異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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雲の襲撃

 夜、『雲』による襲撃。奴はたった1人で鎮守府に乗り込んでくるという恐ろしい真似をしてきた。おそらく鎮守府の外には随伴艦が待機しているのだろうが、少なくとも工廠に乗り込んできたのは『雲』1人である。

 私、陽炎を迎えに来たとのたまう『雲』に対し、こちらも勿論抵抗する。夕立を筆頭に、夜戦のための装備を身につけた重巡洋艦3人が突撃。力ずくでここから追い出そうと攻撃を開始した。

 

「残念ダケド、私ハ貴女達ニ用ガ無イノ」

 

 それを纏めて、()()()()()()()。私が扱う脱力回避とほとんど同じ。

 攻撃を喰らったかと思いきや、既にその直撃コースからいなくなっており、既に先に進んでいる。まるで砲撃が雲を突き抜けてしまったかの如く、何事も無かったようにこちらに向かってきた。

 

「殺スツモリハ無イワ。タダ、陽炎ガコチラニ来テクレレバ、ココデ戦ワナクテモイイトスラ思ッテルクライナンダカラ」

「そこで止まるっぽい!」

 

 躱されたタイミングを狙って夕立が連射するものの、またもやすり抜けるかのように躱され、その動きが全く止まらない。深海棲艦のスペックで繰り出されているせいか、私のそれよりも素早く、精度も高い。

 連射を避けるとなると、私なら脚への負担が危惧されるが、『雲』はあのよくわからないクッションみたいなものに座った状態で同じことを繰り出している。

 

「この……!」

「援護するよ!」

 

 ならばと加古さんが、衣笠さんの援護を背に突撃。撃つから避けられるのでは無いかと考え、衣笠さんの砲撃を回避した瞬間を狙って本体そのものを拘束しようと手を伸ばすが、それすらもまるで闘牛士のように回避。どうであれ回避性能は酷いらしい。

 

「デモ、ソチラハ力ズクデヤレト言ッタワヨネェ。遠慮無ク行クワネ」

 

 工廠の中だから自重するとか、そんな考えはあちらにはあるわけがない。今一番近くにいる加古さんに向けて主砲を構える。かなり強引な急速旋回のようだが、負荷など全く感じていないようだった。

 奴の主砲は背中から脇腹の辺りに伸びたものであり、多少は自由に動くようだが比較的自分の向いている方にしか放つことが出来ないように見える。だからか、完全に加古さんの方へと身体を向け、そして砲撃を放つ。

 

「そういうの良くないですねぇ」

 

 それを食い止めるために青葉さんが砲撃。しかし、直撃を狙うためにほとんど背後から撃っているのだが、それすらもふわりと回避。

 そのおかげか、砲撃がブレてくれた。そのまま撃たれていたら、加古さんは回避がかなり難しかっただろう。それが紙一重でもない大きな回避が出来るくらいに間が出来た。

 

「背後からもダメですかぁ」

「じゃあ同時攻撃っぽい!」

 

 体勢を崩していた加古さんを省いた3人が同時に砲撃。さらには工廠への被害を気にしつつも魚雷まで放った。1人2撃、6つで回避方向を全て埋めるような猛攻である。

 いきなりこんな攻撃を受けたら、基本的には回避出来ない。いくら無意識下での回避とはいえ、逃げ道が自分でわからないのだから、避けようがない。

 

「アラアラ、コレハ困ッタワ。ジャア」

 

 だからだろう。即座に夕立の放った魚雷を撃ち抜いたかと思いきや、そこに出来上がった道を通るように、ふわりとすり抜けた。結果的に夕立の眼前に現れる形に。

 

「ぽい!?」

「一筋縄デハ行カナイノ、私ハ」

 

 そして、夕立に向けて砲撃。あまりにも近すぎるため、夕立の持つ戦闘センスでも回避し切るには至らなかった。直撃しなかったにしても思い切り掠めてしまう。

 駆逐水鬼のように艦種詐欺とも言える砲撃の火力では無かったが、それでも駆逐艦とは到底言えない威力。掠めたくらいで千切れ飛ぶようなことは無かったが、それでも二の腕が抉られることになってしまった。無理は禁物な怪我なのは間違いない。

 

「っぐぅぅ……滅茶苦茶っぽい……!」

「夕立ちゃん!」

 

 ここで沖波が戦場へ。『雲』を夕立から引き剥がすため、砲撃しながらの接近。幸いなことに、これにより夕立から間合いを取ってもらえた。

 工廠の中のため、何人もが出撃することは出来ない。戦艦の2人も、こんなところで主砲をぶちかますわけにはいかなかった。先程の魚雷だって際どい程である。回避された魚雷は、体勢を立て直した加古さんが工廠に被害が無いように破壊しているくらい。

 

「何なのアレ……」

「『雲』の実力は初めて見ます……まさかアレ程だなんて……」

 

 この戦闘を陸地から見ている私は唖然としてしまっていた。『雲』のことを知る萩風も、戦闘をしている姿を知らなかったので冷や汗をかき始めている。

 

『雲』の回避性能に関しては追随を許さない。今まで戦ってきた姫達、駆逐水鬼や南方棲戦姫とは全く違う異質な存在。今ですら手を抜いているのが目に見えていた。そうでなければ、回避しながらみんなを撃っていてもおかしくないからだ。なのにそれをしない。

()()()()()()()()()()()()()()かのように、誰の命も奪わない。夕立への砲撃も、回避出来ることを見越したような撃ち方だった。まるで私をここから連れ去ることを全員に見せたいとでも言いたいようだ。

 

「姉さん、ここから離れましょう。『雲』の狙いは姉さんです。ここにいる方が危険ですから」

 

 萩風のアドバイスは素直に聞いておいた方がいいだろう。私がここにいるのが問題になる。工廠から出て、自室にまで引っ込んでおいた方がいい。

 私はまだだが、萩風はドサクサに紛れて艤装を装備してきてくれている。いざとなれば私を守るために前に立ってくれるとのこと。心強いが、命を捨てるようなことだけはしないでもらいたい。

 

「だね。司令、ごめん逃げる!」

「ああ、その方がいい! ここから離れな!」

「ダァメ。ココカラ離レナイデチョウダイネ」

 

 害を被らないように安全なスペースに退避している空城司令に向けて叫び、工廠から出ようと動こうとした瞬間、『雲』からの砲撃。主砲が突然私の真横に放たれる。本当にこちらに攻撃したいわけではなく、あくまでも私を迎えに来たという意思を見せるために、誰もいない場所が撃ち抜かれた。

 勢いよく動いていたら、あの砲撃が直撃していただろう。そうならないことを見越してああ撃ってきたとは思うものの、私が進むのに躊躇ってしまうには充分過ぎた。

 

「貴女ハ私ノ目的ナンダカラ、ココカラ動イテモラッチャ困ルノ」

 

 攻撃を回避しながらでも、こちらに話しかけてくる余裕があるらしい。しかも、回避しながらジリジリと陸地に近付いてきている。夕立が怪我を負ったことで、素早い猛攻が若干失われたことが原因か。

 

「姉さんに近付かないでください!」

 

 それを食い止めるため、陸地からでも萩風が迎撃し始める。私に向かってきているのだから、一番進行を防げるのは萩風であろう。それも当然のようにその砲撃すら回避しているのが笑えない。

 

 あの回避性能をどうにかする手段が全く見当たらないのが困る。強いて言うなら魚雷だけは自らの手で破壊していたので、足下が弱点の可能性は高いが、工廠だから多用出来ないというのが辛い。すり抜けられると、砲撃も鎮守府側に飛んでしまうし。

 数的有利があっても、攻撃に抵抗がある場所で戦っている時点で、本来出せる力が100%出せない状況。もうここまで入り込まれた時点で苦戦させられる羽目になっているわけだ。

 

「貴女、ソウイエバ元ニ戻ッチャッタノネ。元々貴女モコチラ側ダッタンダシ、今ナラ見逃シテアゲルワ。陽炎ヲ渡シナサイ」

「断ります! 姉さんは目覚めさせない!」

「アンナニ躍起ニナッテタノニ。陥レテ自分ノモノニスルンジャ無カッタノカシラ」

「私は、人間として姉さんの側にいます。それでいい!」

 

 何度撃っても当たらない。進行が止まらない。海に出ている面々は、方向的に鎮守府内を破壊してしまう角度になっているため、砲撃に躊躇してしまっている。故に、まだ海に出ておらず、艤装を装備した者が防衛に来てくれていた。

 幸いにも『雲』は整備班の方に砲撃をするということはしておらず、近い者から次々と雪崩れ込んで艤装を装備していく。戦場に出られないにしても、装備しておけば後々役に立つ。

 

 私自身も艤装を装備したいのだが、なかなかそのタイミングが作れない。今私がいる位置は、整備班から少し離れた場所。動こうとするとそれを阻害するように撃たれ、私の位置をここで固定しようとしてくる。何が目的なのか。

 

「陽炎ちゃんを護るよぉ。由良ちゃんもいいよね?」

「勿論。他ならぬ、陽炎ちゃんだからね。ねっ!」

 

 防衛に来てくれた筆頭が、阿賀野さんと由良さん。匂いにあてられた経験のあるD型異端児である。萩風と一緒に、3人がかりで私の盾になってくれていた。

 私を『雲』の視界から隠すように並び、3人同時に砲撃を始めるが、同じ方向からの攻撃だからか難なくすり抜けて近付いてくる。

 

「ミンナニ好カレテイルノネ、陽炎。デモ、貴女ハ本当ニソンナ価値ガアル子ナノカシラ」

 

 回避しながら、今度は私に対しての揺さぶり。価値とかそういうことは私が決めることでは無い。

 

「ネェ、陽炎。貴女ハモウコチラ側ナノ。早ク思イ出シナサイ。()()()()()()()ヲ」

 

 私のしたことと言ったか今。

 私は何もしていない。された側だ。始まりの襲撃で街を滅ぼされ、父さんも母さんも太陽の姫に殺され、私も大怪我を負った。悪夢の中では一時的に深海棲艦にされてしまっていたが、今の私は人間だ。私がしたことなんて何もない。

 

 そうこうしている間も砲撃を潜り抜け、私の盾になっていることをいいことに、阿賀野さんと由良さんを退かすために砲撃まで繰り出してきた。

 勿論殺さない程度の手加減していた。主砲を破壊し、艤装を破壊し、多少の怪我をさせるくらいで終わらせている。それほどまでに力に差がついてしまっている。

 

「何言ってんの。私は何もしてない。アンタ達に何もかも奪われただけだ!」

「思イ出シナサイ、陽炎。貴女ハモウコチラ側。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何を言っているのだ。血塗れの手とはどういうことだ。

 

「姉さん、聞いちゃダメです!」

「貴女ハ黙ッテイナサイ」

 

 ついには陸に上がってしまった。腰掛けていた雲のようなクッションは、陸に上がった瞬間に霧散し、その足で近付いてくる。

 阿賀野さんと由良さんは先程の負傷はあれど砲撃を繰り返してくれているが、陸でもあの回避性能はそのままであり、全く当たる気配が無い。

 

「思イ出シナサイ、陽炎。貴女ハ、()()()()()()()()

「それ以上は言わせぬ」

 

 ここで飛び込んできたのは神州丸さんだった。『雲』の発言を遮るように拳を振るい、あわよくば殴り殺すつもりでの一撃。

 しかし、これすらも回避。加古さんが捕まえようとしたのを回避出来るのだから、これもやはりダメだったか。

 

「海の者が陸に上がって、()()()に勝てると思うな」

 

 いや、それだけでは終わらない。神州丸さんの攻撃は止まらない。回避方向に向かって即座にステップ。ついに『雲』の腕を掴んだ。誰にも手が付けられなかった『雲』の回避を、今この時、神州丸さんだけが乗り越えてしまった。

 神州丸さんは他とは全く違う艦種、揚陸艦。戦うのが苦手とは言っていたが、それは()()()()()()()()()()という、本当に特殊なものだった。陸ではこれである。

 

「ッ……貴女ハ……」

「魚が陸に上がり、まともに戦えると思うか。本艦は人間、陸の者。ここでは深海の者に後れは取らぬ」

 

 そして、掴んだ腕をそのまま絞めあげ、全力で投げ飛ばす。地面に叩きつけ、受け身すらさせない。

 

「フフフ、ソンナノモイルノネ」

「まだまだ余裕か。だが、もう余裕など与えぬ」

「近イノダカラ、貴女モ避ケラレナイデショウニ」

 

 当たり前のように砲撃。ゼロ距離で撃つようなものなので、神州丸さんにも被害は出てしまうだろう。砲撃が掠ったことで脇腹が抉れたようだが、そんなこと気にせずに首を絞め上げる。

 

「ック」

「もう何も言わせない。このまま絞め落とす」

 

 傷付けずに倒すことで人間に戻せる可能性があるのだから、一番手っ取り早いのは窒息死。首を絞めるという攻撃そのものが最善。

 

 

 

 だが、言葉を全て封じることは出来なかった。

 

「陽炎、陽炎、思イ出シナサイ。貴女ハ!」

「ダメです! 姉さん、耳を塞いで!」

 

 泣き叫ぶような萩風の叫び。だが、それは間に合わなかった。

 

 

 

「サイアイノモノヲ、()()()()()()()()コトヲ!」

 

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