異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午後になり萩風の訓練が一段落ついたくらいの頃、残党狩りに出ていた部隊が帰投した。残党自体は昨日の段階でほぼ殲滅が終了しており、今回はおおよそ何も無いことを確認するのがメイン。しかし、昨日は残党狩りが終わったところで『雲』が現れているため、残党狩り部隊に何かあるかもしれないと若干不安ではあった。幸いなことに何事も無かったようで一安心。
まぁ何かあれば見つけた時点で撤退が命じられていたため、『雲』に余程のことが無い限りは何事もないはずだった。
「残党狩りはおしまいって考えていいわね。深海棲艦の姿は無し。『雲』も現れなかったわ」
「そうかい、お疲れさん。ゆっくり休んでおくれ」
「そうさせてもらうわ」
部隊はそのまま休息へ。おそらく明日は休日となることだろう。
これにより、一応あの海域は今までよりも調査しやすい海域となった。予定通り、諜報部隊による調査は実施される。『雲』の存在は気になるため、勿論諜報部隊だけであの場所に行くことはない。すぐに撤退出来るように小回りの利く軽量部隊がメインになる。
私、陽炎はその部隊には選出されることは無いと先に言われている。万が一『雲』とそこで遭遇した場合、最悪な事態が想定されるからである。何かあったとしても、司令の目が届くところにいた方がいいため、『雲』の件が片付くまでは基本的には鎮守府勤務になるだろう。
「萩風は随分と酷い目に遭ったようだね」
「おかげさまで……でも、これだけやれば何か掴めたような気がします」
午後からも夕立や五月雨に揉まれ続けたことで、戦い方も洗練されてきた萩風。駆逐水鬼のクセが抜けないのなら、それを主体にした戦術にしてしまえばいいという逆転の発想で演習を続け、みんなの意見を取り入れていくうちに、何かしらのコツを掴んだらしい。今回は相手が悪かったというのもあるが、最初に比べれば格段に上達しているのは目に見えていた。
それもこれも、目標が明確になったことが大きな理由だろう。どれだけ演習で打ちのめされてもへこたれないくらいに気合が入っていたし、誰よりも勉強熱心に演習を続けていたくらいだ。
「そうかい。明日も続けていくかい?」
「はい、よろしくお願いします。私、もっともっと強くなりたいです」
「何度も言うが、無理だけはするんじゃないよ」
司令すら萩風の勢いに押されかけている程だ。やる気があるのはいいのだが、この勢いを維持し続けるのは難しいだろう。焦らず確実に一歩ずつ進んで行ってもらいたい。
明日からの諜報部隊の任務に配置されるメンバーが発表され、異端児駆逐艦からは、夕立と沖波が出ることになった。火力が申し分ない夕立と、万能戦力である沖波なら充分すぎるくらいに活躍してくれるだろう。
夕食後、お風呂に入る前という時間帯に駆逐艦同士でも明日の日程を話し合う。夕立と沖波は明日の部隊の方で日程の流れを聞くことになっているため、萩風と磯波がグループに。いつも通りの異端児駆逐艦である。
「じゃあ、明日も私が萩風を見るよ。磯波も?」
「そう……だね。明日は対潜訓練だっけ……?」
「みたいです。全部やれるようにならないと、姉さんは守り切れませんから」
実戦訓練以外にも意欲的。今までの傾向からして、海に出た場合は潜水艦も脅威だ。いきなり私の目の前に現れ、そのまま引き摺り込まれるなんてことだってあり得てしまう。それを考えれば対潜訓練は重要。
そういう考えに至ることが出来るのは、駆逐水鬼の時の戦い方を記憶しているからだろう。あの時は潜水艦による視察もあったし、鎮守府襲撃の際にも潜水艦は使われていた。それを対策するためには、出来ることを全て出来る様にしておいた方がいい。
「今の私は海防艦の子供達には遠く及ばない対潜性能ですから、ここでしっかりと覚えておきたいです」
言ってしまえば私達の誰もが海防艦には敵わないのだが、萩風はそこに追い付くくらいにまで頑張りたいと意気込んでいた。目標は高い方が頑張れるだろうが、対潜1本に特化し続けている海防艦に、万能戦力として頑張る駆逐艦ではなかなか追いつくことは出来ないだろう。それを突き付けるのは不躾というものだろうが。
「やる気があるのはいいけど、空回りしないようにしなよ。焦ったら進むどころか下がっちゃうかもしれないんだから」
「わかってます。ストレスを感じないようにして、身体も休めて、しっかり前に進みたいと思います」
そろそろ練度も上がり、艤装の改装もされるとのこと。その際に、今回の戦い方に相応しい強化もしてもらえるよう頼み込んでいた。
夕張さんは最初は困ったような顔をしていたが、今までに無い改装の希望ということで、だんだんとテンションが上がっていった。技術者の血が騒いでしまったらしい。
萩風が改となった暁には、マジックアームを振り回すような戦い方にも、艤装は追いついてくれるようになってくれるかもしれない。
「よし、じゃあお風呂行こうか。そろそろ大丈夫だよね」
「ですね。夕立さんと沖波さんは……」
「部屋で待ってたらすぐに来ると思うよ。私達は先に入らせてもらった方がいいんじゃないかな」
話している内にお風呂の時間。今日という1日が終わっていくのを実感する時間。そして、ここからは初月インナーが失われるため、違う理由でハラハラする時間である。
磯波もそのタイミングを狙ってきているような気がする。夕立は寝る前とかまで容赦なく匂いを堪能してくるが、磯波はそういうところはまだ控えめ。しかし、虎視眈々とその隙を狙ってくるところもある。そして今は絶好のタイミングだろう。
「……あれ?」
そのお風呂に向かう途中、外にキラリと光るようなものが見えたような気がした。海沿いの窓から見えたので、遠くの方に何かあるのかと気になる。
今は夕食も終わっているのだから、外はもう真っ暗。深夜とまでは言わないが、日が暮れてそれなりに時間が経っている。電気が無ければ外も出歩けないような状態だろう。
そんな時間に、外から何かしらの光が見えたとなったら、考えられることは2つ。1つ目はただただ月の光が反射しただけ。2つ目はこんな時間に
窓際に立ち空を見てみると、たまたまだが今は月が雲に隠れていた。つまり1つ目は無い。そうなると来客と考えるのが妥当になるのだが、一度キラリと光るだけで今は見えないとなると、その線も薄くなるようだ。本当にこちらに来ているのなら、ずっと光をつけっぱなしにするのが普通だ。
「今、何か外で光らなかった?」
「えっ、ちょ、ちょっと見てなかったなぁ……」
夜で無かったらまだわかるのだろうが、今は水平線が辛うじて見えない時間帯だ。むしろ、こんな時間だから遠くの光がわかったとも言えるか。
しかし、すぐに考えが甘かったと理解させられる。こんな時間に来客なんて普通ならあり得ないのだ。
近くの海が破裂するように爆発した。
鎮守府には何も被害は無かったが、その爆発により少しだけ揺れた。大きな地震というわけでもないため、ふらつく事もなかったものの、鎮守府内は騒然となる。
光って、爆発して、揺れる。それだけで何が起きたかなんて一目瞭然だった。水平線近くからの砲撃により、近海を攻撃されたわけだ。おそらく長距離の砲撃。
「な、何!?」
「夜の襲撃……ここしばらく無かったから失念してた……」
古参の磯波なら経験はあるだろう。戦いは日の出ている時だけではないと。
深海棲艦は元来、本能のままに侵略するもの。時間帯なんて気にせずに現れては破壊行為に至るを繰り返していた。姫という巣の主がいて統率が執れているとしても、野良の姫自体も本能のままに動くのが当たり前。こちらの時間なんて知った事ではない。
私が艦娘となってからは、戦いはいつも日が出ているときばかりだった。こちらから向かうにしても、襲撃されるにしても、必ず朝から昼間。こんな夜に戦ったことなど1度もない。それが太陽の姫のやり方なのではと錯覚する程に。
太陽と銘打つだけあって、日の出ている時にしか活動しないなんてことがあってもおかしくはないのだが、現実はコレだ。所属する艦娘全てが鎮守府にいるこの時間に、あえて襲撃してきた。
「こんなの、誰が来たかなんてわかるよね」
「『雲』でしょうね。太陽の姫は夜にはあまり活動しませんから。野良だったらいいんですけど……」
「野良だったら鎮守府に当ててくるよ……」
思考を巡らせる。襲撃するとは言っていたが、何故このタイミングなのか。何か目的があってだとは思うが、こちらの戦力が全て揃っている状態を狙ったのは何故か。まとめて皆殺しに出来るからか、それとも。
少なくとも、奴らの目的は私だ。先程の砲撃だって、容赦なく鎮守府に撃ち込んでも良かっただろうに、私に当たることを危惧して威嚇射撃に留まっている。
この辺りから鎮守府内は大きな警報音が鳴るようになっていた。今までにない緊迫した空気。
『襲撃だ! 全員工廠に集まれ!』
警報音と同時に空城司令の放送も響く。自室のある生活空間よりも工廠の方が強固に造られているため、万が一の時にはそちらの方が安全だ。命を優先するために、工廠に集められる。
指示を仰ぐために工廠に向かうと、そこはもうてんやわんやの大騒ぎだった。駆逐水鬼の襲撃の時でもここまでのことにはなっていなかっただろう。
「整備班、探照灯の装備早くしな! 照明弾の装備も忘れんじゃないよ!」
工廠では空城司令の激しい指示が飛んでいた。先程まで流れを打ち合わせしていた明日の任務に就く面々は、既に艤装の装備が完了済み。いつでも出撃出来るという状態で出撃の指示を今か今かと待ち構えている。
夜なのだから昼より慎重にならなくてはならない。視界は当然塞がれ、通常よりも戦いづらいはずだ。あちらも同じ環境とは到底思えないため、基本的には圧倒的に不利。
それを覆すために、夜間戦闘用の装備である探照灯と照明弾を用意しているわけだ。戦場が明るくなれば、昼までとは言わないまでも戦いやすくはなる。その分、光を放つ者は集中砲火を受けかねないが、そこは技量と相談。
「早く、早く出るっぽい! 鎮守府壊されちゃう!」
「だからといって1人で出たら蜂の巣だろうに! もう少し我慢しな!」
気が逸る
だが、それが姫の大群だったらどうなるか。『雲』は自分で戦わずに姫を指揮するようなことを萩風や長門さんから聞いているため、その可能性だって普通にあるわけで。そうなったら、鎮守府から出た瞬間に蜂の巣。1人で出たら尚更だ。
「準備出来たよ。アレが姫でもぶちかませる」
そこに来たのが、夜戦装備を満載にした加古さん。肩には探照灯が装備されているのだが、普通とは違い稲光が走るようにバチバチと音を立てていた。その後ろに立つ衣笠さんや、諜報部隊から青葉さんも同じように探照灯装備で対策済み。
夜の戦は戦艦よりも巡洋艦の方が得意らしく、それに倣って主力は重巡洋艦の3人。そこに軽巡洋艦の面々も加わったことで準備万端となる。駆逐艦からも、打ち合わせに出ていた夕立と沖波、そして秋雲も出撃態勢。
「夕立、待たせて悪かったね。これならいいだろう。奴らに一泡吹かせてやりな!」
これだけ揃えられれば迎撃も可能だ。あれがどれだけの部隊かはまだわからないが、成す術もないなんてことは無いはず。激戦になるのは必至だが、大惨事にはならないだろう。
しかし、このほんの少しだけの時間でも、あちらのやりたいことというのは出来てしまうだけの時間だったようである。
「ハイハァイ。皆サンオ揃イミタイネ」
工廠の中、外に出るために面した海の上、既に奴がいた。雲のようなクッションに腰かけた真っ白な深海棲艦、『雲』である。周りには誰もいないため、完全に単独行動。おそらくさっき撃ってきた奴は離れた位置で待機しているのだろう。
もうこんな間近にいるだなんて想像していなかったため、その声が聞こえた時点で一気に静まり返った。
「陽炎ヲ迎エニ来タワ。元々私達ノモノナンダモノ、イイワヨネェ?」
私が工廠にいることが確認出来たからか、ニッコリ笑って言い放つ。一体私を何だと思っているのだ。
「お断りだ。連れて行きたきゃ力ずくでやりな」
それに対して、キッパリと断る空城司令。敵が目の前にいても関係なしに、自分の態度は全く崩さない。それでこそ、鎮守府を任された司令官というものである。
「アラアラ、仕方ナイワネェ。ジャア、ゴ希望通リ……」
「当然、こちらも力ずくでアンタを潰す」
瞬間、一切の空気を読まずに夕立が跳んでいた。同時に加古さんを筆頭とした重巡洋艦達も突撃。
工廠の中という危険な環境ではあるが、私としては初めての夜の戦いが始まった。
この作品では初めての夜戦。でも工廠内だから夜戦とか関係なく、明るい環境下での戦いになりますね。