異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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鎮守府の守護者

 磯波に続いて夕立にも分霊を施すことに成功した私、『陽炎』。沖波はM型異端児の特性か分霊が出来ないようなので、残念ながらここで死んでもらうしかない。友達ではあるが、後々確実に面倒なことになる存在だ。今ここで消えてもらうのが、あのお方にとっても必要なことであろう。

 だが、ここで新たな妨害者。私の考える限り、確実に戦場に出てこない2人がこの場に現れた。

 

「では、今度は私達が相手をしましょうか」

「はい、しっかりお務めを果たします!」

 

 間宮さんと伊良湖さんが、知らない艤装を身につけてこちらに向かってきていた。

 

 そもそも2人は給糧艦。戦闘要員では無いし、そもそも艤装を装備しているところすら見たことが無かった。だが、艦娘という定義上、艤装は持っていて当然だし、やろうと思えば海上移動も可能なのだろう。

 しかし、毎日のように食堂で働いているだけの人が、こんな戦場に出てきたところで自殺行為だろうに。いくら艤装を装備したからといっても、何も変わらないのでは。

 

「何シニ来タノ。食堂ノオ姉サンガ出テクル場所ジャ」

「こういう時だから来たのよ?」

 

 笑顔を崩さない間宮さん。対して伊良湖さんは少し緊張をしているのか表情が硬い。

 最終的には皆殺しになるのだが、真っ先にやってくる給糧艦とはなんなのか。こんな状況でも自信満々に見えるのも気になるところ。先に潰しておかないと後々面倒になるパターンか。そういう意味では戦闘力は未知数だし。

 

「っああっ!?」

 

 ここでついに磯波が霧島さんに押し勝った。乱射が激しすぎて防御一辺倒になっていた霧島さんだが、磯波の乱射は今まで一切止まらなかった。おかげで盾はズタズタ、鋏の部分も損傷が激しい。これなら近接戦闘はもう出来ないだろう。

 それでも盾は機能しているため、自分の身を守りながら撤退。磯波はそれをジリジリと追い詰めていく。

 

「アッハハ! 霧島サァン、モウオシマイデスカァ!?」

「磯波ちゃん、こちらが話しているから、ちょっと黙っていてちょうだいね」

 

 間宮さんが艤装の隅に装備されていたであろう主砲を1発撃ち込む。こっちを向いたまま、磯波の脳天を撃ち抜くような精度で。たかが給糧艦が。

 流石にそれは回避したが、感情を露わにして憤慨する。

 

「チョッ、誰デスカ、邪魔ヲスルノハ!」

「ちょっと、黙ってなさい」

「ハ? マ、間宮サン!?」

 

 笑顔は崩さず、話し方も変わらない。だが、普段食堂にいる時とは全く違う()()を感じた。磯波も間宮さんのそんな姿を見るのが初めてなのか、驚きを隠せていない。

 その間に今まで殆ど棒立ちに近かった陸奥さんが霧島さんの元へ。一斉射を封じた挙句、基本的に接近戦を続けてきたおかげで、陸奥さんに仕事をさせなかったのは大きい。やはり戦艦は出てきてもらっては困る。

 

「はい、よろしい。仕切り直しが出来ましたね」

「何ナノサ。仕切リ直シタッテ、給糧艦ガ何出来ルワケ?」

「出来るわよ。私達2人で、貴女達を懲らしめるくらい」

 

 スタイルとしては食堂で見かけた姿そのまま。だが、いつもと違うのは艤装。給糧艦の艤装なのかもしれないが、通常の艦娘の物とは別物に見えた。

 間宮さんの艤装にはクレーンらしきものが備え付けられ、それ以外は駆逐艦に近しい低火力な主砲や機銃があるのみ。伊良湖さんに至ってはもっとシンプルで、主砲1門を握っているだけ。言ってしまえば、こうなる前の磯波よりも装備が少ない。

 

「話トカ聞ク必要無イッポイ!」

 

 その言葉に苛ついたか、夕立が空気を読まずに突撃。深海棲艦化したことにより身体能力は格段に上がり、磯波とほぼ同じ艤装のおかげで連射力もある。すぐさま間宮さんを肉袋に変えるために、全主砲総動員で間宮さんを押し潰そうと動き出した。

 霧島さんでも押し負けた乱射だ。盾すら持たず、駆逐艦以下とも言える装備の間宮さんくらいならこれだけで終わらせられる。鎮守府初の死人として、私達の戦果になってもらおう。

 

 だが、次の瞬間に考えは変わる。

 

「そうなっても空気は読まないのね、夕立ちゃんは」

 

 間宮さんの艤装が音を立てたかと思った瞬間、夕立の持つ主砲が全て()()()()()。手に持つものも、腰の両サイドのものも、全て。しかも、夕立は一切の無傷。武装だけをピンポイントで狙い撃った。間宮さんはその場から一切動かずにだ。

 夕立は普通に撃っていた。当然だが威嚇射撃なわけがなく、全弾を間宮さんに当てるようにだ。それすらも全て弾かれていた。間宮さんの砲撃によって。

 

「ポイ!?」

「給糧艦の私達にも武装くらいはあるのよ?」

 

 そうかもしれないが、今のは確実におかしな動きだ。いや、当人はその場から全く動いていないのだが。表情すら変えない。

 砲撃を砲撃で撃ち落とすなんて神業、偶然でしか出来ないだろう。戦艦同士の撃ち合いで砲撃同士がぶつかり合うなんてことはあったが、今のは確実に身を守るために意図的にやったこと。しかも夕立に傷を付けずにである。空襲の爆弾を撃ち落とすのとはわけが違う。

 

「私も伊良湖ちゃんも、戦うなんてこんな時にしかしないの。私達は()()()()()()()だから」

「普段は食という形で鎮守府を守っているけど、有事の時には戦いますよ。こういう風に」

 

 少し目を離した隙に、伊良湖さんがそこから消えていた。そう思った矢先に磯波が吹っ飛ばされていた。

 

「ナッ、エッ!?」

「私達は貴女達のように大きな世界を守る力は持っていません」

「代わりに、鎮守府だけは手が届くようにしているの。鎮守府だけは必ず守りきるわ」

 

 浮かされた磯波が間宮さんに狙い撃ちにされる。それはまずい。回避出来ないタイミングで撃たれたら、いくら威力が無くても致死量のダメージを受ける可能性が高い。

 それをさせないように、磯波自身が体勢を立て直して砲撃。だが、同じ芸当など到底出来るわけもなく、致命傷だけは避けることが出来たが、磯波はこれだけで傷だらけになってしまった。

 

()()()()()()()()()()()()()なの。代わりに明日から少しの間、食堂は開かなくなっちゃうわね」

「貴女達を取り戻して、キッチンに立ってもらいますから大丈夫でしょう」

 

 限定かもしれないが、これはあまりにも滅茶苦茶すぎる。オーバースペックにも程がある。なら、時間制限とかあるはずだろう。

 

「あ、時間制限があるかとか考えましたか? 勿論ありますよ。あと5分程度です。そんなにも無いかも」

「準備に時間がかかるのに、引き出せる時間がそれだけなのよね。使い勝手が悪いでしょう?」

 

 言いながらも止まらない。伊良湖さんは縦横無尽に動き回り、傷だらけにされた磯波を陸に叩き落としていた。それと同時に間宮さんも砲撃を始めており、ピンポイントで夕立の艤装を破壊していく。私だって砲撃しているのだが、それすらも砲撃で弾きながらだ。

 威力が駆逐艦の主砲並みなら、艤装は傷つかないくらいのはずだ。なのに何でこんなに効いてしまう。まさか、艤装の隙間を狙っているとでもいうのか。夕立だって躱そうと動いているのに。

 

「ナンデ、ナンデッ!?」

「何でかしらね」

 

 伊良湖さんが超高速による接近戦、間宮さんが超精密射撃。これはおそらく確定だ。タネがわかれば回避くらい出来るはずなのだが、深海棲艦と化した私達でも追い付くことが出来ないくらいのスペックを叩き出している。

 ほんの少しの時間に燦然と輝く代わりに、その後に倒れるという完全なリミッター解除。いや、この2人の艤装は元よりそういうシステムか。装備した時点でタイマーが動き、時間切れまでフルパワーで稼働し続ける。おそらく身体への負荷も相当。タイムオーバーで2人も負荷がかかり過ぎてダウンとかそういうものなのだろう。

 

 残り5分耐え切れば私達の勝ちが揺らがなくなるのだが、開始数秒で磯波と夕立がここまでボコボコにされるとか考えてもいなかった。これはまずい。せめて私だけでも耐え切らないと、取り返しがつかないことになる。

 

「反撃は受け付けてるわよ。させるつもりは無いけれど」

「コノ……ッ! イイ加減ニィ……!?」

 

 脱力回避の要領で力を抜き、そこからの高速移動で間宮さんから片付けようと考えた。だが、力を抜いた瞬間にはもう伊良湖さんが私の懐に潜り込んでいたのだ。動きまで予測されているかのようなタイミング。

 前に進み出そうとした脚を止めるように、膝の上を思い切り踏み付けられていた。これでは前に進み出せない。ここから回避することすらもままならない。

 

「それ、バレバレですからねっ!」

 

 そして、その脚を軸にして蹴り。速すぎて見えない攻撃に成す術が無かったが、ギリギリのところで手が出せたので腕でガード。それでも勢いはとんでもなく吹っ飛ばされる羽目に。

 給糧艦とは到底思えない脚力。これも限定仕様のオーバースペックの力か。たった数分、これの後のことを考えていない諸刃の剣。

 

「陽炎様ヲ足蹴ニスルナンテェ!」

「磯波ちゃん、相手は私達だけじゃないのよ?」

「エッ」

 

 そうだ。間宮さんと伊良湖さんの異常過ぎるスペックに翻弄されたが、ここには他にも敵はいるのだ。それこそ、さっきまで磯波が相手取り、押し勝った霧島さんだっているし、まさに今このタイミングを見計らって主砲を構えていた陸奥さんだっている。

 伊良湖さんが吹っ飛ばしたことで、磯波だけは私達から少し離れた場所にいた。それは他の者からも離れた位置。つまり、遮るものも、巻き込むものも、何もない。

 

「ありがと伊良湖ちゃん。磯波だけ離してくれて」

「察してもらえて光栄です! やっちゃってください!」

「了解! 磯波、死ぬほど痛いわよ!」

 

 立ち上がって私を救援しようとした瞬間に、陸奥さんの砲撃が磯波に放たれてしまった。もう回避出来ない。

 

「イヤ、イヤダ……」

「痛みはごめんなさいとしか言えないわ。恨まないで」

 

 強烈な砲撃に呑み込まれ、磯波は散って行った。殆ど爆散に近く、爆炎が晴れた後には息絶えた磯波の姿しか無かった。もう指先から塵になりつつある。

 

 私の分霊の1人が、こうも呆気なくやられてしまった。『雲』もこんな怒りを覚えていたのかもしれない。その気持ち、痛いほどわかった。この上なく怒りが込み上げてくる。

 

「ソナーヲヨクモヤッタナ!」

 

 主砲はおろか艤装そのものも相当破壊されてしまったが、それでも夕立が陸奥さんに飛び掛かろうと駆け出した。素手でもある程度は戦えるのが今の状態。殴り付ければ艦娘を殺すことくらいは出来るかもしれない。

 だが、今やるのは得策ではない。磯波を失ったことで、より理性を失ってしまっているのはわかる。私だって今すぐ全員を殺したい。だが、今はダメだ。間宮さんも伊良湖さんも時間切れがまだ来ていない。迂闊に動くと返り討ちに遭う。

 

「夕立、ヤメナ!」

「もう遅いわ」

 

 夕立の理性を失わせることが目的で、先に磯波をやったのではないかと思えてしまう。

 陸奥さんに突っ込む夕立を待ち構えていたかのように、霧島さんが半壊した鋏を突き出していた。ボロボロとはいえ辛うじては動く状態。それこそ、挟むことが出来てしまう。

 

「ソンナノ、飛ビ越エッ」

「貴女の艤装はもう壊れているでしょ」

 

 ここで間宮さんの砲撃が効いてくる。艤装を壊し続けたことで夕立のスペックは大幅にダウンしており、飛び越えることすらままならなかった。

 結果、霧島さんの鋏が夕立の腹を挟み込む。夕立のそこには装甲が無く生身。一番狙われてはいけない場所を、一番狙われてはいけない人に掴まれてしまった。

 

「カハッ!?」

「……子分の不始末は親分が片付けるわ。ごめんなさいね夕立」

 

 一気に締め上げると同時に酷い音が響き、夕立が血を吐いた。そのまま腕がブランと垂れ下がり、磯波と同じように指先から塵へと変化していく。あの一撃で夕立は圧死したのだろう。

 

 磯波に引き続き、夕立も失ってしまった。せっかくの分霊がこうも簡単にやられるだなんて。それもこれも、鎮守府の守護者、給糧艦の2人が戦場に現れたからだ。許せない。許せない。せめてこの2人だけはこの場で殺さなければ。

 時間もそろそろ切れる頃だろう。そうなったら終わりだ。誰でもいいから分霊してしまえば形勢逆転になる。速攻で堕とすのならD型異端児。現在『雲』と戦っている由良さんと阿賀野さん、後は空母故に表に出てきていない天城さんの3人。その内の1人でもこちら側に持って来れれば。

 

「悪いこと考えてるわね、陽炎ちゃん」

 

 いきなり右腕が撃ち抜かれた。爪の装甲があるため千切れ飛ぶようなことは無かったが、骨がミシリと音を立てたのがわかった。

 

「ッグ……私ハ、マダ」

「分霊を増やそうとでも考えたんでしょう。ダメですよ」

 

 もう片方の腕も撃ち抜かれた。同じように骨が軋み、もう持ち上げるだけでも激痛が走る程に。

 

「もう終わりましょう……っあ」

 

 トドメを刺そうとしたであろうタイミングで、間宮さんがフラついた。伊良湖さんも急に消耗をしたように膝をついている。まさか、ここで時間切れか。まだ5分も経っていないように見えたが、あれだけの動きを見せ続けたのなら限界が早々に訪れても疑問ではないか。

 私にもここで運が向いてきた。腕は上がらないが、多少無理をすれば動かないわけではない。大丈夫だ。こういう時こそ落ち着いて。

 

「ッハ、ハハハ、モウオシマイ、オシマイナンダネ。ココカラハ、モウ!」

 

 主砲を間宮さんに向ける。これで終わりだ。給糧艦の2人さえいなくなれば、私を阻むものはいなくなる。磯波と夕立は惜しいことをしたが、本来の目的である撤退を選択すれば、次がまだある。

 私はまだあのお方に会えていないのだ。この状態で会って、10年間の清算を……。

 

 

 

「もう、終わり」

 

 気付けば、私は腹を撃ち抜かれていた。

 

 泣きそうな顔の沖波が、私に主砲を向けて立っていた。

 

 

 

「沖波……アンタ……!」

「ごめん、不意打ちみたいになって。でも、もうやめよう、やめようよひーちゃん。ひーちゃんは深海棲艦じゃない、艦娘、人間だもん。元に、元に戻って!」

 

 追撃のもう1発。両腕をやられ、腹にも入れられた私には回避するだけの力も残されておらず、その一撃は吸い込まれるように胸に飛んできて、そして直撃。

 貫かれはしなかったが、このダメージは甚大だった。一瞬心臓が止まったと思った。いや、おそらくこのまま止まるんだと思う。

 

 死の匂いがした。

 

「私……モウ終ワリナノ? 嘘……マダ、マダ何モ、成シ遂ゲテナイノニ……」

「私も業を背負うから。ひーちゃんを殺したっていう業は、私が背負うから、だから」

 

 ダメ押しの砲撃。もう回避出来ない。脚が動かない。

 

 

 

「ごめんね、ひーちゃん」

 

 私の目の前は真っ暗になった。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。私の鼓動がどんどんと小さくなっていく。

 全てが失われていく感覚。私自身が無くなる感覚。泣き叫びたくなるくらいに怖い。だけど、それすらも出来ない。

 

 

 

 これが死か。

 

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