異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
深海棲艦と化したが無事艦娘へと戻ることが出来た私、陽炎。しかし、後遺症として外見にも出てしまっており、髪は深海棲艦の時と同じ白い髪が交ざるメッシュ状になってしまった。
また、蘇って目覚めるまでの間に、今までの嫌な記憶が悪夢としてリフレインし続けるという、眠るのが嫌になる程のものまで残っている。それ以外にも見えていないだけで何かしらあるかもしれない。
「検査は終了です。お疲れ様でした」
「制服も持ってきてある。これでみんなに目が覚めたことを見せてやってくれ。アンタを心配してないヤツなんて誰もいない」
私にそんなことしてもらう価値は無いのに。恨まれこそすれ、心配されるなんておこがましいとすら思えてしまう。どれだけ慰められても、私から罪悪感が晴れることは無いだろう。
罪の意識に押し潰されないように、誰にも迷惑をかけないように、私は今後を生きていきたい。私がやったことは本来許されないものなのだから。
萩風や長門さんと違い、私は艦娘という立場から深海棲艦へと堕ちて鎮守府を破壊している。それは基本的に軍規とかそういうものに反するものになるのでは無いだろうか。艦娘なのに人間にその力を振るったなんて重罪中の重罪。そしてそれを磯波と夕立にも強制してしまった。
一時の長門さんではないが、私は死罪でもおかしくないくらいの重罪人だ。父さんを殺したという事実もそうだが、本来人間の守護者となる艦娘がやらかした事件なのだから。
「陽炎、何度でも言うと言ったね。全部太陽の姫のせいだ。わかるかい。未だに太陽の姫に忠誠心を持ってしまっている長門だって、そこに気付くことが出来たんた。アンタも気付ける」
確かに母さんを殺したのは紛れもなく太陽の姫その人だ。だが、父さんに関しては違う。私の手で、私の意思で殺している。
しがらみを捨てろという一言だけで父さんを殺すことを選択してしまったのだ。そのように誘導されていたとしても、そんな自分がどうしても許せないのだ。
「アンタはまず、萩風や長門と話すことだ。あの子達のことも、もう知っていい」
「……うん。いつも私に抑えて話してくれてたもんね。知る権利はあるかも」
同じ境遇の2人なのだから、私の気持ちはわかってくれる。特に長門さんは添い遂げるはずの彼がと言っていたが、私と同じように自分の意思で彼を殺してしまったのだろう。そんなの、私と同じくらいに辛いはずだ。
2人とは話がしたい。愚痴も言いたい。傷を舐め合いたい。だが、私は萩風にも合わせる顔が無い。対面するのが怖い。
「……その前に勘付かれたな」
小さく溜息をついた空城司令。と同時にドタドタと足音が聞こえた。おそらく1人。一直線に医務室に突っ走ってくる音。
「陽炎、覚悟だけはしてほしい。後遺症は……」
「
覚悟をする前に夕立が医務室に突っ込んできてしまった。ちょうど着替え終わった直後の私の姿が目に入った瞬間、殆ど低空飛行のように私の腹に向かって体当たり。
今は初月インナーのため匂いがあっても外に漏れない仕組みにはされているが、そんなことお構いなしに私に力一杯抱きついてきた。
いや、そんなことはどうでもいい。今夕立は私のこと何と呼んだ。ゲロ様と呼んだか。
「夕立、陽炎は病み上がりだ。離れてやんな」
「わっ、そうだった。ごめんね
また言った。つまり、夕立の後遺症というのは。
「……後遺症は、
察した。私との接し方はこうなる前と何ら変わらない。だが、様を付けて呼ばれるということは、私のことを自分よりも上に見ている証拠でもある。
「あ、あのさ、夕立。様はやめて……あの時のこと思い出しちゃう」
「えっ、あ、そ、そうだよね。なんか癖みたいになっちゃって。意識しないで言っちゃったっぽい」
それにもう1つ、深海棲艦化の影響が残っている部分が1つ。ああなる前には身に着けていなかったスパッツを制服の時にも穿くようになってしまっていた。おそらくこの制服の下は、深海棲艦として変化していた時に身につけていたものがそのままあるのだと思う。妖精さんに無理を言って作ってもらった可能性は高い。
これも私への忠誠心が残ってしまった影響だ。あの時の姿をしたいと本能的に考えてしまったことがここに繋がる。
後遺症として残っているのはかなり弱目かもしれないが、そういう視点が生まれてしまったのは紛れもなく私のせいだ。あの時に夕立を深海棲艦にしていなければ、こんなことにはなっていない。
「……私が夕立を壊しちゃったんだね」
「壊れてないっぽい! ゲロさ……ちゃんは、何も悪くないっぽい!」
慰めてくれるものの、やはり私の心には痛みが走る。私のしたことが、夕立の心の何処かを壊してしまったのだ。取り返しのつかないことをしてしまったのだと実感する。
じゃあ、磯波も同じようになってしまったと考えるのが妥当。数分の差ではあるが夕立よりも長い時間あの姿でいたわけだし、違うところに後遺症が残っていたとしても、心の何処かが壊れているのが予想出来る。
「提督さん、ゲロさ……ちゃんをソナーのとこ連れてっていいっぽい?」
「磯波のところにかい? まぁ、遅かれ早かれ顔を合わせることになるからね。あまり刺激しないようにするんだよ」
「ぽい! 行こ、ゲロちゃん」
私としてはまだ抵抗があったが、磯波にはすぐにでも会わなくてはいけなかった。最終的にはみんなの前で土下座なりなんなりするつもりだが、磯波と夕立は、それ以上に謝らなくてはいけない。
どう罵られてもいい。殴る蹴るも大歓迎だ。怒りの丈をぶつけてもらいたい。
夕立に手を引かれ、磯波の部屋の前。ここ最近はずっと私の部屋でみんなが寝ていたため、他の部屋に来るのも久しぶり。むしろ初めてと言っていい。
ここまで来て手が震える。怖い。なんて言われるか想像も出来ない。夕立のようになっていても怖い。全部怖い。
「ゲロちゃん、すごい震えてる」
「……磯波にもすごく悪いことしたから」
「ソナーはゲロちゃんのこと、怒ってないよ」
覚悟を決める前に夕立が部屋の扉を開いてしまった。中には予想通り、磯波の他にも沖波と萩風が待機していた。
工廠が修復中ということで、鎮守府の運営は規模縮小中。訓練自体は行われておらず、哨戒任務程度に抑えられている。諜報部隊がいるため、現在は太陽の姫、ならびに『雲』の行方を探している最中。
そこに参加していないものは全員が鎮守府で待機している。その時間を使って、沖波と萩風は酷く落ち込んでいる磯波の側にいてあげているようだ。
「陽炎ちゃん、目が覚めたんだね」
「うん……沖波、ありがとう。私を止めてくれて」
沖波は笑顔で迎え入れてくれる。私が目を覚ましたことを素直に喜んでくれているものの、私を殺すという業を背負ってくれた親友には顔を合わせづらい。深海棲艦を沈めるのとは精神的なダメージが違う。それこそ、私のために手を汚してくれたようなものだ。申し訳ない気持ちでいっぱいに。
「姉さん……髪が……」
「……うん。私の後遺症は外見に出ちゃってるみたい」
萩風は心配そうに後遺症に触れてくる。萩風が奮闘してくれたというのに、私は結局呑み込まれてしまった。あんなにも頑張ってくれたのに、最後は邪魔者のように思い切り殴り付けてしまった。
そして磯波。ストレスにより体調を崩してしまったか、今はベッドで横になっていた。私が入ったことで身体を起こしたようだが、あまり顔色がいいようには見えない。
「磯波……」
「私は気にしてないから……」
気にしていないのならこんなことにはなっていないだろう。私のことを許せないと言ってくれた方が気が楽だ。だが、磯波は私のことを責めることは無かった。疲れた顔ではあるものの、微かに笑みを浮かべて私に話をしてくれる。
「気にしないで……大丈夫だから。あんなことになったのは……全部太陽の姫のせい。私は……ちゃんと理解してる。
後頭部をガツンと殴られたかのような衝撃だった。夕立に引き続き、磯波にも私への忠誠心という後遺症が残ってしまっていた。
あの時に一番強い感情といえば、いろいろあったと思う。磯波には植え付けられた暴力性というのもあった。だが、それを上回ったのが私への忠誠心。それが、私には一番辛い。
「すごく罪悪感は残ってる……霧島さんに合わせる顔は無いし……陸奥さんの主砲を見たら吐きそうになった……でも、陽炎様のせいじゃない……私をこんなにしたのは太陽の姫だから……」
「そうっぽい。ゲロ様は何も悪くないっぽい。夕立があんなに調子に乗ったのも、親分にブチッとされたのも、全部太陽の姫のせいっぽい」
違う。違う。違う。
太陽の姫の手は私にしか付けられていない。磯波も夕立も、私が陥れようと考えてああなったのだ。だから、お願いだから、私に怒りをぶつけてくれ。
「ごめん……ごめん……みんなごめん……私のせいで心を壊しちゃって……居場所を壊しちゃって……本当にごめん……。全部、全部私のせいだ。私のせいで滅茶苦茶になったんだ……」
「陽炎ちゃん……」
「だから……もっと怒ってよ。私がおかしくしたんだから、私を責めてよ!」
責められることが償いになるとは到底思えないが、みんなに残るストレスを私にぶつけてもらえれば、少しはみんなのためになるかと思っていた。捌け口になったところで罪は消えずとも。
「なんで怒る必要あるっぽい?」
本当に理解出来ないという顔で夕立が首を傾げる。
「夕立が気に入らないのは太陽の姫だけっぽい。自分で動かないで姿も見せずだもん。やり方が陰湿っぽい。自分で動きたくないからゲロ様とかあの『雲』とか使ってるんだよね」
「……私もそれ……かな。自分の手を汚さないようにするために私達が利用されたんだよね……。道具にされただけだし……」
だとしても、私達が手を汚そうとした事実は変わらないのだが。
「立場としては……私達も陽炎様も同じところにいるんだよ。太陽の姫のせいで滅茶苦茶にされた。それだけ。だから……私は太陽の姫だけが
普段の磯波からは考えられない、攻撃的な言葉。虚空を睨みつけるように眉を顰め、力なく拳を握る。強めな言動ではあるが、トラウマは全く払拭出来ていないのは丸分かりだった。
それでも、私を励ますために無理をしているというわけではない。自分を奮い立たせるために、わざとこう振る舞っているのだ。ガラでも無いのに。
「姉さん……姉さんの気持ちはわかります……。だから私達は姉さんのことを責めることなんて出来ません。権利すらありません。私が責められなかったんですから」
萩風だって長門さんだって、鎮守府のみんなは責めることをしない。私だってしなかった。
だが、それとこれとは違うだろう。私は萩風や長門さんと違い、周りを巻き込んでいるのだ。私のせいで不幸になった2人がいるのだから、心持ちが全く違う。
「……ひーちゃん」
みんなが前向きに進み出そうとしているのに1人ウジウジしているところに、沖波が私の前に立つ。
「沖波……」
「歯、食いしばって」
言うが早いか、沖波から強烈なビンタが飛んできた。それはそこまで力が無いものではなかったが、思いがこもっていたように思えた。ジンジンと痛みが拡がる。
「私はみんな程酷い目に遭ってないけど、ひーちゃんを責めるっていう業は私が全部背負うから。だから私はひーちゃんを殺したんだから。ひーちゃんが望んだから、1発だけ。これでおしまい」
その沖波だって、泣きそうな顔をしていた。私が沖波を悲しませていると思うと、余計に罪悪感が強くなる。
「もう自分を責めろとかそんなこと言わないで。罪のない人を殴るのは、こっちの方が痛いんだから」
「……ごめん……でも……」
「言い訳しない! 全員が無罪だって言ってるんだから、ひーちゃんは無罪なの!」
肩を掴まれ、物凄い剣幕で叱られた。いじけている私を奮い立たせるためか、ガタガタと揺すられる。
「私達はひーちゃんのこと絶対に責めないから。辛くても、絶対に責めない。誰も責めない。みんな前と同じように接する。太陽の姫の巫女である『陽炎』はもう死んだの。私が殺した。この手で殺したの。ここにいるのは別人、艦娘陽炎でしょ!」
そんな簡単には開き直れない。吹っ切れることなんて出来ない。どれだけ言われても、私の心はガタガタだ。太陽の姫の侵食が無くなっただけで、ヒビが入ってしまったのは変わらないのだ。
「同じ立場になったようなものですから……もっと私を使ってください。私は、私達は姉さんの味方です」
萩風からも慰めの言葉。夕立も磯波も、その通りだと首を縦に振る。
私は思い切り泣いた。羞恥心とかも何も感じず、ただただ泣いた。それでスッキリなんてしなくてもいい。
心のヒビに、仲間達が染み渡っていくような感覚がした。
開き直れるまではまだ遠いでしょうが、一歩目を作ってはもらえそうです。沖波が業を背負いすぎている感じはしますが……。