異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
諜報部隊が全力を挙げて調査をしているのだが、太陽の姫と『雲』の行方は未だにわからず。私、陽炎が復帰するまでの2日間では、その痕跡すら見えなかったそうだ。
そこで考えられたのが、より海中を見ることが出来る、潜水艦の目の導入である。いろいろと手段を使って海中の確認をしているものの、潜水艦にはどうしても敵わないのが海上艦だ。深海棲艦の巣は海中にあるのだから、ここまで苦戦しているのなら潜水艦を使わざるを得なかった。
その件は朝食の後に朝礼という形で全員に通達される。昨日のうちに物部司令への連絡を終え、トントン拍子に事が運んでいったらしい。こういうところは迅速に。
「今頃向かっているだろう。潜水艦を使った調査は明日の朝からとする。諜報部隊は、今日のうちは到着した子達についてもらうよ」
「了解であります」
鎮守府に出向してから、まだ一度も休息の時間を得られていない諜報部隊は、本日お休み。来るという潜水艦の迎え入れとともに、これまでの調査内容の説明などをする時間となる。それはまぁ仕事といえば仕事か。
その潜水艦を連れてくるのは物部司令ご本人ということで、青葉さんが戦場で録画していたという『雲』、並びに私達の深海棲艦への変化の瞬間を見せることにもなるそうだ。正直なところ、心が痛い。
「あとは哨戒任務でいい。訓練は今日もやめておくれよ。工廠の修復が完了するのは今日中の予定だからね」
あれだけ破壊した工廠が明日には復旧しているというのが驚きであるが、整備班と工廠妖精さんが総出になって作業しているらしく、特に妖精さんの不思議な力が作業時間を大幅に短縮しているとのこと。そうだとしても3日とは。
「じゃあ解散だ。明日からは通常に戻す。好きに過ごしな」
今回の朝礼はこれでおしまい。だが、解散後に私達だけは司令に残される。そのメンバーは、異端児駆逐艦でしかもあの時の被害者3人ととてもわかりやすい。
「あー、陽炎。さっきも話したが、あの時の戦闘の映像が物部の手に渡ることになった」
「うん……秋雲から聞いた」
「なら話は早いね。当然だが、絶対に身元が割れないようにさせるから安心しておくれ。物部はそういうところは守ってくれる」
諜報部隊は艦娘を護ることが使命だと秋雲が言っていた。その長たる物部司令もその信念を持ってくれているだろう。むしろ、物部司令がそうするように諜報部隊を教育しているかもしれない。空城司令もその辺りは信用出来ると言ってくれるのだから、私達が信用しないわけにはいかない。
「その映像も、ここで見ることになるだろう。便乗するかい?」
「……そう、だね。その方がいいかも。言い方悪いけど、無修正でだよね」
「そりゃあそうなるだろう。上に見せるときはある程度修正を入れるだろうがね」
顔を知らないわけでは無いのだから、本当に見ず知らずの相手に見られるよりはマシだとは思う。抵抗が無いとは言わないが。
「夕立、磯波、アンタ達は大丈夫かい」
「ぽい。夕立は別に問題無いっぽい」
「……私は……いえ、私も……その場にいさせてください」
夕立はともかく、磯波は大分勇気を振り絞ったことだろう。自分の悪行を第三者視点で見る挙句、それを他の者が見ている光景を見るというのは、複雑な感情が入り交じるのも当然。
あとはまず見る人が信用出来るかどうかを、自分の目で確かめておきたいというのもあると思う。物部司令は私としても一度顔を合わせたくらいで、その時に倒れてしまったので帰投も見届けられなかった。念のため。誠実な人であるとは思うが、念のため。
その後お昼前くらい、朝礼で伝えられていた物部司令がやってくる。それなりに時間がかかってしまうのは仕方ないこと。この鎮守府から遠い鎮守府で活動しているのだし、朝イチに出てこの時間というのも理解出来る。
このまま映像を確認する可能性もあるため、大人数ではあるが被害者3人総出でお出迎え。会議室で待っていてもいいのだが、夕立が出迎えると言い出したのでこんなことに。
「お世話になっています。諜報部隊はどうですか」
「敵が敵だからね、苦戦しているよ。神州丸が悔しがっていた」
「そうですか……今回はそれほどの相手ということですね」
司令同士が話している間に、後ろから女の子が2人。おおよそ私達と同い年くらいに見えるその子達は、
諜報部隊の一員であり、海中の目。海上は一切考えず、海の中を全て支配するもの。ある意味
「増員として今回から加わってもらうことになります。潜水艦の……」
「伊号潜水艦、伊14! 呼びづらいと思うから、イヨでいいよ?」
磯波破裂。名前の語呂合わせの部分じゃなく、多分その後。完全に不意打ちを喰らっていた。
そういうところで笑えるのなら、磯波は少しだけ前向きになれたように思えた。いつも俯いているより、笑っていた方が前向きになれる。
「で、こっちはイヨの姉貴」
「伊13……ヒトミと呼んでください」
物静かな姉の
顔はそっくりでもあらゆる場所が違うので、ぱっと見でもどっちがどっちかわかりやすい。黙っている状態で後ろ姿だと判断が難しいというくらいか。
「ご覧の通り、2人は実の姉妹です。今回は難関と聞いていますし、2人がかりで、かつ連携が最も得意な2人を連れてきました」
「そいつは助かる。だが、危険な作戦だ。それに『雲』は駆逐艦、対潜もあり得る。大丈夫かい」
太陽の姫はおろか、その巫女たる『雲』すらも全容が掴めていない状態だ。その情報を手に入れるために来てもらったわけだが、おそらく今まででも一番と言える程の難易度になるだろう。
そもそもが海上艦よりも危険度が高いのが潜水艦だ。今回はさらに危険。被害なく掻い潜るのも至難の技というのに、今回はより死が近い戦場だろう。
「んー、イヨは大丈夫。死ななきゃいいし」
「私も……大丈夫です。必ず生きて帰りますので……」
まぁ同意が無ければここには来ていないだろう。イヨはニコニコしているし、ヒトミは問題なさげに首を縦に振る。2人とも戦場に出ることに全く抵抗が無い。何処か危ういような、だが自信はたっぷりというような、不思議な感覚がする2人だった。
空城司令への挨拶も済んだということで、すぐにイヨは私の方に顔を向けてきた。これだけの人数が出迎えに来ていたら、気になりもするだろう。
「もしかして、この人達が?」
「深海棲艦にされて……人間に戻ったっていう……」
すごいジロジロ見られている。物珍しさなら他の追随を許さないのが私達の存在であろう。今から動画でそれを見てもらうわけだが、内容については先んじて情報が行っているのは覚悟をしていた。そうでなければ今回の件は説明が出来ないし。
人間が深海棲艦になり、そして死を経由して人間に戻る。そんなの目の前で見ないと信じられないようなことだ。だから私達に興味津々なのだろう。
「さっき言った通り、イヨだよ。よろしくね」
「ヒトミ……よろしく」
「うん、よろしく」
2人揃って握手を求められた。全く同じタイミングで。ひとまず2人とも手を握っておく。
まるで合わせ鏡のような2人。利き手も逆みたいだし、動きも性格も綺麗に真反対。でも外見は殆ど同じ。
「そこで笑い転げてるのは」
「気にしないで。物凄くツボが浅いだけだから」
何かに気付いたのか、未だ少し引きずっている磯波にコソッと近付くイヨ。耳元でボソッと
「イヨでいいよぉ?」
再起爆。磯波はその場で蹲ってプルプル震えているだけになってしまった。また腹筋が鍛えられてしまう。
磯波の様子を見てニコニコしているイヨをヒトミが後ろから引っ張り寄せると、頭を思い切り引っ叩いた。流石姉、物静かでも妹の管理はしっかりしている。
「話を進めましょうか。空城大将」
「ああ、戯れあっていても進まないからね。神州丸達が会議室で準備をしてくれているから、そちらに来てもらうよ」
「了解です。ヒトミ、イヨ、行くよ」
まさか出迎えだけで磯波がやられるとは思わなかった。とはいえ、空気が緩んだのは間違いない。取っ付きづらかったらどうしようかとは思っていたが、今ので大体のキャラはわかった。とりあえずイヨには気を付けよう。
会議室で今回の件を大まかに説明。延々と調査を掻い潜り続けている敵という今までに無いタイプの敵ということで、お調子者なイヨも真剣に話を聞いている。
この任務は少しの気の緩みでそのまま命を奪られる可能性すらある危険なものだ。慢心なんてしていられない。自信がなさ過ぎるのも良くないが。
「なるほどねぇ……確かに海の中を隈なく探さないとまずいかも。神州丸さん達で全然見つからないんでしょ?」
「尻尾を掴むことも出来ぬ」
「じゃあ巣で隠れてること確定だよね。なんで隠れてるかは知らないけど」
姿を現さないのにも何かしら理由があるかも知れないというのはあるが、深い意味が無い可能性もある。力を溜めているとかもあるかもしれないし、活動出来る時間が限られているなんてこともあるのかもしれない。
太陽の姫はオカルトのような存在だ。相手が太陽だからということで、月の名を冠する初月のインナーを使ったら魂の匂いが抑え込めたりしたわけだし、そういうところに当て嵌めたら意外と足取りが掴めるのかも。
「探してるのって、当然お昼だけだよね」
「うむ。夜は我々の目では辛いものがある。それに、
「だよねぇ。前にチラッと見たって言ってたのもお昼だったよね」
意外にも打ち合わせではどんどん切り込んでくるイヨ。さっきの態度は何処へやら、任務に対しては真摯に向き合っているようだ。
「……『雲』が表にいる限り……日は見えない……?」
「あー、姉貴の言う通りかも。オカルトが罷り通るなら、そういう概念的なモノが正解なのかも」
ボソッとヒトミが呟いたのも真に迫るような発言だ。それが正しいかはさておき、今までの状況からして、そうやって考えるのも間違っていないかもしれない。
考えられる理由は全て並べ立て、それをローラー作戦で全部潰すのが良さそうである。短期間で何処までやれるかはわからないが。
「で、これが『雲』ですぅ。短時間でしたが、少しだけ編集しておきましたよぉ。顔は隠せてなくて申し訳ないですが」
ここで例の動画がついに出される。磯波の身体が強張るのがわかった。私も震えてしまう。この動画を見て、私達のことをどう思うのだろう。
青葉さんがノートPCを取り出して、全員の前でそれを見せる。確かにあの酷い戦場の光景。『雲』もハッキリ映っている。私が言うのもなんだが、あのインチキ回避方法も動画として見えた。弾を擦り抜けるように回避している様は、第三者視点からしてみればとんでもない。
「うわ、何これ。そういうとこまで雲なの?」
「擦り抜けてる……」
これにはイヨとヒトミも目を丸くしていた。海上艦の戦い方というのはあまり自分達には通用しないとはいえ、理解しておくことでより戦いやすくする。だがこれは理解が出来ない。使っている私ですら理解出来ていない。
「とりあえずこれは一度置いておこう。で、こっちなんだけど……」
動画は進み、私達の問題のシーン。少し遠目な画角とはいえ、変わり果てる瞬間から陥れる瞬間まで、一部始終が記録されていた。
改めて見ても酷い。それに生々しい。磯波は目を背けてしまっているし、夕立は拳を強く握り締めている。そして私は、歯を食いしばっていた。そうでもしないと泣き出してしまいそうだった。
「……なるほどねぇ。これ、もう誰も安全じゃないのかな。いや、なんか1人だけ弾いてたみたいだけど」
「沖波は分霊が効かないみたいなんだ。やった私だからわかる」
これは私にしかわからない感覚。説明は私にしか出来ないし、説明する責任がある。
M型異端児には分霊が効かないのではないかという予想を、その時の考察まで踏まえてしっかりと伝えておいた。
「あり得るね。なるほど、深海に選ばれたD型と、世界に選ばれたM型か。仮説としても理に適っている。だが、何があるかわからないから気をつけるに越したことは無いね」
M型だから絶対効かないなんて保証は何処にも無いのだから、結局のところ気をつけるべき。D型は特に。異端児でなくても分霊は施されるのだから、結局のところ全員が気をつける必要がある。
「姉貴、どうしたの?」
「……ううん、なんでもない」
何やらモジモジしているヒトミ。これは触れないことにする。秋雲の昨日の言葉を思い出しつつ。この映像でヒトミを少し歪めてしまったのではないかと危惧した。
「もうちょい分析してから対策考えますよ。せっかく動画があるんですしね。特に『雲』の回避は陽炎さんも使えますし、明日からは陽炎さん引っ張りだこですねぇ」
「……ん、頑張るよ。訓練してる方が気が紛れるだろうしね」
『雲』対策は私が相手する方がいいだろう。どれだけ時間があるかはわからないが、出来ることはやっておくべき。
潜水艦のイヨとヒトミが合流したことで、戦いはより苛烈になっていく。
今回の潜水艦枠、双子の姉妹伊13と伊14。艤装の配置からして、ヒトミが右利き、イヨが左利きという想定です。性格も含めて鏡合わせの双子。