異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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脱力のその先

 翌日、松輪抱き枕により心地よい眠りから目覚めた私、陽炎。久しぶりの海防艦部屋での就寝は、思った以上に癒しとなった。便乗した沖波も、充分以上に癒されたようである。ストレスが解消されたかのようにツヤツヤしている、多分私、陽炎もだ。

 またお願いと伝えると、松輪は満面の笑みで応えてくれる。占守と大東もそれを望んでいたため、定期的に使わせてもらいたいと思う。深海棲艦経験のある者は海防艦による癒しが必要だと思う。

 

「なんかすごくグッスリ寝られたよね」

「ホント助かるよ。沖波は大丈夫だった? 悪ガキ2人に絡まれてなかった?」

「占守ちゃんも大東ちゃんもちょっとやんちゃだけど、そこまで酷くは無いよ? あれくらいだったら孤児院にもいたでしょ」

 

 確かに。歳下の男の子とかはやんちゃ坊主が多かった。既視感がある。

 

「昔を思い出すから気持ちよく寝られたのかな」

「かもしれないね。今の陽炎ちゃんには癒しが必要だもんね」

「いやそれマジだよ。癒されまくり」

 

 一昨日や昨日に比べれば、自分でも笑顔が戻ってきている気がしている。会話をしていてもそんなに辛くない。

 みんなが優しく接してくれるし、ヒトミとイヨとの会話で光が見えた。そして最後の安定としての首元の自爆装置。これはまぁ本当に念のための物なのでアクセサリーみたいなものだが。

 

「今日からは訓練かな」

「だね。陽炎ちゃんは『雲』対策訓練のキーパーソンになるからね」

 

 今日からは訓練にも参加することになるだろう。『雲』と同じ回避方法を扱えるため、戦場に赴くであろう者達は私でその動きの対策を訓練する必要が出てくる。私がみんなの力になれるのなら嬉しいことだ。私自身の訓練にもなるし。

 そのため、諜報部隊の調査についていくことは無さそう。行きたいのは山々だが、私は少し控えた方がいい部分もある。太陽の姫や『雲』を発見出来たとして、そこで私が悪影響を受けないとは限らない。最終的には戦場に出るとは思うが、今は心の準備が必要だ。戦い方がちゃんと決まったら、しっかり対策を積んで出向きたい。

 

「沖波も訓練?」

「どうだろ、私は安全ってわかってるから、諜報部隊の調査に行くことになるかも」

 

 沖波には分霊が効かないということが実証されている。そこから、M型異端児は優先的に諜報部隊の護衛に入ることになるのではなかろうか。該当するのは沖波、衣笠さん、そして松輪。松輪は流石にそこに行くことは無いと思うが、潜水艦が多いようなら松輪も駆り出されるかもしれない。状況による。

 それだって確定とは限らないのだから慎重に行ってもらいたい。2回の分霊を回避したのだから大丈夫だとは思うが、それでもだ。それこそ、M型異端児対策というのをあちらが積んできていたら困る。出来るかはさておき。

 

「気を付けてよね。沖波は」

「最後の砦、だよね。わかってる。私はいろいろ背負ってるからね、陽炎ちゃんを置いて死ぬわけにはいかないよ」

 

 沖波は私の心の支え、私を殺してくれた恩人だ。二度とそんな選択をさせたくないし、勿論失いたくない。

 

 

 

 朝食後、潜水艦を加えた諜報部隊は早速任務のために出撃。工廠の修復が完了しているため、随伴部隊もしっかり1部隊投入。予想通り、沖波と衣笠さんはM型異端児だからという理由で優先的に駆り出されていた。

 調査して何かしらの結果が得られた場合、その場で戦うことなく撤退を選択するとも聞いている。そのまま戦えるのなら戦うが、対策をしない限りまた『雲』に翻弄される羽目になるだろう。まだあの回避に対して当てられる者がいないのも事実である。

 

「で、調査してくれている間に、陽炎を使って部隊の強化だ。頼んだぜ」

「了解。私ももっと強くなりたいし」

 

 そして、その対策の訓練が今から執り行われる。木曾さんが主導となり、私が相手として、仲間達と戦うことになるようだ。優先順位的には、異端児では無い仲間達が訓練を受ける。

 夕立は早くやりたいと駄々を捏ねたが、D型異端児であり、かつ一度私の手によって深海棲艦化している経験もあるため、優先順位は最下位にされていた。夕立だって、再び分霊されるようなことがあればまたあちら側に傾いてしまうだろう。夕立のことだから、そんなことにならないように対策だってしているだろうし、そもそも成長著しい。

 

 基本この訓練は1対1。その状態で一定以上の戦いが出来るのなら、仲間がいればその分勝率が上がるだろう。故に、団体を相手にすることは今のところ考えられてはいない。

 

「で、最初の訓練相手なんだが、駆逐艦には駆逐艦をぶつけることが多いことから考えてコイツだ」

「よろしくね、陽炎ちゃん」

 

 そしてその相手というのが、五月雨である。この鎮守府における、真の最古参。五月雨はこの鎮守府のことを全て見てきている。そのため、夕立すら手玉に取られる時があるほどの熟練者だ。

 しかし、長くこの鎮守府で戦ってきたとしても、『雲』のそれは想定外中の想定外。私もそれが出来るわけだが、そんな戦い方はまずあり得ないところにあるため、いくら五月雨でも対応出来ない。それをどうにかするために、率先してこの訓練に参加してきた。ひとえに、経験を得るためである。

 

「うわ、早速強キャラ」

「え、私ってそう思われてるの!?」

「そりゃそうでしょ。私、五月雨に演習で勝てた試し無いと思うんだけど」

 

 そう、それだけ強いのだ。天性の才能で動く夕立は考えないとしても、今までの経験を全て活かして立ち向かってくるため、どんな動きをしても先読みというか予想通りに動いてしまっていることになるらしい。そして結果的にボコられる。

 今回は演習でも私は全力で戦う。脚への負担も私のために作られた初月インナーのおかげで軽減されているため、ある程度は連続使用が出来るはずだ。休憩を挟ませてくれれば、今日一日は何とかする。

 

「でも、今日は負けない」

「私も負けないよ! お互い、全力で!」

「ちゃんとそれダミーの弾だよね。うっかり実弾とか無いよね」

「命に関わるドジはしないから!」

 

 普段はドジっ子で、特に食事時にヒヤヒヤさせられる五月雨だが、戦場では違う。凛とした表情と的確な動きで、私達を助けてくれる大先輩である。

 今回はあちらの強化のために私が使われるのだが、私としては胸を借りるつもりで全力で立ち向かおう。脱力回避を使っても五月雨には勝てるかわからないし。

 

 

 

 いつも通りある程度の距離を取った後に演習開始。今回は脱力回避の研究のための演習だからか、いつもよりもギャラリーは多い。駄々を捏ねた夕立も、真剣な目でこちらを眺めていることが確認出来た。

 

「またお願いね」

 

 なんだか久しぶりに装備する艤装に声掛け。この艤装のおかげで私は戦えていたのに、あの時だけは自ら生み出した艤装に浮気してしまった。そんな私がまた相棒と名乗るのは烏滸がましいかもしれないが、この子がいないと私は進むことが出来ない。だから、頼らせてほしい。

 もう太陽の姫の巫女としての私はいないが、それでもついてきてもらいたかった。今までは従わせるなり何なりと酷使させていたが、今日からは共存でいい。従えなんて言わない。手伝ってもらいたい。

 

「じゃあ、行こう。背中は任せた」

 

 五月雨からの砲撃が戦闘の始まり。まだ距離があるため脱力回避は必要ないのだが、やけに嫌な位置を狙ってくる。回避先を見越した連射や、進むことを躊躇させる手前への砲撃など、性格とは真反対な嫌らしい攻撃だ。

 これが今までの経験から生み出された戦法。最古参の力。

 

「進むよ!」

 

 あちらもいろいろ試してくるのだと思う。下を狙われたら脱力回避はしづらいというのもあるし、先んじて回避先が無くなれば無意識下での移動で直撃する可能性もある。

 だが、私だって成長しているのだ。一度間違った道を進んでしまったが、それだって経験。

 

 萩風がわざわざ深海棲艦時代の技を使おうとしていたのだから、私だってそれに倣ってもいいだろう。ならば、あの時に編み出した技、木曾さんもそこを訓練しようと言っていた脱力回避の()()()を使う。

 五月雨には大分近付いているため、牽制の砲撃ではなく私自身を狙う砲撃を繰り出してくるだろう。そのタイミングが勝負。

 

「来た……!」

 

 両サイドを撃ち抜いた瞬間に私狙いの砲撃が繰り出された。横への回避方向を潰しつつ、直進もさせない最善の一撃。だがそれは、私以外にだ。

 

 ここで脱力。完全に力を抜いた瞬間、身体は無意識に動き出す。さらに前へ、陽炎の如く。

 

「うわっ!?」

 

 五月雨の小さな悲鳴。逃げ場を失わされた私だが、その全てを潜り抜けて前進し、五月雨の眼前まで来ていた。速度は私が出来る限りの最大。艤装も私に応えてくれている。いや、むしろああなる前よりも精度が高いレベルだった。

 もしかして、私の艤装が前の艤装を()()()()()()のだろうか。自分の方が私にうまく使われるんだぞという意思表示にすら思えた。意思は無いのだが意思表示とはこれ如何に。

 

「蹴りはしないけど撃つよ!」

 

 木曾さんに決めてしまったあの蹴りは、ほとんど不意打ちの状態でスピードを乗せた一撃のため、ガードさせる時間も与えずにダメージを与える。演習で弾がダミーだったとしても、関係なく相手にダメージを当ててしまう。最悪死ぬまであるので演習では使えない。

 だが、直前で止まって即座に撃つなら関係無い。回避する時間すら与えずに渾身の一撃を放つことで、五月雨の腹に直撃を狙った。

 

「ちょっ、待って!?」

 

 しかし、紙一重で回避。今までの経験から回避方向を選択してギリギリ躱してきた。

 

 ならばと、回避など関係無しに脱力。五月雨の回避方向に向かって突撃。身体はなく体当たりならまだ酷いダメージにはならないだろう。ダメージをもっと軽減するために、強く抱きしめるような体当たり。

 

「うわっ!?」

 

 脱力回避を連続で繰り出すというのは、私の脚に大きな負荷をかけるのだが、ありがたいことにまだ大丈夫。初月インナーのサポーター効果もあるだろうし、艤装が少し手加減してくれたのかもしれない。

 ともあれ、これで五月雨の動きは完全に封じた。本来ならこれでゼロ距離射撃や、渾身の格闘戦に入るのだろうが、演習故にここで終了。もう艦娘としての戦い方からは逸脱しているような気がするが、こんなことを艦娘が言っては何だが『勝てば官軍』である。ズルいことをしているわけでも無し、文句を言われることもない。

 

「なんとかなるもんだね」

「いやいやいや、これは避けられないよ。いきなり目の前だよ!?」

 

 五月雨でもこの反応。そういえば、脱力回避をまともに仲間の前で披露することってそんなに無かったか。()()()は考えないとして。

 

「と、とりあえずどいてもらえる?」

「ああ、そうだね。ごめんごめん」

 

 ずっと抱き締めているのもアレなので、五月雨を引き起こしつつ自分も立ち上がる。

 

「本当に見えなかった。ゆらっと揺れた感じ……かな。名前通り、陽炎というか蜃気楼みたいになったというか」

「『雲』も似たようなものだから、訓練にはちょうどいいかもね」

 

 五月雨からのお墨付きも貰えたため、『雲』対策の訓練としては完璧かもしれない。あの時は回避しかしてこなかった『雲』も、今の私のように攻撃に転じてくる可能性は高いわけで、私が出来ることは全部やれるようにして、さらにはそれをみんなに共有しておくべきである。

 

「じゃあ、私は1回これでおしまい。次の人に交代するね。陽炎ちゃん、脚は大丈夫?」

「そう、だね。まだ大丈夫。さすが初月インナー、これくらいならまだガタが来ないよ」

「なら、まだまだ演習出来るね。あはは、人気者だ」

 

 笑顔で手を振り五月雨は次の人へと交代。

 人気者と言われると若干引け目を感じるが、やはりみんなが私のことを許してくれており信用してくれていることを実感出来た。より前向きになるには充分な材料となってくれる。

 

 

 

 これ以降も取っ替え引っ替えされながら私は演習を続けていく。脚にガタが来そうになったら少し休憩し、また演習をと繰り返すことで、仲間も私も洗練していくのだ。

 

 それがまた楽しく感じた。やっぱり、周りを壊したり陥れたりするより、仲間達と切磋琢磨する方が楽しい。もっとこれを続けていきたい。

 




脱力回避のその先をマスターすることで、最古参の五月雨をも越える力を手に入れたことになります。ですが、今回の訓練はその対策をみんなに考えてもらうこと。結果的に、陽炎は負けるまでやらされるということに。
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