異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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絶望の連鎖

 太陽の姫の巫女として覚醒した私、『陽炎』は、元いた鎮守府を破壊することで憂いを断ち、あのお方への手土産として帰還を果たすことを画策した。『雲』もそれを手伝ってくれるということで、全てを薙ぎ払うべく破壊をしていく。

 だが、かつての仲間であり今は敵である艦娘達が私の前に立ち塞がる。私を元の人間に戻すため、一度殺してしまおうという苦肉の策に出てきた。ならば迎え撃つのが礼儀というもの。殺しに来るのならこちらから殺しても文句はあるまい。

 

「私一人ニ何人使ウノサ」

「それだけ愛されてんだよ。良かったな、お前は俺達の仲間だ」

 

 一番近かった木曾さんが軍刀を振るってきた。手加減などなく、私を一刀両断にしようという算段だろう。上と下が分離するような深い斬り払いはしないまでも、命に届くレベルの斬撃は狙っている。

 そんなもの喰らうわけには行かないと、脱力回避で間合いを取り、主砲を放つ。避けられても工廠が破壊出来て一石二鳥。ここでの戦いは、撃つだけでも気持ち良くなれる。

 

「磯波ちゃん大丈夫!?」

「だ、大丈夫……だけど、少しだけ何か()()()()()()()があったの……」

 

 胸を押さえて小さく震える磯波に駆け寄った沖波。私の分霊は最初の段階で妨害されたが、ほんの少しだけは磯波の中に入った。僅か1滴とも言えるそれだが、磯波にはそれだけでも影響があったようだ。分霊が完了しなければ仲間にはなってくれないが、堕ちる快楽の一端を知ったはず。

 ならば、もう少し入れてやりたいところ。せっかくだし、ここで仲間(手駒)は増やしておきたい。最初のターゲットはやはり磯波としておこう。きっと気に入ってくれる。仲間だったんだし、私が目覚めた後でも仲間となってほしい。それが私なりの敬意だ。

 

「オラオラァ! 余所見なんてさせねぇぞ!」

「勿論、私もやらせてもらうわ」

 

 木曾さんの斬撃に加え、霧島さんの格闘まで繰り出された。どちらも当たれば一撃必殺級。

 木曾さんは素早いとはいえ範囲が狭いため回避はしやすく、霧島さんは範囲が大きい分動きは木曾さんよりは遅いためやはり回避はしやすい。しかし、同時に繰り出されたら話は別だ。どちらかに当たってしまいかねない。

 

「危ナイナァ。デモ、当タラナイヨ」

 

 だが、今の私には関係無い。脱力回避は艦娘だった頃よりも洗練されている。斬撃と打撃の隙間を縫うように潜り抜け、無意識でも2人の後ろ側に回り込める。近付けばそうなることくらいわかるだろうに。

 そして、あちらが振り向いたときにはもう遅い。こちらも大振りに艤装を振り回した後、主砲を連射。当たらないにしろ、私から離れるくらいは考えるだろう。

 

「隙ありっぽい!」

 

 ここで第三の槍、夕立。私が2人を潜り抜けることを見越して、その先を撃つように突撃していた。私も以前にそんな戦術を考えた覚えがあるが、2方向以上の攻撃はどうしても疎かになってしまう。普通なら回避は出来ないだろう。

 

 普通なら。

 

「ダメダヨ夕立、今ノ私ニハソレモ効カナイノ」

 

 そこで即座に脱力。夕立の砲撃も潜り抜けた。全く負荷を感じない。やればやるほど洗練されて行く。

 回避した瞬間に夕立に対して主砲を向けた。突撃してくるくらいなのだから回避はするだろうが、直進はさせない。近付いてもらっては困る。

 

「ならば!」

「怪我人ハ黙ッテ下ガッテナヨ。ドウセ殺スケド、今ジャナクテイイ」

 

 そこに第四の槍、神州丸さん。この中では最も近距離になるが、陸上では無敵という特性上、一番厄介な相手。早く海に向かいたいのだが、誰もがそれを邪魔してくるため、すぐには叶わない。全部壊したいのに、なかなか壊れてくれない。

 神州丸さんの腕は打ち払うように殴り付けた。彼女相手に真っ向からの格闘戦なんて無謀極まりないし、いくら目覚めた私でも勝てるとは思っていない。

 

 だから、どうしても間合いが取りたいと思わせることにした。爪を立て、神州丸さんの胸元を狙いに行った。

 先程、私が磯波にやろうとしたことは見ていたはずだ。分霊の構えは、絶対に受けてはいけない攻撃だと認識させるには充分。

 

「っ……」

 

 流石の神州丸さんもこれには及び腰になってくれるようで、即座にバックステップ。こちらが分霊をやる気が無くても爪で胸元を狙うだけでこうも簡単に怯んでくれる。

 それほどまでに嫌がることか。いや、こうなる前の私はこうなるのが嫌で嫌で仕方なかったのだし、同じように考えるのは当たり前のことか。なってしまえばこうも心地良いのに、勿体ない。

 

「無視すんなよ!」

「シテナイヨ。強イコトハ誰ヨリモ知ッテルンダカラ」

 

 軍刀の薙ぎ払いは大きく回避。さらには跳躍して主砲を放つ。これで追撃を封じつつ、沖波が庇う磯波の側まで近寄ることが出来た。

 

「沖波、チョット退イテネ。後カラ相手シテアゲルカラ」

「あぅっ!?」

 

 そしてそのまま強めに蹴り飛ばした。幼馴染みだろうが関係ない。やれるものならちゃんと後から分霊してあげるから、今は邪魔をしないでもらいたい。

 ここまで近付いたのに砲撃が遅れたのは、磯波と同じで私を撃つことに抵抗があるからだろう。だから、私は動きやすい。優しい者ほど、陥れやすい。

 

「そこから離れなさい!」

 

 追撃に霧島さんが突撃してきた。あれは本当に当たってはいけないもの。磯波だけを避けて、私だけを吹っ飛ばそうとしているのは、火を見るより明らかである。

 今は誰にも近付いてもらっては困るため、私を中心に主砲を周囲にばら撒くように連射。霧島さんは盾があるが、私の主砲の威力での激しい連射の前には下がらざるを得ないだろう。この乱射を回避しながら突撃出来るのは、私か『雲』くらいのはずだ。それくらいの密度でばらまいた。

 

「磯波、アンタモ撃ッチャダメダヨ」

 

 台風の目にいる磯波も、震えながらも私を撃とうしてきたが、先んじて主砲を蹴り飛ばした。これで攻撃の手段も失ったはず。つまり、もう回避出来ない。

 今回はちゃんと周囲も確認した。誰も近付いていない。ならもうやってしまおう。

 

「や、やめ……っ」

 

 念のため磯波の腕を掴み、抱き留めるように密着。これで誰も近寄れまい。今の磯波は人質みたいなものだ。その人質も、今すぐ私の仲間になるわけだが。

 どうせ私は殺せば元に戻るかもしれないが、今の磯波はただの艦娘。死んだら戻ってこない。諸共殺すなんてことは出来ない。これなら悠々と事を起こせる。

 

「改メテ、分霊ノ儀、執リ行ワン」

「ひんっ!?」

 

 邪魔者がいなくなったところで、磯波の胸元に改めて指を突き刺し、そして()()。一度指を刺したことでさらにやりやすくなっており、注ぐのも気持ちよく出来た。

 磯波の髪と肌が白く染まって行く姿を見ていると、背徳の快楽が身体を突き刺すように襲ってくる。分霊が進むにつれ、ビクンビクンと震えながら変化に身を委ねていく磯波を見ていると堪らない気分になる。これが分霊の快感か。

 

「ッアッ、ハァァンッ!?」

 

 一際大きく震えた磯波から、装備していた艤装が剥がれた。これで艦娘としての磯波はいなくなったようなもの。抵抗する手段を失い、私の分霊を完全に受け入れたのだ。さすがD型異端児、馴染むのがとんでもなく早い。私の時よりも格段に早く事が済んだ。妨害させる暇すら与えない。

 私の腕の中でまだ震えている磯波だが、身体の変化に心も引っ張られているのは一目瞭然だった。私の匂いを思う存分嗅いで恍惚とした表情になっているし、溢れる力に昂揚しているのもすぐにわかる。

 

「磯波、力ヲ求メルノ。私ト一緒ニ戦ウ力ヲ、ネ」

「力……アハァアッ!?」

 

 再び大きな声を上げ、快楽の中で艤装を得る。私もこうなっていたのかと思うと、興奮が抑えきれない。

 

 磯波の新たな艤装は私のものとは全く違うモノではあった。腰から生え、深海の駆逐艦のような頭部が両サイドに。ガチガチと歯を鳴らしながら主砲と魚雷発射管を生み出した。

 腕には私のような爪は現れなかったが、代わりに主砲が。腰の主砲も含めて暴力的に。磯波に生まれた攻撃性が表に現れたのだろう。それもまた変貌を象徴するようで堪らない。

 そしてしがらみとなるであろう艦娘の制服は私と同じように吹き飛び、艤装の一環とも言える新たな衣装、私と揃いのような身体にピッタリと密着するレオタードのような装甲に包まれた。私とは違い、脚にもニーハイソックスのように装甲が纏わり付く。なんとも磯波らしい、露出度を抑えたデザイン。スタイルはモロに出ているが。

 

「ハァアア……」

 

 うっとりとした表情で変わり果てた自分を眺める磯波。ゾクゾクとした快楽を感じ、もう一度大きく震えた後、私に並び立った。邪悪な笑みを浮かべて。

 

 深海棲艦としての磯波が、みんなの前で生まれ堕ちた瞬間だった。それが私にも堪らなく嬉しかった。私の手で人間1人を堕としたのだ。あのお方のように。なんて充実した気持ちなのだろう。これが太陽の姫の巫女としての最初の仕事。『雲』がやっていたことを私もやれた。

 

「アハ……変ワッチャッタ……」

 

 私にしなだれかかる。分霊の分霊、すなわち私の仲間であり、部下であり、手駒だ。私の初めての分霊である磯波が愛おしかった。

 その姿を見た元仲間達は、私の時と同様に苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。私のみならず、磯波まで深海棲艦になるだなんて想定してなかったのだろう。それに、それを食い止めることが出来なかったことも。その表情、とてもイイ。

 

「後ハ、シガラミヲ捨テルダケ。ワカルヨネ?」

「ウン……私ノシガラミ……アハハ、ミンナ壊シチャエバイインダ!」

 

 生まれ変わったことを示すかの如く、全ての主砲をぶっ放す。何もかもを破壊するかのように、私を除いた全てに照準を合わせて、ただただ撃ち続ける。

 

「愉シイ! スッゴク愉シイシ、気持チイイノ! 全部、全部壊レチャエ! アハハハハ!」

 

 深海棲艦となって随分とはっちゃけたようだが、そんなものだろう。萩風も長門さんも、深海棲艦の時は大分性格が違ったし。磯波もそのパターンなのだと思う。

 侵略衝動と破壊衝動に身を委ね、暴力的な性格に生まれ変わった磯波は、ただただ目の前のものを全て破壊するために砲撃を繰り出す。

 

「ああもう! ゲロちゃんだけでも面倒なのにソナーまで! どっちもぶっ殺せばいいっぽい!?」

「いいんだろうが、アレだと近付けねぇぞ!」

 

 私よりも若干威力が足りない代わりに、主砲そのものの数が多いのが磯波の特徴だ。連射力が違う。私の時にあったであろう隙が、磯波には無い。代わりに磯波にある隙は、私がしっかりと埋めよう。

 

「アハハハハ! ミンナ、ミンナ壊スノ! 早ク死ンデ! 死ンジャエ! 死ネ!」

「愉シンデルネ、磯波。モット気持チヨクナッテイインダカラネ」

「ワカッテルヨ! コンナ最ッ高ナ気分、今マデ感ジタコト無カッタモン! 陽炎チャンノ、ウウン、()()()ノオカゲダヨッ!」

 

 そこまで屈してくれるのなら、それはそれでいいか。様まで付けられるとこそばゆいものであるが、それだけ磯波がこちら側に来たのだから悦ぶべき。

 

 あれだけの乱射を前に、あちら側は動くことが出来ないようだが、たった1人、そんなことお構いなしに動き始めた。艤装に盾がある霧島さんだ。威力がない乱射なら、盾さえあれば近付いてこれるということか。

 なら、そこに私が重ねればいい。霧島さんに近付かれるわけにはいかないのだから。

 

「ダメダヨ霧島サン。磯波ハヤラセナイ」

「なら止めてみせなさい」

「言ワレズトモ」

 

 盾を突き破るために私からの乱射。磯波と被せたことで、より威力は上がり、霧島さんでも抑え込めないくらいの衝撃になったようだ。吹っ飛ばすことは出来なかったが、一歩二歩と下がっていく。

 

「陸奥! こっち来れない!?」

「オッケー。ゲロちゃんに一斉射するのね。任せなさい!」

 

『雲』を相手取っていた陸奥さんがこちらに来てしまった。一斉射は流石にまずい。南方棲戦姫並みの火力と防御力があれば話は変わるが、私達は所詮駆逐艦。回避出来ない程の質量はどうにもならない。いくら私達でも、あの火力の暴力の前には屈せざるを得ない。

『雲』は苦戦こそしていなかったが、先程まで私を防衛していた由良さんと阿賀野さんまで加わった殆どの巡洋艦と、こちらに来ていない駆逐艦が詰め込まれたことで、私達の方を見ている余裕は無いようだ。しかし、やられる気配はなく工廠をことごとく破壊しているようなので安心。

 

「ぶちかまして、さっさと『雲』に戻るわ……って、磯波!?」

「陽炎にやられたわ。纏めて叩きのめすしか無い」

「ったく、厄介極まりないわね太陽の巫女ってのは!」

 

 2人が揃ったことで、あちら側は一斉にその後ろに退避していく。射線上に立ったら巻き込まれるのが目に見えているため、私達だけが呑み込まれるようにポジションを変えてきた。

 

「ヤラセルワケ、無イデショ!」

 

 それを見て私よりも早く動き出した磯波。撃ちながらも駆け出し、一斉射の範囲外に逃げようとした沖波を捕縛した。撃って殺すわけでもなく、あえての捕縛。沖波の持つ主砲を捻り上げるように腕を拘束し、強制的に私の側に連行してきた。

 私だけなら動けなかった。2人になったらこうも捗る。深海棲艦と化したことで身体能力も上がっているため、この辺りの目算は誰もが出来なかったようだ。私も出来なかったし。

 

「沖波チャン、貴女モコッチニ、ネ」

「放して! 私はそっち側には行かないんだから!」

 

 私が磯波でやったように、磯波が沖波を人質にしたことで一斉射キャンセル。私と磯波だけなら纏めて葬り去るなんてことが出来ただろうが、これであちらは手出し出来ないだろう。我ながらズルいと思うが、これが戦場。

 

 では、磯波に続いて、2人目の分霊と行こう。仲間が増えることはとてもいいこと。これで減った分の補充も出来るわけだ。

 

「沖波、コレカラモ友達ダカラ」

 

 誰も攻撃出来ない状況を作り上げた挙句、その目の前で沖波の胸元に指を突き入れた。

 

 

 

「分霊ノ儀、執リ行ワン」

「いやぁっ!?」

 

 そして注ぐ。一度磯波でやっていることなので、もう手慣れたものだった。手早く終わらせ、沖波もこちら側へ。

 

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