異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫の目的が、沖波の始末ではなく分霊であることが判明した。選ばれし者、M型異端児を滅するというのは、殺して滅ぼすというわけではなく、自分の配下とすることで世界から消すということである。
私、陽炎も元はM型異端児であったが、10年前の始まりの襲撃によって太陽の姫に分霊され、私自身の性質を変化させられていたことが判明した。子供だった私のその力をいち早く感じ取り、前以て対策されたのだった。
「跪ケ、ソシテ、屈セヨ」
異端児の部隊として集結した私達に対し、手に持つ棒を向ける。その瞬間、足下から水柱が立ち昇ったことにより、磯波がかち上げられた。近くで壁にするだけじゃないのか。既に深海棲艦としての攻撃を超えている。
そもそも、水柱だけで何故あそこまでコントロール出来るのだ。それこそ、神の起こす超常現象だとでもいうのか。
「磯波!?」
「私のことは気にしなくていいから! 沖波ちゃんを!」
その後の追撃を防ぐため、空中でありったけの火力を太陽の姫に放つ。まるで深海棲艦化した時のような乱射ではあったが、今はそんなことを気にしていられない。これも当たらないかもしれないが、出来る限りのことはしてくれていた。
「愚カナリ」
だが、空中ということは夕立で無い限り方向転換が出来ない。つまり、狙い撃ちされるということだ。磯波の砲撃は別の水柱により止められ、その内側からあの強烈な砲撃が磯波に集中して放たれてしまった。
咄嗟の判断で艤装を盾にしたものの、砲撃をまともに受けてしまいそのまま大きく吹っ飛ばされてしまった。命に別状は無いかもしれないが、艤装は大破し、磯波自身も酷い怪我を負ってしまっている。そのまま命中していたら間違いなく死んでいた。
水柱でかち上げてから主砲で狙い撃つとか、普通に効率の良いことまでやってくる。確実に1人葬るための一撃を、自らの手で全てやってのける超高スペック。
「この……滅茶苦茶っぽい!」
「夕立ちゃん、合わせて!」
それを見ても心を奮い立たせ、夕立と由良さんが同時に雷撃。砲撃が水柱で防がれるというのなら、魚雷なら。
などと考えたものの、それすらもお構いなしに魚雷が打ち上げられた。太陽の姫に命中するまでもなく無効化され、空中で魚雷そのものが爆発。これも届かない。
「無駄ダ」
そしてその水柱を突き破るように放たれる主砲。こちらには目眩しにすらなってしまっているため、その砲撃の射線が見えず、回避方向もわからなくされる。
夕立は持ち前の野生の勘が働き、放たれると同時に由良さんに体当たりをするように突撃し、強引にその射線から退かせた。瞬間、元々由良さんがいた位置を撃ち抜くように弾が走り、海面を爆発させる。直撃していたらひとたまりもない。
「なら、接近戦をっ!」
その水柱に合わせて今度は萩風が突撃。殴り付けるように主砲を振り、水柱に対してゼロ距離の砲撃をぶちかます。だが、水柱が晴れるだけで砲撃は太陽の姫には届かず、新たな水柱に阻まれる。
いくらなんでもこれはおかしい。何度も何度も強固過ぎる水柱を上げることなんて可能なのか。原理がわからない。
そもそも
「貴様ハ元々コチラ側デアロウ。背信ハ死デアル」
水柱を突き破る一撃。近付きすぎた萩風に回避出来る余裕はなく、それを助けるだけの速さを誰も持たない。
ここで咄嗟に出たのは主砲。駆逐水鬼と同等の反応速度で防御に打って出たが、あの時とは強度が違い過ぎる。アームまでひん曲げられる羽目になり、そこから大きく吹っ飛ばされた。致命傷だけは避けたようだが、磯波よりも重傷。爆風を受けて大火傷も負ってしまっている。
「萩風ちゃん!?」
「選バレシ者、貴様ハ逃サヌ」
萩風を心配した沖波の隙を突くかのように一歩、また一歩と近付いてきた。特別速いわけでは無いが、その威圧感に気圧されそうになる。そんなことでは沖波を救うことは出来ない。身を挺することは出来ないが、決死の覚悟でその場から離さなくてはいけない。
「沖波、そこから離れて!」
脱力回避からの高速移動で沖波の側まで駆け寄ると、その手を引いてすぐに離れようとした。
しかし、私達の真後ろに水柱が立ち昇り、逃げ道を封じられる。先程と同じならば、砲撃すらまともに通らない。ならば、
「ちょっと我慢して!」
「えっ!?」
沖波を抱きかかえて、あえて
「うぁっぷ!?」
「うぇええっ!?」
ビショビショになりながらも水柱を突き破り、逃げ道を無理矢理作り出した。砲撃すら受け止めるそれでも、人間そのものの体当たりには耐えられないらしい。少し安心した。
しかし、その直後に足下が盛り上がったかと思いきや、新たな水柱によりかち上げられる。先程の磯波と同じ状況にされたことで、身動きが取れなくなってしまった。
「ちょっ!? っらぁっ!」
沖波だけは絶対に逃さなくてはいけない。かなり強引だったが、その水柱よりも向こう側へ、沖波の身体を投げ飛ばす。空中なのでそれこそおかしな体勢にはなったものの、私の思惑はとりあえず上手く行った。
しかし、私は完全に無防備。この状態で撃たれたら、磯波の二の舞になってしまう。私には帆なんて無いが、夕立の真似をしてどうにかするしかない。
「こんのぉ!」
空中で魚雷を発射した後、自らの砲撃でそれを破壊。爆発を起こしてその爆風でその場所から離れる。
帆を使わず、自分の身体をうまく使って移動出来るかと考えたものの、想像以上に威力が大きかったのに移動距離は小さかった。それでも危険な領域からは離れられたと思う。初月インナーはズタズタになってしまったが、奴に近付かれるよりはマシ。
「ああもうどうしたらいいの〜!?」
そのタイミングで阿賀野さんが突き破った水柱の隙間から太陽の姫を狙い撃つが、状況は全く変わらない。水柱が撃ち破れず、隙間を縫ったとしても新たな水柱が現れ、こちらの砲撃は全く通りそうに無かった。
そして、それを突き破っての後光のような砲撃。『雲』がしっかりと下がっているので、何も考えずお構いなしにぶっ放してくるのが厄介極まりない。
阿賀野さんが叫ぶのも理解出来る。これは本当にどうしていいのかわからないパターンのヤツ。先程、その身を使って無理矢理通過することは出来たが、あくまでもそれだけ。
「ソノ身ヲ死ニ委ネヨ。諦メ、我ニ
「何ふざけたこと言ってくれてんのさ!」
その物言いに衣笠さんが砲撃。単純な砲撃であるが故に、それも水柱で食い止める。
と、思いきや、太陽の姫は水柱を使わずに回避を選択していた。初めてまともに戦闘をしたかのような行動である。
今まであれだけ全てを受け止めていたのに、衣笠さんの攻撃だけ回避。つまり、M型異端児の攻撃は受け止められないということなのではなかろうか。
というか、ここまでオカルトが関わってくるのか。あちらが太陽だから月の名を持つものは抑え込めるという感じで、世界に選ばれし者の攻撃だけが太陽の姫に通るとか。
そうなると、私達では絶対に敵わず、沖波と衣笠さんしか戦えないということになってしまう。そりゃ真っ先に潰したくなるのもわかるというもの。自分のモノに出来るのなら、それを選択して脅威を排除するのは妥当かもしれない。
「貴様ハ後ダ」
「うわっ!?」
もう何度目かわからない水柱に衣笠さんがかち上げられた。そのまま狙い撃たれてもおかしくないのだが、M型異端児は取り込むつもりでいるためか、衣笠さんは狙われない。
代わりにその水柱により目眩しされた阿賀野さんが狙われた。駆逐艦よりも大きく硬い艤装ではあるものの、あの砲撃の直撃を受けてしまったらひとたまりもない。何とか艤装を盾にしたが、阿賀野さんも吹っ飛ばされてしまった。
「いい加減にするっぽい!」
「コチラノ台詞ダ。抗ウナ」
そして夕立も同じように水柱でかち上げられるが、あの子はまだ空中で体勢を変えることが出来る裏技的な技がある。即座に魚雷を真後ろに放ち、それを撃ち抜いて爆発させることで帆に風を受け、その勢いで太陽の姫に突撃する。
しかし、またもや水柱により夕立そのものが受け止められた。先程の私の突撃とは違う挙動。前に進めず弾かれてしまい、さらにはそこに砲撃を合わせられたことで夕立も酷い傷を負うことに。
「選バレシ者、ソノ時ガ来タ」
そうしながらも沖波には近付いていた。私が無理矢理投げ飛ばした後も、水柱を駆使して沖波の進路をことごとく妨害し、私が護りに向かっても砲撃の流れ弾を使って道を塞ぐ。沖波は完全に孤立させられていた。
そして、沖波の眼前まで来てしまっていた。再度水柱を突き破っても、新たな水柱でかち上げられ、沖波も消耗させられていた。動けないわけではないだろう。諦めてもいないだろう。だが、もう避けられない場所。
「や、やめ……」
沖波の表情が、恐怖に染まり切っていた。もう逃げられない。私達も同じように消耗させられ、沖波を助けることが出来ない。
「貴様ハ、我ガ光ニテ染マル、空トナレ」
沖波の胸を、太陽の姫の爪が貫いた。
それはまさに、分霊と同じ状況。私の時は注ごうとした瞬間に弾き飛ばされた。だが、太陽の姫の爪はその様子がない。
「分霊ノ儀、執リ行ワン」
「ひぃっ!?」
その言葉と同時に、沖波の身体が跳ねた。巫女の分霊では起こり得なかった反応。爪は弾き飛ばされることなく、ドクンドクンと何かが注がれている。たびたび沖波の身体が震える。
爪を抜こうと抵抗するが、その腕を掴んだところでまた跳ね、沖波の表情が緩むのが見えてしまった。改二改装の時とは比べ物にならない衝撃に、あの沖波すらも徐々に屈し始めてしまっている。小さく喘ぎながら、太陽の姫の腕を掴む手から力が抜けていた。
「沖波を放せ!」
「見テイルガイイ」
私の砲撃程度では、結局水柱すらも突破出来ない。太陽の姫の力があまりにも強大すぎて、成す術が無かった。
「コノ者ハ、
さらに沖波の身体が跳ねた瞬間、髪と肌が白く染まっていく。その時の沖波は、完全に屈して惚けた顔をしてしまっていた。親友の見たこともない表情に、歯痒い気持ちしか浮かばなかった。
動けない自分が情けない。助けられない自分が恨めしい。力を持たない自分が悔しい。目の前で変えられていく沖波を、ただただ見ているしかないだなんて。
「ッアッ、イッ、ハァアアアッ!?」
一際大きな沖波の声と同時に、装備されていた艤装が剥がれ落ち、海に沈んでいった。艤装が無いのに、身体は沈んでいかなかった。
この瞬間を以て、艦娘沖波は私達の前から消失した。だが、諦めたくない。まだ自分を持っている可能性だってある。沖波は世界に選ばれている存在なのだから、私の時とは違う場合だってあり得るのだ。それを信じるしかない。
「沖波、沖波! しっかりして!」
私の声が聞こえているかはわからないが、必死に呼びかける。まるで私が目覚めてしまった時の萩風のような行動。海の上であり、沖波は太陽の姫に抱きかかえられているため、近付こうにも近付けない。
だから、自分で振り払ってもらうしかないのだが、その沖波は変化の衝撃で息も絶え絶えになっている。表情は緩んだまま。涙は流れていたものの、薄く笑みを浮かべてさえいるのが一番辛い。
「目覚メヨ、我ガ巫女」
言葉を聞いたことでビクンと震えたあと、艤装も装備していないのに沖波は海の上に立つことが出来ていた。深海棲艦として目覚め、その快楽の奔流に苛まれつつも、太陽の姫の言葉に幸福を感じながらそこにいる。一度体験しているから私はそれがわかってしまう。
「ソノ身ハ、我ガモノトナッタ。力ヲ求メヨ」
「……カシコマリ、マシタ……ンハァアンッ!?」
また大きく身体が跳ね、快楽の中で艤装を得る。沖波がそうなってしまっているという事実が、私を絶望で包む。
沖波の新たな艤装は、背中から何本も生えた主砲。駆逐艦の身体らしからぬ大きなものから、その身体に見合った小さなものまで数本。火力は見た目通りとは到底思えない禍々しいモノ。
腕には巫女として手に入る長い爪を備えた薄い装甲が張り付いた。沖波すらも分霊が可能な巫女と成り果てたことをありありと見せつけてくる。
そして衣装。制服は弾け飛び、私の時とは違うスタイルをハッキリと出すようなワンピースドレスが現れる。脚周りには黒いタイツのような装甲まで張り付き、身体の全てが深海のそれに包まれた。さらには頭に角のようなモノまで現れてしまい、異形感が増した。
「ッハ、ハァアアアッ」
身体が締め付けられるような快感を得たようで、自分を抱きしめながら何度も震えて膝をつく。ビクンビクンと震え、その力の奔流に身を任せて、溢れる力を体感して悦ぶ。
「お、沖波……うぅっ」
諦めたくはないのだが、一度私も経験しているのだから、沖波の今の状況が理解出来る。もうあそこまで来たら戻れない。自分の意思として、心の底から太陽の姫に屈している。忠実なる
「アフ……フゥゥ……」
何度か震えたあと、笑みを浮かべながら立ち上がった。心まで侵食され、艦娘であった時の振る舞いすらも失われていた。
「私ハ太陽ノ姫ノ巫女……日ノ光ニテ染マル者、『空』」
宣言しながらもまた震える。私達の目の前で、私達を捨て去り、今の立ち位置を迎え入れた背徳の快楽を感じ、沖波とは思えない程に邪悪な笑みを浮かべてこちらを見据えていた。