異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
阿賀野さんと夕立によるマッサージで、多少は身体が楽になった。お薬の入った湯というちょっと聞こえが悪いお風呂の効果もしっかり出ている。これなら午後からの訓練も元気に出来そうだ。
「やっぱりお昼ご飯食べた後は眠くなるね〜」
「気が気でないから眠気なんて全然来ないよ……」
少し眠そうに欠伸しながらいろいろと準備してくれる阿賀野さん。まぁ食べた後っていうのはそんなもんだろうとは思うが、私、陽炎としては、命を奪う兵器の訓練なのだから緊張感が勝っているため、眠気なんて一切感じない。器が大きいのか、それとも最初の印象通りちゃらんぽらんなのか。
「磯波ちゃんもそう思わない〜?」
「話を振られても……」
この振られ方は困る。私も苦笑するしかなかった。
午前中と同じようにやっていたらまた筋肉痛で酷い目に遭いそうなので、今回は訓練前にしっかりとストレッチ。身体は比較的柔らかい方だと思うので、伸ばせるところは伸ばしておく。大股開きになるが、幸いなことに私の制服はスパッツがあるので気にならない。
「お〜、いいと思うよ〜。しっかり準備運動しておこうね〜」
「またマッサージのお世話になるのは嫌だからね」
「いい心がけだと思うよ。身体壊れちゃうのはダメだもんね」
せっかくだからと阿賀野さんも手伝ってくれる。使わない筋肉ばかりを使うので、伸ばされていくのが痛気持ちいい。まだ若いのに背骨がバキバキ言った。
一通り終わらせて、改めて艤装を装備。さっきまでは腕が痺れているような感覚もあったが、お腹とマッサージと艤装による強化で健康体になったかのようだった。痛みも何も感じない。また外した時が怖いものではあるが。
「手持ちの主砲もだけど、備え付けの主砲も訓練しなくちゃなんだよね。陽炎ちゃん、2つ持ちだから」
確かに。私は他の駆逐艦とは違って手持ちと備え付けの2基を同時に扱う。これは私の名前を冠する陽炎型の一部が共通らしく、他にこういう艤装を使う艦娘というのはいないらしい。そもそもマジックアームがある艤装というものがレアだそうだ。
使えるものは全て使う。それが戦いの中では一番大切なこと。この備え付けの主砲のおかげで、私は他の艦娘よりも火力が高いと言えるわけだし。他にやらないといけないことがやれないとしても、使いこなせるようにしておかなければ意味がない。
「あんまり掠りばっかりになったら、一回そっちやってみよっか。それなら阿賀野と似たようなものだから教えやすいからね〜」
備え付けの主砲のみを扱う阿賀野さんだから、こちらは手持ちの主砲よりはわかることも多いと。あの無反動のような砲撃の秘訣とかわかるととても嬉しい。
手持ちの主砲であまりにも苦戦するようなら、一旦やめて備え付けの方を練習してみるというのは普通にアリだと思う。気持ちを切り替えてみれば、何か別の何かが見えてくるかもしれない。それは今、私にしか出来ない手段。
「まずは進めてみよう。磯波のも参考にさせてもらうからさ」
「うん、主砲の形は違うけど、私が役に立つなら」
磯波は片手持ちの主砲であるものの、その姿勢制御などはしっかり参考にさせてもらっている。一緒に訓練してくれているだけでもありがたいし、先達者が見せてくれるのはそれだけで見習うべき場所がいくつも見つかる。
心強い仲間のおかげで先に進めるはずだ。私が不器用ならアレだが、自分としてはそこまででは無いと思う。孤児院では料理の手伝いもしてきたし、運動だって普通にこなせた。
まずはやってみる。それが一番だ。まだ初日なのだから、出来なくても当然なのだから。夕立が異常なだけ。人のことは何も言えないだろうけど。
それから小一時間ほど的に向かって撃ち続けた。磯波はその間も全て的に当て続けてペイントを上塗りし続けていたが、私の弾は的の真ん中
「私ここまで下手とは思わなかった……」
「いや、これ下手とかじゃないよ。逆に凄いよ」
素直に喜べない。確かにおおよその弾は的に当たっているのだが、それなら1発くらいは真ん中に当たってくれてもいいと思うのだが。
これはこれで海上移動訓練の時と同じように、意識しすぎて力んでしまっている部分が出ているのかもしれない。変に力が入っているせいで、反動を受けたときに上下左右に砲身が動いてあんなことになっているのかも。そういう意味では、最初の狙いはちゃんと出来ているということになるが。
「言ってた通り、備え付けの方にしてみよっか。気分転換気分転換」
「気分の入れ替えは大事だよね。余計なことになるかもしれないけど、一回こっちやろう、うん、そうしよう」
艤装に備え付けられている主砲は、私の腕の力とか一切関係ない。艤装をコントロールするのと同じため、完全にイメージの力。マジックアームも動けと思えば動くので、それと同じ。
狙いを定めるのも、引き金を引くのも、全て私の頭の中で行なわれる。海上移動みたいに無意識にやるようなものではなく、ちゃんと考えなくてはいけないことだ。
「はい、じゃあ狙いを定めてー」
イメージ。主砲がどういう形をしているかは頭に入っている。こうやったら的に向けられるというのは考えればその通りになる。
ガチャガチャと音を立てながら主砲が私の後ろから真ん中だけが塗られていない的に照準を合わせた。私の視線からはそれがどうなっているかは見えないのだが、目に見えているものとイメージを合致させる。今はこれでど真ん中に照準を合わせられていると思う。
備え付けられていようが、これも手持ちの主砲と同じで反動はある。阿賀野さんがおかしいだけで、反動は私の背中と腰に大きな負担をかけるだろう。それも意識して。腕の次は腰が壊れるとか恐ろしい。それが起きないようにするためにもストレッチはしっかりやってきたのだ。
「あれを敵と思って、よ〜し、じゃあ、
阿賀野さんの合図と同時に引き金を引くイメージ。的を敵だと思えというのは物騒な感じはするが、あながち間違っていないため、ペイント弾だろうがアレをぶち抜くイメージのままに撃ち放った。
正直、実際に引き金を引いているわけでもないのに砲撃が実行されたことに驚いた。心で引き金を引くだなんて漫画みたいなことが実際に出来てしまった。
瞬間、後ろから大きく引かれるような反動。案の定背中と腰に大きな衝撃を感じる。正面から押し込まれたわけではないので内臓が震わされていたわけでもないが、それでも負荷は凄まじい。ビクともしない阿賀野さんが本当におかしいと実感する。
「反動キッツ……弾は!」
反動に気を取られて自分の放った弾がどうなったかが確認出来ていない。撃って当たるまでなんてほとんど一瞬の出来事だ。目を瞑って開いたらもう当たっていると言っても過言ではない。
「うっそ〜……」
阿賀野さんが茫然としていた。私の放ったペイント弾は、あれだけ当たらなかった的のど真ん中を撃ち抜いていた。
手持ちの主砲があれだけ当たらなかったのに、備え付けの主砲に切り替えた途端に1発目で成功してしまった。
「いや、これはまぐれでしょ。反動凄い感じたし。まぁ手持ちのことを知ってたから多少は覚悟しながらやれたけどさ」
「じゃ、じゃあ、もっかいやってみよっか〜」
今まで手持ちの方でやってきたノウハウのおかげだと思う。反動の軽減の方法も手持ちで知っていたからこれで済んでいるだけだろうし、照準の合わせ方も午前中延々繰り返していたことがあるから上手くいったに過ぎないだろう。
「じゃあ、もっかい!」
同じように照準を合わせ、引き金を引くイメージ。的の中心をしっかりと見据え、放つ。反動は一度体験しているので、どちらかと言えばブレないことを意識して腹に力を入れて。
「……当たってるね」
「当たってるね」
先程塗った的のど真ん中を上塗りするようにペイント弾が直撃した。先程をリピートするかの如く、全く同じスピードで的に向かって飛んで行ったのを、スローモーションのように眺めていた。
正直自分でも信じられない。初めてならば偶然、まぐれである可能性もあるが、2発目も当たると話が変わる。
念には念をと3発目。今度は少し距離を離して、難易度を上げて。それでも的は私の視野にしっかり入っているし、そのど真ん中を視認することが出来ている。
この頃には反動に関しても随分と緩和出来ている気がしていた。当然まだまだ初心者なのでブレはする。
「……当たってるねぇ」
「なんか反動も上手いこと抑え込めてる気がする」
「どんどん上手くなってるねぇ」
しっかりと同じところにぶち込んでいた。手持ちとはまるで違う使いやすさというか、私のイメージがダイレクトに伝わってくれるからか、本当に思い通りに何もかもが動いてくれた。放たれた弾までもが、行ってほしいところに見事に。
「これは予想外だなぁ。手持ちはダメで、備え付けはあっさりなんだ〜」
阿賀野さんが心底困ってる声を上げる。そもそもどちらも使うタイプがいないためにこういった事態が起きたことが無かったようだ。完全に想定外である。私も同じ気持ち。
その後、何回撃っても備え付けの主砲で撃った場合はしっかりと的に命中していた。たまにど真ん中ではないところに当たるものの、外れるということは無い。それこそ、磯波の砲撃のような精度。
「ど、どうしようね。ひとまず手持ちの方に戻ってみよっか」
「そ、そうだね。で、行き詰まったらまた備え付けの方やってみる」
手持ちの方は掠らせることしか出来ないのだから、こちらでもちゃんと当てられるようにしなくては。どちらでも命中させられる方が、戦場では有利になるに決まっているのだ。どちらもマスターしてこそ、陽炎と言えるだろう。
「阿賀野、ちょっと今のこと提督さんに話してくるね。その間はちょっと訓練してて〜」
と、阿賀野さんは一時的に離脱。完全に想定外のことが起こったので、一旦空城司令に報告という形を取った。確かにその方が堅実だと思う。そもそも私自身がこんなに上手く行くと思っていなかったのだ。
やはりマイナス同期値が何かしらの影響を出しているのだろうか。海上移動も妙にあっさり終わったし。とはいえ手持ちの主砲に関してはまだまだ上手く出来ないのだから、しっかり訓練しなくては。
しばらくして阿賀野さんが戻ってきた。それまで手持ちの主砲を撃ち続けたが、やはりというか、ど真ん中を撃ち抜くことは出来ず。磯波にもいろいろとアドバイスを貰ったのだが、なかなか身にならなかった。初めてなんだから仕方ないと言ってくれるものの、ならば備え付けの方は何なのだという話にもなるわけだし。
「陽炎ちゃ〜ん、訓練は一旦終了だって〜」
これは少し予想外だった。みっちりやるかと思っていたが、何か都合が悪くなったか。
「提督さんがね、ちょっと陽炎ちゃんと艤装を調べたいって」
「艤装だけじゃなく」
「うん、やっぱりマイナス同期値が何かあるんじゃないのかって」
思い当たるところなんてそれくらいしか無い。何処かおかしいにしても、初めてやることがこう何度も即座に出来るようになるのは疑問が生まれる。
私が艦娘になるために生まれたかのような天才である、だなんて言われたらまだしも、去年までは同期値がM型D型共に0だった私が、突然こんなことになるのは流石におかしい。自分でもそう思えるのだから。
「なんか凄く不安になってきた……」
「だ、大丈夫だよ。私達も何処かおかしかったから。初日でここまで出来たのは夕立ちゃんくらいしかいないけど……私や沖波ちゃんも結構早く出来たんだよ?」
同じ異端児だからこその磯波の言葉。心に泌みるようである。天使かな?
「今は準備中らしいから、さっとお風呂に入って執務室に来てくれ〜だって。阿賀野はこのまま磯波ちゃんの訓練を続けろって」
ここからは1人か。もしかしたらあちらで待っている人がいるかもしれないが、ちょっと寂しい。早いところ検査を終わらせたいと思えてしまった。
同じ異端児がいたとしても、私にしか持ち得ない特性、マイナス同期値が、この砲撃の精度の違いに何の影響を与えているというのだろうか。むしろ私は一体どうなってしまったのだろうか。
考えてもキリがない。自分でわかることなら、もう自覚出来ているはずだ。まずは空城司令の下でいろいろ調べてもらうしか無い。
私も私のことがもう少しちゃんと知りたい。
マイナス同期値の異常性が少しずつ見えてきました。他にない特性にどんな影響があるのか。