異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫とその巫女『雲』による侵攻を食い止めるため、調査任務に出た仲間達を抜きにした状態で抵抗している現在の鎮守府。
よりによって訓練中に現れてしまったことで、そこにいた私、陽炎を含む異端児の面々は、戦闘力無しの状態で戦う羽目になったが、鎮守府に残る仲間達の助けにより何とか工廠に戻ることに成功。足止めしてもらっている中で武装を実弾に換装してもらえた。
「陽炎ねーちゃん!」
「お待たせ! アンタ達は下がって!」
「っしゅ! 海防艦、撤退、撤退っすー!」
私が戦場に戻ることが出来たため、『雲』を何とか食い止めていた子供達が即座に撤退。ここからは私が『雲』の相手をする。私は即座に出てきたが、後から他にも来るはずだ。
私1人なら勝てないかもしれないが、私には『雲』と違って信頼出来る仲間がいる。一方的な主従でもなく、崇拝でもない。その分で勝利を掴み取ってやる。
「かげろうおねぇちゃん、がんばって……ください!」
「おうよ! 整備班の人達と下がっておいてね!」
奮闘していた松輪からも声援を貰い、俄然やる気が出る。子供達はすぐに下がって、私は『雲』と
本当は太陽の姫の方に行きたいが、それは仲間が揃ってから適材適所に振り分けるのがちょうどいい。そこはその場で決めるしかないとは思う。この戦いは空城司令も見ながらの戦い。その場で作戦を練ってくれていると信じて。
「アンタはここで終わらせてやるから!」
「陽炎、貴女ハコチラ側ガイイト思ウノ。私ガ分霊シテアゲテモイイノヨ?」
私の砲撃は当たり前のようにすり抜け、私に肉迫してくる。主砲すら使わず爪を構えている辺り、私に再び分霊を施そうとしていると思われた。やはり私を殺すつもりは無いらしい。
この状況になってもまだ私を生かそうとしている理由が全くわからない。一度巫女に覚醒し、そこでやられたのだからもう諦めてもいいだろう。なのに、太陽の姫自身にも、私のことを
どれだけ私が好きなのだ。以前、神州丸さんにモテ期と称されたものの、絶対に思惑があって私を追い回している、今の私に何があるというのだ。
「二度とあんな姿になって堪るか!」
「似合ッテタノニ」
伸ばされた手を脱力回避し、無理矢理間合いを取った後に砲撃。しかし、こちらの砲撃はすり抜けるように回避され、また距離を詰められる。それの繰り返し。
脱力回避は無制限に出来るわけでは無い。対してあちらは深海棲艦という身体的な優位を使って殆ど無制限に回避してくるのだ。本来の戦いとはかけ離れた、接近戦による超高速戦闘に近い。お互いに回避特化のため、1対1で戦っているとお互いに攻撃が全く当たらない。
「貴女ハ主様ニ見初メラレテイルノ。モウ逃レラレナイ。素直ニコチラニ来タ方ガ、貴女ノタメ」
「んなわけあるか!」
攻撃しては回避され、攻撃されては回避し、私は脚を酷使しながらも『雲』の動きについていく。私の艤装はフルスロットルで稼働し、『雲』との高速戦闘にもついていけている。まるで私を応援してくれているかのようだった。脚は悲鳴を上げそうではあるが。
「屈スル快感モモウ知ッタジャナイ。心地良カッタデショウ。マタ味ワイタクナルクライニ」
「あんなの二度とゴメンだっての!」
怒りに身を任せてしまったら本来の動きが出来なくなる。落ち着かなくてはいけないとはわかっているのだが、『雲』はそれをも見透かしたかのように、私の癇に障ることばかりを口走る。
ネチネチと精神攻撃までしてくるとは、相当捻くれた奴と見た。この戦闘中も、微かに浮かべた微笑みを絶やさず、私が必死に避けているのを嘲笑うかのように同じ動きをしてくるのだから、殊更に気に入らない。冷静に、冷静にならなければ。
「主様ハ寛大ナオ方ヨ。貴女ヲ失ッテ逃ゲ果セタ私ヲ、笑ッテ許シテクレタンダモノ。ソレ以上ニ重要ナ情報ガ手ニ入ッタンダカラネ」
「……沖波のことか」
「選バレシ者ガマダイルコトヲ伝エタラ、主様ハ喜ンデクダサッタワ。選バレシ者ハ自ラノ手デ滅スルト、決メテイラッシャルンダモノ」
あの時、沖波が
それだけM型異端児の存在は脅威なのだろう。何故、どうして、それがわからないが。
「ソノ邪魔ヲスルノナラ、陽炎ダッテ容赦ハシナイワ。少シ傷ガツイテモ、分霊シテシマエバ治ルコトクライ、貴女モワカッテルワヨネ? 自分デモヤッテルンダカラ」
当然、覚えている。腕に手傷を負った夕立相手に分霊をし、その傷が治療されたところを目の前で見ているのだ。多少の傷なら分霊で治ることくらい承知の上。
そしてわざわざそれを私に言ってきたということは、次にやってくることは1つしかない。
「痛イノガ嫌ナラ、早ク屈シテ気持チ良クナリマショウネ」
「絶対に屈しない! 私は艦娘だから!」
「フッフフ、無理シチャッテェ……オバカサン!」
ここで分霊だけではなく砲撃を織り交ぜてきた。離れても撃たれ、近付いたら分霊となると、回避方向にも気を遣う羽目に。分霊を受けるくらいなら砲撃を喰らった方がマシだが、喰らえば喰らうほど回避に支障が出るためジリ貧。それに加え、まだ別の方には太陽の姫が陣取っているため、そちらにも流れ弾が行かないようにしたい。
今でこそまだタイムリミットが来ていない間宮さんと伊良湖さんが食い止めてくれているが、太陽の姫は全く動じず、どれだけ攻撃されても全て打ち払い、さらには何処から撃っているかわからない砲撃と水柱により、むしろ2人を追い詰めてすらいた。
ここだけでは無い。あちらにも早く援軍に行かないと、あの2人がやられてしまう。今が拮抗出来ているかもわからないのに、タイムリミットが来てしまったらそのまま終わりだ。
「余所見、シテイイノカシラァ?」
太陽の姫を注視していたわけではないが、あちらに意識を少し向けただけで『雲』が意気揚々と突撃してくる。爪を突き立てようとしてくる辺り、狙いはやはり分霊である。それだけは絶対にやらせない。
「ゲロ様ぁ!」
そこに飛び込んでくる夕立。私と同じように武装の換装が終わったようで、実弾により『雲』を攻撃していた。
「貴女ハ要ラナイノ。ダカラ、分霊ナンテシテヤラナイ。主様ニ害ナス者トミナシテ、ココデ消エテモラウワァ」
「うっさい! ここで消えるのはお前!」
夕立の砲撃もしっかり回避しているが、おかげで私に向けた攻撃は一旦キャンセルされた。ナイス夕立。
「我ガ巫女、雲。下ガレ」
「カシコマリマシタ」
夕立が戦場に再来したところを見計らって、こちらの人数が増える前に太陽の姫が『雲』を一旦自陣へ下げる。
「貴様ラハモウイイ。
そして、太陽の姫の猛攻が途端に激しくなった。その中心にいたのは間宮さんと伊良湖さんだ。まだタイムリミットが来ていなくとも、今までの倍以上の砲撃と水柱により近付くどころか回避すら困難になりつつある。
太陽の姫を中心とした、まるで後光が差すような砲撃の流れ弾がこちらに飛んでくるため、私と夕立はどうにかして回避する。密度は酷いものの、私達はまだ遠かったので避けられないものではない。『雲』を下げたのは、この流れ弾に当てないためか。『雲』自身もそれを回避しながら戦えるだろうが念のためと。
「ごめんなさい、私達は下がります!」
「リミットが近いの!」
その猛攻から何とか逃げ延びた間宮さんと伊良湖さんは、リミットが来る前に戦場から撤退。あの場でリミットを迎えて倒れるよりはマシだろう。ギリギリ限界まで戦って散るのは、私達の理念に反する。生きていることに意味があるのだから、これは最善の策だ。
おかげで私達の換装は完了した。100%勝ち目が無い訓練用装備の状態から、ようやく戦える状態になったのだ。2人の身を挺した奮闘は、次に繋ぐためのバトンとなっていた。そのバトンは私達がしっかりと引き継ぐ。
残ったのは私と夕立。そして次々と異端児達が換装を終えて戦場に集結していく。間宮さんと伊良湖さんも離脱出来たようでそこは安心。
今鎮守府を護ることが出来るのは私達だけだ。たった5分の最大戦力はリミットを迎え、空襲可能な空母達の艦載機は太陽の姫の艦載機に全て持っていかれている。
「
おそらくD型異端児のことを言っている。深海に選ばれし者、D型異端児は、太陽の姫にとっては同胞の一部として認識出来るようである。特に私達D型異端児駆逐艦は、一度深海棲艦化しているせいでその質が強いと見た。
集結したものの、その威圧感の前に私達はまた冷や汗を流していた。神の御前にいると感じさせられ、魂を奮い立たせないと膝から崩れ落ちてしまいそうな程。よくこの状況でさっきは逃走出来たと思う。
いや、沖波と衣笠さんはそんな様子が無い。これはD型異端児に対してのみの威圧感だ。太陽の姫には逆らってはいけない、何も考えずに跪くのが正解であるという感覚に襲われている。衣笠さんがさっき指揮出来たのは、私達の感じているこの威圧を感じていないからなのだと理解する。
先日の長門さんの言葉を思い出していた。得体の知れない雰囲気、逆らえない程の威圧感、目が眩むほどの眩しさ。間近に立たれて嫌と言うほど実感させられた。勝てる気がしないというのも、意味がわかってしまった。
「選バレシ者……二ツ。ソレハ消サネバナラヌ。我ガ道ニ貴様ラハ不要」
集結したことで、太陽の姫の視線は沖波に向く。衣笠さんも大分危険な状態だ。私達を無視してでも狙ってくるだろう。困ったことに、それが出来るだけの力もある。
能面のような顔でも、目元で感情がわかる。沖波に対しての感情は、怒りや憎しみなどでは無い。ただただ厄介者を消そうという気持ちのみ。私達が部屋の掃除をしている程度にしか感じていないのだろう。それ程までに、私達は奴にとってはちっぽけな存在。
しかし、次の言葉に驚愕する。
「故ニ……貴様ラモ
軍門に迎え入れると言ったか。沖波と衣笠さんを。そんなこと出来るわけがない。沖波は分霊が効かないことが実証されているのだ。
「陽炎、貴様ノ考エテイルコトガ手ニ取ルヨウニワカルゾ。選バレシ者ニハ分霊ガ効カヌト」
「……そうだよ。私が実際にやって出来なかったんだ。沖波はアンタに屈するわけがない!」
「ソレハ、貴様ラ
確かに、その時は私は巫女、分霊されたことで分霊の力を手に入れたに過ぎない。その力は本来、太陽の姫の力だ。巫女とはいえ、その力は一部だったとでも言うのか。
「我ガ分霊ハ、
ちょっと待て。私が選ばれし者とはどういうことだ。私はM型の同期値が0であり、選ばれし者とは程遠い存在だろう。
だが、少し考えたら繋がった。太陽の姫のせいで、私の身体がこうなったことに。
「陽炎ちゃんは、
由良さんが呟く。私と同じ考えに辿り着いていた。
10年前、太陽の姫が初めての襲撃をする以前から、私は今で言うM型の同期値が異常値だったのだ。それこそ、太陽の姫に目を付けられる程に。どういう理由かはまだわからないが、M型異端児の力は太陽の姫には不都合があるのだろう。だから、あの襲撃があった。私を潰すために。
太陽の姫の分霊は、M型の同期値を失わせ、D型の同期値を爆発的に増やすような力なのだろう。巫女では出来ない、太陽の姫だけの力。
しかし、私はその結果、同期値がマイナスになっていた。それは私の同期値やら何やらが理由なのだろうが、そこは今は置いておく。
今の問題は、選ばれし者の排除の方法が、
「理解シタカ。ナラバ、モウイイナ。跪ケ、ソシテ、屈セヨ」
太陽の姫の真の狙いがわかってしまった。沖波の身柄は絶対に渡さない。