異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
その日は何事もなく終了。哨戒任務でも何も無く、昨日一昨日にあった襲撃も、件の沈没船に近付いていないからか起きなかったようだ。あくまでもアレは本陣の防衛線であり、向こうからわざわざ向かってくることは今のところ無いのかもしれない。
だが、私を迎えに来るという名目で『雲』が直接鎮守府に来たこともあるので油断は出来ない。タイミングを見計らっている感じもする。
夕食後、全員が集まる場で今後のことを打ち合わせる。食堂に来ていない者はいないので都合がいい。
「大本営の方に今回の調査の件を報告した。物部にも全て伝わっている」
2日間で行われた2回の調査の結果は、全て上にも伝えられたとのこと。沈没船を見つけたことと、近付いた時点で猛烈な襲撃を受けたことが主な内容である。
始まりの襲撃の実行犯である太陽の姫の本陣と思われる場所だ。この場所の攻略は、今後の深海棲艦の侵攻に対する反撃の狼煙になる可能性だってあった。大本営も、この鎮守府の戦いには注目しているらしい。
「増援の方も現在申請中だ。本陣攻略には、我々だけでは足りない可能性が高い」
「ただでさえ戦艦の姫とレ級まで出てくるんだもの。言いたくないけど、私も手が足りないと思うわ」
陸奥さんがそう言うのだからそうなのだろう。実際にその戦闘に参加していたわけだし、その戦場の苛烈さは身に染みているはずだ。なるべく安全に帰投出来るようにするのなら、増援をお願いして戦力増強に勤しんだ方がいい。
問題点は特にレ級だ。下手をしたら戦艦の姫よりも厄介だと交戦した者達は話す。戦艦の姫がどういう相手なのかはわからないが、レ級の脅威は私も知っている。アレがいるというだけでも、戦場は相当混乱するのだ。
「うちに来てくれる連中は限られていそうだが、アイツらはまた来てくれるだろうね」
「呉内提督ですね」
私達にとって増援といえば、やはり呉内提督率いる外人部隊である。秘書艦アクィラさんを筆頭に高練度の方々が揃った重部隊は、南方棲戦姫の時からとても心強い仲間だ。私も久しぶりに会いたい。
その言葉を聞いて少し顔を歪めたのは長門さん。自分がやられるきっかけを作った者達なのだから、どうしても思うところが出てきてしまうだろう。あの時よりは精神的にも回復はしてきているものの、開き直り切ってはいないのだから仕方ない。
「……またあの子に絡まれるのか」
「いいじゃない霧ちゃん。ああいう友達も」
「私から演習は振ってるものね……」
サウスダコタさんのことを思い出して頭を抱える霧島さん。まぁまず絡まれるだろう。また演習をやると約束していたし。
それだけ騒がしい部隊ではあるが、それだからこそ私達も活力が溢れるというもの。いるだけで周囲を鼓舞するようなものだし、来てくれるのはとても嬉しい。
「明日とは言わないが、近日中に準備してくれるそうだ。それまではなるべく調査を進め、奴らへの対策を進めていく。陽炎の身体のことも考え、例の関連は隔日にした方がいいね」
「そうしてもらえると助かるかなー。今日は丸一日休んだし」
2日やって1日じっくり休むという方向でもいいのだが、ケアがちゃんとされているからそれで何とかなっているだけだ。今後も倒れる可能性が普通にあり得るのだから、必要なこととはいえ1日置きくらいがちょうどいい。
私も鍛えられているのはわかるが、それが実感出来る程になるまではその方向でお願いする。
「じゃあ、調査部隊はまたこちらで決めておく。明日もこの調子で頼むよ」
増援が決まったことは単純に嬉しいことだ。あれほど心強い仲間だし、今から再会が楽しみである。
そして翌日。調査部隊はいつも通り出撃。今回は少し遠回りをしてまた別の角度で確認するとのこと。そのため、少し陸寄りの航路を選んでいた。
その部隊が水平線の向こう側に消えた後、残されている者達も『雲』対策の訓練を開始する。私は勿論、仮想敵を演じるための訓練側だ。下半身強化と技の成長も見越した、みんなとは逆の訓練になる。
援軍を待っている間に、私達もさらなる強化が必要だ。頼り切るわけではなく、足りない部分を補ってもらうわけだし。並んで戦うためには切磋琢磨しなくてはいけない。とにかく、やれることはやろうということ。
「今日は、異端児全員集合って感じだね」
私が相手するのはM型もD型も勢揃いというなかなか見ない光景。天城さんはD型とはいえ、あちらの火力が高いが故にどうしても調査任務に参加することになってしまうが、それ以外は全員この場にいる状態。一番の新人となる萩風や、あまりこういう場には出てこない哨戒任務担当の衣笠さんもである。
M型異端児は太陽の姫に狙われるという情報が入った時点で、あの時は狙われていなかったとしても、衣笠さんが沖波のように狙われる可能性が非常に高い。それ故に、調査任務は異端児ではない面々で向かってもらうことに決まった。いざ戦闘となった場合はそんなこと言っていられないが、今はあくまでも調査だ。
「衣笠さんと萩風もこの訓練初めてだよね」
「何やってるかは知ってるよ。あの意味わからない動きを陽炎が再現してくれるんでしょ?」
「うん、そういうこと。私が完全再現出来てるかはわからないんだけどね」
萩風もそれくらいはわかっていると首を縦に振る。だが、初めてでいきなり戦うというわけにも行かないので、まずは他の者がやっているのを見学して勉強したいと申し出た。それくらいならいくらでもと、まずは見ることから始めてもらうことに。
やることは毎回同じだ。私も多少は頭を使うようにしているが、要は脱力回避により急接近し、一撃入れるのみ。その一撃が大概急所に当たるか、体当たりにより戦闘不能に持ち込むかのどちらか。
そして、一度演習が終わるごとに脚のストレッチ。連続使用は私が壊れてしまうため、これで時間の限り訓練を続けていく。ストレッチでもどうにもならなくなったら、待機してくれている速吸さんにマッサージをお願いする流れ。
「訓練の前に打ち合わせしたいっぽい!」
「私も……上手くいかないならみんなの意見がほしい……かな」
と、ここで夕立と磯波の発案で、一度ここにいる全員で対策会議をするとのこと。私はハブられることになるのだが、それでより強化されるのなら万々歳だ。
ここに私を唯一突破出来た菊月がいれば完璧なのだが、残念ながら今は調査部隊で出撃中だ。なので、今まで何度も訓練してきた者達の所感で進められていく。
私の弱点は菊月に既に露呈されているため、脱力の際に膝から力が抜けるタイミングを見計らって撃つ。それだけ。それが簡単に出来れば苦労はしないだろうが。
人間なのだからそういう癖があってもおかしくないのだが、より強力な脱力回避に辿り着くためには、これも出来ることなら乗り越えたい。
少しして、その打ち合わせも終わったようだ。今だけ私がアウェーだが、どんなことをしてくるかは楽しみ。
「よーし、じゃあ今日は夕立からっぽい!」
「はいはい、私もいろいろと試してみたいからね。よろしく頼むよ」
脱力の仕方を変えられるかどうかのテストみたいなものだ。私だって新しい動きを取り入れていきたい。菊月に突破されたのなら、その菊月にまた勝てるようにならねばならないし。
「それじゃあ、早速……ッ!?」
演習を始めようとした瞬間、昨日に引き続き強烈な視線を感じた。それは沖波も同じようで、私と同時にその視線の方へと顔を向ける。勿論その方向には誰もいない。ただ水平線が広がるだけだ。
「ゲロ様、どしたの?」
「また太陽の姫に見られてる。沖波も」
「うん……見られてるよコレ……」
この視線を受けるのも2度目だからか、幸いにもいきなり体調を崩すということは無かった。この威嚇されているような感覚は慣れることが出来ないが、それで倒れなければまだマシ。
少し気になることがあった。私と沖波の視線の先は、先程調査部隊が向かった方向とは若干違う方向。今回は沈没船に真っ直ぐ向かったわけでは無いため、そういうこともあるかもしれないが。
「本陣から見てきてるのかな」
「方向的には……多分」
沈没船付近まで行ったことがある沖波としては、視線の向きはその方向に近いと思えるらしい。私も指でそれを伝えたら、衣笠さんもおそらくと同意してくれる。
もう鎮守府の外に出たら私達は見られるということで間違いはなさそうだ。あちらの注目は私以上に沖波な気はするが。
「見られてるだけならまだマシだけどさ。あんまり手の内晒したくないよね」
「ぽい。勝ち目が薄くなるのはちょっと嫌だ」
「でも……訓練しないわけにはいかないし……」
とはいえやらなければ成長出来ない。やるためには外に出る必要がある。線引きが難しいところ。というか、今までの訓練が見られていないとは限らないのだ。私達に視線が集中していないだけで。
なら、あまり気にしないで訓練をした方がいいとは思う。やらないとどうにもならないし。
「もし今攻めてこられたら、ダミーの弾だから迎撃出来ないんだよなぁ」
以前訓練中に潜水艦隊が攻め込んできた時があったが、その時は当てどころなどを工夫してダミーの爆雷でも撃退は出来た。だが、それは潜水艦相手だから出来ただけであり、もし『雲』が攻め込んできたとしたら撃退はまず無理。実弾でも当たらないものが、当たってもダメージにならないものではさらに不可能。
「一回司令に相談してみる?」
「それがいいかも。視線を感じながらの訓練は今まで無かったし」
この場にいる全員が満場一致となったことで、訓練は開始前に中断され、一度指示を仰ぐことになった。これは私達だけで解決出来る問題ではない。
しかし、それは簡単には行かない。
「ん? 今光った……?」
それを最初に確認したのは衣笠さん。さすが哨戒任務に出ている回数がトップクラスなだけある。諜報部隊には及ばないかもしれないが、観察力はかなり高い。
私達にはわからなかったため、その方向を指差してもらう。光ったということは、音は無くとも砲撃された可能性はある。少なくとも以前『雲』が襲撃してきた時はそうだった。ここに着弾されようものなら、割と酷い範囲で被害が出る。鎮守府に命中してしまったら尚更だ。
「一旦ここから離れた方がいいかもしれない」
と言った矢先に周囲の海面が破裂するように水柱が上がる。まるで私達をこの場から引き離したくないような砲撃。
「なっ、なになになに!?」
「こんな時に敵襲!?」
先程諜報部隊が出撃したばかりだ。すれ違っていてもおかしくないだろう。なのに、今ここで砲撃を受けた。どういう理屈でそんなことが出来る。わざわざ遠回りしてきたのか、本当に視認出来なかったのか。
最初から私達を狙っていない威嚇射撃のようなものだったのかもしれないが、理由がわからない。沖波を殺したいのなら、不意打ちで当ててしまえばいいのに。それとも命中精度がそこまで高くないのだろうか。ステータスを回避に全部振ってしまっているだけで。
「ハイハァイ、オ久シブリィ」
「『雲』……!」
そして水柱が消えたとき、私達の前には『雲』がいた。今回は随伴艦すら連れてきていない。たった1人。私を迎えに来た時と変わらない、雲のクッションに腰かけた『雲』は、ニコニコしながら私達を見据えていた。
「何しに……っ」
いや、1人じゃない。その後ろ、どうやっても目に入る位置にもう1人いた。
その姿を見て、全員が硬直した。動けない。その威圧感に、身体が何もかもを拒絶している。それと対峙することを本能的に恐れている。鼓動が速くなる。身体が戦うなと警鐘を鳴らし続けている。
「
それがポツリと呟いた。それだけで冷や汗がドッと溢れた。空気を読まずに突撃するであろう夕立すら、この状況に動けなかった。手すら震えている。
「
その姿は
私が10年前に見た姿から何も変わっていなかった。夢の中で見ていたそれは、骨のような指を沖波に向ける。
「我ハ日、選バレシ者、貴様ハ、我ガ手ニヨリ、現世カラ失ワレル」
その邪神、太陽の姫が、こんな鎮守府近海にまで現れてしまった。予期せぬラスボスの降臨である。
その時が今来るのである。