異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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諜報部隊の誇り

 午後も今日は鎮守府待機となっている。私、陽炎は入渠が終わったばかりというのもあり、身体と心を休めることを優先するように言われていた。体調が悪いわけではないのだが、精神的な問題で疲れが酷い。

 食堂でみんなと話したことが原因だと思う。癒しの要素もあったものの、やはり負担がかかってしまうのは否めない。みんなと話をしたが、罪悪感が半端なく、以前のように会話することは出来なかった。それでもみんなは普段通り接してくれる。私の罪のことなんて何も知らないとでも言わんばかりに。

 

「……みんな優しいね。こんな私にも普通に接してくれて」

 

 布団に入ったところでボヤく。どうしても卑屈になってしまうのが今の精神状態。みんなが私は悪くないと言ってくれるが、私の中の罪悪感は晴れない。気が緩むと泣いてしまいそうになるくらいガタガタだ。

 あれだけのことを言ってもらえたのだから、少しだけでも前向きにならなくてはいけないと思い始めてはいる。道をみんなに示してもらえているのだから、私が一歩踏み出せばいいだけ。だが、その勇気がなかなか出ない。

 

「ゲロ様は何も悪くないからだよ。悪いやつだったらこんな風に一緒にいないし」

 

 付き添いは引き続き夕立。磯波は体調不良がまだ治っていないため、沖波と萩風の付き添いのもと、しっかりと身体と心の休息を続けてもらう。私のせいでああなってしまったのだから私が看病をしたいのだが、私の姿自体が負担になりかねない。今は少しだけ距離を置いておいた方がいいと思った。

 

「ゲロ様と夕立は友達なんだから、もっと頼っていいっぽい」

「……ありがとね」

 

 その気持ちを無下にするわけにもいかない。友達と言ってくれるのなら頼らせてもらおう。結局様付けは直らなくなってしまったが、対等に扱ってくれているのならまだマシ。

 夕立だってあの時の記憶が残っているだろうに。私と一緒にいて苦痛を感じてもおかしくないと思うのだが、心が弱い私と違ってもう開き直っているようである。本当に強い。夕立には勝てない。

 

「……ちょっと……寝させてもらうね」

「ぽい。ヤバイなって思ったら、すぐ起こすから」

「うん……ありがと。お願いね……」

 

 目を瞑るとすぐに眠気に襲われた。自分で思っている以上に心が疲れていたらしい。

 

 その眠りでは、悪夢は見なかった。仲間達の温かさが、悪夢を退けたのかも知れない。少しオカルトみたいな言い分ではあるが、何だか久しぶりに深く深く眠れたような気がした。

 悪夢を見ないようにするためにも、罪悪感をなるべく振り払うように仲間と接した方がいいのかもしれない。悪夢を見なかったという事実が、私を少しだけでも前向きにするきっかけを作ってくれた。

 

 

 

 一眠りしたら、もう外は夕方になっていた。この頃に諜報部隊がちょうど帰投したようで、現在工廠で結果は報告中。罪悪感はまだまだ残っているが、その話を聞くために私も工廠に向かった。勿論夕立が付き添いである。

 

『雲』の行方を追っていたのだが、相変わらず痕跡すら見つからなかったらしい。名前通り、完全に()()()してしまったとのこと。『雲』の居場所がわからないということは、太陽の姫の居場所はもっとわからない。

 諜報部隊としての仕事でここに来ているのに、成果がまるで出せていないと神州丸さんは悔しそうにしていた。ここまで空振ることもなかなか無いらしく、そもそもの調査の方法から変えなくてはいけないのでは無いかと頭を捻っている。

 

「申し訳ないであります……昨日といい今日といい、こうまで姿を見せないとなると、増援がいるやも知れませぬ」

「増援かい?」

「ええ。我々の調査だけでは見えないとなると、あと足りないのは()()()()であります。潜水艦娘を派遣することを視野に入れようかと」

 

 今までは3人の海上艦の目で調査していたが、あまりにも見えないとなると、違う視点が必要になるかもしれないと考えたようだ。

 それが、この鎮守府にはいない潜水艦の目。普段使っているラジコンと比べると、格段に視野が広く速度も雲泥の差であり、意思を持つお陰で臨機応変に事が運べるという逸材である。

 

 なら最初から使えばいいのにと思うところではあるが、使わないのには当然理由がある。

 海底を本拠地としている深海棲艦の巣に真っ向から立ち向かうことになるのだから、危険度は海上艦の数倍。しかも、海上艦からも目の敵にされているかのように集中砲火を受けるらしく、熟練の技を持っていたとしても被害なく掻い潜るのは至難の技なのだそうだ。

 故に、なるべくギリギリまで出さないというのが、諜報部隊でも暗黙の了解となっているらしい。今回のような、皆目見当がつかないようなときに初めて、その手を借りると。一度の任務でのストレスが尋常では無いというのもある。

 

「ただの戦いでは無いからか。よし、ならまずは物部と相談してみるかい。諜報部隊のやり方にアタシみたいな素人が口を出すのはナンセンスだろう」

「ありがたいのであります。早速提督殿に連絡を」

 

 休憩もなく、神州丸さんは空城司令と執務室へ。残された随伴艦達は、各々艤装を下ろして休息に入る。今日の業務はこれで終わりになるだろうし、張り詰めていたものが切れたくらいのダラダラである。

 

「あ、ゲロ姉じゃん。身体は大丈夫なん?」

「うん……まあまあかな……」

 

 今の話を聞きにきた私に気付いたようで、秋雲が早速絡みに来た。この段階から、秋雲が私の悪行を全く気にしていないことが窺えた。鎮守府の外の人間なのに、鎮守府の仲間達と同じ態度である。

 秋雲のコミュニケーション能力が振り切れているからこれで済んでいる気がしてならないが、艤装姉妹といえど本来は許容出来ないくらいのやらかしだ。何があってもいいように覚悟だけはしておく。

 

「この前の戦闘はなんかゴメンよ。改二になって戦力も上がってるはずなのに、何の役にも立たなかったや。何なのさあの『雲』とかいう奴。結局誰も一発も当てれなくてさぁ」

 

 相変わらず、こちらの心境をしっかり理解しての話し方である。私自身のことには触れず、あの時の戦いには触れる。

 

「アレはちゃんと分析しないとなぁ。あの戦闘は全部()()()()()()()()()()から、『雲』のやり方はじっくり見た方がいいね」

「ろ、録画……してたのアレ……」

「そりゃあね。今回は会敵した時からどんなものか記録しておきたかったから、一部始終青葉さんが録画してるよ。360度、目が届かないところまで全部」

 

 言っていることは間違っていない。未知の深海棲艦なのだから、もし戦うことになったら、交戦するにしても撤退するにしても全てを記録するべきだ。秋雲のイラストでもいいのだが、実際に動いている映像があれば尚いい。

 結果、青葉さんは艤装にそういうシステムを仕込んでいたそうだ。偵察機にもカメラを仕込み、戦場の全てを記録していたわけだ。

 

 つまり、私が変化するその時も、私が磯波や夕立に分霊した瞬間も、悪行の全てが記録されている。

 

「私の……アレも……」

「あー、うん、そりゃ画角に入っちゃってるからねぇ。敵にはそういう力があるっていう証拠にもなるし、深海棲艦の資料としては必要不可欠なモノになっちゃった」

 

 みんなの記憶の中だけではなく、知らない人にも知られることになってしまった。そりゃ必要なのはわかる。太陽の姫撃破のためには、分霊の危険性を知ることが一番大事だ。最悪、戦闘中に分霊されて敵対する可能性だってあるのだから。

 太陽の姫の脅威は私達の鎮守府だけではない。それこそ太陽の姫の巫女はどれだけいるかもわからない。『雲』だけではない可能性だってあるのだ。それがここだけではない全世界に分かれているかもしれない。

 それを知るためには、今回の戦闘の資料を全鎮守府に送る必要がある。こんな深海棲艦がいるという事実を知らしめなくてはいけない。

 

「……見ず知らずの人にも……私の悪行が……」

「ゲロ様、だから悪行じゃないっぽい。ああなったのは太陽の姫のせいだから」

「そうだよー。ゲロ姉は被害者of被害者っしょ。周りから孤立させられるために組み立てられてる気がするくらいだし。秋雲さんもあれは同情しかないもんよ」

 

 秋雲すら苦笑しか出来ないようである。それだけあの時の私は酷かったと言える。

 

「プライバシーのこともあるから、青葉さんが上手いこと編集してくれると思うよ。うちらはゲロ姉が完全な被害者ってわかってるけど、他の鎮守府の連中はどうかわからないからさ。特定されるのは避けなくちゃ」

「……私、後遺症が外見に出てるんだけど」

「そ、そこはさ、染めるなり何なりしてもらうってことで」

 

 そうしてもらえるのはありがたいのだが、世に出回るという時点で頭を抱える案件である。私もそうだが、磯波も卒倒しかねない。体調不良が余計に悪化しそうだ。

 ちなみに磯波はその件をまだ知らないらしい。話すべきなのだが、体調が戻った後の方がいいと思う。

 

「だっちゃんもちゃんと隠しておくから安心して。確か外に顔は見せたくないんだよね」

「ぽい。何かの間違いで外に出たら嫌だし」

「了解。青葉さんにちゃんと言っておく。万が一の時にも誰が当事者になっちゃったかってのはわからないようにしてもらうって。というかそもそも外に出たら重罪だから。秘匿事項の漏洩だからね。コンプライアンス的に首が飛ぶレベル」

 

 鎮守府内で留まっていなくてはいけない内容なのだから、情報漏洩なんてしようものなら大惨事だ。私が艦娘になるまで鎮守府の内情を知らなかったくらいなのだから、それが当たり前のこと。外に電話をかける時に監視が置かれるくらいだし。

 

「とはいえ、普通の人間だって変えられちゃうっていうのがわかってんだよなぁ。オブラートに包んで、名前も出さず、そういう事実があるってことだけは公表するかもしれない」

「……だよね。一般人にも脅威になっちゃうし」

「そうそう。そうすればさ、襲撃受けてるのに写真撮ってSNSに上げようなんていうアホはいなくなるでしょ。いや、自分も深海棲艦にしてくれーとかいう新興宗教とか出てきそうだなぁ。うわ、難しい問題だぁ」

 

 本当に扱いが難しい案件だ。世間が知るべきか知らざるべきか。それを選択するのは私達ではなく大本営なわけだが、もし公表するとしたら、その代表例が私になってしまうのが怖い。顔も名前も隠されているとしても、何かの間違いでバレてしまう可能性も無いとは言えないし。

 

「とにかく、ゲロ姉に悪いことにならないようにする。約束する。悪いことになったら木の下に埋めて貰っても構わないよ」

「……あはは、何それ。それだけ自信がある約束ってこと?」

「勿論。漫画家の秋雲さんも、マスコミの青葉さんも、人のプライバシーは守ると決めてるのさ。艦娘は守護者かもしれないけど、諜報部隊の使命は艦娘を護ることにもあるんだよ」

 

 自信ありげなドヤ顔。任せろと言わんばかりである。これまでの言動から冗談のようにも聞こえたが、今回ばかりは信じてほしいと目から感じた。

 

「……わかった。太陽の姫撃破に役立つなら……使って。顔も名前も絶対隠すっていう条件で」

「ゲロ様がそう言うなら、夕立も許すっぽい。でも、何かあったらグモアキ殺すからね」

「うっす、任せてほしいっす! 死にたくないっす!」

 

 態度はおちゃらけているが、諜報部隊としての誇りを感じる。なら信用するしかあるまい。それを疑うのは誇りを傷付けるとか以前に、仲間として信用していないことに繋がってしまう。それは良くない。

 

「それに、あの映像は絶対流出出来ないっすわ。あれは性癖歪む」

「……秋雲?」

「何でもねーです。秋雲さんはお風呂にドボーンしてきまーす」

 

 最後に不穏な言葉を残していきやがったが、まぁ休息はしなくちゃいけないのはわかっているので追わない。夕立も制御しておいた。

 

 

 

 私のやらかしは全鎮守府にばら撒かれることがほぼ確定した。特定されないにしても、それは少し怖いことだった。

 




世間に公表するかどうかっていうのはなかなかの問題でしょう。陽炎や磯波のプライバシーもあるけど、それ以上に一般市民がどう考えるかが読めない。
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