異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
諜報部隊に新たなメンバー、潜水艦の
私、陽炎はその間に、脱力回避を用いて鎮守府の仲間達との演習に勤しむことになりそうだった。『雲』と同じ技を使えるというだけで、あれへの対策が学べるという具合。そもそも木曾さんからも私の強化訓練の打診をされているし、ちょうどいいかもしれない。
それに、訓練をしていれば嫌なことは忘れられそうだった。楽しいことや、一生懸命になれることをしていれば、思考は全てそちらに向く。余計なことは考えない。少しでも心を落ち着けるためにも、そういうところに熱心になるのもいいと思う。罪悪感はまだ一向に消えないが。
「午後からは自由に過ごしてくれればいい。諜報部隊は明日からはこき使わせてもらうからね。物部、アンタはどうするんだい。昼飯くらいなら食っていけばいいと思うが」
「ではお言葉に甘えて、昼食を戴いた後に帰投します」
「ああ、そうすればいい」
物部司令は、ヒトミとイヨの送迎と現状把握のために来たようなもの。事が済んだらすぐに鎮守府に戻る方針。
以前の呉内司令が少し鎮守府に滞在するということをしていたが、物部司令は立ち位置が少し違うようで、鎮守府を長く空けることは極力避けているらしい。諜報部隊ならではの規律というのがあるのかもしれない。
そして午後、食事後。今日は鎮守府が全体的にお休みに近かった。哨戒任務も少数で行われ、訓練もなし。工廠からはいつも以上に大きな音がするものの、それは修復作業のためだ。それも佳境に入っているということで、今日中に修復完了し、明日から通常運用となる。
私は自分がやらかした工廠が修復されているところを見に来ていた。あれだけやってしまったが、本当に修復が殆ど終わっている。それに加担してしまった磯波も私と一緒におり、9割は元に戻った工廠を眺めて少しだけ俯いた。
「……良かったね。ここまで直って」
「うん……私も大分やっちゃったから……」
乱射だけで言うなら、私よりも磯波の方が激しかった。この鎮守府をしがらみと考えたことにより、変貌した性格から何もかも破壊するという手段に出てしまっている。
この破壊は私と磯波と『雲』がやったことではあるが、おそらく半分近くは磯波の手によるもの。落ち込んでしまっても仕方ない。
「あれ、直ってきたからかな、新しい艤装があるよ」
「潜水艦の子達のもの……なのかな」
その工廠には、潜水艦の艤装も運び込まれていた。とはいえ、私達の考える艤装とは全く違う形状。というか艤装とも思えないものである。
そこには搬入のためにヒトミとイヨもいたわけだが、午前中に見た姿とはまるで違うものになっていた。
「鎮守府で待機ってことは、ちゃんと着てなくちゃいけないよね?」
「まぁ、そうなるねぇ。寒くは無いかい」
「だいじょーぶだいじょーぶイヨ達慣れてるから」
「慣れとかじゃ無いだろうに」
空城司令がそう言うのも無理はない。潜水艦の艤装は私達のように身体の外部に装備する武装の他に、その制服、
ヒトミはその上に羽織るものを着ているが、イヨはお構いなし。素足はまずいとスリッパは履いているが、それだけ。見ているだけでちょっと寒そう。
「イヨちゃん……身体は頑丈だから……」
「そうそう、生まれてこの方風邪なんて引いたことないからね! いぇい!」
「……おバカだからじゃないかな」
ヒトミがイヨに聞こえるか聞こえないかくらいの声で毒を吐いた。この姉妹はそういう関係性なのだと思う。妹に苦労させられる姉。でもさっきの感じで考えるのなら、姉の方に力関係が偏っているイメージ。
「今日から……よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。工廠はあまり近付かないようにするんだよ」
「はい……気を付けます。イヨちゃん、わかった?」
「はーい。流石に作業中のところには近付かないよ」
素肌見えすぎだし、それが賢明。ヒトミだって羽織ってるとはいえ生脚曝け出しているようなものだし、何かあったら怪我をしてしまう。工廠の作業中なら尚更だ。近付かなければそれが避けられるなら、そちらを優先していただきたい。
「諜報部隊は全員休みだ。好きにしてくれて構わないよ」
「じゃあ姉貴、いろいろ見て回ろうよ。少しの間ここで暮らすんだしさ」
「そう……だね」
数日はここで活動してもらうのだから、少しでも早く慣れておいた方がいいだろう。午後の時間があれば、一通り慣れることが出来るはずだ。今は哨戒任務に出ている部隊以外は全員鎮守府に待機しているくらいだし、鎮守府の中を回れば、おそらく全員と話が出来るだろう。
「じゃあ陽炎さん達に案内してもらっていい?」
私達が見ていたことに気付いていたように、イヨが突然こちらを向いてニッコリ笑った。ヒトミもその後ろから会釈している。
「は、わ、私!?」
「手近だったし、ダメかな」
ジリジリとにじり寄ってくるイヨ。ヒトミも2人で回るよりは案内役がいてくれると嬉しいという意思を感じる視線。空城司令はちょうど良いとニヤッと笑った。
罪悪感の払拭のために交流を深めていくのはとても良いことであるのはわかる。しかし、精神的に私から行くのはまだ怖い。磯波は尚更である。
「……磯波は大丈夫?」
「私は……私は、少しでも前向きになりたいから……大丈夫」
お互いまだ積極的に人に関わることに恐怖心を持ってしまっているが、こういう機会に率先して前に進んでいく方がいいだろう。それでストレスを感じて倒れてしまったら元も子もないのだが。
「オッケー。私達が案内するよ」
「やった! じゃあ早速行こう行こう!」
イヨに無理矢理手を引かれそうになった瞬間、ヒトミがイヨの首根っこを掴む。ギリギリと音が聞こえそうなくらいに力強く引っ張り、私から引き剥がされるように離れていった。
「イヨちゃん……あまり迷惑かけないの」
「いだだだだ! 姉貴、力強い!」
「陽炎さん……磯波さん……案内、よろしくお願いします……」
悲鳴を上げるイヨのことなどどこ吹く風か、ニコリと微笑むヒトミ。その光景を見て、私も磯波も気が緩んだように笑いが溢れた。
何というか、姉は強し。
その後は2人を案内するためにいろいろと歩き回った。その度に誰かしらと出会い、雑談して次の場所へというパターンに。鎮守府もそこまで広い場所では無いため、すぐに誰かと顔を合わせる。
みんなこの休日を有意義に過ごしているようで、例えば沖波は天城さんや青葉さんと資料室で読書をしていたり、夕立は萩風と秋雲を連れて海防艦の子供達と遊んでいたりした。
そこに行っては適当に話をして、イヨが調子に乗りかけたところをヒトミが止めるというのが定番の流れとなっており、それによりみんなが笑顔になっていく。隼鷹さんと会った時にお酒がどうこう言い出した時は、ヒトミが全力で引っ叩いていたが、それはそれで笑いにはなった。
「これで全員と会ったかな?」
「多分ね」
イヨに引っ張られる形で鎮守府内を全部回ったことで、今鎮守府にいる艦娘とは全員顔を合わせたと思う。そしてその度に、水着で出歩いて大丈夫かと心配されたり苦笑されたり。潜水艦慣れしていない私達の鎮守府だからこその反応に、イヨ自身も苦笑するほどである。
これだけ延々と動き回っていると、磯波はちょっと疲れが顔に出るほどになっている。そんな中でもイヨはピンピンしていた。ヒトミは磯波と同様に疲れが若干見える。
「いやぁ、子供体力すごいね」
「あの子達も鍛え上げられてるからね」
体育とかそういうわけではなく、普通にお遊びでやっていた海防艦達の鬼ごっこ。ここ最近は夕立でもそれなりに苦戦する程にまで仕上がっている。
そこにイヨも飛び入りで参加したのだが、手も足も出なかった。ヒトミに関しては追いつくことも出来なかった。あれに関してはもう年齢差とか関係ない。慣れの問題だろう。
「うちの鎮守府、海防艦いないからね」
「そうなんだ」
「諜報部隊には……向いていないから」
子供に調査を任せるというのは無謀か。目立たず情報を得て、確実に生きて帰るというのが諜報部隊の絶対条件だ。年端も行かない子供には荷が重すぎる。
「で、どうだった? 陽炎さんも磯波さんも、みんなとしっかり交流出来たっしょ?」
ニッコリ笑って鋭い一撃。私も磯波も硬直してしまった。
「なーんかそんな感じしたんだよね。あの動画見た辺りからさ、何ていうの、周りに遠慮してる感じっていうか」
「……負い目を感じてる」
今日ここに来たばかりの2人に、心境を見透かされている。
実際、この案内の時間でみんなと話をすることが出来た。罪悪感はあれど、ああなる前と同じように話が出来たと思う。
罪悪感、負い目は私達だけが持っているものであり、仲間達は誰も私達のことを恨んでもいないし軽蔑もしていない。だから普通に接してくれる。一方的に私達が怖がっているだけ。
「イヨ達、そういうの感じ取るの得意なんだよね」
「これでも諜報部隊……ですから」
周囲に意識を張り巡らせて些細なことも気付いていくのが諜報部隊。海中で仕事中の時だけとは限らず、普段からそうでもおかしくない。いわゆる
さらには、海中は私達海上艦以上に神経が鋭敏になる漆黒の世界。普段からそういうところに敏感になっていてもおかしくはないか。心を読むようなことまでしてきたのは驚きだが。
「……私達は工廠をああした張本人だから」
「うん、動画見たから知ってる。でも、それってやらされてたんじゃないの?」
「でも、壊すって選択をしたのは私達だから。居場所を失くされる辛さは誰よりも知ってるはずなのに」
磯波は言葉も無く、俯くことしか出来なかった。罪悪感は簡単には消えない。
「じゃあさ、陽炎さんのそれが悪いことで、陽炎さんに罪があるとしてさ」
今日来たばかりだからか、なかなかのことを言ってくる。みんなは私達に罪は無いと言ってくれているが、私達の悪行を罪として突きつけてくるのは初めてのこと。正直、心臓に悪い。
だが、次の言葉で殴られたかのような衝撃を受ける。
「みんながそれ許してくれてるのにウジウジするのって、
許してくれると言っているのに許されないと思っているのは、仲間達の優しさを無下にしているのではないかと突きつけてきた。
心の何処かで無意識のうちに、みんなが私に対して怒りを抱いているのではと考えてしまっていたのだろう。あれだけ罪は無いと言われているのに、罪悪感に苛まれているせいで。
「……そうかも……しれないね」
「自分が良くないってのはわかるけど、せめて仲間くらい信用してみない? それが戦場では死活問題になったりするんだから。それに、そんだけ罪悪感あるんだったら、反省だってしてるんだし」
ヒトミも首を縦に振っていた。
おそらくこの2人は私よりも長く艦娘をやっている。ここまでやってくるのに、いろいろな経験をしてきただろう。その上でのこの言葉だ。
「なーんて、来たばっかのイヨがなに説教じみたことしてんだか。イヨは陽炎さん達と仲良くしたいよ? ね、姉貴?」
「……勿論。せっかく仲間になれたんだから……仲良くしてほしいです」
ニカッと笑うイヨと、その一歩後ろで微笑むヒトミ。ここのことをまだ何も知らない2人だが、その言葉には妙な重みがあった。
潜水艦という艦種である以上、危険な任務に出ることが多い。明日からの任務は最上級である。だから仲間達と深く繋がろうとするのかもしれない。明日死ぬかもしれないから、今を楽しむために。
「……眩しいねぇアンタ達」
「光の双子とはイヨ達のことさぁ。眩しかろう眩しかろう」
「あはは、何それ」
2人のおかげで、今までよりもさらに立ち直れたかもしれない。罪悪感が晴れることは無いが、みんなが許してくれているのだから、罪悪感に足止めされていては失礼だ。
新たに加わった2人は、私達には大きな影響を与える者だった。自ら光の双子なんて言い出したが、本当にそうかもしれない。冗談だったとしても、光明になってくれたのは間違いないのだから。
潜水艦の諜報部隊なのだから、些細なことにも勘付く力を持っていそうだよねっていう2人。イヨは夕立タイプの天才な気はする。