異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
お昼時になると、ストレスから来た体調不良も治っていた沖波。私、陽炎も一緒にお昼寝に興じていたので、昨日から残っていた疲れは全て取れていた。やはり疲れには睡眠が一番の特効薬であると実感した。
その時には萩風が訓練を終えており、哨戒任務に出ていた夕立と磯波も帰投していた。哨戒任務は午後の部もあるので、昼食を食べた後にもう一度出撃ということになる。今はある意味休憩中。
「オキ、ゲロ様と寝てたの?」
「聞こえが悪い言い方しない。沖波が体調崩しちゃったんだよ。太陽の姫からの視線を受けて」
昼食中、沖波のことを話題にされた。私がやたらと気にかけていたことが気になったらしい。今でこそ治っているとしても、さっきまでは酷い体調不良に苛まれていたのだから、心配になるのは当たり前のこと。
「陽炎様だけでなく、沖波ちゃんにも来るようになったんだ……」
「みたい。正直、すごく困る」
沖波も苦笑しながら苦言を呈した。あれは本当に困る。一応鎮守府の中に入ってからは視線を感じることは無くなるが、外にいるときは全て見られているとなると、プライバシーも何もないことになってしまう。
神にプライバシーなんてお構いなしかもしれないが、私達としては気に入らない。元々撃破対象なのだから、こちらのやる気はその分漲るようなもの。
「萩風はどう? 戦い方、見つかった?」
「はい、幸いなことに、艤装の強化もしてもらえまして。アームの部分を強くしてもらったので、大分使えるようになってきました」
やりやすさを取り、駆逐水鬼の戦い方の模倣は続けているようだ。主砲を叩きつけるようなことはしないが、真下に向けて砲撃をした後に接近戦を仕掛ける少し雑な戦い方ではあるが、萩風はその方が戦えるようなので今は止めないことにする。
萩風自身、訓練に対してとても充実した表情を浮かべているため、そのままの勢いで鍛えてもらいたい。無茶だとわかったら絶対に止めるが。
「じゃあ、ハギィは今度夕立とやろっか」
「お、お手柔らかに……」
夕立は本当に容赦しないため、新たな戦法に慣れてきた萩風ですら、上から叩き潰してしまいかねない。手加減の方が失礼とは本人の談だが、自信を失わせるかもしれないのなら手加減も必要である。
そろそろ萩風も戦闘を目的とした任務に出撃することが出てくるだろう。その時は、私達もついていきたいものだ。
午後からは体調不良がぶり返さないように身体を休めることに注力する。外に出るとまた視線を受ける可能性があるため、鎮守府の中でまったり。私は2回目からは慣れたものだが、沖波はどうかはわからないし。朝に言っていた通り、甘い物を食べるために食堂でのんべんだらりとすることにした。疲れた時には甘い物。これは私達の定石。
そしてその場には、午前中は執務室に篭っていた諜報部隊の面々も合流。神州丸さんと青葉さんは別件でまだ司令のところだが、秋雲と潜水艦姉妹は食堂へ。資料を纏めるというのは頭を使う作業なわけで、肉体労働よりも甘い物が欲しくなると満場一致で返ってきた。気持ちはわかる。
「甘いものが脳にキくねぇ。秋雲さん、こういうの大好きさー」
「イヨもこういうの大好きー」
間宮さん謹製のアイスを食べて舌鼓を打つ秋雲とイヨ。ヒトミも無言でモフモフとそれはもう美味しそうに食べている。やはり見た目は私と同い年かそれより下。甘い物は大好物のご様子。
今この時も、私達は休日とはいえ待機状態。無論着ているのは制服だ。つまり、イヨもヒトミもスクール水着姿。ヒトミは上着を着ているとはいえ、まだ見慣れない。
「聞いたよオキちゃん、あっちから狙われてんだよね」
「みたいだね……ホント厄介だよ」
秋雲に問われ、愚痴る沖波。先程の体調不良もあり、太陽の姫への不満は昨日よりも増してしまっている。戦場で被弾するのは艦娘なのだから多少は割り切れるが、集中狙いは温厚でも苛つきが出てくるだろうし、そんな中で体調不良まで引き起こされたとなれば怒りも込み上がるというもの。
このストレスも甘い物で払拭しようと、沖波はちょっと多めに頼んでいる。アイスとモナカで精神的なコンディションアップ中。
「あっちの目的を知ってる人とかいないかな。何で沖波が狙われるのか。M型異端児だからってことだとは思うんだけど」
「M型だと何がダメか知りたいよねぇ。詳しい人がいればいいんだけど……」
と言いつつも、誰もが視線を同じ方に向けていく。その視線の先にいるのは長門さんである。ここは食堂なわけだし、勿論ここにいる。
今は昼食も終わって余裕があるからか食堂内の掃除をしていたのだが、私達の視線に気付いたようで、思い切り眉を顰めた。人付き合いは少しずつ出来るようにはなっているが、今回は嫌な予感がしたのだろう。
「な、なんだお前達、私に何か」
「知ってたらでいいんだけど、教えてもらいたいことがあって……正直聞きづらいところはあるんだけど」
その時点で長門さんは察していた。深海時代の時のことで聞きたいことがあるのだと。
「……話は聞こう。私で答えられることかはわからないが」
「こちらから振っておいて言うのはなんだけど、いいの?」
「私だって艦娘だし、あのお方は添い遂げるはずだった彼の仇と言ったろう。私には手が出せないが、お前達にやってもらえるのなら、力を貸すくらいはしたい」
やはりまだ忠誠心自体は抜け切っていない。最愛の者の仇であるという認識が出来るようになったことで、太陽の姫に対して敵対の意思を持つことは出来たようだが、それでも攻撃の意思が持てないようだ。未だに艤装の装備すらやっていない、艦娘であって艦娘ではない存在。
その代わりと、情報提供が出来るのならやってくれると言ってくれた。救出当初ならそこまでも出来なかっただろう。長門さんも着実に私達の一員へと進んでいっている。
「この前から沖波が急に狙われるようになったんだ。その理由、思いつくことないかな?」
長門さんもここの艦娘達の素性はおおよそ知っている。沖波がM型異端児であることだって当然。そこから、何かしら思いつくことがないかを聞いてみる。
この鎮守府にいる者の中で、一番太陽の姫について知っているのは長門さんだ。太陽の巫女の次に接することが多かったというのだから、何かしら話を聞いていてもおかしくはない。
「……沖波は
選ばれし者という表現はアレだが、おそらくM型異端児のことだろう。世界に選ばれているという予想はあながち間違っていないようである。
「その理由は?」
「いずれ自分への脅威になり得るからだと聞いた。詳細はわからない。私は巫女からの分霊、ある意味
M型異端児が脅威になり得るということはどういうことなのだろう。詳細は不明ではあるが、世界のご加護が邪神を祓ってくれたりするのだろうか。とにかく、太陽の姫は
「あのお方の言葉をそのまま言うのならば……『選バレシ者、我ガ障害トナラン。ソノ全テヲ滅セヨ』だ。私にその選ばれし者が誰かを判断する力は無かったのだがな」
本人がそう言っていたのなら間違いはないか。というか一言一句忘れていないとか、それだけ強すぎる忠誠心だったということだろうか。
「イヨからも質問。あの沈没船について何か知ってたりしない?」
今度はイヨから。長門さんとしては殆ど面識のない相手であるため、少しだけ抵抗を見せたものの、艦娘であり私達に協力してくれているのだから、それすなわち仲間として認識してもらうしかない。
イヨの振り切れているコミュ力で長門さんともすぐさま関係を持ちに行こうとするのは、正直凄いと思う。洞察力から、長門さんが嫌がらないであろうということもちゃんと理解した上での行動。
沈没船と聞いたことで、少し目を瞑って思考を巡らせる。今から7年の記憶を全て思い出そうとしているようだ。
しかし、しばらく考えた後、少し申し訳なさそうに目を開く。
「すまない、それは見たことが無い。私の巣からはそういったものは確認出来なかった」
「うーん、そっかぁ」
南方棲戦姫の巣までちょくちょく足を伸ばしていたようだが、自分の本陣には巫女と直属の配下である深海棲艦以外は寄せつけてもいないようだ。巫女の分霊のことをどう思っていたのかは知らないが、ある程度目をかけていた南方棲戦姫にもその場所を教えていないということは、余程秘密にしておきたいことがあるようだ。
それこそ、太陽の姫の弱点とか。そしてそれに対してM型異端児は何かしら効果的なのかもしれない。海上艦の時点で海底に沈むモノには触れられないのだが。
「やっぱりアレにはどうにかして近付いて、中を調査しなくちゃだよねぇ」
「……今までで一番大変」
諜報部隊の潜水艦でも難易度は極限まで高いと判断している。それはそうだろう。ようやく視認出来るくらいに近付いた瞬間に、とんでもない量の深海棲艦が出現するくらいなのだから。
太陽の姫とはいえ、本陣の防衛には並々ならぬ力を注いでいるようだ。そういうところは私達と同じ感性の持ち主らしい。
「結局、アレは一体何なんだろうね。巫女や分霊みたいに元人間なのかな」
「……私が思うに、あのお方はそういう次元ではない」
面識のある長門さんはそう語る。心酔していたということを無しにしても、太陽の姫は明らかにおかしな存在だと感じ取っていたらしい。それこそ、元人間の可能性が非常に高い『雲』とは比べ物にならない
なら何者なのだろうか。人間を変質させる大元だし、人間では無さそう。深海棲艦の原点とするのなら、それが何か。沈没船と繋がるのなら、単純に怨念とかの集合体とか。なんだか私も
「得体の知れない雰囲気、逆らえない程の威圧感、目が眩むほどの眩しさ、その全てが内包されているのがあのお方だ。こんなことを言ってはいけないが……
「おお……そこまで」
「対面したら、誰でもわかるだろう」
脅しているわけではなく事実を言っているのだろう。私は幼い頃に周りを散々破壊された状態で対面しているので、恐怖以外の何かを感じることは無かったが、今の状態で対面したらそういう感情が生まれてしまうかもしれない。
そんなこと起こらないように気は張っている。あくまでも奴は私の両親の仇。父さんは私が手をかけてしまったが、母さんは奴にやられているのだ。それだけでも充分に怒りの対象にはなっている。
「それでも戦うというのなら……心を強く持てとしか言えない。屈した私が言うのもアレだが」
「ううん、ありがとう。覚えておく。あんなのに屈したくないし」
「……そうだな、陽炎も愛する者を失っているからな。言い方は悪いが、恨みがあれば屈することは無いだろう」
嫌な回避方法ではあるが、あんなのに跪くよりはマシ。
「沖波……君も数奇な運命に巻き込まれてしまったようだな。だが、私達よりは明るい道のはずだ。屈せずに、前を向いて歩いてほしい」
「はい、大丈夫です。みんなが護ってくれると言ってくれたので、私は折れずにいられます」
既にここまでされている沖波だが、そういう軸があるのは嬉しいことだ。折れなければ戦える。そして、その沖波が太陽の姫打倒のキーパーソンになるというのなら、みんなでそれを支えていきたい。
私だって戦える。絶対に折れない。出来ないかもしれないが、私の手で決着をつけたいくらいだ。あの能面みたいな顔を叩き割ってやりたい。
「私にはこれくらいしかわからない。役に立てずすまないな」
「ううん、大丈夫。参考になったよ」
長門さんだって奴の真の目的などは知らなくて当然なのだ。話を聞けただけでも充分参考になった。M型異端児を全て排除していく姿勢でいることがわかったのもかなり大きい。
「それにしても……ながもんさんスタイルいいっすねぇ。デッサンさせてもらえないかなぁ」
「断る。私はそういうものは苦手だ」
「うーん残念! まぁ覚えたから後からさらさらっとイラストにしておこう」
「やめてくれ」
そんな時でも秋雲は自分を偽らない。それが空気を緩ませてくれる。
太陽の姫についてはまだ謎が多いのは確かだ。少しずつでも情報を手に入れたいところ。手っ取り早いのは『雲』を撃破することかもしれない。
長門も食堂手伝いが板についてきました。もしかしたら料理も少しずつ手をつけているかも。