異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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世界の選択

 磯波に分霊を施したことにより、こちら側に引き込むことに成功した。こちらの戦力の増強とともに、あちらの戦力を削る最大の一手が成功したことで、私、『陽炎』は強い快楽を得ることになる。

 こちら側に2人立ったことで、今度は陸奥さんの一斉射により纏めて叩きのめす算段に出たようだが、今度は磯波が沖波を捕縛。手出しを出来ないようにした。そして、これは分霊のチャンスでもある。2人目が追加されればさらに戦いやすくなる。それに、沖波の堕ちた姿を見たい。

 

「沖波、コレカラモ友達ダカラ」

 

 誰も攻撃出来ない状況を作り上げた挙句、その目の前で沖波の胸元に指を突き入れた。

 

「分霊ノ儀、執リ行ワン」

「いやぁっ!?」

 

 そして注ぐ。一度磯波でやっていることなので、もう手慣れたものだった。手早く終わらせ、沖波もこちら側へ。

 

 

 

 だが、注ごうとした瞬間、私の指は沖波の胸から弾き飛ばされ、分霊が強制的に終了させられた。

 

 

 

「ナッ……!?」

「えっ!?」

 

 何故出来ない。指は入ったのに、何故弾かれる。相手によって出来る出来ないの差なんてあるのか。そんなバカな。意味がわからない。

 驚いたのは私だけでは無かった。沖波を拘束していた磯波も、それを見せつけていた周りの元仲間達も、むしろ張本人である沖波ですら、この状況に驚いていた。完全に戦場の時間が止まった程だった。

 

「っああっ!」

 

 その止まった時間を動かしたのは、他ならぬ沖波だった。あり得ないことが起きたことで力が緩んでいた磯波の拘束を振り払い、今まで使えないようにされていた主砲で思い切り殴り付けた。

 横っ面から殴り飛ばされた磯波は白目を剥きそうになっていたが、ギリギリで踏み止まった。艦娘の時代にはまず見せないような眼光で睨み付けていたが、その時には沖波は一斉射の範囲外へと撤退しようと駆け出していた。

 

 このままだと一斉射をモロに喰らうことになる。それだけは避けなくてはならない。司令の指示が『工廠はどうなってもいい』なのだから、あの猛烈な砲撃を100%の力でぶっ放す。それに巻き込まれたら、如何に力を得た私と磯波でもひとたまりも無いだろう。

 

「磯波!」

「ワカッテル!」

 

 一斉射をさせないように、撤退した沖波をすぐに追う。近くにいれば一斉射は使えない。仲間を巻き込んでまで撃つわけがない。

 身体能力の向上により、陸でもある程度は動けるのは実証済み。ただの艦娘に後れは取らない。

 

 沖波に分霊出来ないのは惜しいが、それならここで死んでもらうしかないだろう。せめて私達の盾になってもらわなければ困る。

 

「オキはやらせないっぽい!」

「一斉射封じはわかるけれど、突撃は愚策じゃないかしら!」

 

 そこに立ち塞がるのは親分子分コンビ。接近戦でもバカスカ撃ち続ける子分と、一撃必殺の格闘が恐ろしい親分。鎮守府の中でも厄介な2人。格闘なんてしたことがない私達には、手練れか素人かというだけでも実力差が出てしまう。

 

 しかし、夕立は今は手負い。最初に『雲』に腕を抉られており、艤装の効果で痛覚やら何やらが補正されているにしても、それなりに時間が経過している。神州丸さんと同じで、血の流し過ぎで消耗しているはずだ。

 それに、夕立はD型異端児。さらには磯波よりも値が高い、むしろ鎮守府イチの値を誇る異端児だ。誰よりも深海に近いのなら、分霊も磯波以上に早く終わるのでは無かろうか。それこそ、指が刺さればおしまいというレベルで。

 

「夕立、ヤッパリコッチ来ナヨ」

「何度も言わせないで。深海棲艦になるくらいなら、夕立は死んだ方がマシ。ゲロちゃんこそさっさと戻ってくるっぽい」

「私ハ戻ッタ結果ガコレナノ。最初カラ、アンタトハ違ッタンダヨ」

 

 超近距離での撃ち合いになるが、脱力回避により軽々と避ける。やはり手負いの夕立はいつもよりも精度が低い。動きはそのままでも消耗が実感出来る。それを補うために霧島さんがいるのも。

 しかし、こちらにはもう磯波がいる。磯波もこの近距離で全主砲を撃ち放つ過激な方法を取るようになっているのだから、混戦は間違いない。これだけ近ければ陸奥さんは手出しも出来ないだろう。火力が高すぎるのも考えもの。

 

「霧島サン、陽炎様ノ邪魔シナイデモラエマス!?」

「元に戻ったら卒倒しそうね。気の毒だけど、今はそうは言ってられないわ」

 

 近距離の乱射も盾で食い止めてしまうのだから困る。代わりに攻撃に転じさせないでいられるが、この至近距離でも平気で撃ちそうなのが霧島さんだ。黙らせられるなら黙らせたい。

 この2人だけに構っているのも問題だ。殆ど爆心地みたいな戦いになっているが、それを打開するために動き出す者もきっと出てくる。

 

「オラァ!」

 

 案の定、この爆心地に怪我すらも惜しまず突っ込んでくるのが木曾さん。無傷では済まないだろうが、致命傷は確実に避け、自分に当たりそうな弾は()()()()()()()()、私ではなく磯波を狙ってきた。

 私は回避するが、磯波は攻撃を最大の防御として撃ち続けるのみ。回避されて懐に入られたらかなり辛いところだ。痛み分けまで狙われると回避が途端にしづらくなる。

 

「アッハハハ、肉袋ニナリタインデスカァ!?」

「なるのはお前だこの野郎!」

 

 身体中を傷だらけにしながら、夕立の砲撃すら身に浴びて、磯波を手が届く範囲に捉えてしまった。このままだとまずい。私の手駒なのだから、私が守ってやらなくては。失うのは惜しい。こんなにも可愛くなったのに。

 いくら深海棲艦の硬い装甲だとしても、私と磯波が身に纏うレオタードのような装甲は薄い。木曾さんなら一刀で斬り裂いてしまってもおかしくない。せめて刀が届かない位置まで離さなければならない。

 

「磯波ニ何シテンノサ!」

 

 脱力回避の応用をこの場で編み出した。無意識下の移動は、身体への負荷が大きいがとんでもない速度を作り出す。ということは、だ。私は高速戦闘が出来るわけで、全てを回避しながら瞬間移動紛いなことが出来るのではないか。

 そう考えた時点で身体は実行出来る。飛び交う砲弾を全て回避しながら、木曾さんの懐に潜り込んでいた。軍刀が擦りかねなかったが、お構いなし。鳩尾を蹴り飛ばして磯波から突き放す。

 

「ぐぁっ!?」

「木曾っ」

「霧島サァン、余所見ハ良クナイデスヨッ!」

 

 吹っ飛ばされた木曾さんに一瞬気を取られた霧島さんを見逃さず、磯波が乱射を集中砲火に変えて霧島さんに襲い掛かる。これだけ近ければ、盾でガード出来たとしても下がらざるを得ないだろう。

 そこに重ねて私も砲撃。威力の高い私の一撃が入れば、さらにのけぞる。ここから一時的にでも離れてくれればいい。ほんの少しだけでいい。

 

「こんのぉ……!」

「夕立、モウイインダヨ。ヨク頑張ッタ」

 

 木曾さんに出来たことなのだから、瞬時に次の動きへ。同じように高速で移動し、夕立の眼前へ。回避と移動を兼ねた高速戦闘は、身体の至るところに多大な負荷をかけることになるだろうが、幸い私はまだそれを感じない。多用も出来そうだ。

 ここまで近付けたのだから、後は突き刺すのみ。夕立もこちら側に来れば、この気持ちよさがわかるだろう。磯波がコレなのだから、夕立はもっと暴れてくれる。それが見たい。

 

「分霊ノ儀」

「夕立ちゃん我慢してぇ!」

 

 私が夕立の胸に指を突き刺そうとした瞬間、夕立を押しのけて沖波が割り込んできた。私の指は夕立ではなく沖波の胸に突き刺さり、そして先程と同じように謎の力によって弾き飛ばされる。

 

「コノッ!?」

「私には効かないってことがわかっただけでもいいよ! 身を挺してでも分霊から守れるんだから!」

 

 何故沖波には分霊が出来ない。何が違う。沖波だって人間であり艦娘だ。何も変わりはしない。M型異端児であるだけでそれ以外には。

 

 そうか、M型か。D型異端児は深海の何かに関わっていそうだから、分霊が効きすぎるくらいに効く。これは磯波で実証済み。

 人間は何にも耐性がないため、時間を多少かければ効く。私を含めた救出されたもので実証済み。

 しかし、M型異端児は人間由来の艤装を扱うための同期値がバカ高いことで生まれている。それは、()()()()()()()()というところに繋がってくるのか。

 

 私だけじゃない、あのお方に対する、最大の天敵は沖波だったのだ。あのお方に選ばれた私とは真逆、沖波は()()()()()()()()()

 

「ゲロちゃん目を覚ませぇ!」

 

 沖波に弾かれたことで体勢を崩しかけているところに、同じく倒れかけていた夕立が私に向けて砲撃を繰り出してきた。今の体勢からだと脱力回避はかなり難しいため、強引に身を捻ることで夕立の砲撃を艤装で受けた。

 艤装の強度だって、深海棲艦となったことで増している。駆逐艦の砲撃くらいでは簡単には破壊されない。だが、傷が付かないとは言えない。結果的に、当たりどころがよくなく、主砲周辺を傷付けられてしまった。

 

「硬ぁ! そういうとこまで駆逐艦辞めなくていいっぽい!」

 

 体勢を立て直し、分霊を邪魔した沖波に対して砲撃。今の夕立の砲撃で傷付けられたことで、威力が大幅に落ちてしまっていたが、それでも駆逐艦主砲以上の殺傷力はある。沖波にはもう少し遠くに行ってもらいたい。

 

「うぅっ、夕立ちゃん、警戒して!」

「モウ遅イヨ」

 

 沖波が砲撃で離れ、霧島さんは磯波が抑えてくれている。木曾さんは私が吹っ飛ばしたことで戦線復帰は遅れた。あと危惧しなくてはいけないのは神州丸さんだが、あちらも傷のおかげで動きが遅くなっている。ならば今しかない。

 夕立に突撃し、周りに砲撃をばら撒きながら腕を掴んだ。いつもの夕立ならこれも回避していそうだが、腕の傷での消耗が大分来ている。なら、このチャンスを有意義に使わせてもらおう。

 

「分霊ノ儀、執リ行ワン」

「ぽっ!?」

 

 私の指はしっかりと夕立の胸元に突き刺さった。もう誰にも妨害されない。

 

「お、親分ごめんなさい、夕立もすぐに殺して……んひゃああっ!?」

 

 最後に言葉が紡げたのは流石夕立と言ったところ。しかし、予想通りD型同期値がとんでもない数値を記録しているだけあって、分霊そのものが高速で終わっていく。そしてその分快楽も強いようで、夕立はあられもない表情を見せながら髪と肌を白く染めた。

 身体が変化していく内に、抉られた腕の傷も治療されていく。分霊をした場合、身体を十全の状態にまで持っていってくれるらしい。私もそういえば傷付いていたが分霊で何も無くなっていた。なんて素晴らしい力だ。これがあれば傷付いたものも救われる。

 

「ンファアアア!?」

 

 一際大きく震え、装備していた艤装が剥がれ落ちる。これで夕立も艦娘をやめた。後は身体に心が引っ張られればおしまい。

 これは耐えられるようなものではない。磯波と同じように、溢れる力に恍惚とした表情を浮かべ、私の匂いを堪能している。もう敵意すら感じない。

 

「夕立、力ヲ求メテ」

「欲シイ、力、欲シイッ、ハァアアンッ!?」

 

 悲鳴にも似た喘ぎとともに、深海の艤装を得ていく。この光景、何度見ても堪らない。私もそれに釣られて強烈な快感を得ていた。背徳の快楽は、何度受けても気分がいい。

 

 夕立の得た艤装は、磯波と殆ど同じもの。腰から生えたそれは、相変わらずガチガチと歯を鳴らしながら主砲と魚雷発射管を備える。腕に現れた主砲も磯波と同じものだ。今までの使い慣れたモノに近いため、夕立のセンスを遺憾無く発揮出来るだろう。

 そしていつも通り制服は吹き飛び、こちらは私とも磯波とも違う、セパレートタイプのレオタードに似た装甲が張り付いた。下がスパッツ状になっているのが実に夕立らしい。眠る時のTシャツの下がこんな感じだったか。私のものを使っていたことが気に入ったのか、こういうところにまで影響が出ていた。

 

「クフゥゥ……アハッ」

 

 生まれ堕ちた自分の姿を見たことで強い興奮を覚えたのか、自分の身を抱きしめながら変化の快感に何度も震えた後、先程まであれだけ敵対していた私に対して小動物のような瞳で笑みを浮かべてきた。磯波と同様に、私に対しての感謝の気持ちが溢れている。

 

「最高ッポイ。拒ンデタノガ馬鹿ミタイッポイ! アリガト、ゲロチャン、ウウン、()()()ァ」

 

 すぐに抱きついてきて、身体を私に擦り付けてくる。それすらも快感を得ているようで、ハッハッと犬のように心地良さそうな吐息を漏らしていた。私の2人目の分霊、とても愛おしい存在だった。

 一頻り私を堪能したあと、この光景を見ていることしか出来なかった沖波の方を向く。とても意地が悪い表情をしながら、ニタリと笑って沖波を見つめた。

 

「オキ、残念ッポイ。コンナニ堪ラナイ気分ニナレルノニ、効カナイナンテ」

 

 一度は身を挺して救えたのに、すぐにダメになったことで絶望を感じている沖波の顔は、とても()()ものがある。夕立もそれを理解しているのか、変わり果てた姿を沖波に見せつけるようにしている。

 

「絶対、絶対救うから……!」

「オキニ何ガ出来ルッポイ? 何スルノ? ネェ、ネェネェ」

 

 より子供っぽくなったか、虫を虐める幼子のようにネチネチ沖波を責める。

 

 この戦場において、私に敵対している者達は、まだまだ沢山いる。しかし、陸奥さんは自分の火力が強すぎて手が出せない。霧島さんは格闘戦を磯波に封じられたまま。木曾さんは強引に磯波を斬ろうとしたところを返り討ちにしてやったことで消耗が激しい。神州丸さんもだ。

 まだまだ裏にはいるかもしれないが、『雲』の方にも向かっていることで戦力をなかなか割けないようだ。空母は範囲が広すぎて味方を巻き込むし、そもそも工廠は狭い。海防艦の子供達なんて戦力にすらカウント出来ない。その状態で私1人でも苦戦し、磯波が加わったことでより悪化し、トドメは夕立。盤石である。

 

 慢心してはいけないが、勝利は確信していた。この戦果を持ち帰れば、あのお方もさぞかし喜んでくれるだろう。私そのものが戦果だし、減った配下が補充されたのだ。

 

「沖波、悪イケド、モウオシマイ。友達ダカラサ、一思イニ殺シテアゲル」

「ポイ! 友達ダモンネ、スグニ殺シタゲル!」

 

 沖波は早々に終わらせておきたい。それが終わった瞬間に陸奥さんが撃ってくる可能性も考えて、慎重に行くべきだ。

 

 しかし、この後の展開は私には予想出来なかった。さっきも考えた通り、ここからこの戦場に裏から出てくるのは空母が海防艦くらいだ。そう思い込んでいた。

 

 

 

「では、今度は私達が相手をしましょうか」

「はい、しっかりお務めを果たします!」

 

 

 

 聞こえるはずのない声が聞こえた。海防艦の子供達以上に戦場に出てくるはずが無い者。鎮守府の非戦闘員。

 

 

 

 間宮さんと伊良湖さんが、知らない艤装を身につけてこちらに向かってきていた。

 

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