんと霧島さんみたいな関係ならさ」

「んふー、それいいね。陽炎は夕立のライバル! 抜きつ抜かれつぽいぽいぽーいよ!」

 

 ライバル認定されたがそれでもいいだろう。喧嘩とかは嫌だが、競い合うことは悪いことじゃない。どっちが強い弱いとかではなく、褒めて伸ばすことも大事。

 こういうこと言う割には、夕立は他人の褒めるべきところはしっかり褒めるかれ憎めない。

 

「夕立ちゃん、霧島さんに師事してるからね」

「親分は夕立の心の師匠っぽい!」

 

 この発言により磯波が破裂。磯波のツボにまた入ったようである。確かに霧島さんのような大人で知的な女性を親分呼びはどうかと。

 

「ひっ、ひっ、夕立、ちゃん、その呼び方、やっぱり」

「親分は親分っぽい。凄いんだよあの人!」

 

 こうして楽しいお風呂タイムは続く。その間も阿賀野さんのマッサージのおかげで身体は随分と楽になった。

 

 

 

 楽しい仲間達とこうして過ごしていくのも悪くない。だが、やっているのは命のやり取り。緊張感もしっかり持って、艦娘としての誇りを胸に進んで行こう。

 




阿賀野に抱きかかえられながら腕を揉まれ、夕立に正面から脚を揉まれるとか、陽炎どんなハーレム状態だよって感じですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。