異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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向けられた視線

 翌日。相変わらず悪夢は見ず、気持ちよく目覚めた私、陽炎。しかし、疲れがまだ全て取れたわけではないことがわかった。さんざん処置してもらった脚の方は痛みも何もなく完治したようなものだが、一晩眠っても少しだけ疲れが残っているように思える。

 限定的なオーバースペックを体現したことにより、3日間食堂を開くことが出来なかった間宮さんと伊良湖さんもこういうことなんだろうなと納得した。私もおそらく普通の艦娘で考えれば充分すぎるオーバースペックなのだ。だから、あまりに使い過ぎると疲れが1日では抜けない。2日騙し騙しやり続けていたようなものだし、こうなっても仕方ないこと。

 

「姉さん大丈夫ですか? なんだか動きがぎこちないですけど」

「あんまり大丈夫じゃないかも。なんか身体がギシギシ言ってるみたい。今日が休みで本当に良かったよ」

 

 着替えていてもそれが顕著。昨日より腕やら脚やらが上がらない。今日1日あればこれも治るとは思うが、こうまで消耗しているのは初めてかもしれない。これでは海防艦の子供達と遊ぶこともやめておいた方がいいだろう。

 休日なのだから、今日は出来る限り身体を休めることに努めよう。それこそお昼寝してもいいと思うし。多分目を瞑ればそのまま寝ていける。

 

「今日は夕立とソナーは哨戒任務っぽい。ゴメンねゲロ様」

「……陽炎様の側についていてあげたかったけど……」

「私は訓練です。皆さんを護れる力を得なくては」

 

 私の訓練が無いということで、休日では無い者は普通の1日になる。夕立と磯波は調査任務ではなく哨戒任務の方へ。萩風は少しでも強くなりたいと訓練に参加することになっている。

 今日1日は私に会えないからと、ここぞとばかりに私に抱きついて匂いを堪能しようとしているので、無理矢理引き剥がした。ただでさえうまく身体が動かないのだから、今は勘弁してほしい。磯波まで夕立と同じノリで参加しそうになったが、そこは萩風が食い止めてくれた。こうなってから磯波は自分を隠さなくなっている気がする。

 

「私はお休み、かな。2日連続で調査任務に出たし」

 

 そして沖波は、私と一緒にお休み。2日連続で入渠する羽目になったので、心身共に休息を言い渡されていた。悪い流れを無理矢理カットするための1日である。スポーツなどでもあるタイムアウトみたいなもの。

 

「沖波も今日はゆっくりしなよ」

「うん、そうする。甘いものでも食べて、まったりしようかな」

「それがいいよ。私も便乗するからさ」

 

 というわけで、今日はなんやかんやで沖波と一緒にいることになりそうだ。お互いに心身共に休息が必要になったと思うし。

 残された3人が恨めしそうに沖波を見ていたが、業務放棄は出来ないので諦めてもらうしかない。萩風までそれは良くないと思う。

 

 

 

 今日の鎮守府は少し静か。諜報部隊も今日は任務に出るわけではなく、鎮守府内で昨日までの調査内容を纏めているらしい。全員が司令としーちゃんと一緒に執務室に篭っている。秋雲曰く、おそらく午前中で終わるとのこと。午後からは何かしらに付き合わされるかもしれない。デッサンさせろとか言ってきてるし。

 午前中は本当にまったりすることにした。いつもなら資料室に読書しに行くとかだろうが、気分転換が必要ということで沖波を連れ出して散歩へ。インドア系かもしれないが、たまにはそういうのもやってみてはと誘ってみたら、割とノリ良くついてきてくれた。

 

「気分転換にはちょうどいいね」

「でしょ?」

 

 いつもの海も、見方を変えれば気分が変わる。普段はその上に立っているが、今日は遠目に眺めるだけ。

 他の鎮守府はどうか知らないが、少なくともうちの鎮守府は眺めがとても良い。こうしているだけでも心が落ち着いていくように思える。私はそうだが、沖波はどうだろうか。

 

 なんて考えていたら、ポツリポツリと沖波が話し始める。

 

「やっぱりさ、深海棲艦に狙われるっていうのは怖いよ。陽炎ちゃん、ずっとこんな感じだったんだね」

「狙われる……というのはそうだね。沖波とはベクトルが違うけど、下手したら今でも狙われてるよ」

 

 巫女にされてから元に戻れたが、今でもまだ私を狙っている可能性はある。こうなってからまだ出撃していないので敵の動向はわからないが、また私だけ避けて攻撃をしてくる可能性だってある。また私を巫女にしようと画策しているかもしれない。

 そう考えると、私と沖波では狙われる理由が正反対。自らのモノにするために狙われる私と、命を奪うために狙われる沖波。どちらかといえば沖波の方が危ない。

 

「なんで狙われるんだろうね。M型異端児に近付かれることが本当に気に入らないのかな」

「どうなんだろう……例の海域に入って、イヨちゃんが沈没船が視界に入ったって言った瞬間に物凄い量の敵が出てきたんだよ」

「やっぱり近付かれたくないんだろうね。沖波に」

 

 今のところは、そうとしか考えられない。他の理由があるにしても、皆目見当がつかない。

 仮に世界に選ばれた者という解釈が正解だった場合、それが本陣だか何かに近付いたことで、あちらの思惑が崩れる可能性があるということ。そうなるなら、M型異端児は全員がキーパーソンになり得る。

 

「出撃すると危ないけど、出撃した方が攻略しやすいんだよね……なんだか酷い立ち位置になった気がする」

「だね。昨日も言ったけど、私達が沖波をちゃんと護るからさ」

 

 私も護られる側に近いが、命を狙われているわけではないので、沖波の方が優先順位は高いだろう。というか、私の心の支えみたいなところもあるのだから、死んでもらっては困る。

 沖波は私を殺すという業をわざわざ背負ってくれたのだから、その恩を返すためにも、私は沖波に尽くしたいと思っている。幼馴染みなんだし、心を許し合った親友なのだから。

 

「でも、『雲』対策の訓練は容赦しないから」

「お手柔らかにされたら訓練にならないもんね。大丈夫、明日からは本気でお願い」

「言われずとも。本気でやらないと沖波にも失礼だからね」

 

 2人で笑い合った。今は脅威の真っ只中に置かれてしまったが、そういうのを取り払ってずっとこうして話していられる毎日を求める。

 

 だが、それを崩す視線を感じた。私にとっては久しぶりのそれは、どう考えても太陽の姫の視線である。以前ほど驚きはしないが、見られているというのはそれだけでも気分の良いものではない。

 強い、強い視線だ。そこに乗せられた感情は読み取ることが出来ないが、とにかくこちらをジッと見つめている。当然それが何処から来ているかはわからない。

 

「太陽の姫に見られてる」

「……うん、私にもわかった。誰かにジッと見られてるみたいな悪寒が走ったよ」

 

 今回は沖波も視線を感じたようだ。それだけあちらの視線には力があるということだろう。今までは私にのみ一点集中で視線を送っていたが、命を狙っている沖波にも視線を送るようになっていた。

 ただ見られているだけでも気分が悪くなるそれだ。2回目以降から慣れでどうにかなったが、初めてそれを受けた沖波は大丈夫だろうか。ストレスで倒れたりするかもしれない。

 

「沖波、大丈夫? ストレス感じない?」

「すごく感じる……陽炎ちゃんが倒れたのわかるかも」

 

 少し顔色が悪くなってきた沖波。私のときと同じように、そのまま倒れてしまう可能性もある。ここにいるのは得策では無い。

 

「部屋に戻ろうか。お構いなしかもしれないけど」

「うん、そうしよう……何かあっても嫌だし」

 

 どうせ倒れるなら部屋でと、その場から離れることにした。その間もずっと視線を感じ続けたが、私にはもう効かない。代わりに沖波はどんどん顔色が悪くなってきたので、肩を貸してでも部屋に戻ることに。

 心身共に休息という話だったのに、心身共に崩されてしまった。これだと沖波は明日も休息になるかもしれない。

 

 

 

 気分転換のつもりが、太陽の姫の視線のせいで悪い方向に行ってしまった。沖波は念のため部屋で横になってもらい、私が側で看病することに。少し熱っぽさもあるし、少し身体を休める必要はあっただろう。

 幸いなことに、悪夢を見るだとか目覚めの話とかがあるわけではないので、ただ単に体調不良ということになる。以前の私のように、気を失った挙句、目覚めた直後トイレに駆け込むようなことは無い。

 

「ゴメンね……突然」

「いいよいいよ。私もこうなったことあるんだしさ」

 

 鎮守府内に入ったことで視線は失われたものの、体調不良は尾を引くもの。経験をしているのだから、私にも今の沖波の辛さはわかる。

 この地味に辛い体調不良のときは、誰かが側にいてもらいたいものだ。いつもは私がしてもらっているのだから、今回は私が側にいる。

 

「……ふふ、なんだか孤児院の時を思い出すね」

「ああ、確かにね。沖波、来たばかりの時、結構体調崩してたもんね」

 

 それはもう7年近く前。私が孤児院にも充分に慣れて楽しく生活していた時のことだ。

 沖波が戦災孤児として孤児院に入院した頃、環境の違いでよく体調を崩していた。孤児院に長くいると、そういう子がそれなりにいることがわかる。沖波もその1人だった。

 同い年の孤児が沖波くらいしかいなかった時期なので、私は親身になって面倒を見ていた。せっかく家族になれたのだから、沖波にも慣れてもらいたいという一心で。

 

「子供にはすごいストレスだったんだよ」

「そりゃあねぇ。家族が死んで放り込まれたみたいなものだし」

 

 沖波も深海棲艦により両親を失っている。その時に怪我を負っていなかったため、失意のまま孤児院に入れられたというのが実情。心も開きづらいし、ストレスだって溜まる。別に身体が弱いというわけでは無かったのだが、子供心には負担が大きかったわけだ。

 私だって入院当初は複雑な気分だった。今でこそ両親がどう死んだかを思い出せているが、当時は完全に忘れていたため、実感すらわかなかったものだ。長いリハビリ生活の後だったし。

 

「最近いいことが無いなぁ……深海棲艦に狙われるし、2日連続で入渠する羽目になるし、トドメはこれだもん」

「あはは……災難だね」

「でも、これも陽炎ちゃんが通ってきた道みたいなものだし……もっと酷い目に遭ってるんだから、何も文句言えないや。言ったら失礼になっちゃう」

 

 私以外に通らなくてもいい道なので、バンバン文句を言えばいいと思う。沖波だってストレスを愚痴という形で喚き散らしてもいいのだから。

 沖波も磯波と同じように自分で抱え込んでしまいそうなタイプだ。言う時には言うが、聞かれないと言わないような、そんな感じ。

 

「これから巻き返せばいいよ。ひとまずは訓練で『雲』をボコってやらないとね。アレだって元人間の可能性があるわけだし、ちゃんと取り戻さないと」

「だね……明日から参加出来るように、今はしっかり休まなくちゃ」

 

 ここで疲れがピークに達したか、そのまま眠りについていった。そのままだと危ないと思い、眼鏡だけは外して所定の位置に置いておいてあげる。髪の色は少し違えど、眼鏡を外した沖波の顔は、私がよく知る孤児院時代の面影を残していた。

 

「お互い苦労するねぇ……おっきーも、好きでM型異端児になったわけじゃないでしょうに」

 

 D型異端児と同じで、M型異端児だって自分の意思でそうなったわけじゃないだろう。たまたま世界に選ばれた者と考えるのが一番妥当だ。それが沖波だっただけ。衣笠さんだって、松輪だってそうだろう。どのタイミングでどう選んだかは知らないが、人によってはありがた迷惑なのでは。D型異端児はもっとそれだが。誰が好き好んで深海棲艦に選ばれるというのだ。

 

「私が、私達がついてるからさ、今はゆっくり休みなよ、おっきー」

 

 眠る沖波の頭を少し撫でて、私も隣で眠ることにした。午前中の残りの時間はそういう形で使えばいい。せっかくの休日なのだから、好きに過ごそう。

 

 

 

 自分で掴み取ったわけではない、たまたま選ばれてしまった異端児の数奇な運命は、ここよりさらに加速する。

 




M型異端児にも苦悩があります。困ったことに、誰もこちらの都合なんて考えてくれないので。
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