異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
私、陽炎が『雲』対策の演習相手を受け持ち、まずは菊月に突破された。私の成長にも役立つ助言までくれたので、ここからはより面倒な相手としてみんなの前に立ち塞がろうと思う。
その戦闘を見ていた者達は、それを参考に次々と私に立ち向かってくるが、菊月以外は今のところ苦戦はしているものの返り討ちにしている。しかし、五月雨相手だとかなりギリギリ、夕立も菊月のそれを見たことにより途端に強くなった。私は精神的にも疲労を感じるくらいに。
「さすがに疲れた……脚も痛いや」
「明日は休息がいいですね。マッサージとお風呂を重ねても、疲労はどうしても溜まってしまいますからね」
速吸さんに脚をマッサージしてもらっても疲れが取れないところまで来てしまった。昨日と今日で朝も昼も延々脱力回避をし続けたのだから、脚にガタが来てもおかしくないだろう。
よって、ここで司令には明日は休息ということにさせてもらい、また翌日から訓練ということにしてもらう。さすがに演習のしすぎで脚が折れるとか笑えない。
「大分熱を持っていますね。今日は夜に冷やして寝た方がいいかもしれません。いろいろ処置しておきましょう」
「はーい……ちょっと無理しすぎたなぁ」
「そうですね。2日でこれですから、ちゃんと休息はいるでしょうね。適切な処置をしておけば、明日には完治しますよ」
さすが艦娘。さすがに演習でガッツリ入渠というわけにはいかないが、お風呂に入ってちゃんと処置すれば、明日には治っているとのこと。ありがたい限りである。
歩くことが出来ないというわけではないのだが、疲れが溜まっているのはわかるので、まだ時間としては早いが少しフラつきながら休息に入ることにした。お風呂に入り、速吸さんにいろいろと処置してもらい、今日の残りの時間と明日は身体を休めることに専念しよう。
私がダウンしかけたということで演習そのものも終了。他の者も休息に入ることとなった。私を使った『雲』対策は少しずつでも進んでいる。とりあえず菊月は質問攻めに遭っていたのは言うまでもない。
その日の夕方、第二次調査任務に出ていた諜報部隊が帰投。昨日の第一次と同じように襲撃を受けたようで、編成を重くして行ったのが功を奏したらしい。見事撃退に成功したそうだが、そのままさらに調査とはいかなくなったようで、今回はそこで戻ってきたとのこと。
ちょうど速吸さんの処置も終わったところだったので、私も部隊の帰投を迎えに見に行ったのだが、被害が無いわけではなかった。
部隊の中心で戦っていた陸奥さんや霧島さんは艤装の破損や手傷を負っており、沖波はまた入渠が必要なほどの怪我を負っている程だ。昨日に引き続き今日も怪我を負うとか、沖波は少し運が無い。
そして一番重要な要員であるヒトミとイヨも、入渠した方が良さそうなくらいの怪我を負ってしまっていた。今回は昨日に増して対潜が酷かったらしい。余程あの場所にあるものが見られたくないのだろう。
「痛た……入渠お願いしまーす……」
「災難だったね。すぐにドックを使いな」
見た目だけで言えば、沖波の怪我は昨日よりも酷い。爆風に巻き込まれただけでは無く、艤装に至近弾を受けたことで生傷も見えた。血も流すほどの怪我は流石にすぐに入渠である。私も流石に触れられなかった。私がいることに気付いた沖波は、苦笑しつつ手を振って入渠に向かっていった。
陸奥さんと霧島さんは入渠した方がいいくらいかもしれなかったが、今向かった3人が終わるまでは待っておくとのこと。一晩使って治療するため、今は応急処置でいいと、他の者と一緒にお風呂へと向かった。
「……提督殿、少しご相談が」
「なんだい神州丸」
そんな中、隊長である神州丸さんだけが工廠に残っていた。今回の任務で気になることがあったらしい。少し神妙な表情をしていた。
「今回の襲撃、やけに
昨日も妙に自分に攻撃が集中したタイミングがあったと言っていたが、それは今日もあったらしい。しかも、それが他の者にもわかるくらいに苛烈なものとなると話が変わる。
別に沖波が今回の部隊の穴というわけではない。メンバーとしては順当に万能戦力として駆り出されたくらいだ。昨日も来ているからというのなら、秋雲だって狙われて然るべき。しかし、秋雲は戦場でよくある軽傷。沖波が一番酷かったのは間違いないのだ。
「我々には理由が皆目見当がつかず。あちらにそうされる理由を、提督殿は何か知りませぬか」
「今回のメンバーの中で、沖波だけが持っているもの、ということかい」
「ええ。何か思い当たることなどありませぬか」
強いて言うなら、沖波はメンバー内では貴重なM型異端児だ。今回の部隊にも衣笠さんと一緒に編成されたわけだが、その衣笠さんは狙われているわけではない。
ヒトミとイヨは潜水艦という特性上、狙われるのは仕方ないことだ。だが、沖波だけは本当に不明。
「……沖波だけ分霊が効かなかったくらいか」
「確かに。本艦もあの場にいたので覚えております。分霊が効かず、敵対することがありませんでしたな」
ドクンと鼓動が高鳴るような感覚。そうだ、沖波の特異性はそこだ。私が手ずから施そうとした分霊が2度も弾かれた。私の
『雲』はあの戦場にいたのだから、その現場を見ているはずだ。そこから沖波は
勝手な解釈だが、沖波は世界に選ばれた者なのだろうと考えている。M型異端児の特性として、人間を辞めないというものがあるのではないかという、司令もそれなりに納得はしてくれた仮説である。
M型異端児に近付かれることを嫌っているのだろうか。海底にあるという沈没船に、その理由があったりするのだろうか。今の段階ではさっぱりわからない。本人から説明してもらわない限り。
「とにかく、そんなに狙われるのなら一度部隊から外そう。危険を冒してまで出撃してもらうのはいいことじゃ無い」
「ですな。沖波殿にはこちらで『雲』対策の訓練をしていただきましょう」
狙われるのなら部隊から外れてもらった方がいいだろう。1回目より2回目の方が怪我が酷かったわけだし、3回目はさらに酷いことになるかもしれない。最悪な場合、死ぬまで狙われるまであり得る。
沖波を排除することがあちらの目的だというのなら、そうされないようにするためにも鎮守府で待機してもらった方がいい。神州丸さんが言うように、『雲』対策を学んだ方がいいだろう。まだ一度も訓練に参加出来ていないし。
「陽炎、脚の方は大丈夫かい」
「あ、うん、大丈夫。お風呂に入った後、速吸さんに念入りにマッサージしてもらったから」
それでもまだ疲れは取れ切れていないものの、大分良くはなっている。明日しっかり休めば、また昨日のように訓練が出来るだろう。明日を使えばまた私の脚の耐久性は成長していそうだし。
「陽炎殿、余裕があれば本艦が手合わせしましょう。陸での体捌きを学べば、きっと役に立つであります」
「うん、よろしくお願いします。私ももっと強くなった方が良さそうだからね。もう菊月に対策されちゃったし」
神州丸さんは『雲』の動きにいち早く対応出来た実績がある。陸ならば『雲』すらも打ち負かせる力は、教えてもらって損はない。神州丸さんにのみ与えられた特性かもしれないが、参考にはなるはずだ。
沖波が戻ってきたのは夕食の後、私達がお風呂も終わらせた後だった。今日は磯波のメンタルケアのために部屋に集まっているところに、今日やるべきことを全て終わらせた沖波が入ってきた。
「はぁ……またやられちゃったよ……」
昨日に引き続きということで少し落ち込んでしまっている沖波。2日連続の入渠は流石に気が滅入るか。
「なんか敵が沖波のこと集中狙いしてたって神州丸さんが言ってたよ」
「うん……入渠終わった時に司令官から聞いた」
沖波も戦闘中からそんな感じはしていたらしい。昨日はたまたまで済んだが、今日はそんなこと言っていられなくなった。
「オキ、なんか気に入らないことしちゃったっぽい?」
「分霊が効かなかったことだと思いますが……」
「あぁ……沖波ちゃんだけあちらの思い通りにならなかったから」
まぁそれが一番妥当だろう。思い通りにならないから集中狙いして殺しにかかるとか、傲慢な神もいたものである。いや、神なんてそんなものか。そもそも神でも無く、神を騙ってるただの深海棲艦なわけだが。
事実、神の如き力を持ってはいそうではあるものの、やっていることは侵略である。そんなもの神と認めて堪るか。
「だからかなぁ……次の調査任務からは一回外すって。向こうが私のこと狙ってるみたいだから」
「うん、私も聞いたよそれ。その間に沖波も『雲』対策の訓練だって」
「ん、了解。陽炎ちゃんと演習するんだよね」
これに関しては沖波も乗り気。あの『雲』を倒すための技能は誰にだって欲しいところである。
「M型異端児はみんなこうなのかな。私以外にもいるのに」
「『雲』の前で分霊が効かなかったところ見せたのは沖波だけでしょ。それが気に障ったんじゃないかな」
「うぅ、嫌だなぁそんな狙われ方」
今までは私を狙った行動が多かった敵陣営だが、今後は沖波を狙ってくると考えても良さそうだ。引き込むために狙われる私と違って、明確な殺意を持って狙われる沖波の方が悲惨だが。
なら、私達も出来る限り沖波を護らなくては。私がやらかしたことで特性が向こうにバレたわけだし、これは私にも責任がある。
「沖波は私達が護るから」
「夕立達に任せるっぽい!」
夕立もやる気満々。深海棲艦化の恨みを晴らすという目的はあるかもしれないが、他者を護ることが艦娘だ。そちらを優先するならば、沖波だって護る対象。敵を殲滅するより、沖波の命の方が大事。
それに、そういう心構えなんて関係なく、友達の命を護りたいと思うのは当然のこと。唯一深海棲艦化を知らない異端児駆逐艦ではあるが、だからこそ純粋なままでいてもらいたい。そもそも深海棲艦化の脅威は沖波には無さそうだが、それでも。
「死ぬって……本当に辛いことだから」
ボソリと磯波が呟いた。深海棲艦化を経験しているということは、元に戻るために死を経験しているということにもなる。勿論私も、泣き叫びたくなる程の死の恐怖を知っている。
本来ならその恐怖は人生で一度だけ知ることになり、それで終わりだ。だが、私達はその記憶も持ったまま今を生きているわけで、おそらくこの鎮守府にいる者の中でも特に死に対して敏感になってしまっているだろう。
「そうだよ。死ぬって本当に辛いんだよ。それに滅茶苦茶怖いんだから」
「あー、わかるっぽい。感覚が無くなっていって、心臓が止まっていくのがすごくわかるっぽい。夕立は親分に殺されてるから、内臓グチャグチャにされたし」
笑って話せることではないのだが、夕立のメンタルはどうなってるんだ。私も磯波も、萩風だってこれに関しては口を噤んでいるわけだし。
「とにかく、沖波は絶対に殺させないから」
「うん、お願いね。私も頑張るけど、1人の力ではどうにも出来ないかもだし」
磯波のメンタルケアのために集まっていたが、いつの間にか沖波が中心になっていた。少し下がる話題にはなったものの、磯波も普通に話せているのでメンタルケアにはなっていたか。友達とこうやって話すことは、それだけでも癒しになるというもの。
実際、私もこのメンバーなら強い罪悪感を感じずに話をすることが出来る。無論忘れているわけではない。表に出さないように話せるだけだ。それでも、ああなる前に戻れているような気がして、私のメンタルケアにもなっていると思えた。
「夕立達は異端児の駆逐隊だからね。仲間意識は他より高いっぽい! 勿論ハギィも一員だよ」
「私は補充要員ですけどね」
「萩風も大分鍛えられてるんだからさ、一緒に出撃しようね」
そう、私達は異端児駆逐隊。一緒に出撃することは最近稀ではあるが、仲間意識は高い。みんなで護り合い、切磋琢磨し、今の脅威を打ち払っていきたいところだ。
沖波が狙われるという事態にはなってしまったが、やることは変わらない。まずは強くなる。みんなを護れるくらいに強くなって、『雲』を、そして太陽の姫を討つのだ。
あちらの次のターゲットは沖波。陽炎の分霊が効かなかったことに、何か思うことがあるようです。世界に選ばれた者は気に入らないんでしょうかね。