異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午前中の訓練は終了。私、陽炎は延々と脱力回避による演習を繰り返すことにより、みんなの『雲』対策に貢献し続けた。途中、脚がガタついてきたら休憩し、マッサージなどで回復。そしてまた訓練。自分でも酷使しているとわかるほどである。訓練終了時のお風呂が染み渡るように感じたのは久しぶりかもしれない。
初月インナーのサポーター効果は絶大だった。あれだけやっていたら疲労骨折してもおかしくないという速吸さんからのお達しがあり、合間合間のケアがあるから午前中耐えられただけではとまで。
そう考えると『雲』は自分の身体を酷使せずに同じようなことをしていたわけで、あの雲のクッションの性能が高すぎるのではと感じる。そうで無くても使える辺り、やはり『雲』は難敵だ。
「ぶー、ゲロ様に1発も当てられなかったっぽい」
「私も……」
食堂で昼食中、膨れっ面の夕立と、苦笑気味な磯波。萩風はまだそちらの訓練には参加していなかったが、2人の様子から何があったのかは理解した様子。
夕立相手にも何度かやったが、今回は圧勝させてもらった。忠誠心とかそういうところは関係無しに真正面から突っ込んでくる戦闘狂の夕立であるが、以前以上に洗練されてきた脱力回避でどうにか返り討ちに出来た。
磯波もいろいろ考えて立ち向かってきたが、若干躊躇を感じた。主砲を連射するという行為が、
「午後もやるからね! 次は1発は当てるから!」
「うん、受けて立つよ。私も強くなりたいからね」
切磋琢磨してお互いに強くなっていくのがベストだ。今の状態で当てられるのなら、当てられないように私が強くなる。それで当たらなくなったのなら、仲間達は当てられるように強くなる。いい循環だ。
「間宮さんと伊良湖さんに聞けば何かわかるっぽい?」
「わかったとしてもアレは再現出来ないでしょ」
「……ぽい」
間宮さんと伊良湖さんも食堂に復帰している。私達のせいで酷い目に遭わせてしまっているのはとても申し訳なく、勿論しっかり謝らせてもらった。笑って許してくれた辺り、本当に頼れるお姉さんである。
私達を止めてくれた2人に何か参考になることを聞きたかったが、少なくとも今は忙しそうなので聞くことは出来ないだろうし、もし聞けたとしてもそれを自分の身体でやれるかと言われればNOである。間宮さんの超精密射撃も、伊良湖さんの超高速戦闘も、まともに出来るのは当人だけだろう。
「自分なりの方法を考えていくしかないよね……私も頑張ってみる」
「ぽい。ソナーも絶対ゲロ様に膝つかせようね」
「うん、そうしたら……あの『雲』にも手が届くもんね」
2人がやる気満々のようで何より。挫けないというのはそれだけで才能だろう。
「そういえば……諜報部隊は今頃どうしてるんでしょう」
不意に萩風が話題に出す。いつもの異端児駆逐艦の中で、沖波だけがそちらに参加中の、今一番重要な任務である調査任務のことだ。
午前中から出て行っているが、場所が場所だけに帰ってくるのは夕暮くらいになるだろう。ヒトミとイヨが加わったことで、調査の効率が格段に上がっているが故に、あちらでも時間をかけて念入りに調査しているのでは無かろうか。
こちらからあちらの近況がわかるのは司令達だけ。余程のことがあれば、すぐに私達にも伝えられるだろう。何も無いということは、あちらは順調と考えればいい。まだ何も掴めていないという可能性が高いのが残念だが。
「今のところはいいも悪いも何も無いんじゃないかな」
「そう……ですよね。今は慌てず騒がず待っているべきですよね」
「そうだよ。何かあったら必ず連絡してくれるはずだからさ」
不安になるのも仕方ないことだ。今探しているのはラスボスの本拠地。私はともかく、萩風だって『雲』から分霊を受けて駆逐水鬼にされていたわけで、ある意味因縁の相手だ。その行方が早く見つかってほしいと思うのは自明の理。
だが焦りは禁物。当事者でない私達が焦るなんて以ての外。今やれること、『雲』対策の訓練を続けていくのが最優先だ。
午後も訓練が続く。午前中と同じように脚がガタつくまで訓練しては休息でマッサージしてもらうというのを繰り返した。
艦娘という身体のおかげで、こんな負荷が激しい動きをしていても、それが成長に繋がるから凄まじい。普通の人間なら間違いなく脚を壊しているだろう。
「今日はこれくらいにしておくか。陽炎も大分疲れが溜まってるだろ」
「うん……そうしておく。ふくらはぎとかパンパンだよ」
木曾さんに言われて訓練はここで終わる。訓練参加者は全員大分疲れた顔をしていたが、私はそれに輪をかけて疲労を感じていた。
たびたびマッサージをしてもらい、お昼にはお風呂に入っているとはいえ、丸一日脚に負担をかけ続けていたのだ。痛くは無いのだが、熱を持ってしまっているようだった。むくんでいるのが触らずともわかる。
「いつもはグッチャグチャだが、今日は綺麗なもんだな」
「全部躱したもん。代償がこの脚のむくみなんだから」
訓練を実施したものの中で、私が一番綺麗な状態。ダミーの弾を使っているが、いくつか掠った程度で直撃は無し。脱力回避も板についてきたというもの。
代わりに他の仲間達がそれなりに汚れていた。回避してからの超高速移動で突撃し、即座に急所を狙った砲撃を繰り出し続けていたおかげで、私以外は思った以上にドロドロ。ちなみに木曾さんも御多分に洩れずだが、疲れで言うのならまだマシというくらい。
「陽炎的には、誰が一番苦戦したよ」
「木曾さん。断然木曾さん」
殆ど無傷で訓練を終わることが出来たが、一番手が届くところまで来ていたのは、この訓練をやろうと言い出した木曾さんだった。やはり接近戦が出来るというのはそれだけでも大きく違う。
木曾さんは、私の突撃を細部まで予測していた。それでも当てられたのは、私自身が脚の負担を顧みずにフェイントなどを入れるようにし始めたことが理由だろう。相手の想像しない動きをすることで、脚を少し止めることができる。
「避けられるけど、接近戦の方が避けにくいって印象かな。やっぱり小さいものの方が潜りやすいし」
『雲』も同じかどうかはわからないが、少なくとも私はそう感じた。『雲』はあの戦いの時に加古さんの突撃も回避していたが、幾分か面倒だったのだと思う。
「休憩してから研究だな。陽炎の感じたことを全部教えてくれ」
「ん、了解」
私の感じたことが『雲』攻略に役に立つというのなら、全部話すことにしよう。少し毒っぽくなるかもしれないが、心を鬼にして全部言う。
この中では新人も同然の私が、五月雨のような最古参まで含めて指導するなんて考えたことも無かった。相談とか対等な状態ではなく、本当に私が上に立っての話だ。それはそれでなかなか緊張するものである。
「お、諜報部隊も帰ってきたな」
訓練が終わったタイミングで、調査任務に出ていた部隊も帰投。時間的には少し早いかというくらい。
しかし、思っていたよりも大変なことになっていた。どう見ても怪我人がいることが遠目でもわかる。黒煙が上がるほどでは無いのだが、明らかに普通の調査よりも消耗していた。初めて南方棲戦姫と戦った時よりも酷いことになっている。
「おいおい、ありゃえらいことになってんぞ」
「向こうで戦ったってことだよね……早く入渠してもらわなくちゃ」
私達も消耗はしているが、所詮は訓練での消耗だ。ダメージらしいダメージも無いし、お風呂は欲しいがあちらが優先されるべきだ。
帰投した部隊のうち、入渠が必要と判断されたのは青葉さんと衣笠さん、そして沖波。命に別状はない怪我ではあるものの、後を引きそうなものだったため、すぐに治療を開始。
「潜水艦達が海底で何かを発見したところで、激しい襲撃を受けたのであります。戦艦の姫級が2体同時に現れ、さらにはレ級も現れたのであります」
「さすがにその数が束で現れちゃ、ああなっても仕方ないか」
全員がある程度休憩が終わったところで、神州丸さんからの説明が始まる。
戦艦の姫だけでも相当面倒くさいというのに、それに加えてレ級まで現れたとなると、被害がアレだけで済んだだけでも良かったのでは。
「戦艦は今までの資料でもある戦艦棲姫でしょう。南方棲戦姫よりは下位でしょうが、複数体現れると苦戦する厄介なものであります」
「他にも細かいのがいっぱい出てきたね。秋雲さんは全部覚えてるから、後から資料に起こしとくー」
秋雲の瞬間記憶がここでも役に立ったようだ。それ以外にも、青葉さんがしっかり録画済みのようらしいので、艤装修復が完了次第、それで確認も可能。
「今回はギリギリだったねぇ。対潜もめっちゃくちゃだよアレ」
「……レ級は万能って聞いてたけど……アレはズルい」
イヨとヒトミはすぐに治る程度の怪我を負っていた。潜水艦としてあらゆる攻撃の的にされたようだが、何とか回避しきったらしい。その中でもレ級の対潜攻撃が非常に厄介だったらしく、命からがらといった感じでその場から撤退出来たようだ。
そもそも今回の戦いは、撃破まで行かずに撤退。戦闘の可能性を考えて万全な態勢で向かったとはいえ、予想以上の戦力を投入されたため、今回は撤退を選択したとのこと。命を大事にするべきなので、その選択は正解だとは思う。
「アンタ達は何を見つけたんだい」
「あ、そうだそうだ、そのことだ!」
イヨが大きな声を上げる。今回の調査の一番重要なところである。
「海の底で、
「……大分古いものだった……10年以上は前だと思う」
潜水艦の2人が言うには、南方棲戦姫の巣があった場所よりももっと陸から離れた場所、周囲に陸なんて見えないような場所で、
それが視界に入った途端、敵が溢れ出したという。どう考えてもその残骸が何かしらの影響を与えているとしか思えない。
「深海棲艦の巣ってのには、そういうものも使われるってのは聞いたことがある。うちの周りで現れたのでは、そういうものはなかなか見なかったと思うがね」
「そうですねぇ。不自然に凸凹してるとか、大きな穴が空いてるとかが基本ですね。深海棲艦に拠点を造る能力は無かったはずなので、そこにあるものを巣にするか、今言ったみたいに穴が空いているかのどちらかでした」
巣を破壊するための巨大な爆雷を取り扱っている夕張さんが言うのだから間違いない。
その穴に爆雷を放り込む形で完全に破壊するわけなのだが、今回は穴ではなく船の残骸。爆雷を使ったところで全てが破壊出来るかもわからなくなってきた。
「いつもの調査なら、その残骸を見つける前に襲撃を受けただろうね。潜水艦のおかげだ」
「役に立てたね! いぇい!」
「……私達の目が役に立てたのなら……幸いです」
確かに潜水艦がいてくれたことでそれを見つけることが出来た。もう少し細かく確認したいとも思うので、あと数回は調査任務に出てもらうことになるだろう。
その度にアレだけの部隊が来られると困るので、調査任務の部隊はより戦力的にも強めにする必要はあると思うが。
「よし、いい報告を受けた。今後のことに関してはまたこちらで決めたいと思う。明日、再出撃をしてもらうからね。今は休んでおくれ」
第一次調査任務はこれで終了。新たに加わった潜水艦の大戦果となった。
しかし、それが本陣なのではと思わせるような猛攻が始まったため、しっかりとした準備をしてから改めて調査をすることになる。私はおそらく参加はしないが、順調に事は進めているのではなかろうか。
戦いは佳境に入ったのかもしれない。これはこのままの勢いで進みたいものだ。
海底に沈んでいる船の残骸。これが何を意味するか。今の段階では巣っぽいですけど。